著者
松本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.158-168, 2019

<p>非自殺性自傷とは,感情的苦痛の緩和や他者に対する意思伝達や操作などの,自殺以外の意図からなされる,故意の身体表層に対する直接的損傷行為を指す。この行動は,DSM-Ⅳ-TRの時代までは,境界性パーソナリティ障害の一症候としてのみ認識されてきたが,DSM-5では,この行動は境界性パーソナリティ障害とは独立した診断カテゴリーとなった。このことは,従来の,自傷を限界設定の対象と見なす考え方から,自傷それ自体を治療の対象とする考え方と,治療理念の変化が生じたことを意味する。</p><p>本稿では,まず非自殺性自傷に関する臨床概念の歴史的変遷を振り返り,今日における非自殺性自傷の捉え方へと至る過程を確認したうえで,物質使用障害などの嗜癖,ならびに自殺との異同を論じ,最後に,DSM-5における非自殺性自傷の診断カテゴリーの意義と課題について筆者の私見を述べた。</p>
著者
藤田 純一 青山 久美 戸代原 奈央
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.147-157, 2019-04-01 (Released:2020-02-28)
参考文献数
25

インターネット依存の概念が登場してからすでに20年以上が経過しているものの,果たしてこれが一つの社会現象なのか,治療的介入が妥当な医療対象となる疾患概念なのか迷う点が多かった。しかしながら,近年操作的診断基準が改訂される中で,インターネット・ゲーム依存の概念はますます医学的興味関心を集めるようになった。本稿ではそれを踏まえ,大学病院におけるインターネット・ゲーム依存に関する実態調査と事例報告を行った。都市部の大学病院において,インターネットの使用目的を主にゲームとする患者のうち約25%は問題使用群に,約8%は病的使用群に該当した。問題使用群や病的使用群に該当する患者には,不安・抑うつ症状,不登校,被虐待体験,喫煙や飲酒などの心理社会的背景をもつものが比較的高い割合で存在していた。また病的使用群は正常使用群と比較すると一日を通した日常生活機能全般と放課後の友人関係の問題が存在することが示唆された。このように,インターネット・ゲーム依存傾向のある患者は治療・支援にあたるべき心理社会的要素を抱えているが,治療・支援の実際としては患者や家族がもつ個々の特性に応じて地道に診療にあたることが現実的だと考えられ,本稿では大学病院での診療の実際を一部紹介した。
著者
浅野 恭子 亀岡 智美 田中 英三郎
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.748-757, 2016

<p>いまや施設は被虐待体験のある子どもが大半をしめるという状況になっているが, 子どもが示すさまざまなトラウマ症状が理解できないため, 支援者も子ども自身も無力感と孤立無援感を強める事態となっている。本稿では, 児童福祉システムにトラウマインフォームド・ケアを取り入れるため, 大阪府児童相談所が継続的に取り組んできた児童心理司研修の実践とその成果を検証するためのアンケート調査の結果を報告する。継続研修により, 児童心理司の意識と行動に有意な変化が見られたことから, 子どもにとって安全で持続可能な支援システム構築のためには, 段階的な児童心理司育成と継続的研修が必要と考えられる。</p>
著者
早田 聡宏 東 晃子 中村 みゆき 中西 大介 西田 寿美
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.808-828, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
25

学習障害(LD)は学力習得の困難以外に, 学校および日常生活における自己評価の低下, 自信喪失を生じ, 不登校や社会不適応へつながる可能性も考えられる。本症例では, 小学1年の初診時, 注意欠如・多動性障害の診断とともにLDの存在が疑われた児が, 交通事故による治療中断期間を経て, 思春期の年齢において学校不適応をきたした。そして, 母子密着もあり不登校が約3年間と長期化したことを契機に当園への入院治療を導入した。本児への18カ月間の入院治療の中で, LD診断確定とともに徐々に社会性を獲得し, 自己評価の向上もみられた。さらに, 長期不登校が改善し高校進学へとつながり, その後も順調に社会生活を送れている。入院当初の本児および両親の不安や葛藤を傾聴しながら関係を構築していくことが重要であり, 信頼関係を築けた結果, 治療の方針も定まったと考えられた。通院や通所による支援では治療が限定されるが, スタッフとの信頼関係の下, あすなろ学園の入院プログラムに沿った学習および生活の両面を把握しながらの多職種の連携によって, より効果的な治療および家族支援ができたと考えられた。
著者
藤林 武史
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.758-768, 2016-11-01 (Released:2017-05-17)
参考文献数
22
被引用文献数
1

虐待環境から分離した後, 社会的養護環境が回復を促す基本的な要素として, 暴力被害を受けることのない安心安全の環境, 養育者との継続的なアタッチメント, 家庭の保障が重要である。しかし, 現在の日本の社会的養護は, 大規模施設を中心とした施設ケアが大きな割合を占めている。大規模施設では子ども間暴力が発生しやすく, 養育者とのアタッチメント形成も困難である。里親養育は未だ発展途上であり, 特別養子縁組は法制度上の制限があり十分機能していない。2016年5月に成立した改正児童福祉法においては, 家庭養育原則が明記された。これを受けて, 里親養育や養子縁組, 小規模施設ケアが地域の中で増えていくことが期待できる。そのためには, 児童精神科医や心理士等による専門的な支援は, 地域ベースで拡大していくことが必要である。そして, これらの専門家からの支援には, 被虐待児童へのケアにとどまらず, 里親や養親, 小規模施設職員をエンパワメントし自信が回復できるような助言やサポートが期待される。
著者
吉川 徹
出版者
一般社団法人 日本児童青年精神医学会
雑誌
児童青年精神医学とその近接領域 (ISSN:02890968)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.359-369, 2017

<p>我が国では2006年の国連で採択された障害者の権利に関する条約を念頭に,障害児者に対する合理的配慮に基づく支援についての検討や国内法の整備が進められ,2014年に同条約の批准に至った。本稿では我が国の合理的配慮をめぐる状況を概観するとともに,限局性学習症をもつ人に対する合理的配慮の内容について,検討を行った。また限局性学習症を持つ人が合理的配慮を得るために,医療機関が果たすべき役割について,診断の際の留意事項,疾患教育や環境整備のための提言などについて,検討を行った。</p>