- 著者
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森 滋勝
- 出版者
- 一般社団法人 日本鉄鋼協会
- 雑誌
- 鉄と鋼 (ISSN:00211575)
- 巻号頁・発行日
- vol.76, no.6, pp.817-824, 1990-06-01 (Released:2010-05-07)
- 参考文献数
- 59
最近の流動層“工学”の進歩を述べなければならないのだが,ここでは,最近の研究と技術開発について現在注目を集めているテーマを例として取り上げ,その成果と課題を紹介する.鞭,森,堀尾による“流動層の反応工学”が刊行されてから既に5年余りが経過した.本書の1・2節で,流動層の歴史を4期に分け,“第3期で流動化現象を覆っていた未知のベールはほぼ取り除かれ,粒子分散系の挙動の総合的解明に大きな一歩を踏み出したのが現在の第4期である.”と述べたが,その後,流動化粒子や操作条件の拡大にともない,新しいベールに包まれたより一般的な粒子分散系の解明に向けてますます盛んに研究が行われている.この間に,特集記事や成書が刊行された.流動層に関する第4~6回の国際会議も開催され,それぞれのプロシーディングが刊行されている.さらに特筆されるのは,新しく循環流動層だけについての国際会議が既に2回開催されたことで,第3回が1990年10月に名古屋で開催されることになっている.新しい研究の展開に大きな影響を与えたのは,この間もやはり流動層技術の新たな展開であった.1980年代に入って1970年代の世界を巻き込んだエネルギー問題も石油価格の低下により一応鎮静化した.しかし,流動層燃焼技術の開発は研究費の削減などの逆風にもかかわらず大きな進展を見た.特に,新しい燃焼技術として登場した循環流動層燃焼装置(CFBC)は,中規模用ボイラーとしてヨーロッパにおいて大成功を納め,その後,米国やアジアにおいても主に産業用ボイラーとして急速に導入されている.このCFBCの成功により,循環流動層(CFB)に関する研究がいっせいに展開され,国際会議が開催されるまでになったのである.一方,エネルギー問題に続いて主に我が国において起こったファインセラミックスをはじめとする新素材ブームは,流動層を使用した化学気相成長法(CVD)等の新しい反応器の開発やサブミクロン等の微細粒子の流動化に関する研究の強い推進力となっている.さらに,石油製品のいっそうの白物化に対応するため,より重質な油分が処理できる流動層接触分解プロセス(FCC)の開発や,高度な環境保全に対応できる下水汚泥の焼却,廃棄物や都市塵芥の燃焼とエネルギー利用プラントの開発等は,流動層に対してより高度で精密な設計と操作を要求し,詳細な基礎研究がますます重要になっている.また,最近では石油化学製品の好調な需要に支えられて各種の新しい触媒反応器の大型化や建設が計画されており,一部では既に稼働しはじめているが,今後の動向は世界的な経済情勢の動向に大きくかかわっている.鉄鋼分野では,既に読者の方々もよく御承知のように,溶融還元プロセスのための流動層を用いた鉄鉱石の予備還元炉の開発が推進されている.ここでは,まず流動化現象に関する最近の研究として,循環流動層と微細粒子の流動化を取り上げその現状と課題を紹介する.次に,最近の流動層技術の展開の例として,FCCプロセス,燃焼プロセス,新素材製造技術を取り上げ,最近の展開を紹介する.