著者
立花 章 小林 純也 田内 広
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 = Journal of plasma and fusion research (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.228-235, 2012-04-25
参考文献数
30
被引用文献数
1

トリチウムの生物影響を検討するために,細胞を用いて種々の指標について生物学的効果比(RBE)の研究が行われており,RBE値はおよそ2であると推定される.だが,これまでの研究は,高線量・高線量率の照射によるものであった.しかし,一般公衆の被ばくは低線量・低線量率である上,低線量放射線には特有の生物影響があることが明らかになってきた.したがって,今後低線量・低線量率でのトリチウム生物影響の研究が重要であり,そのための課題も併せて議論する.
著者
小松 賢志 坂本 修一 小林 純也 松浦 伸也
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本報告では、放射線感受性、染色体不安定性(ゲノム不安定性)ならびに高発がん性のヒト劣性遺伝病の責任蛋白が相同組換えの蛋白であることを示した。この事は、生命維持に根元的で有ると思われていた相同組換えが欠損してもヒトは生存可能であることを初めて報告しただけでなく、相同組換え異常がゲノム不安定性と高発がん性をもたらす可能性をヒト遺伝病で示した。また、NBS1の細胞内機能としては、相同組換えに必要と思われているMRE11ヌクレースと複合体を形成後に、ヒストンH2AXとの相互作用によりにMRE11をDNA二重鎖切断部位にリクルートする機構を明らかにした。その一方で、NBS1は日本人に多い早老症ワーナー症候群の蛋白WRNと相互作用することや、DNA鎖架橋剤に高感受性を示すヒト劣性遺伝病ファンコニー貧血の蛋白FANCと複合体を形成することを報告した。これら相互作用のDNA二重鎖切断修復における意味は不明であるが、細胞内では種々の蛋白による細胞内修復ネットワークによりゲノム安定化が保たれている。また、ナイミーヘン症候群ならび毛細血管拡張性運動失調症とMre11欠損遺伝病の毛細血管拡張性運動失調症類似疾患は似たような細胞学的特性を呈する。実際に、NBS1,MRE11,ATMはともに放射線照射後のチェックポイントに機能することが判明した。しかしながら、NBS1,MRE11は修復に必須であるが、ATMはそうでないことから、NBS1,MRE11,ATMの中で特にNBS1がチェックポイントと修復のシグナルの十字路になっていることが示された。
著者
小林 純也
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科放射線学会
雑誌
歯科放射線 (ISSN:03899705)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-5, 2021 (Released:2021-09-30)
参考文献数
11

After the accident of Fukushima Daiichi nuclear power plant, many people in Japan have a concern about biological effect with low dose and low dose rate radiation. In such situation, some people also have concerns to radiation usage for diagnostics and therapies. As the current amendment of medical law provides the rules of radiation diagnostics strictly, medical workers, treating radiation for medical, have to understand the biological effects with exposure to ionizing radiation to explain the effects of medical radiation to patients.Acute irradiation of high dose radiation induces several types of DNA damages. Among of them, DNA doble-strand breaks (DSBs) are most serious damages to cells and constructing organs, because remaining of DSB damages could lead to cell death, subsequently dysfunction of organs (deterministic effects). Therefore, living beings are developing DNA repair systems such as non-homologous end-joining and homologous recombination. Miss-repair and non-repair could generate gene mutation, and subsequently lead to tumorigenesis (stochastic effects).Exposure of radiation also causes excess accumulation of ROS (reactive oxygen species)/oxidative stress, which may lead to biological effects of low dose rate radiation. We found that mitochondria damage contributed to accumulation of ROS and activation of oxidative stress in human normal fibroblasts under low dose rate irradiation. We also observed that low dose rate irradiation also caused gamma-H2AX positive micronuclei in the presence of ATM inhibitor. As ATM is an important protein kinase of oxidative stress responses as well as DNA damage responses, anti-oxidative stress function may be important to repress micronuclei formation. In order to provide relief to concerning people, we have to clarify the biological effects of low dose and low dose rate radiation more.
著者
菓子野 元郎 漆原 あゆみ 児玉 靖司 小林 純也 劉 勇 鈴木 実 増永 慎一郎 木梨 友子 渡邉 正己 小野 公二
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.209, 2008 (Released:2008-10-15)

我々は、DMSOによる放射線防護効果が、放射線による間接作用の抑制ではなく、DNA-PK依存的なDNA二重鎖切断修復の活性化によりもたらされているという仮説の検証を行った。細胞は、マウス由来細胞のCB09、及びそのDNA-PKcsを欠損するSD01を用いた。DMSOの濃度は、1時間処理しても細胞毒性がなく、放射線防護効果が大きく現れる2% (256 mM)とした。DMSO処理のタイミングは、照射前から1時間とし、照射直後にDMSOを除いた。放射線防護効果については、コロニー形成法による生存率試験及び微小核試験法を用いて調べた。DMSO処理細胞により放射線防護効果が現れることが、CB09細胞の生存率試験により分かった。微小核試験においても、同処理により、微小核保持細胞頻度が有意に抑制された。これに対して、DNA-PKcs欠損細胞(SD01)では、同処理による放射線防護効果がほとんど見られなかった。DNA-PKの有無がDMSOによる防護効果の機構に関わる可能性が考えられるので、照射15分後から2時間後までDNA二重鎖切断修復の効率を解析した。その結果、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカスの数は、照射15分後ではDMSO処理により約10%減っていた。これに対し、照射2時間後ではDMSO処理により約30%のフォーカス数の減少が見られ、照射15分後よりも2時間後に残存するDNA二重鎖切断の方が、DMSO処理により大きく軽減されることが分かった。これらの結果は、放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断生成がDMSOにより抑制されるわけではなく、照射直後からスタートするDNA-PKcsに依存したDNA二重鎖切断修復機構がDMSOの照射前処理により効率よく行われている可能性を示唆している。
著者
加藤 真介 小林 純也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.59, 2010 (Released:2010-12-01)

低線量放射線は、MAPキナーゼ系の活性化やNO合成酵素(NOS)の誘導など細胞内情報伝達系に影響を与える可能性を有するが、詳細は不明である。一方、神経成長因子(NGF)は、末梢神経系に作用し、その軸索伸長を促す生理活性物質である。この因子の細胞内情報伝達経路の詳細は完全には解明されていないものの、その作用発現にはMAPキナーゼ系の持続的活性化を要すること、およびNOを介した経路が関与する可能性があることなどが報告されている。上記を考え合わせると、低線量放射線照射がMAPキナーゼ系の活性およびNO産生に影響を及ぼすことで、NGF誘導の神経軸索伸長を促進する可能性が想起される。そこで、神経分化のモデル細胞として知られるPC12細胞を用いて、低線量放射線のNGF誘導神経軸索伸長に及ぼす影響について検討を行った。 PC12細胞を低線量率γ線の持続的照射下でNGF刺激し、神経軸索伸長の程度を解析するとともに、関連タンパク質の発現をウエスタンブロッティングにより観察した。NGFによるMAPキナーゼ系の活性化は、照射群においてさらなる亢進が一時的に認められたものの、その後は抑制され、NGFシグナルの低下が起きていると考えられた。実際、NGFによる神経軸索伸長は、照射群においてわずかではあるが低下していた。この現象におけるNOの関与を調べるために誘導型NOSの発現を観察したところ、その発現上昇が認められた。さらに、照射による軸索伸長抑制は、NOスカベンジャーおよびNOS阻害剤によって抑制された。以上のことより、低線量の放射線照射は、予想に反し、NOの産生を介してNGF誘導の神経軸索伸長を抑制するものと考えられた。放射線感受性の低い神経系細胞におけるこのような発想の研究はほとんどなく、本知見は、低線量放射線の神経系に対する影響を検討する上で有意義な情報を提供するものと考える。
著者
冨田 雅典 小林 純也 野村 崇治 松本 義久 内海 博司
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.43, 2011 (Released:2011-12-20)

線量率効果は、線量率が低くなると、総線量は同じでも、生物効果が低くなる現象であり、長い照射時間の間に亜致死損傷の回復が起こるためであると古くから考えられている。しかしながら、低線量率放射線照射下におけるDNA2重鎖切断(DSB)修復の分子機構は、いまだに十分解明されていない。高等真核生物では、DSBは非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)により修復される。我々は、さまざまなDSB修復遺伝子欠損細胞を用いて、線量率効果におけるDSB修復機構の役割について検討を進めている。NHEJに関与するKU70、HRに関与するRAD54、およびKU70とRAD54をともに欠損したニワトリDT40細胞を用い、γ線連続照射に対する影響を解析した結果、低線量率域でもっとも高い感受性を示した細胞はKU70-/-細胞であった。この要因を広い線量率範囲で解析するために、京都大学放射線生物研究センターの低線量長期放射線照射装置を用いて重点領域研究を開始した。これまでの研究から、0.1 Gy/hのγ線照射下において、RAD54-/-、RAD54-/-KU70-/-細胞と比較して、KU70-/-細胞ではより顕著なG2 arrestが起こり、その後アポトーシスが生じることを明らかにした。今後、線量率を下げて変化を解析する予定である。 また、NHEJに関与するDNA-PKcsを欠損したヒト脳腫瘍細胞を用い、低線量率照射後の細胞生存率を解析した結果、照射開始後ある一定レベルまで低下した後は、照射を継続してもそれ以上変化しないことが明らかになった。この結果は、低線量率放射線の生体影響を考える場合、細胞のターンオーバーが重要な要因となることを示している。 低線量率放射線の組織への影響を考える場合、幹細胞への傷害の蓄積性が問題となる。特にdormantな幹細胞では、NHEJが重要な役割を担うと考えられ、NHEJを欠損したマウスの造血系幹細胞が加齢に伴い枯渇することも報告されている (Nijnik et al. 2007、他)。細胞での結果をもとに、低線量率放射線の生体組織影響におけるDNA修復機構の重要性について議論したい。
著者
杉本 公一 小林 純也 北條 智彦
出版者
一般社団法人 日本鉄鋼協会
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.103, no.1, pp.1-11, 2017 (Released:2016-12-31)
参考文献数
132
被引用文献数
1 24

This paper introduces the microstructure, retained austenite characteristics, strain-induced transformation-deformation mechanism and mechanical properties of transformation-induced plasticity (TRIP)-aided martensitic (TM) steels for the automotive applications. Because the microstructure consists of a wide lath-martensite structured matrix and a mixture of narrow lath-martensite and metastable retained austenite (MA-like phase), the TM steel produced a good combination of tensile strength and cold formability. If Cr and/or Mo were added into 0.2%C-1.5%Si-1.5%Mn steel to enhance its hardenability, the resultant TM steel achieved superior notch fatigue strength and impact and fracture toughness to conventional structural steel such as SCM420. These enhanced mechanical properties were found to be mainly caused by: (1) plastic relaxation of the stress concentration, which results from expansion strain on the strain-induced transformation of the metastable retained austenite; and (2) the presence of a large quantity of finely dispersed MA-like phase, which suppresses crack or void initiation and subsequent connection.