著者
平野 寛弥
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.5-16, 2008-02-29

本稿では,T.H.マーシャルの論文「福祉資本主義の諸価値問題」およびその「追論」(以下,「ハイフン連結社会」論と総称)を再検討し,その現代的意義について考察した.具体的には,「ハイフン連結社会」論を社会システム論の観点から再解釈し,通説の妥当性を検証したのち,そこで採用されている分析枠組みを用いて,現代の経済一福祉間の関係について検討した.その結果,「ハイフン連結社会」論は価値選択を通じての構造問題の許容化を論じた社会体制論として理解される.したがって,価値問題のみを扱っているとする通説は妥当性を欠いている.また,経済-福祉間の関係が構造的に変容した現代では,構造のあり方までもが価値問題の盤上に上げられる点で,以前に比べ価値問題が先鋭化し,その重要性も増大している.その意味で,マーシャルの議論は現代においてもなお大きな意義を有している.
著者
西原 尚之
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.87-97, 2006-03-31

本論は経済的不利を伴う家庭で生活する不登校児の実態を明確にし,支援の方向性を示唆した研究である.そのため最初に福岡県筑豊地域の民間フリースクールに通級する子どもたちの現状を紹介した.この地域の生活保護率は全国の10倍以上に上り,通級児たちの家庭もその過半数が生活保護世帯である.また彼らの多くは学力が大幅に低下しており,たとえ学校に復帰してもこのうち7割が通常の授業についていけない状況にある.またひとり親家庭(42%),親が精神または知的障害を伴っている家庭(25%)も多い.本論ではこうした社会的不利をかかえる家庭で生活する不登校児たちの中心課題を教育デプリベーションと位置づける.そのうえで必要な支援として,多層な補償教育システムの配備を提言した.また補償教育システムが有効に機能するためには親との協働が欠かせないという視点から,家族に対するアプローチについても検討している.
著者
渡部 克哉
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.18-28, 2010-05-31

本論文では,国会会議録や官庁の資料を中心に新聞記事や雑誌記事などで補いながら,寡婦(寡夫)控除の変遷をたどり,寡婦と寡夫の要件の差異および寡夫控除の是非に関する議論におけるジェンダー観を考察した.寡婦(寡夫)控除は寡婦については1951年,寡夫についても要望が高まるなかで1981年に創設された.要件の差異は,寡夫は寡婦に比べ,配偶者との死別や離別によって経済的な影響を被ることは少なく,収入も多いという想定から設けられたと推測された.つまり,寡婦(寡夫)控除の要件の差異,さらには寡夫控除の是非に関する議論も,「男は仕事,女は家庭」というジェンダー観を反映していたといえる.最後に,寡婦(寡夫)控除が廃止されたとしても,ひとり親家庭に対する所得保障は依然として必要であり.また「男女の役割の平等」を促進することも重要であると論じた.
著者
岩田 正美 平野 隆之
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.29-50, 1986-05-25

The number of the recipients of public assistance living in public housing has recently increased. There is a tendency to construct public housing in outskirts of big cities. Naturally, the recipients of public assistance concentrate in those areas. In this study we tried to investigate the background of this phenomena through analyzing 2014 case records of the recipients of public assistance in one particular city area. We have found out that the recipients of public assistance living in public housing have some characteristics which differ them from the recipients living in non-public housing. Their families are bigger, their housing situation has been secure for a comparatively long period of time, and they are "multi-problem families". If these families had not been provided with public housing, they wouldn't be able to live together ; the family structure would probably break down. Public assistance and public housing help consolidate the family, but don't solve their problems. Such families remain to be "multiproblem families" and conseqeuently they continue to receive public assistance for a very long time, sometimes through the next generation. We belive that concentration of such families in a certain city area creates "new slums".
著者
金子 絵里乃
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.43-59, 2007-02-28

本研究では,小児がんで子どもを亡くし,SHG/SGに参加した経験をもつ母親15人の悲嘆過程を分析し,分析結果から得られた知見を基に考察を行った.分析の結果,グループに参加する前については,「解放感を抱く」「ショックを受ける」「身のおき所を失う」「現実を受け入れられない」「人と疎遠になる」「家族関係の変化」という6つのカテゴリーが見いだされた.グループに参加した背景については,「黙された悲嘆」と「参加への踏み出し」という2つのカテゴリーが見いだされた.グループに参加したときについては,「現実を直視する」「固定観念を取り外す」「生きる力を見いだす」「自己の変化を認識する」「悲嘆が深まる」という5つをカテゴリーが見いだされた.グループに参加した後については,「バランスを保ちながら生活する」「子どもとのつながりを維持する」「気持ちを立て直す」という3つのカテゴリーが見いだされた.