著者
鈴木 良
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.49-62, 2015-08-31

本研究は入所施設とグループホーム/ケアホーム(以下,GH/CHと略記)で生活する知的障害者を対象に,1)入所施設よりもGH/CHの生活の質が向上するかどうか,2)GH/CHでは障害程度に応じて生活の質が変わるのかを検証した.その結果,第一に,GH/CHでは入所施設よりも自己決定の機会が向上することがわかった.ただし,これは日常生活にかかわる決定や外出機会の向上を意味し,入所施設と同様に人生にとっての重大な決定への参加機会は乏しかった.一方,GH/CHでは入所施設と同様に,人間関係,自己決定,社会参加の機会が低い水準であり,物資的豊かさ,健康,権利擁護は高い水準であった.ただし物質的豊かさ・権利擁護については自立的生活に伴いニーズが変化することや,プライバシーが十分に保障されていないことを考慮に入れなければならない.第二に,GH/CHでは障害の重度化に伴い生活の質が悪化する状況が見いだされた.
著者
野津 牧
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.65-76, 2003-11-30

不適切な養育環境は,子どもの発達に著しい影響を及ぼす.本事例は,不適切な養育環境で育った男児・Aが児童養護施設に保護されてからの2年間の実践記録である.彼の育った環境は,ネグレクトともいえる養育環境であった.彼の両親は,出生届けを出さなかった.そのため彼は戸籍もなかった.保護されるまでの養育環境は,アパートの一室からほとんど出されることもなかった.保護されたときはよちよち歩きでことばもほとんどなかった.保護時点での発達検査では,Aの発達指数は40であり,中度の「知的障害児」と診断された.集団生活に移ったAは,半年後の発達指数が65,2年後の発達指数は77と急速な伸びをみせ,「知的障害」と診断された原因が養育環境からくるものであることを示した.本小論は,Aの2年間の成長過程を発達検査の結果を中心に紹介するとともに,不適切な養育環境に育った子どもの援助として,発達段階を考慮した援助方針の策定と子ども集団のかかわりが重要であることを示した.
著者
湯原 悦子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.116-127, 2015-05-31

本研究では介護殺人事件に対し,判決前調査(情状鑑定)を通じて事件の背景や要因を明らかにする意義と効果を確認した.事例分析の結果,情状鑑定により特に環境的負因に関わる情報の提示が充実し,審理に携わる者が「被告人に帰せられる責任の範囲」を多角的に検討するための資料を提供できること,事件の背景にある社会病理として,そもそも介護を担う能力に欠けている者が介護を担わざるをえない状況に追い込まれ危機に陥っていることが明らかにされた.介護殺人事件に情状鑑定を実施するのは困難が予想されるが,社会福祉専門職による「コンサルテーション」という形であれば,弁護人らを通じて彼らの視点を審理に組み込むことができ,情状鑑定を行う効果を実質的に担保することが可能になる.このような形で司法と福祉の専門職が関わるところから,規範的解決を実体的解決・調和につなげていく司法福祉の理念の実現を図ることができると考える.
著者
石島 健太郎 伊藤 史人
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.82-93, 2016-02-29

本研究は,意思伝達装置を用いるALS患者204人を対象に,複雑な条件組み合わせと結果の関連を明らかにすることができるファジィセット質的比較分析(fsQCA)を用いて,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が意思伝達装置を用いる際,どのような条件がそろえば満足度が高まるのかを明らかにするとともに,社会福祉学でのfsQCAの有効性を示すことを目的とする.分析の結果,重度障害者でも意思伝達装置を満足度の高い利用方法が複数示唆され,かつ年齢や同居する家族の有無に応じて支援すべき方向性も異なってくることが明らかとなった.こうした知見は,ケースワークにおける個別性の原則を経験的に確かめるものであるとともに,実践的には支援者が患者の属性を踏まえた意志伝達装置の利用促進に示唆を与えるものである.また,無作為抽出が困難で,さまざまな条件が複雑に関連した事例の多い社会福祉学でfsQCAを用いる意義も示された.
著者
中尾 友紀
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.32-45, 2008-05-31

本論文の目的は,1941(昭和16)年に公布された労働者年金保険法に結実した老齢・廃疾・死亡に対する保険,すなわち「長期保険」に関する議論を,それが開始された1880年代にさかのぼって把握し,同法をその歴史的系譜に位置づけて再評価することから,同法に意図された社会保険としての本来的な意味を検討することにある.本論文では,同法以外に政府管掌の「長期保険」として同法立法以前に逓信省で立法された任意保険である簡易生命保険法および郵便年金法を取り上げ,特に適用範囲の制限方法および国庫負担に関する官僚らの議論に着目した.それらを分析した結果,戦前期日本の「長期保険」構想は階層別にあったこと,官僚らは社会保険としての「長期保険」について,あくまで「少額所得者」のみを適用範囲に検討したこと,そのうえで,労働者年金保険法に「少額所得者」である工場労働者を保護するための防貧政策としての性格を強く内包したことが明らかとなった.
著者
堺 恵
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.14-29, 2015-02-28

本研究の目的は,児童扶養手当制度の成立過程における制度創設の経緯について考察することである.1959年から1961年までの国会審理および新聞報道の内容を分析したところ,児童扶養手当制度には,母子福祉年金の補完的制度として,かつ児童手当創設の先行制度として創設されたという経緯のあることがわかった.そして児童扶養手当制度の創設に至った社会的背景には,次の3点があることがわかった.1点目は,全国未亡人団体協議会が生別母子世帯への年金支給を求めていたことである.2点目は,母子福祉年金の予算が,厚生省の推計のミスにより大幅に余ったことである.3点目は,児童手当制度創設が当時の政策課題であったことである.また,『全国母子世帯調査結果報告書』で報告された収入に関する調査項目とその実施状況をみると,児童扶養手当制度の創設当時,生別母子世帯の生活実態に関する十分な分析を欠いたまま,制度が創設されていたということも確認できた.
著者
菊池 義昭
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.23-47c, 1980-11-20

I. The purpose of this study The purpose of this study is to make clear the role that the policy of public relief finance played on the life of the people in Fukushima Prefecture, and then to make clear the feature of the history of developement of the policy. This will be a fundamental data in studying the history of the policy and the system. For, the public relief is a relief of the administration side, and the study of the finance will come to be the most suitable data that prove the concrete condition of the relief of the administration side. The actual condition of the historical change is an index which indicates an attitude and a volition toward the relief (the social welfare) of the administration side. In other words, this will be a criterion of the role that the administration in each period played on the people.If it becomes clear, the study of the history of the actual condition of the social welfare will become trustworthy. II. Conclusion I will divide the history of the relief finance in Fukushima Prefecture, considering the feature in each year. In the first period, betwen 1879 and around 1887, mainly the relief expenses in the national expenditure was disbursed, especially the military relief expenses was disbursed a lot. In the second period, between around 1887 and around 1899, mainly the relief expenses in the national expenditure was disbursed too, but the substance of the expenses changed. In the third period, between around 1900 and around 1907, the amount of the expenditure of the relief expenses in the prefectural expenditure surpassed that in the national expenditure. This was because the items snd the amount of expenditure in the prefectural expenditure increased. In the forth period, between around 1908 and 1912, the expenditure of the relief expenses in the prefectural expenditure increased rapidly, but that in the national expenditure decreased. And the expenditure to the subsidy toward relief facilities appeared in the relief expenses in the national and the prefectural expenditure. This would be considered to predict the substance of expeniture of the relief expenses in Taisho Period.
著者
加茂 陽 大下 由美
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.12-22, 2001-08-31

この論文の目標は,ホワイトとその同僚たちの,フーコーの「権力/知識」理論に依拠した,ナラテイブ・モデルと呼ばれているエンパワーメント理論を批判的に分析し,その過程のなかから導き出される新しい社会構成主義的エンパワーメント論の概略を描き出すことである。フーコーの「権力/知識」が彼らの理論体系のなかに導入される際の問題点がまず指摘される。それらのなかで,特に,言説あるいはそのストーリー還元論的な現実の説明手法について吟味を深め,この還元主義的手法への対抗的な現実分析の枠組みとして,重層構造的意味のレベル群の相互調整過程を強調するCMM理論を提示し,その有効性を明らかにする。さらに,理論の最も基礎的なレベルに「力としての差異」概念を設定し,差異の拡大が意味のレベル群に波及するメカニズムを説明する理論体系をエンパワーメント論として論じ,具体事例を用いて,その有効性を明らかにする。
著者
野口 史緒
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.79-94, 2014-08-31

第34回社会保障審議会介護保険部会資料(2010年)によると,特別養護老人ホームの入所申請待機者は,42万人にのぼり,そのうち在宅以外で待機しているのは52.8%であった.本研究では,そのような背景から,医療機関を退院後,行き場を見つけづらい高齢者が,住宅型有料老人ホーム(以下「ホーム」)に入居している現状に注目した.そこで,ある「ホーム」の常時介護を必要とする高齢者47名の家族の聞き取り調査とそこにおける看護・介護労働者の聞き取り調査を行い,長期療養高齢者の生活問題を包括的に捉えることを試みた.入居者世帯を階層区分した結果,相対的安定層といえども,医療,介護,住宅にかかる自己負担は重く,常に経済的不安を抱えながら生活していることが確認された.また入居者は,介護保険制度によって決められた時間報酬のために,短時間で区切られたケアを受けていた.これらの調査結果から,介護問題の構造を浮き彫りにする.
著者
任 貞美
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.57-69, 2014-02-28

本研究は,「実践上の高齢者虐待定義の構築」に向けて,介護職員の虐待認識を基とに新たに「準虐待」を加え,その構造と特徴を明らかにすることを目的とした.全国の介護老人福祉施設に勤務する介護職員5,000人を対象に,質問紙調査を行い,1,143人を分析対象とした.調査期間は2012年10月11〜25日までである.因子分析を行った結果,「準虐待」の構造として,「尊厳の侵害」「役割の侵害」「自律の侵害」「交流の侵害」の4因子が抽出された.また,4因子の各「下位尺度得点」の平均値を比較した結果,「尊厳の侵害」「交流の侵害」に対する介護職員の虐待認識は高く,「役割の侵害」「自律の侵害」についての虐待認識は低かった.上記の結果から,(1)高齢者にとって重要な生活,「尊厳・役割・自律・交流」の侵害は「準虐待」であること.(2)介護職員が見逃しがちな高齢者の「自律や役割のある生活支援」の重要性について,介護職員の共通理解を強化する必要性が示唆された.
著者
吉田 晴一
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.25-37, 2015-05-31

救護法は救護が市町村長の義務であることを明確に規定し,収容救護について市町村自らの救護施設への収容のほか,私設を含む他の救護施設への収容の委託を認めた.本稿の目的は,「私設の救護施設」が担う公的な救護の制度の制定過程およびその意義について検証することである.本稿では,まず,救護法制定過程における救護施設への収容の委託に係る検討状況の変遷について分析する.次に,私設の養老院を事例に,救護法制定前・施行後を比較し,私設の救護施設が担う公的な救護の意義について分析する.救護法の制定過程において,代用感化院の制度を参考に公設の「収容場舎」の設置命令とともに「私設ノ場舎」の代用が提案されるが,市町村の救護施設の設置は任意とされ,委託費(=救護費)支払による私設の救護施設への収容の委託という制度へ収斂していった.私法上の契約関係によって,民間の社会事業施設を公的な制度に取り込む仕組みが構築された.
著者
横山 登志子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.24-34, 2004-11-30

本論では,歴史的に社会防衛的色彩の強い精神保健福祉領域の「現場」で,ソーシャルワーカーがどのような援助観を醸成させているのかについてソーシャルワーカーの自己規定に着目して,以下の点について考察している.第1にソーシャルワーク理論史にみるソーシャルワーカーの自己規定では,クライエントを自らとは異なる「他者」としてとらえてきたことについて論じた.そして,専門的自己と個人的自己は分離することができないものであることを指摘した.第2にソーシャルワーカーのインタビューから「現場」に立ち会う者としての個人的自己の強いコミットメントが示唆されたことを述べた.以上の点から,静的・理想的な専門的自己のありようを示す援助関係論から,「現場」のリアリティーが失われない動的・状況密着性が高い個人的自己をも内包した援助関係論を構築する必要性が示唆されることについて述べた.
著者
口村 淳
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.163-173, 2011-02-28

本研究の目的は,高齢者ショートステイにおける相談援助に関するカテゴリを生成し,その特徴について検討することである.特養併設型ショートステイを利用した236人のケース記録を,帰納的アプローチによる質的研究法で分析を行った.その結果25個のカテゴリからなる,【援助困難ケースへの対応】【施設での生活支援】【外部機関への情報提供】【施設利用に関する相談】【家族との連絡調整】【利用者に関する情報収集】【円滑な在宅介護の支援】【苦情対応】という8個の上位カテゴリが生成された.さらにそれらは,「利用期間中の業務」と「利用期間外の業務」に分類することができた.先行研究の多くは長期入所施設を調査対象としているため,本研究のカテゴリとはいくつかの相違点がみられた.たとえば,ショートステイでは利用中の援助にも家族の意向が反映される傾向があるため,【家族との連絡・調整】が重要な機能として位置づけられる点などである.
著者
須田 木綿子 浅川 典子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.46-55, 2004-11-30
被引用文献数
1

特別養護老人ホーム(「特養」と略称)の施設長4人を対象に探索的質的調査を行い,介護保険制度による環境の変化をいかに認識し,どのような対応を試みているのかを検討した.その結果,環境の変化は「ケアの対象」「特養の機能」「現場の理念」「入居者との関係」「歳入と人員配置」の5点から,対応は「人件費節約」「職員の質とモラールの確保」「経営感覚の醸成」「オプショナル・プログラム」「苦情処理制度と第三者評価制度-の対応」「独立した価値の維持」の6点から把握された.対応のあり方は,技術核-管理核の分離を図るか否かによって異なり,プロフェッショナリズムとの関係性も示唆された.またテクノロジーと組織構造の改編は,目的に応じて使い分けられているようすがうかがわれた.今後は,本研究で得られた知見を一般化が可能な方法で検証することが必要とされ,そのための課題が整理された.
著者
倉田 康路
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.101-113, 2001-08-31

本研究においては,実践現場でサービス計画(全体計画)が実現されるためにはどのような条件や方策が必要か,介護老人福祉施設(特養)の場合を通して検討することを目的とする。研究方法として同種施設に所属する職員を対象にアンケート調査(自由回答法)を実施し,全国の155の施設から822票の回答を得ることができた。K. Krippendorffによるメッセージ分析法を用いて分析を行った結果,実現化に作用する条件や方策に関して5つのカテゴリーから28の項目が抽出された。同計画の実現に向けては,これら各項目やカテゴリーについて一連のつながりをもって関連させながら方策を展開していくことが大切かと考えられる。また,計画の実現に職員自身が自信を持てるような条件づくりを進め,サービス計画をよりよいものに改善していくという使命を一人ひとりの職員が担っていることの認識がもてる体制をいかにして創りだしていくかを検討し,確立していくことが求められる。
著者
浅井 純二
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.13-25, 2015-08-31

本論は,伊勢湾台風被災地である名古屋市南区に設置されたヤジエセツルメント保育所を中心にして救援活動の展開を整理し,被災から復旧・復興に向けた学生・保母・父母・支援者の役割と活動要素,評価を明らかにしている.役割と活動要素は,学生の人道性・開拓性,保母の専門性・継続性,父母の自発性,支援者の協同・連帯性である.保育要求は災害によって顕在化した生活問題とともに働く親の願いと捉えており,保育活動は子どもの利益を守り,地域を組織化するものである.活動の特徴は,被災と貧困という二重の条件を踏まえ,保育活動が,救援から発達保障を求める活動へ変化し,保育活動の多面的な発展のうえで歴史的な起点となったことである.
著者
岩永 理恵
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.40-51, 2009-02-28

本稿は,生活保護制度における援助に関する議論を自立概念に注目して吟味することから,生活保護制度のゆくえに関わって検討すべき点を考察するものである.生活保護制度の在り方に関する専門委員会の論議を起点とし,自立支援という観点から制度の根本的な見直しを進めるならば,自立という概念が援助の在り方と関係して問題になると考える.専門委員会で自立支援を議論する過程には曲折がみられたが,最終報告書で自立支援を定義し決着した.この定義は,自立支援プログラムの作成を通じて具体化すると考え,一例として板橋区の自立支援プログラム作成を検討した.その結果,自立に経済的自立だけでなく日常生活自立と社会生活自立を想定することは,制度の目的変更を迫るものであると考えた.見直されていく制度は,現行制度の"保護"という考えにそぐわず,自立支援の取り組みと同時に"保護"に替わる概念を構想する必要がある.
著者
川島 ゆり子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.26-37, 2015-08-31

本研究は,生活困窮者自立支援に関わる支援ネットワークのあり方について検討を行う.生活困窮者は単に経済的な困窮にとどまらず,多様な社会的排除の状況にあり,その支援には多様な専門機関がネットワークを構築して関わる必要性が生じる.実証研究では調査対象である精神疾患を持つ母子家庭の生活状況の厳しさが明らかになった.支援の狭間に漏れ落ち,先行きが見えないまま苦しむ姿が浮き彫りになり,多くのケースは就労していないにもかかわらず,生活保護受給にも至っていなかった.複合問題を抱える当事者に対してはネットワークによる一体的な支援が求められるが,検証の結果,生活困窮者支援において二つのネットワーク分節化の課題があることが示された.一つは時間による分節化であり,もう一つは専門分野による分節化である.生活困窮当事者の生活保障を継続的に実現するためには,生活困窮者支援に携わるコミュニティソーシャルワーカーに対してネットワークのコーディネート機能を発揮する権限を制度として確立する必要がある.