著者
平野 寛弥
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.239-255, 2012-09-30 (Released:2013-11-22)
参考文献数
33

本稿は, 社会政策における互酬性の変遷をその構造に着目して比較分析することにより, それぞれの互酬性の異同を明らかにするとともに, 新しい互酬性として提案されたTony Fitzpatrickの「多様な互酬性」がもつ社会構想としての可能性を検討するものである.第2次世界大戦後に成立した福祉国家体制が変容していくなかで, 社会政策における互酬性もまた変遷を遂げてきた. とりわけ現在支配的な言説となっている「福祉契約主義」においては, 権利に伴う義務の重要性が強調され, 権利を制約しようとする傾向が強まっている. これに対して「福祉契約主義」の対抗言説として提唱された新たな互酬性の1つである「多様な互酬性」は, 無条件な義務を前提としつつも, 権利に伴う義務の要求を逆手に取り, 義務の履行条件として無条件な権利の要求の正当性を主張する戦略であることが明らかとなった.この「多様な互酬性」からは, 無条件での基礎的生活保障の提供や「ヴァルネラブルな人々」に対する公正な保護, 多様な義務の選択可能性など, 現在直面している社会問題に対する新たな対応策への示唆を引き出すことができる. これらの内容は, 「多様な互酬性」が社会政策における配分原理という位置づけをはるかに超えて, ラディカルな社会変革の可能性を秘めた1つの社会構想ともいえる射程を有していることを示している.
著者
平野 寛弥
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.74-85, 2005-07-31 (Released:2018-07-20)

本稿では,社会主義体制における福祉制度の体系的・包括的把握を日的とし,社会政策と経済政策,およびこの二者から構成される社会創造政策の3つの分析概念を用い,福祉制度の構成を福祉システムという一種の社会経済システムとして考察した.その結果,全人民の福祉の実現を目指し,社会の構造それ自体を改変するという壮大な目的をもった社会創造政策が,その構成要素である経済政策と社会政策の対立により機能不全に陥ったことが明らかとなった.すなわち福祉システムの崩壊である.これに伴い,福祉の実現という目的は一政策領域にすぎない社会政策に縮減されて,社会主義体制での絶対的な地位を喪失することになった.当初社会主義体制の理念であり目的であるとされた全人民の福祉の実現は,その実現化の最中で放棄されたのである.
著者
金子 充 平野 寛弥 堅田 香緒里
出版者
立正大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、イギリスにおける批判的社会政策論、すなわちマイノリティ等のヴァルネラブルな人々の差異・アイデンティティに配慮した社会政策を構想する研究潮流を支える視点および鍵概念(「普遍主義」「互酬性」「シティズンシップ」)の整理と再検討をおこなった。近年のわが国および先進諸国の社会政策(公的扶助制度や失業者・生活困窮者支援策)では就労自立を重視した政策展開がなされているが、これらは能力に応じて就労または活動への従事を求める給付としての性格が強く、限定的な意味での普遍性や、個人単位において権利と義務を対応させる互酬性に依拠した政策展開をしていることが考察された。
著者
小沢 修司 山森 亮 平野 寛弥 堅田 香緒里 鎮目 真人 久保田 裕之 亀山 俊朗 小林 勇人 村上 慎司 村上 慎司
出版者
京都府立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究は、研究者と市民のネットワーク形成から生み出された議論を通じて、ベーシック・インカムに関する三つの目的を総合的に検討した。第一に、生存権・シティズンシップ・互酬性・公共性・フェミニズム思想といったベーシック・インカムの要求根拠を明らかした。第二に、ベーシック・インカムに関する政治的・財政的実現可能性を考察した。第三に、現行の年金や生活保護のような所得保障制度の問題点とベーシック・インカムにむけた改良の方向性を議論した。
著者
平野 寛弥
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.5-16, 2008-02-29

本稿では,T.H.マーシャルの論文「福祉資本主義の諸価値問題」およびその「追論」(以下,「ハイフン連結社会」論と総称)を再検討し,その現代的意義について考察した.具体的には,「ハイフン連結社会」論を社会システム論の観点から再解釈し,通説の妥当性を検証したのち,そこで採用されている分析枠組みを用いて,現代の経済一福祉間の関係について検討した.その結果,「ハイフン連結社会」論は価値選択を通じての構造問題の許容化を論じた社会体制論として理解される.したがって,価値問題のみを扱っているとする通説は妥当性を欠いている.また,経済-福祉間の関係が構造的に変容した現代では,構造のあり方までもが価値問題の盤上に上げられる点で,以前に比べ価値問題が先鋭化し,その重要性も増大している.その意味で,マーシャルの議論は現代においてもなお大きな意義を有している.
著者
平野 寛弥
出版者
埼玉県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

「社会の質」アプローチは明確な「善き社会」像を提示し,その実現を目指す規範性の強い社会計画論であり,本研究では「社会の質」の可能性と課題を理論的に検討した.その結果,社会経済的保障が社会的包摂や凝集性に与える影響を考慮すれば、現代の社会状況では社会経済的保障は必ずしも就労(=有償労働)への従事を受給要件とせず、多様な活動への従事を認めうるものであることが要請される。この点で「社会の質」が支持する社会経済的保障のあり方,さらにはその前提とされている「善き社会」像についても再考の余地がある.