著者
遠山 潤 Jun Tohyama
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要. 情報社会学科編 = Bulletin of Faculty of Literature, Kurume University. Information Sociology (ISSN:13481010)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-11, 2020-03-31

本稿は,『シカゴ・スタイル:研究論文執筆マニュアル』(A Manual for Writers of Research Papers, Theses, and Dissertations)が,7版(2007)から8版(2013)を経て9版(2018)に至るまでの11年間に,インターネット上に存在する情報を論文に引用する時の取り扱い方をどのように変化させてきたのか,という問いに対する調査の結果報告である.最初に7版,8版,9版の第1章-第26章の目次構成全体を概観し,次に第15章-第17章の目次と本文の変化を比較した.本文は,オンライン情報の引用に関わる変化を対象とした.その結果,第1章-第26章の目次構成全体は変わらないものの,9版の第17章 17.5-17.10については,目次の配列順序・階層構造・用語選択すべてに再編の跡が見られた.オンライン資料そのものに関し,7版は非公式なものであり本質的に信頼性が劣ると評価したが,8版9版はオンライン情報は変更を受けやすく権威と信頼性が疑われるという指摘に留まった.オンラインの学術雑誌記事に関し,7版は新種の資料として独立した目次を立てていたが,8版9版は特別の目次を立てず,オンラインの記事を媒体の違いとして指示・例示し,記事一般として扱うようになった.原典を同定する要素として,7版8版は広くアクセス日を認めていたが,9版では,原則としてアクセス日を認めず,DOI の方を重要視するようになった.
著者
井上 圭二
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要 情報社会学科編 (ISSN:13481010)
巻号頁・発行日
no.3, pp.25-50, 2007-03

社会調査は大学において学生に社会的な問題を解決する能力を習得させるために最も有効な教育方法である.しかし現在のところ,わが国の大学の社会調査教育においては,学部学生のための社会調査教育訓練モデルは未だ開発されていない.そのため,学部生に対する社会調査訓練は担当教員の裁量に委ねられて進められているのが実情である.現在の緊急の課題は,学部学生のための社会調査教育の訓練モデルを開発することである.本稿は,社会調査の初心者の学生のための社会調査教育訓練プログラム開発に向けての共同研究報告の一つである.本稿では,社会調査のうち,調査票調査の実験授業の過程で直面した制約や困難について触れ,それらを克服するためにどのような工夫・対応を試みたのか,について述べている.また,調査実習過程で直面する問題に対して,学生たちが自ら問題を把撞・解決しながら調査能力を獲得する様子についても触れている.そして,実験授業の結果から,学部学生の社会調査教育訓練プログラム開発にあたっての課題を7つ提示した.
著者
鋤田 みすず 辻丸 秀策 大西 良 岩永 直美 大岡 由佳 山口 智哉 福山 裕夫 石田 重信 牧田 潔 内野 俊郎 Misuzu Sukita
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要. 社会福祉学科編 = "Bulletin of Faculty of Literature, Kurume University. Social welfare" (ISSN:13455842)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.57-67, 2005-03-31

精神障害を持つ家族(患者家族)と精神障害者とかかわりのない家族(一般家族)を対象に統合失病症に対するイメージと社会的距離を多面的調査から検討を行った.その結果,患者家族は一般家族よりも社会的距離は低く,精神障害に対する知識も豊富であることがわかった.しかし,病気に対する知識は豊富であるにもかかわらず,統合失調症に対するイメージは一般家族と変わらず危険なイメージであった.一般家族は,精神障害者と触れ合う機会がないのが現状であったため,主体的な関係として接触経験を行うことの必要性と,啓発活動や施設の開放化などの積極的な活動が大切だということが考えられた.また,患者家族に対しては,家族のニーズを踏まえた上で具体的な情報を提供していくことと生活の中で活かしていけるようなサポートの必要性を感じた.
著者
石橋 潔 Kiyoshi Ishibashi
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要. 情報社会学科編 = Bulletin of Faculty of Literature, Kurume University. Information Sociology (ISSN:13481010)
巻号頁・発行日
no.12, pp.1-18, 2017-03-31

対人サービス労働が利用者に対して密接で個別的なかかわりを増したとき(=感情労働が強化されたとき),バーンアウト得点はネガティブ・ポジティブの両方に分布を広げ,標準偏差を大きくする.この傾向は年齢が若い場合により顕著となる.このことを高齢者施設介護でのグループホーム・ユニットケア従事者のバーンアウト得点を使って検証した.標準偏差が大きくなるこの現象は,平均値が大きくなると予測する感情労働バーンアウト仮説では説明ができず,感情が間主観的に共振的相互作用するという表情共振論の立場から説明可能である.
著者
石橋 潔 Kiyoshi Ishibashi
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要. 情報社会学科編 (ISSN:13481010)
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-14, 2016-03

スタジオジブリ第1作,天空の城ラピュタは,柳川を舞台にした物語となる可能性があった.自然との共存は可能かというテーマを追った映画「風の谷のナウシカ」のラストシーンに納得できない思いをもった宮崎駿は,旅の途中で立ち寄った柳川という町に大きな影響を受けた.柳川は,水と人間が共存する歴史と文化をもっており,その共存の象徴としての,ひょうたんの御守りを伝承する町でもある.天空の城ラピュタには,この柳川の影響が大きくみられる.
著者
桑野 栄治
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要 国際文化学科編 (ISSN:09188983)
巻号頁・発行日
no.25, pp.51-78, 2008-03

本稿は朝鮮中宗代の前半期に時期を絞り、朝鮮と明とのあいだに生じた宗系弁誣問題をめぐる外交交渉の実相について、朝中の官撰史料である『朝鮮王朝実録』と『明実録』を中心に整理・分析したものである。宗系弁誣問題とは、太祖李成桂が政敵李仁任の子であり四人の高麗国王を殺害したとする明側の記録の修正を要求した、朝鮮前期の一大外交紛争である。朝鮮国王の正統性に関わるこの問題は太宗四年にいったん解決したかにみえたが、のち中宗一三年四月に朝鮮使節が『大明会典』を明から購入したことによって再燃した。皇帝御製の序文にはじまる『大明会典』の修正は容易ではないとの事情を予測しつつも、朝鮮政府はこの年七月に宗系弁誣奏請使として正使南衰・副使李〓・書状官韓忠の三使を帝都北京に向けて派遣した。あいにく正徳帝が行幸中であっため外交交渉は難航したが、奏請使一行はようやく礼部の咨文を獲得して中宗一四年四月に王都漢城に戻る。ところが、正徳帝の勅書は宗系改正を許可するのみで、王氏殺害の件には言及がなかったことから、再度奏請使を派遣すべきか、あるいは謝恩使を派遣すべきかで朝鮮政府の論議は紛糾した。そのうえ臺諫は奏請使の外交交渉上の失態を弾劾し、その三使も辞職を願い出るにいたる。少壮学者趙光祖は明確な判断を避けた中宗を諫めることもあったが、三使の辞職は取り下げられ、ひとまず謝恩使を明に派遣することによってこの問題は収束した。ただし、この年一一月に己卯士禍が発生するや李〓と韓忠は失脚し、南袞は左議政に昇進して明暗を分けた。正徳帝の在位中に『大明会典』が改訂されることはついになかった。謝恩使は帰国後、当時の明政府では言論によって皇帝権を抑制する機能が麻痺している、と報告している。こうした政治状況のなかで朝鮮使節が『大明会典』の修正を要請したとしても、礼部が正徳帝の裁可を仰ぎ、さらにこれを実行に移すには困難であったに相違ない。以後、この対明外交交渉は朝鮮政府にとって最大の懸案事項となる。
著者
大岡 由佳 辻丸 秀策 大西 良 ポドリヤク ナタリア 藤島 法仁 末崎 政晃 津田 史彦 福山 裕夫
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要 社会福祉学科編 (ISSN:13455842)
巻号頁・発行日
no.7, pp.43-56, 2007-03

2004年12月に当事者・遺族,その支後者が待望した「犯罪被害者等基本法」が成立し,そのなかで多岐にわたる施策が現在検討されつつある.今までの犯罪被害者等の抱える問題は多岐にわたっていたが世間に知られることは少なかった.本稿では,それら犯罪被害者を取り巻く問題点を一次被害,二次被害,三次被害に分けて論じ,今後の被害者支援にかかわる諸団体についての現状と課題について明らかにした.
著者
片岡 靖子 岡崎 利治
出版者
久留米大学文学部
雑誌
久留米大学文学部紀要 社会福祉学科編 (ISSN:13455842)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-11, 2008-03

本論文は,社会福祉士養成過程における社会福祉援助技術演習の教授法の一つとしてデス・エデュケーション演習を試み,学生たちの援助観形成にどのような効果をもたらしたかについて明らかにすることを目的としている.分析方法としては,学生たちが記述した感想文をグラウンデッド・セオリーの手法によって分析を試み,社会福祉援助技術演習の効果性の測定,さらに今後社会福祉援助技術演習の教授法のあり方について提示を試みた.結果として,学生たちの死生観の涵養,一人称の死を体験することによる終末期患者が抱える痛み等を擬似体験し,理解を深めることに繋がった.さらに自己の死を考察することから,生きるということを再考察,自己と他者との繋がりの実感と感謝する等の能動的な感情がみられた.しかし,クライエントの人権や尊厳について,またソーシャルワーカーとしての援助のあり方等について具体的な考察を深めるには至らず,援助者としての視点の獲得や援助のあり方について考察を深めていくことができる能動的な姿勢を養成する授業展開と内容の工夫が必要であることが明らかになった.