著者
三原 博光
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.35-42, 2012-11

本研究の目的は,ドイツと日本のきょうだいの個別事例の比較研究を通して,わが国のきょうだいの支援を検討することにある.ドイツのきょうだいは,障害者自身にも独自の生活があり,障害者の存在によって自分の欲求を抑えるとは考えておらず,障害者が入所施設で生活することには否定的ではなかった.日本のきょうだいは,親が障害者の世話に時間を取られ,子どもの頃,孤独な時間を過ごしていた.きょうだいは,障害者が入所施設で生活するには否定的であり,親亡き後の障害者の世話を考えていた.日独のきょうだいは,障害者の影響から医療福祉関係の職種を選ぶ傾向にあった.日本のきょうだいは,ドイツのきょうだいに比較して,障害者のことで自分の欲求を抑え,親亡き後の障害者の世話をする傾向にあった.そこで日本のきょうだいが自分の欲求を抑えずに自由に生活ができるような福祉サービスの提供が必要とされる.
著者
大田原 俊輔
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.48-54, 2008-05

平成17年(2005)年10月12日に成立した鳥取県人権条例に対しては、その内容をめぐって条例成立直後から批判的意見が続出していた。そのため開かれた同年12月と平成18(2006)年1月の2回に亘る有識者による懇話会では、「抜本的見直し相当」の意見が出され、また県弁護士会からは総会決議により同条例の施行について一切協力できないという厳しい意見が出された。このような事情により、同条例は平成18(2006)年2月の議会決定で無期限の施行凍結となっている。上記施行凍結とともに「人権救済条例見直し検討委員会」が設置されたが、同委員会は、平成18(2006)年5月2日に第1回会議を開催して以降、1年半余りの間に計18回の会議を開いて意見をとりまとめ、平成19(2007)年11月2日に知事宛の意見書を出して解散した。 本稿では、当職が鳥取県弁護士会の人権擁護委員長として上記懇話会に出席するとともに県弁護士会の意見形成に関与し、また、見直し検討委員会の会長代行として同条例の立法事実の確認と法的整理をリードしてきた立場から、同条例の問題点と課題について論じるものである。
著者
峰島 厚
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.82-87, 2008-08
被引用文献数
1

障害者自立支援法施行後、安倍内閣は「再チャレンジ支援総合プラン」・「成長力底上げ戦略」による「就労支援施策」を重点とする障害者施策を打ち出した。障害者自立支援法が一般就労への移行を重視しているのと同じく一般就労を一面的に重視するものではあるが、それとは異なった性格を有している。安倍内閣の「就労支援施策」は、労働者としての労働条件、身分保障を問うことなく、少しでも働いて稼ぎ納税者になり、「福祉の支え手」(福祉の対象(使い手)でなくなる)となることをねらったものである。それは、格差と貧困のもと福祉ニーズをもつにいたった人々を雇用対策の対象にすりかえ、劣悪な労働条件で身分不安定のままに働く底辺労働者としてかり出すという、貧困と格差温存の、そして結果的には福祉ニーズの縮減、福祉施策の縮小に目的があった。そして国民の批判を受けて失墜した安倍内閣に代わって福田内閣が誕生するが、本論ではここ数年の国の施策を分析し、この福田内閣のもとでも「社会福祉の機能強化」を名目として再び障害者自立支援法による障害者の介護制度と介護保険制度との吸収合併がねらわれていると問題提起した。
著者
白石 恵理子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.110-117, 2006-08

青年期は、第2次性徴のような身体的変化によって特徴づけられる青年期前期と、アイデンティティや価値観の確立といった心理的な成熟を特徴とする青年期後期に大きく分けられる。本稿では、知的障害や発達障害のある青年が青年期後期にあたる18歳から20歳の時期にどのような変化を見せるのかを、3人の事例から具体的に明らかにしようとした。思春期・青年期前期は自我の再構成の時期にあたり、障害青年においてもさまざまな揺れや葛藤をみせる。青年期後期においてもそうした「行きつ戻りつ」の姿を示しつつ、新たな社会的関係のなかで、徐々に自己決定が可能になったり、自らの要求の主体になりゆく姿がいずれの事例でもみられた。ただし、その具体的なあらわれかたは、障害の程度や発達段階、さらに青年期に至るまでの生育歴・教育歴等々の複雑にからみあった要因によって、きわめて個性的であり、一面的な理解に陥らないようにしなければならない。
著者
櫻井 宏明
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.211-216, 2006-11

発達的には1歳半をこえていても発語が困難な重度肢体障害者には、コミュニケーションを支援するために、適切なコミュニケーションエイドを導入することは有効である。学校教育でコミュニケーションを支援するといったときには「伝える手段」を補うだけでなく、「伝える主体」の能力を育てるという視点が重要である。ことばには「コミュニケーションのツール」の他に、「思考のツール」、そして「自己との対話のツール」という役割があると言われる。コミュニケーションエイドを利用して、集団の中でコミュニケーションの能力を育てるとともに、認識力や自我を育てるアプローチが重要である。
著者
丸山 啓史
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.32-39, 2011-11

障害のある乳幼児を育てる母親の就労保障という観点から,59人の母親を対象とするインタビュー調査をもとに,母親の就労に関して注目すべき問題を提示した.1)障害のある子どもを連れて療育機関に通わなければならないことが母親の就労を制約している.2)祖母などによる援助があることで母親が就労しやすくなっている.3)子どもを保育所に入所させるために仕事を始めた母親が多い.4)障害のある子どもの母親が就労することに対して否定的な意識がある.最後に,障害のある子どもの母親に対する見方の転換が必要であることを論じた.「母親は子どものケアの良き担い手であるべきだ」「母親は子どものことを優先すべきだ」という見方について,問い直しが求められる.
著者
巖淵 守
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.217-220, 2006-11

コミュニケーションに障害のある人への支援に関する研究分野として日本にも導入されている拡大・代替コミュニケーションに関して、近年、科学的根拠をベースとした実践が欧米で注目を集めている。コミュニケーション支援の技法や技術が、どの程度の効果があるかについての客観的・定量的なデータが求められる背景、データ取得や分析のためのツール、コミュニケーションエイド利用にまつわる研究の例など、日本でも今後議論の対象になることが予想される話題を中心に欧米の現状を紹介する。