著者
市山 高志
出版者
山口大学医学会
雑誌
山口医学 (ISSN:05131731)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.5-8, 2010-02-28 (Released:2010-04-30)
参考文献数
16
被引用文献数
2 1

「インフルエンザ脳症」は約10年前に疾患概念が提唱された比較的新しい病気である.本疾患は「インフルエンザの経過中に急性発症する意識障害を主徴とする症候群」と定義される.剖検脳では,著明な脳浮腫を認めるものの,炎症細胞浸潤やインフルエンザウイルスはみられない.従ってインフルエンザ脳炎ではなく,「インフルエンザ脳症」と命名された.当時は死亡率30%,後遺症率25%という極めて予後不良であった.その後の研究で,本疾患の病態に高サイトカイン血症が関与し,末梢血単核球の転写因子NF-κB活性化が明らかになった.抗サイトカイン療法としてステロイドパルス療法および免疫グロブリン大量療法が提唱され,普及した現在は死亡率10%弱に低下した.しかしインフルエンザ脳症の病態は単一でないことが明らかになり,現在は高サイトカイン血症が病態の中心でない「けいれん重積型脳症」といわれるタイプが,高率に神経学的後遺症を残すことから問題となっている.このタイプの病態は長時間のけいれんによる神経細胞に対する興奮毒性が主と考えられている.従って,ステロイドパルス療法や免疫グロブリン大量療法は有効でなく,なんらかの脳保護的治療が模索されている.しかし,現時点で有効性が証明された治療法はなく,効果的な治療法開発が今後の課題である.
著者
梶本 まどか 松重 武志 山田 健治 小林 弘典 山口 清次 市山 高志
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.150-152, 2013 (Released:2014-10-11)
参考文献数
10

Cefditoren pivoxil (CDTR-PI) の長期投与中に二相性けいれんの経過をたどった急性脳症を発症し, 低血糖の関与が疑われ, 後遺症を残した1例を経験した. 症例は1歳2カ月女児. 1カ月前より感冒症状があり近医でCDTR-PIを約25日間投与した. 全身強直性けいれんを認め, 当科へ救急搬送され, 低血糖, 血中遊離カルニチン低下, C5アシルカルニチン上昇を認めた. 二次的なカルニチン欠乏症による低血糖が原因と考えた. 3病日に再びけいれんが群発し, 二相性けいれんの経過をたどった急性脳症と診断した. 症候性てんかんを発症し, 左片麻痺, 軽度発達遅滞を合併した.
著者
市山 高志 西河 美希 林 隆 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.466-470, 1997-11-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
20

急性脳炎において, 局所の免疫・炎症病態を検討するため, 急性期の髄液中のinter-Ieukin-1β (IL-1β), IL-6, tumor necrosis factor-α (TNF-α), soluble TNF receptor1 (sTNF-R1) をsandwich enzyme-linked immunoassay法で測定した.対象は急性脳炎の24名で, 神経学的後遺症の有無により予後不良群9名, 予後良好群15名に分けて検討した.IL-1β, IL-6, TNF-α, sTNF-R1とも対照群 (23名) に比して予後不良群, 予後良好群とも有意に高値を示した.またsTNF-R1は予後不良群が予後良好群より有意に高値を示した.以上からIL-1β, IL-6, TNF-αは急性脳炎の炎症・免疫病態に関与しており, また急性期の髄液中sTNF-R1値は神経学的予後を推測しうる指標になると考えた.
著者
市山 高志 松藤 博紀 末永 尚子 西河 美希 林 隆 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.493-497, 2005-11-01 (Released:2011-12-12)
参考文献数
19
被引用文献数
4

軽症胃腸炎関連けいれんに対するcarbamazepine (CBZ) の有用性を検討した.対象は当科に入院した軽症胃腸炎関連けいれん16例 (男6例, 女10例, 9カ月~3歳, 平均1.7歳).方法は確定診断後ただちにCBZ5mg/kg/回を1日1回の内服を開始し, 下痢が治癒するまで継続投与した.CBZ投与前に16例中13例はdiazepam製剤を, 1例はdiazepam+phenobarbitalを単回あるいは複数回投与されていたが, けいれんは再発していた.CBZ投与前のけいれん回数は2~8回 (平均4.1回) だった.CBZ投与後15例にけいれんの再発はなかった.1例で15分後に1回のけいれんがみられた.CBZ投与期間は2~9日 (平均6.4日) で, CBZ投与は軽症胃腸炎関連けいれんに対し著効した.
著者
西河 美希 市山 高志 林 隆 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.15-19, 1998-01-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
9

山口県下の小中学校, 養護学校の養護教諭391名を対象とし, てんかん児の水泳を中心とした学校生活の対応について, アンケート調査を行った.対象人数391名中, 回答人数278名で, 回収率71%だった.82.7%の養護教諭がてんかん児を経験していたが, 学校行事の中で水泳を制限するという回答が全体の24.5%にみられた.また, 医師から制限不要の指示がでた場合でも, 20%以上の養護教諭が何らかの制限をするという回答だった.これらの結果より学校現場の中で医学的知識に詳しいと予測される養護教諭でも, てんかんに対する知識で不適切と思われる考え方が根強く残っていることがわかった.今後, 養護教諭に対するてんかんの正しい知識の普及が望まれる.
著者
林 隆 市山 高志 西河 美希 古川 漸
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF CHILD NEUROLOGY
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.339-345, 1998-07-01
参考文献数
12
被引用文献数
1

未熟児出生, 新生児仮死による痙性両麻痺児に認めた鏡像書字について, 神経心理学的, 画像診断学的に検討し発症機序について考察した. 右側優位の麻痺による左利き状態を右手使いに矯正する過程で鏡像書字は増悪した. 神経心理学的には利き手の矯正中にWPPSIでVIQ86, PIQ74, TIQ76と境界域の知能レベルで視覚認知の弱さが窺えた.もともと左手を使用していたこと, 視覚的に鏡像が自覚出来たこと, MRI上左頭頂葉白質に虚血性搬痕病変を認めたことより, 鏡像書字の原因として空間方向性の障害を考えた. Frostig視知覚発達検査では, 検査IVの空間位置関係の得点が利き手の矯正により低下し矯正をやめると速やかに戻った. 利き手の矯正による感覚運動刺激が視覚認知機能に影響を与える可能性を示唆している.
著者
林 隆 市山 高志 武田 香苗
出版者
The Japan Academy of Neurosonology
雑誌
Neurosonology:神経超音波医学 (ISSN:0917074X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.27-35, 2000-02-29 (Released:2010-10-14)
参考文献数
20

Doppler sonography is a convenient and useful procedure for evaluating intracranial lesions and hemodynamics, especially in the fetus and neonate. Initially B-mode ultrasonic images were used as the main procedure for investigating intracranial lesions. However, two-dimensional Doppler sonography, so-called color Doppler (CD) sonography, has superseded classical echosonography. It is possible with CD to visualize the intracranial arteries and veins in real time. In addition, the pulsed Doppler system (PD) in combination with CD, can be used to measure selectively the flow velocity at any point in the CD-visualized vessels. PD combined with CD could represent the selective flow condition at the intracranial main vessels, the anterior cerebral artery, basilar artery, middle cerebral artery and internal cerebral vein. But the flow conditions in these main arteries may not reflect the peripheral hemodynamics. Recently we used power flow Doppler imaging (PF) to show vessels that have low flow and small caliber. Now we are able to visualize the lenticulostriate artery (LSA), which perforates the branches of the middle cerebral artery, and have demonstrated the steady flow conditions of intracranial peripheral circulation. Three-dimensional reconstruction of PF images may provide a new quantitative and qualitative method of evaluating intracranial circulation. Selective echoangiography should clarify the mystery that surrounds brain circulation in perinatal period.
著者
林 隆 市山 高志 西河 美希 古川 漸
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.339-345, 1998-07-01 (Released:2011-08-10)
参考文献数
12

未熟児出生, 新生児仮死による痙性両麻痺児に認めた鏡像書字について, 神経心理学的, 画像診断学的に検討し発症機序について考察した. 右側優位の麻痺による左利き状態を右手使いに矯正する過程で鏡像書字は増悪した. 神経心理学的には利き手の矯正中にWPPSIでVIQ86, PIQ74, TIQ76と境界域の知能レベルで視覚認知の弱さが窺えた.もともと左手を使用していたこと, 視覚的に鏡像が自覚出来たこと, MRI上左頭頂葉白質に虚血性搬痕病変を認めたことより, 鏡像書字の原因として空間方向性の障害を考えた. Frostig視知覚発達検査では, 検査IVの空間位置関係の得点が利き手の矯正により低下し矯正をやめると速やかに戻った. 利き手の矯正による感覚運動刺激が視覚認知機能に影響を与える可能性を示唆している.
著者
市山 高志 長谷川 俊史 松重 武志 平野 玲史
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

山口大学医学部附属病院小児科では2010年夏以降エンテロウイルス68型(EV68)感染に伴う気管支喘息大発作、中発作入院症例を20症例以上経験した(Hasegawa S et al. Allergy 2011 ; 68 : 1618-1620)。今まで本ウイルスによる気管支喘息発作増悪の報告はない。大阪市でも2010年6~8月にEV68感染症が少数例報告され、今後流行する可能性は否定できない。気管支喘息発作を増悪させるウイルスとして、ライノウイルスやRSウイルスなどが知られているがEV68は今まで報告がなく、そのメカニズムの研究は皆無である。EV68感染による気管支喘息発作増悪のメカニズムを気道上皮細胞を用いて明らかにすることを目的とした。方法:気道上皮培養細胞(A549)を用いて、2010年夏に当科入院患児咽頭ぬぐい液から山口県環境保健センターで分離保存されているEV68を感染させ、感染細胞の培養上清を用いてtumor necrosis factor-α(TNF-α),interleukin-2(IL-2), IL-4, IL-6, IL-10, interferon-γの濃度をELISA法やcytometric bead arrayで検討した。結果:EV68がA549細胞に感染することを確認したが、測定した6種類のサイトカイン産生はみられなかった。考察:当教室では新型インフルエンザウイルス(H1N1 pdm2009)で同様の実験を行い、IL-6などの産生を確認しており、EV68は感染細胞におけるサイトカイン産生が新型インフルエンザウイルス(H1N1 pdm2009)と異なることが示唆された。