- 著者
-
奥住 秀之
- 出版者
- 東京学芸大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2001
本研究は,知的障害者の身体バランスの制約のメカニズムを解明し,その支援方法を考案することの一環である.今年度の目的は,知的障害者の測定事態と日常事態におけるバランス能力の差異を,関連する要因に注目しながら検討して,その教育支援原則を考案することであった.検討項目は以下の通りである.まず,測定事態の評価のために,平均台歩きと片足立ちというバランス運動課題を行い,日常事態の評価のために,歩行評価を行った.歩行については,普通歩行に加えて,コップ運び歩行と最速歩行も行い,様々な日常の歩行バリエーションについて吟味した.その結果,以下のことが明らかになった.まず,多くの場合,自閉症者は,もっているバランス運動それ自体は発達的に高い水準にあり,活動の文脈が理解しやすい場面では,そのパフォーマンスをかなり発揮できる.一方,ダウン症者は,そもそもの運動パフォーマンスが低いのであるが,その低さゆえ,安全性や正確性を重視する運動ストラテジーをとるために,さらに運動の力が低いようにみなされてしまう.教育支援法として,自閉症者については,活動の文脈がわかりやすい環境を呈示する.例えば,歩行の目的地や運搬する物体を明示するという支援が有効であった.平均台歩きのように,活動を具体物で補償するという支援も重要であろう.一方,ダウン症者については,なかまや教師がともに活動して,楽しくやりがいのある活動と結びつけて行うこと,次の運動の繋がる声がけなどの支援が有効であることが明らかになった.