- 著者
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江藤 祥平
- 出版者
- 公益財団法人 日本学術協力財団
- 雑誌
- 学術の動向 (ISSN:13423363)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.3, pp.3_18-3_24, 2022-03-01 (Released:2022-07-25)
このコロナ禍では数多くの憲法問題が生じたが、殆ど主題化されてこなかった問いがある。それが身体の自由をめぐる問いである。外出自粛であれワクチン接種であれ、公衆衛生対策の多くは身体に向けられたものであることを考えると、これは不思議である。その原因の一つは、憲法学が主権的権力に目を向け過ぎるあまり、着々と進行する人口の生政治に十分な注意を払ってこなかったことにある。生政治は、人口というマスの身体に働きかけるため、個人の身体に対する作用は間接的であり捉えづらい。しかし、間接的とはいえ自律に及ぼす影響は絶大である。このことは要請ベースを主とする「日本モデル」の問題点につながる。日本の感染症対策は強制力を用いることを極力控えてきたが、それは国民を個人として尊重するどころか、かえって安全を脅かす個人を強力に排除するメカニズムとして機能してきた。その排除の自覚がないままに、国民が統治されやすい個人と化していることが、憲法上の一番の課題である。