著者
任 章
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-20, 2015-03

米国会計学会『基礎的監査概念』(ASOBAC, 1973)は、現代の監査概念形成に関りマウツ=シャラフ『監査哲学』(1961)の貢献が多大であると認めている。マウツらが監査証拠の属性に見出していた要素と、彼らが用いた接近法は、畢竟、米国20世紀初頭に興隆した実用主義基盤の分析哲学観の応用であった。本稿の目的は、監査概念基盤に対して現代哲学が強く影響した可能性について論究することにある。本稿にては殊に、嘗てマテシッチ(2008, 序言)が言及していた視座、なかんずく「会計史は哲学史に相似性を有する。それはドクトリンかつ方法論の歴史であり、財務上のリアリティーを実用主義的に表現する方法の一つである」、に依拠し、監査概念基盤への分析哲学の浸透過程を探る。以って筆者は、会計とは事実的記録に過ぎず、監査とは報告数字の単なる検証に留まるという、根深い、軽薄な社会的妄信の打破に努める。
著者
清水 順子 小林 浩明
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.7, pp.15-22, 2009-03

日本語教師の養成や教育に携わる中で、日本語教師をやめていく人を見ることは少なくない。本研究では、一人の元日本語教師の事例に注目し、なぜやめるに至ったのか、そしてやめたことをどのように捉えているのかを理解することを目的とした。インタビューを行い、M-GTA の分析方法を用いて構造化を行った結果、やめるに至るには、単にやめたいと思ったからではなく、その時の状況で仕事への復帰が先延ばしになった結果だとわかった。また、外側から見ると完全にやめてしまったようにみえた人が、実はいずれは仕事復帰したいと希望していることもうかがえた。
著者
堀内 喜代美
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.18, pp.29-42, 2020-03

本稿は、非英語圏の高等教育で拡大する英語による学位プログラムの日本での組織運営形態に注目し、「学部併設型」が大多数を占める背景について同型化理論を用いて考察するものである。その結果、「学部併設型」に集中する要因について、(1)大学設置基準に基づく認可申請手続き上の規制、(2)グローバル30事業による先行モデルの影響、(3)大学ランキングにおける指標などの外的要因が浮かび上がった。英語による学位プログラムの設置は、国の政策としては日本の大学の国際開放性の拡大および国際競争力の向上がその目的として謳われていたが、実際のプログラム形成においては国内の諸々の外部環境要因がプログラム増加のドライバーとなっており、政策理念と実戦での乖離が示唆された。
著者
印道 緑
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.17, pp.103-129, 2019-03

この論文では、初級日本語の授業において教師と学習者がどのようなインターアクションを行っているのかを、教師の教授行動と学習者の反応、特に自発的行為としての学習者の発話に焦点を当てて明らかにする。インターアクションの分析の枠組みとしては、教師の教授行動の中の「質問の技術」「説明の技術」「学習者への指示の技術」の3つ、学習者の行動からは「教師の質問への反応」「学習者による自発的言語行動」の2つと、「それらに対する教師の対応(フィードバック)行動」の計6つのカテゴリーを取り上げる。この論文の目的は、教師側と学習者側の2方向の行動からクラス内のインターアクションの様相を把握することによって、より効率的で、複数の学習者間のインターアクションが活発に行われる授業を構築する方法を提案することである。
著者
清水 順子
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.17, pp.59-72, 2019-03

本稿は、日本語学校における非常勤日本語教師が抱く葛藤をTAEで分析したものである。グループインタビューからTAEのステップをすすめ、「教室での効力感を抱くが、現実との交渉では本音でつながることができず、不安によって委縮している」という結果が得られた。結果の考察からは、非常勤講師の雇用形態や同僚性を気付きにくい職場、制度上の問題が浮かび上がってきた。
著者
山本 進
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.18, pp.1-14, 2020-03

朝鮮の倭銅鑞輸入は世宗の鋳砲・鋳銭政策に伴う青銅需要に刺激されて増大し、需要が低下した後も日本の朝鮮産綿布需要に押されて輸入圧力は続いた。政府は羈縻政策の観点から倭銅輸入を継続し、余剰銅は鍮器などに加工された。16世紀になると一転して倭銅鑞輸入は低下した。
著者
板谷 俊生
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.8, pp.1-26, 2010-03

中国では現在年間400本以上の国産映画が制作されている。しかし、中国国内の映画市場はハリウッド映画がほとんどを占めている。国内の映画では相変わらず第五世代監督作品に人気が集まっている。この現状を打破するかのように、各国の国際映画祭で様々な賞を受賞した第六世代、第七世代監督が中国映画市場に登場するようになってきた。本編ではこのような若手監督にスポットを当て、彼等の、特に中国少数民族の人・文化・社会等を扱った映画を紹介する。
著者
山﨑 勇治
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.12, pp.57-102, 2014-03

農民運動の指導者を父に持ったばかりに危険な軽機関銃の射手になった父親の軍隊手帳を紹介した。父親の部隊は上海―南京を占領した後南京―漢口のルートの確保を任務とした。そのために天王山たる羅盤山占領をめぐっての死闘を克明に記している。敵軍に包囲されて明日は死ぬと赤犬の肉を食べた結果、翌朝に下痢と嘔吐で命が助かった父親。戦争の本当の恐ろしさ、平和の大切さが少しでも理解できればと軍隊手帳の公開に踏み切った。
著者
山﨑 勇治
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.8, pp.73-120, 2010-03

日清戦争後の清国賠償金をめぐる英・露・仏・独の壮絶な外債引き受け権獲得戦で英国の勝利に導いた清国総税務司ロバート・ハート。彼とイギリス本国の間で交わされた159回におよぶ秘密書簡と電報を紹介したものである。
著者
森 裕亮
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-18, 2017-03

この論文は、外国人の訪日旅行とアニメ聖地巡礼の関係、特にアニメ聖地巡礼がいかに訪日旅行の動機となるのか、その需要動向とアニメ聖地巡礼の特色を通じて、地域とツーリズムの観点からその展望を明らかにする。アニメ聖地巡礼は日本国内では流行語大賞候補となるほど注目されているが、各種データからは、外国人の訪日動機にアニメをあげる人はそれほど多くなく、需要も低下傾向にある。その意味で、アニメ聖地巡礼には訪日外国人数の面で期待することは難しい。ただし、地域とツーリズムという観点からは、一定層がファンとしてセグメントを形成している可能性からも、聖地巡礼を目指して日本にやってきたコアな外国人ファンと地域の人々とが交流し、訪日リピーターとして地域の人々とのネットワークを形成するという、量より質の局面を展望すべきである。
著者
山﨑 勇治
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.14, pp.19-96, 2016-03

戦後70年を迎えた今日、日中戦争と太平洋戦争の歴史を学ぶことはとても重要なことである。とくに戦場で弾をくぐり、アメリカの空爆によって沖縄から全土にわたって焼土と化した日本で近衛兵として戦った兵士の軍隊日記は貴重な史料である。父親が残した軍隊手帳を通じてこれら史実を紹介する。
著者
蘇 小楠
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.13, pp.113-121, 2015-03

近年、日中近代語交渉に関する研究が盛んにされているものの、学術用語の生成についてまだ言及する余地がある。本稿では日中両国における近代訳語の発生及び相互の影響関係という日中語彙交渉の過程の時代区分をもとに、日中語彙交流史の見地から先行研究の問題点及び本研究で扱う範囲、位置づけを明らかにした。
著者
鄧 紅
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.12, pp.103-126, 2014-03

この論文は、六節に分けて、日中両国における「儒教」、「国教」、「化」という概念を検討することを通じて、日本で四十年以上も続いてきた儒教国教化論争の歴史を回顧し、いわゆる「福井再検討」の問題点を指摘し批判するものである。
著者
板谷 俊生
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.13, pp.97-112, 2015-03

2014年12月28日付け「朝日新聞」朝刊に「北京へ1400キロ 水届いた」「発案60年 不足解消狙う」という見出しが躍り、長江流域の水を中国北部に運ぶ「南水北調」という長年のプロジェクトが27日に完成したことが報道された。朝日新聞は、国営新華社通信報道をつぎのように紹介している。以下に少し拾ってみる。
著者
濱野 健
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.11, pp.77-98, 2013-03

近年国内外で大きな社会問題としてとりあげられている、国際結婚の破綻とその後の子どもの養育や面会交流といった問題、とくに日本の「ハーグ条約」加盟問題をとりあげている記事を対象とし、メディア・フレーム分析を試みた。2013年初頭までに国内の主要全国紙で掲載された該当記事を分析対象とし、その報道フレームの時系列的な変化だけではなく、類型化した四つのそれぞれのフレームの相互参照関係についても注目した。
著者
任 章
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.13, pp.1-20, 2015-03

米国会計学会『基礎的監査概念』(ASOBAC, 1973)は、現代の監査概念形成に関りマウツ=シャラフ『監査哲学』(1961)の貢献が多大であると認めている。マウツらが監査証拠の属性に見出していた要素と、彼らが用いた接近法は、畢竟、米国20世紀初頭に興隆した実用主義基盤の分析哲学観の応用であった。本稿の目的は、監査概念基盤に対して現代哲学が強く影響した可能性について論究することにある。本稿にては殊に、嘗てマテシッチ(2008, 序言)が言及していた視座、なかんずく「会計史は哲学史に相似性を有する。それはドクトリンかつ方法論の歴史であり、財務上のリアリティーを実用主義的に表現する方法の一つである」、に依拠し、監査概念基盤への分析哲学の浸透過程を探る。以って筆者は、会計とは事実的記録に過ぎず、監査とは報告数字の単なる検証に留まるという、根深い、軽薄な社会的妄信の打破に努める。
著者
石川 朋子
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.12, pp.163-185, 2014-03

本稿は、普通体基調会話教育の現状把握を目的として、日韓の日本語教科書の分析結果を報告するものである。分析の結果、日本の教科書の方が普通体基調会話をより多く提示していること、また、両国の日本語教科書の普通体基調会話に共通する問題のあることが明らかになった。現行の教科書を見る限り、普通体基調会話は断片的に扱われているに過ぎず、日本語教育においては普通体基調会話を体系的に学習者に示す必要がある。
著者
山本 直
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.12, pp.35-56, 2014-03

EUの多数決制度は、その前身共同体が発足した1950年当初に導入された。意思決定に唯一関与できる政府間機関における多数決であったために、導入に際しては国家間で種種の議論があった。1960年代以降には、この制度を形がい化する試みや票決で敗れることへの動揺もみられた。しかしながら、多数決制は存続し、加盟国が「譲りあう」政治が定着しつつある。
著者
中井 遼
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 = CIEE journal, the University of Kitakyushu (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.18, pp.43-72, 2020-03

欧州における右翼政党台頭や反移民態度の問題は2010年代後半の欧州政治の一つの重大トピックとなっている。右翼政党支持や反移民態度の規程要因については,これまでも多くの先行研究が知見を蓄積してきた。しかし,欧州難民危機以降の社会状況でも同様の要因が有効であるかは明らかではない。2019年に二つの欧州大の世論調査の先行公開データがリリースされ(特に欧州価値観調査[EVS]はおよそ10年ぶりの更新),2010年代後半のデータによる分析が可能となった。そこで本稿ではこれら2つの世論調査先行リリースデータを用い,近年の欧州における右翼政党支持や反移民態度などの排外主義態度の規定要因を分析する。分析結果は,主に次の3点を明らかにした。1)右翼政党支持は,移民による自国文化・治安への侵蝕といった社会文化的態度と欧州統合への反感によって規定されており,ジャーナリスティックに論じられがちな社会経済的弱者による反発という見解に実証的根拠は存在しない;2)移民による自国文化・治安への侵蝕の懸念は,欧州統合への反発と学歴が主たる規定要因となっており,国によっては自国政治への不信・不満が追加要因となっている;3)右翼政党支持・移民文化侵蝕懸念・欧州統合反対のトライアングル構造は西欧主要国においては盤石なものの,必ずしも欧州全体で支配的なパターンではない。これらの結果は,ポスト難民危機期の欧州における排外主義分析にリテラチュアが有効であること,ならびに,社会経済的な「上か下か」のみに着目していては欧州における排外主義台頭の背景を分析できずより多様な政治意識への考慮が必要であることを示す。その際,さらに多様で包括的な排外主義構造の理解のために,少数の西欧主要国にとどまらない分析・研究が必要であることが示唆される。
著者
須藤 廣
出版者
北九州市立大学国際教育交流センター
雑誌
北九州市立大学国際論集 (ISSN:13481851)
巻号頁・発行日
no.11, pp.39-55, 2013-03

アジアの山岳少数民族における観光化と文化変動について、ベトナム・サパの例と中国・麗江の例を比較しながら、主にその共通点について考察した。行政の関与の程度に差があるものの、両方に共通する点は、少数民族の主体的関与の欠如であり、結果現れた裏舞台の表舞台化であり、またさらなる裏舞台の人工的創出という事態である。こうして、少数民族の文化は人工的に再構成され、観光に適合するものだけが展示され、観光に適合しない文化(主に生活文化)は排除されてゆく。