著者
林 創 今中 菜七子
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.148, pp.69-75, 2011

本研究は,イラストを使った人間の行動とロボットの行動を比較することを通して,幼児期における他者の心の理解の発達を検討したものである。45人の幼児に,人間版とロボット版の誤信念課題と道徳判断課題を提示した。人間版とロボット版では,主人公が人間であるかロボットであるかの違い以外はすべて同じ状況で同じ行動とした。その結果,誤信念課題においては,ロボット版の方が人間版より得点が有意に低く,幼児は「ロボットに対して,人間に対する時ほどには誤信念を考慮しない」という傾向が明らかになった。道徳判断課題では,作為的な状況であれ不作為的な状況であれ,ロボットの行動と人間の行動の悪さの比較に差はなく,ロボットの行為に対しても,人間の行為に対してと同様の道徳判断をしたことが示唆された。
著者
岡田 和也
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.162, pp.103-109, 2016

Faber & Faber社から2013 年に出版されたDear BoyはForward Prize(for Best First Collection)を受賞し,Emily Berryは若い作家の中で一躍その作品が広く認識されるようになった。アンソロジーの編者としての側面も,Salt社のThe Best British Poetry 2015があり,彼女の鋭いセンスが光る。本論文は,そのEmily Berryの作品群に関して,彼女自身の朗読音源が入手可能になったことから,詩の中のspeakerの存在が,声の問題としてどう関わっているかを分析するものである。
著者
岡田 和也
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.152, pp.23-33, 2013

ニューヨーク(派)詩人のJohn Ashbery (1927-)。依然意欲的に作品を出版しつづける巨人的作家。以下では,2002年に出版したChinese Whispers を主に 2009年のPlanisphere も含めて 彼にとっての後期詩集を考えてみる。 朗読アーカイヴなどをmp3で分析しながら…。同じニューヨークの詩人のCharlesBernstain (1950-) との比較にたよりながら…。さらには,ことばあそび的"surrealism"の作品の再読を試みながら…。そして,"voicing"の問題を何より扱いながら…。 そうして,朗読ライブの聴衆の前での(パンチラインを意識した)後期詩作品のAshberyの「声」を探る。
著者
伊土 耕平
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
岡山大学大学院教育学研究科研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
vol.166, pp.63-71, 2017-11-28

古事記における主語の表示/省略の傾向を整理すると,①▽→φ→φ…,②φ→▽→φ…,③φ→φ→φ…,④▽→▽→▽…,という4つの型に整理できる(▽=表示,φ=省略)。①は,最初の文で主語を表示し,次の文以降は主語を省略するタイプである。オーソドックスな主語連続で,特別な表現効果は発揮しない。それに対して,②以下は特異な主語表示である。まず②は,最初の文では主語を省略し,次の文で主語を表示する。人物は異常な登場をする。言わば,アンチヒーロー登場型である。③は①の後続部分などに現れる。物語の展開がスピーディーになったり,読み手が登場人物に同化したりする,緊密型である。④は全表示型である。複数の登場人物が紛れないようにするため必要であるときと,ある種の表現効果を発揮するときがある。以上のうち,②は現代語には見られない。
著者
虫明 眞砂子 黒井 かおり
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.153, pp.59-69, 2013

合唱のウォームアップについて,合唱指導者の取り組みや合唱団の事例を通して,身体のリラックスの視点から考察した。野口体操や体ほぐしを取り入れた合唱指導者渡辺,岩崎,橋本ら3者は,身体の柔軟性が良好な発声を導くという考えに基づいていることを示しており,また,岩崎,橋本は,心理的柔軟性もその条件に付加していることが明らかになった。次に,合唱団の実践例から,全体的に,身体的な観点からは「呼吸」と「姿勢」を大切にした指導が行われ,上肢部分のストレッチに重点が置かれていることがわかった。他方,心理的観点からは仲間との触れ合いを取り入れて心をほぐすなどの工夫が見られた。さらに,呼吸と運動(動き)を同時に行う,合唱団員の年齢に応じた活動を取り入れるなどの工夫も見られ,これらの活動が,息が自然に声につながるための手立てとなる示唆を得た。
著者
野邊 政雄
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
岡山大学大学院教育学研究科研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
vol.140, pp.19-32, 2009-02-25

メルボルンのグレン・アイラ市に住む3人の高齢女性に,①日常生活,②ライフヒストリー,③何に幸福感を感じるかの3点に関して聞き取り調査を2006年9月におこなった。本稿では3人の語りを提示し,それに考察を加えた。
著者
田中 賢二
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.143, pp.1-11, 2010
被引用文献数
1

スイス―ドイツ語圏ベルン邦―の前期中等教育段階における科学教育の現状を,いわば学校教育法,同施行規則,学習指導要領などから,初等教育段階との対比に注目し,明らかにした。科学教育はともに筆頭教科である自然―人間―共同社会の中の科目理科で行われている。初等教育段階とは違って,前期中等教育段階では教科内に総合をも設定し,テーマと科目や総合との対応,また,科目毎の授業時間数,総合と裁量の為に使われるべき授業時間の割合を示している。前期中等教育段階の科学教育における目標は,初等科学教育と比べると,認識と知識の習得が重要になってきており,広がりと深化を示している。内容の関連性への配慮要請,拘束性は,前期中等教育段階の科学教育の方が大きく,弱い。また,内容の連続性は,両段階で共通の唯一のテーマでさえ,考慮されているとはいい難く,教員に託されていることは大きいといえる。
著者
Gardner Scott
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.145, pp.39-46, 2010

The linguistic concept of register, while not yet defined to the satisfaction of all, is nevertheless a fairly well used one in describing speakers' shifts in language according to situational nonns or constraints. Inappropriateness of register for context is usually seen as a sociolinguistic or pragmatic error. But in some cases it is done intentionally and creatively, such as in several cases of register-shifting humor in the TV series Monty Python's Flying Circus. This paper gives several examples of humorous register shifting in Monty Python, and analyzes how the shifting has its effect.
著者
虫明 眞砂子
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
no.148, pp.39-48, 2011

日本の学校教育における合唱活動の活発さを表す指標として,NHK全国学校音楽コンクールへの参加校数の割合を採用し,都道府県ごとの値を比較した。その結果,合唱の活発な地域とそうでない地域が2極化していることが分かった。岡山県の合唱活動は,その中でも非常に低調なグループに属することが分かった。このような状況を改善するための手掛かりとして,フィンランドの音楽教育およびエスポー音楽学校の形態およびカリキュラムを考察した。その結果,生涯教育を目的とした多様な音楽教育機関と幅広いカリキュラムが用意されていること,演奏家と聴衆の両方を育てることを目的としていることがわかった。エスポー音楽学校では,器楽の個別指導,ソルフェージュ,アンサンブルの3つの科目を主体とし,器楽教育を重要視している一方,合唱をアンサンブル活動の一つとして大切にしていること,音楽教育全体の質を高めるために,楽器と歌唱の両方を生徒たちに学習させるカリキュラムであることが明らかになった。
著者
安藤 美華代
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
岡山大学大学院教育学研究科研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
vol.143, pp.47-55, 2010-02-25

Aim The purpose of this study is to identify psychosocial factors associated with drinking behavior among underage university students. Methods: University students under the age of twenty (N=236) completed a self-reported questionnaire. Relationships between psychosocial variables and drinking were investigated using multigroup structural equation modeling analyses. Restllts: Number of friends who drink alcohol, vigor, self-efficacy in interpersonal relationships, self-assertive efficacy against drinking, self-efficacy in overcoming difficulty,and impulsiveness were associated with drinkingbehavior. Conclusion: These findings suggest that self-assertive efficacy to resist peer pressure, self-control and mood status are potentially important factors that could be addressed by programs to prevent drinking among underage university student.
著者
川田 力 木本 勝士
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
岡山大学大学院教育学研究科研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
vol.147, pp.35-44, 2011-06-25

伊賀市中心部は,伊賀上野として知られ,上野城とその城下町の町並み,伊賀忍者,松尾芭蕉生誕地,伊賀焼や組み紐などの伝統工芸品といった歴史・文化的観光資源を活用し,観光事業を展開してきた。しかしながら,近年,当該地域の主要観光施設や観光イベントの入込客数は漸減しており,伊賀市中心部の観光は停滞期にあるといえる。こうした,伊賀市中心部の観光地域を再構築するためには,季節変化や交通利用状況に起因する観光入込客数の変動に関する課題,観光地域の魅力向上に関わる観光施設の更新や駐車場整備,景観整備などのハード面の課題,観光事業に携わる諸アクターの連携協力の推進といったソフト面の課題を解決する必要がある。これらの課題解決のためには,多様なアクターが関わっているという伊賀市中心部における観光事業の特徴を活かし,諸アクター間の多様なネットワークを活用した魅力的な活動を引き出すことが鍵となる。
著者
桑原 敏典 松本 慎平 兒山 力
出版者
岡山大学大学院教育学研究科
雑誌
岡山大学大学院教育学研究科研究集録 (ISSN:18832423)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.29-38, 2009-10-21

本研究は,比較・分類思考を取り入れることにより,地域社会の特色を捉えさせることを目指した小学校社会科地域学習の単元開発研究である。中学年の社会科は,一般に地域学習と呼ばれており,地域産業や地域の消費生活についての学習が行われる。学習過程においては,児童自身が調べ学習を行い,調べた事実から人々の努力や工夫を取り出し,人々と自分の生活との関連を見出すことが中心となる。このような学習においては,習得される知識が表面的なものにとどまり,地域への愛着という態度目標によって認識が閉ざされると言われている。このような問題点の克服を目指し,本研究では,商店,スーパー,地域の市場の三者の特色を比較・分類させ,それぞれの機能や働きと販売・消費に関する社会のしくみについて理解することで地域社会とは何かを把握させる単元を開発した。