著者
伊藤 豪
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.606, pp.606_173-606_190, 2009-09-30 (Released:2011-11-26)
参考文献数
28

2008年4月より高齢者医療制度が創設された。この制度により,高齢者にも保険料支払いを求め,保険料負担と給付水準をリンクさせている点や高齢者世代内での公平性等が確保された点は一定の評価ができる。しかし,社会保険の特徴・公的医療保険の特徴やますます進展する少子高齢社会を考慮すると,現行制度の維持存続可能性が危ぶまれる。その要因は,保険理論の見地から明らかなものとなり,(1)ハイリスク集団を分離した制度,(2)保険者機能の後退,(3)収支相等の原則をめぐる問題点などから,世代間扶養の限界を生じさせている。企業・現役世代・高齢者の3者による財源としてのリスクの分散をはかり,保険者機能を強化させるとともに,収支相等の原則を保ち,さらに社会連帯性を強く打ち出し,相互扶助意識を基盤とする公的医療保険制度を構築することが求められている。このような方策を採らなければ,医療保険制度は崩壊してしまう恐れがあるといえる。
著者
池田 康弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌
巻号頁・発行日
vol.2017, no.636, pp.636_25-636_43, 2017

本論文は,弁護士費用保険をめぐる潜在的被害者(依頼者,被保険者),弁護士,保険者の各当事者の利得構造とインセンティヴ,および当事者間の情報の非対称性に着目し,民事紛争への保険利用の問題と課題を経済分析によって明らかにする。<br />本論文の考察の内容と主な結論は次のとおりである。まず,保険料が保険数理的に公正であれば,弁護士費用保険に加入未加入のどちらにせよ,依頼者の期待利得は同じとなり,弁護士探索の費用がかからない分だけ被保険者の期待利得が高くなる。次に,成果報酬の弁護士報酬は,弁護士のモラルハザードを阻止できるが,契約の不完備性から生じる被保険者と弁護士の暗黙の結託による弁護士費用の過大請求がもたらされ,他方,固定報酬の場合は,弁護士のモラルハザードを回避できないが,社会的に正の外部性をもつ事件にも対処できる可能性がある。さらに,弁護士費用保険は経済的利益をめぐる原告弁護士と被告弁護士間の暗黙の結託の余地を与え,弁護士費用の過大請求を許してしまう可能性をもつ。最後に,依頼者保護基金の制度設計は良質な弁護士を確保するための装置となりうる。保険制度設計者は上記の事柄を認識する必要がある。
著者
松崎 良
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.603, pp.603_165-603_184, 2008-12-31 (Released:2011-05-16)
参考文献数
26

共済と保険は保障という大分類では共通性があるが,指導理念・組織原理・保障技術の点で夫々別異の体系を構成しており,行為法(契約法)及び業法の両面で,夫々に適合した別々の法律の下で切磋琢磨することが,夫々の利用者(契約者)及び国民経済に資することになる。外圧に関わらず,各々相違した保障を敢えてイコールフッティングの名の下に同様の法規制を掛ける必要性は全く無く,保険は保険内部で保障を更に充実させるように努力すべきである。共済は地道に直向に孜孜営々と努力を積み重ねてきた成果が今日多くの利用者に評価されている訳であり,保険は共済から謙虚に学び取る姿勢が必要であろう。自己と異なったものの存在を認めた上で,相互に研鑽する多様性を日本の社会から喪失してはならない。
著者
天野 康弘
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2013, no.622, pp.622_141-622_160, 2013-09-30 (Released:2014-12-09)
参考文献数
15

重過失は,規範的抽象的概念であることから,いかなる事実や要素を考慮すべきか一義的には明らかではない。そこで,平成以後の近時の裁判例の認定を類型的に分析し,重過失を導く事実・要素・視点について検討を加えるのが本稿の主たる目的である。裁判例の多くが重過失の意義についていかに解しているかも分析する。多くの裁判例は,重過失の意義について,著しい注意義務違反と解して,特別狭く解釈していない。そして,重過失の認定に際しては,行為それ自体の危険性が極めて高いこと,それが周知なこと,通常人であれば危険性を容易に予見できることといった各要素が基本となり,その他の要素を検討するという構造が基本的であるといえる。注意欠如の程度は甚だしいが,当該行為について何らかの事情や原因があり,重過失を否定する結論を採る場合,裁判例では,重過失の意義について制限的に狭く解釈する傾向があるように思える。
著者
田中 隆
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2010, no.611, pp.611_81-611_100, 2010-12-31 (Released:2013-04-17)
参考文献数
35

日本における生命保険の普及は,営業職員を中心とする販売チャネルから供給されてきたが,それらのチャネルが,消費者の保険選択に有効であり続けてきた要素についての検討は,稀少であった。本稿では,営業職員チャネルを中心にした分析から,販売チャネルにおいて消費者から重視される信頼性の存在する構図について,さらに角度を変えて考察を進めた。本稿では,とりわけ営業職員チャネルの有効性に関しては,リレーションシップ・マーケティングの概念を分析手法に用いて考察を試みた。考察の結果,日本の生命保険販売が,営業職員チャネルによるものが大半である現状から,情報の非対称性下において機会主義的行動の可能性におかれる消費者にとって有効な行動は,営業職員を信じることであった。またリレーションシップ・マーケティングにおける交換的次元と共同体的次元の概念は,優良営業職員が築いてきた営業における言動に確認されることが示された。
著者
羽原 敬二
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2007, no.597, pp.597_45-597_65, 2007-06-30 (Released:2011-09-28)
参考文献数
27
著者
佐藤 元彦
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.613, pp.613_187-613_206, 2011-06-30 (Released:2013-04-17)
参考文献数
16

2010年7月にIASBから公表されたED『保険契約』では,保険負債の測定および表示について重要な提案がなされている。本稿は2007年5月に公表されたDP『保険契約に関する予備的見解』からEDに至るまでのIASBにおける保険負債の測定および表示についての検討を跡付け,保険負債の測定において初期利益を認めるべきではないこと,保険負債の測定に際し不履行リスクを含めて考えるべきではないこと,OCIを活用して保険負債の変動を2つの利益に分けて表示すべきこと等を考察するものである。
著者
岩瀬 大輔
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2011, no.612, pp.612_219-612_238, 2011-03-31 (Released:2013-04-17)
参考文献数
23

1996年の改正保険業法に始まった生命保険自由化の流れは,業界の市場構造に大きな変化を及ぼした。しかし,これを消費者利益の観点から改めて見ると,競争によって価格を引き下げ,剰余を消費者に還元するという目的は実現できていない。規制緩和によるメリットを消費者が十分に享受するためには,消費者がニーズに合った保険を選ぶために必要な情報開示をさらに強化する必要がある。具体的には,比較情報を流通させるための前提となる約款と保険料表の開示と,それらの情報を十分に使いこなすための前提として「購入者手引」の全契約者に向けた事前交付を,保険会社に義務付けるべきである。
著者
野村 秀明
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2012, no.616, pp.616_5-616_22, 2012-03-31 (Released:2013-08-02)

損害保険会社の海外進出の目的は,1980年代頃迄は,海外進出した日系企業の現地でのリスクを引受けることであった。その後アジア等新興国の経済成長に伴って,ローカル市場も魅力的になってきたことから,1990年代頃から損保各社は,現地企業及び個人のリスク引受も行うようになってきた。更に2000年代以降は,M&Aも活用してより本格的にローカル市場に参入するようになってきている。こうした海外事業展開は,成長市場への布石,収入保険料及び利益への寄与,収益性の向上等を目指したものであり,ポートフォリオ分散による安定化といった効果も現れてきている。一方,現地の規制・文化に合わせた商品開発やマーケティング,リスク管理・ガバナンス態勢の強化,国内外の人材の有効活用といった課題も生じてきている。日本の損保市場拡大が見込みにくい一方,新興国等では市場拡大及び収益性が見込めることから,損保会社は様々な課題に取り組みながら,今後益々活発に海外展開を進めていくのではないかと考えられる。
著者
遠山 聡
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.606, pp.606_211-606_230, 2009-09-30 (Released:2011-11-26)
参考文献数
23

本稿は,傷害保険契約の外来性要件について,従来の裁判例及び学説における議論の状況を踏まえて,平成19年の2つの最高裁判決(7月6日判決および10月19日判決)の意義と今後の災害保険金の支払実務における課題について分析検討を行うものである。とりわけ疾病免責条項や限定支払条項(寄与度減額の根拠となるべき条項)は,今後ますますその重要性を増すことは明らかであるが,傷害保険がそもそもどのような目的で制度設計されたものであるのか,派生して,外来性本来の存在意義ならびに判断基準について再度確認しておくことが必要ではないか。このような問題意識から得た結論は,端的にいえば,疾病が間接原因に過ぎない場合であっても,それが結果発生に対して重要な影響を与えているような場合(主要な原因)には,免責事由ではなく,保険金支払事由の枠組み,すなわち外来性要件の充足の問題として取り扱われるべきものと解するというものである。
著者
岡崎 康雄
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.606, pp.606_1-606_20, 2009-09-30 (Released:2011-11-26)
参考文献数
16

企業および保険会社のリスクマネジメントおよびリスク移転に活用されている代表的なARTとして,キャプティブ保険会社,ファイナイト保険,インテグレーティッド・リスク・プログラム,保険リンク証券および保険デリバティブがある。本稿では,これらARTの意義はどのようなものか,また保険リスクを扱う金融商品の成長にあたっての課題にはどのようなものがあるかについて,コーポレートファイナンスの視点を含む分析を行った。
著者
山下 友信
出版者
日本保険学会
雑誌
保険学雑誌 (ISSN:03872939)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.600, pp.600_121-600_134, 2008-03-31 (Released:2011-09-07)
参考文献数
8

近時広く普及している自動車保険の人身傷害補償保険に基づき保険者が保険給付をした場合において保険者が請求権代位により取得する加害者に対する損害賠償請求権の範囲について裁判上争われる事例が見られるようになっており,地方裁判所レベルでは異なる判断を示すものが現れている。本稿は,これまでに提唱されている諸見解について,それぞれの問題点を分析した上で,約款の規定と代位に関する法原則をどのように調和させるべきかについての私見を提示しようとするものである。