著者
菊地 友則 諏訪部 真友子 辻 和希
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.59-73, 2009-08-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
54

本稿では琉球列島産アリ4種の生態について概説した.ツヤオオハリアリの巣仲間認識行動は,非巣仲間ワーカーに比べ女王に対してより攻撃的になるカースト依存的な発現パターンを示した.これは,産卵能力に関係した女王とワーカー間の受け入れコストの違いによるものと推測された.また,女王とワーカーの形態比較から,ワーカーは女王に比べ相対的に大きな頭部をもつことが明らかになった.ワーカーの形態は,繁殖に係わる個体選択と生産性などに関係したコロニーレベルの選択のバランスによって影響をうけることから,ワーカーの卵巣が完全に退化しもはや個体選択がかからないッヤオオハリアリでは,コロニーレベルの選択によってワーカーの形態が特殊化したと考えられた.二次的に消失した女王カーストの代わりに,受精したワーカー(ガマゲイト)が産卵者として存在するトゲオオハリアリでは,ガマゲイト存在情報は直接接触によってのみワーカーへと伝達される.このような情報伝達システム下で,伝達効率がコロニーサイズとともにどのように変化するのか明らかにするために,ガマゲイトとワーカーの接触確率とコロニーサイズの関係を調査した.その結果,コロニーサイズが大きくなるほどガマゲイトとワーカーの接触確率が低下することが明らかになった.このことは,接触確率が低下する大きなコロニーでは,ガマゲイトが存在しているにもかかわらず,ワーカーは誤ってガマゲイト不在と認識している可能性を示唆している.琉球列島には,ツヤオオズアリとアシナガキアリの2種の侵略的外来アリが侵入,定着している.この2種の外来アリと在来アリの季節的活動性を調査したところ,外来アリは秋から冬にかけて,逆に在来アリでは春から夏にかけて活動性が高くなる傾向が見られた.この様な活動性の違いが,琉球列島において外来アリが在来アリを駆逐し優占化しない理由の一つと考えられた.
著者
中森 泰三 一澤 圭 Pham Hoang Nguyen-Due 寺嶋 芳江
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.106, pp.11-18, 2020

秋田県において菌類の子実体から得られた<i>Ceratophysella mediolobata</i> Nakamori, sp. nov. を記載した.また,沖縄県から本邦初記録となる<i>Ceratophysella liguladorsi</i> (Lee, 1974) が菌類の子実体から得られた. これらの2 種および<i>Ceratophysella tergilobata</i> (Cassagnau, 1954) は腹部第5 節に突起をもつ点で類似するが,<i>C</i>. <i>tergilobata</i> は他の2 種と上顎外片に1 本の副片毛をもつ点で区別でき(他の2 種は2 本),<i>C</i>. <i>mediolobata</i> sp. nov. は<i>C</i>. <i>liguladorsi</i> と腹部第4 節背面の後列の第3 毛を欠く点で区別できる(<i>C</i>. <i>liguladorsi</i> は第3 毛をもつ).DNAバーコードによる同定を可能にするために,<i>C</i>. <i>mediolobata</i> sp. nov. および<i>C</i>. <i>liguladorsi</i> のミトコンドリアのチトクロームC オキシダーゼサブユニットI 遺伝子および16S リボソームRNA 遺伝子の一部分の塩基配列を決定した.
著者
金子 信博 井上 浩輔 南谷 幸雄 三浦 季子 角田 智詞 池田 紘士 杉山 修一
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.31-39, 2018

人間によるさまざまな土地管理は,そこに生息する土壌生物にも大きな影響を与え,土壌生物群集の組成やその機能が,さらにそこに生育する植物の生長にも影響している.農業においても保全管理を行うことで土壌生物の多様性や現存量を高めることが必要である.日本におけるリンゴ栽培は,品種改良と栽培技術の向上により,世界的に高い品質を誇るが,有機栽培は困難であると考えられている.青森県弘前市の木村秋則氏は, 独自の工夫により無施肥, 化学合成農薬不使用による有機栽培を成功させている.その成功の理由については地上部の天敵が増加することや,リンゴ葉内の内生菌による植物の保護力が高まることが考えられているが,土壌生態系の変化については十分調べられていない.そこで,2014 年 9 月に, 木村園(有機) と隣接する慣行リンゴ園, 森林の 3 箇所で土壌理化学性,微生物バイオマス,小型節足動物,および大型土壌動物の調査を行い,比較した.有機の理化学性は,慣行と森林の中間を示したが,カリウム濃度はもっとも低かった.AM 菌根菌のバイオマス, 小型節足動物, 大型土壌動物の個体数は有機で最も多く, 慣行で最も少なかった.特にササラダニの密度は有機が慣行の 10 倍であった.落葉と草本が多く,土壌孔隙が多いことが,有機での土壌生物の多様性および現存量を高めており,植物に必要な栄養塩類の循環と,土壌から地上に供給される生物量を増やすことで,天敵生物の密度を高めることが予測できた.
著者
阿部 進
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.93, pp.29-37, 2014-03-07 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

ミミズ(Oligochaeta)やシロアリ(Isoptera)のような土壌無脊椎動物は土壌生態系改変者と呼ばれ,土壌物理環境を改変・撹乱することによって他の生物への資源の有効性に影響を及ぼしている.土壌生成過程における物理学的,化学的,生物学的な影響に対する関心が高いのに対して,生態系改変者が土壌鉱物の風化において直接的および間接的に重要な影響を及ぼしていることはあまり認識されていない.その直接的な影響は鉱物粒子の物理的破壊であり,分泌物質による化学的変質である.一方,土壌無脊椎動物の共生微生物によって生成される有機酸やキレート成分による鉱物の溶解など間接的な影響もある.本稿では,土壌生態系改変者が土壌鉱物の風化に及ぼす影響に関する既往の文献を総括し,このトピックにおける研究課題と将来の展望について議論する.
著者
菊地 友則 諏訪部 真友子 辻 和希
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.59-73, 2009
参考文献数
54

本稿では琉球列島産アリ4種の生態について概説した.ツヤオオハリアリの巣仲間認識行動は,非巣仲間ワーカーに比べ女王に対してより攻撃的になるカースト依存的な発現パターンを示した.これは,産卵能力に関係した女王とワーカー間の受け入れコストの違いによるものと推測された.また,女王とワーカーの形態比較から,ワーカーは女王に比べ相対的に大きな頭部をもつことが明らかになった.ワーカーの形態は,繁殖に係わる個体選択と生産性などに関係したコロニーレベルの選択のバランスによって影響をうけることから,ワーカーの卵巣が完全に退化しもはや個体選択がかからないッヤオオハリアリでは,コロニーレベルの選択によってワーカーの形態が特殊化したと考えられた.二次的に消失した女王カーストの代わりに,受精したワーカー(ガマゲイト)が産卵者として存在するトゲオオハリアリでは,ガマゲイト存在情報は直接接触によってのみワーカーへと伝達される.このような情報伝達システム下で,伝達効率がコロニーサイズとともにどのように変化するのか明らかにするために,ガマゲイトとワーカーの接触確率とコロニーサイズの関係を調査した.その結果,コロニーサイズが大きくなるほどガマゲイトとワーカーの接触確率が低下することが明らかになった.このことは,接触確率が低下する大きなコロニーでは,ガマゲイトが存在しているにもかかわらず,ワーカーは誤ってガマゲイト不在と認識している可能性を示唆している.琉球列島には,ツヤオオズアリとアシナガキアリの2種の侵略的外来アリが侵入,定着している.この2種の外来アリと在来アリの季節的活動性を調査したところ,外来アリは秋から冬にかけて,逆に在来アリでは春から夏にかけて活動性が高くなる傾向が見られた.この様な活動性の違いが,琉球列島において外来アリが在来アリを駆逐し優占化しない理由の一つと考えられた.
著者
中森 泰三 一澤 圭 田村 浩志
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.43-82, 2014-11-14 (Released:2017-07-20)

日本産ミズトビムシ科およびムラサキトビムシ科の種を同定するための形質を示した.ミズトビムシ科は1属1種からなる.ムラサキトビムシ科の9属42種については図解検索表を示した.識別の指標となる主な形質は,小眼の数触角後器および副爪の有無,跳躍器端節の形,毛序である.各種の形態学的特徴をまとめた.
著者
古野 勝久 須摩 靖彦 新島 溪子
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.95, pp.15-42, 2014-11-14 (Released:2017-07-20)

日本産シロトビムシ科の4亜目14属31種1亜種について,同定に必要な形質について説明するとともに,検索図と形質識別表を示し,種類別の特徴を解説した.識別のための主な形質は体色の有無,体形,跳躍器またはその痕跡の形態,触角第3節感器とPAOの形態および擬小眼の配置などである.
著者
佐藤 綾
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.53-58, 2009-08-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
34

潮間帯は,約12.4時間周期の干満(潮汐サイクル)の影響を受け,満潮になると冠水し,干潮になると地面が露出する.また,満潮時の水位は約2週間の周期で変化しており,大潮の時期に最高となり,小潮の時期に最低となる.陸生である地表性昆虫は,生息地が冠水する満潮時には活動できず,潮間帯に進出した種は満潮時の危険(溺死など)を回避するための戦略を進化させている.本稿では,潮間帯に生息する地表性昆虫の示す活動リズムとその体内時計について概説し,満潮時の冠水に対応した戦略について考えた.マングローブスズ(Apteronemobius asahinai)やオキナワシロヘリハンミョウ(Callytron yuasai okinawense)などのいくつかの地表性昆虫は,野外の潮汐サイクルに合わせた活動を示し,恒常条件下においても約12.4時間周期の活動リズム(概潮汐リズム)が継続する.つまり,これらの昆虫類は,潮汐に対応した体内時計を使って活動を干潮時に合わせていると考えられた.一方で,他の地表性昆虫では,潮汐に同調する体内時計の獲得とは異なる方法で満潮時の冠水に対応していた.例えば,オサムシ科のDicheirotrichus gustaviは,冠水の危険のない小潮の時期には夜間に活動するが,大潮の時期には活動パターンを変えて夜間の干潮時でも活動せず一日中地面下に潜んだままとなる.
著者
新島 渓子 有村 利浩
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
no.69, pp.47-49, 2002-02-28
被引用文献数
1

The outbreak of Chamberlinius hualienensis happened between Goryo and Ishikaki Station, Ibusuki Makurazaki Line, Kagoshima Prefecture and stopped trains in early winter 2000. The mulch and windmills to protect the crops from winter chillings seemed to provide the favorite environment for the millipedes, which is originally distributed in Hualien, Taiwan.