著者
若林 明彦
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.703-725, 2003-12-30

環境問題を根本的に解決するための思想や哲学の構築において、日本は七〇年代に「水俣病」をその象徴とする悲惨な公害被害体験をしたにもかかわらず、欧米に比べて遅れていると言わざるを得ない。近年になってやっと、欧米の「環境倫理学」が注目され、その研究が盛んになったが、そのー方で、そうした「環境倫理学」に対抗するかのように、その倫理学的アプローチを皮相的なものとし、古代日本に見られる自然共生的エトス(心的傾向)を再生することこそが根本的な解決に繋がるとする梅原猛・安田喜憲らの「森の思想」や岩田慶治の「ネオ・アニミズム」論も注目されている。本論文では、まず欧米の環境思想の主要な理論を概観し、それらが共通して倫理学的アプローチをとっていることを指摘し、次にそれと対比的にエトスからのアプローチをとる「森の思想」や「ネオ・アニミズム」論の問題点を指摘する。最後に、両アプローチの相補的関係について述べる。
著者
住家 正芳
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.677-699, 2005-12

本稿は、宗教の合理的選択理論と、その仮想敵とされたP・バーガーの初期の論考とを対比させることによって、二つのことを明らかにする。一つは、宗教の合理的選択理論は必ずしも「新しい」理論ではないということであり、二つ目は、市場原理は必ずしも自動的に宗教の多元性や多様性をもたらすものではなく、多元性・多様性を安易に市場とのアナロジーで捉えるべきではないことである。一九九〇年代以降台頭した宗教の合理的選択理論は自らを世俗化論にとって代わるものとして位置付けてきたが、議論の内容自体はかなり類似しており、その点において宗教の合理的選択理論は決して新しいものではない。また、宗教の合理的選択理論はきわめて楽観的な市場観を前提としているが、そのような前提は無批判に許容されるべきものではない。