- 著者
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三ツ松 誠
- 出版者
- 日本宗教学会
- 雑誌
- 宗教研究 (ISSN:03873293)
- 巻号頁・発行日
- vol.86, no.1, pp.79-102, 2012-06-30
近年、天皇祭祀を重視する新たな「国家神道」論が提出されているが、実際の祭祀を推進した側が近代日本の宗教政策をどう考えていたのかは議論が少ない。そこで式部寮で活躍した国学者飯田年平の議論を検討した。彼は厳密な古典研究に基づいた神祇・教導政策の実施を持論とし、天皇を中心とした神々への崇敬を他の諸宗教の上に置いた。そして「国体皇道」を国民に貫徹させようとする志向性に比して、その「宗教」性を拡充しようとする志向性は弱かった。彼の主張ほどに政府が教導政策へ積極的なコミットメントを行ったとは見做しがたい。だが、彼の論理が、所謂「神社非宗教論」と方向性を同じくしている、と評価することは許されよう。かかる立場からすれば、日本人としてのナショナル・アイデンティティの確立にはコスモロジカル、そしてスピリチュアルな基礎付けが第一に求められると説いた平田篤胤の議論は、批判すべきものだったのである。