著者
谷村 圭介 渡辺 弥生
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.364-375, 2008
被引用文献数
1

本研究は,(1)ソーシャルスキルの自己認知と他者評定との関係,(2)自己の印象とソーシャルスキルとの関連,(3)ソーシャルスキルの自己認知と実際の行動との違いを明らかにすることを目的とした。質問紙によって113名の大学生を2つのグループに分け,ソーシャルスキル高群10名,低群10名(それぞれ男性5名・女性5名ずつ)を研究対象者とした。研究対象者は実験室で初対面の人物と対面し,「関係継続が予期される初対面場面」として共同作業場面を実験場面とし,実験を行った。そのやりとりの内容は,ワンウェイミラーを通して観察した。その結果,ソーシャルスキルの自己認知は他者評定とかなり一貫していることがわかった。ソーシャルスキルの高い者は他者評定によっても高く評定されていた。また,相手の人に対してよい印象を与えていると自負していることがわかった。ソーシャルスキルの高い者は初対面場面において,質問などをすることによって会話を展開,維持する傾向にあることがわかった。また,相手が異性であるか,同性であるかということが行動に影響を及ぼしたことが推測された。
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.126-141, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
82
被引用文献数
4 4

ソーシャル・スキル・トレーニングやソーシャル・エモーショナル・ラーニングは,もはや,子ども達の社会性や感情の側面のみの成長を視野にいれ,子ども達だけに働きかける単なるアプローチではなくなりつつある。むしろ,学校における問題や想定されるあらゆる危機を予防するユニヴァーサルな支援である。子ども達や学校に関わるすべての人たちの支援だけでなく,安心し楽しく伸びやかに過ごせる学校風土を創成することがめざされているからである。したがって,このユニヴァーサルなアプローチは,比喩的に言えば,学校危機が生じても予防できる回復力や免疫力を持てるように導入されつつある。近年,こうした背景を受けて,向社会性をめざした「より良い(prosocial)」や道徳教育に焦点を当てた「より善く(moral)」だけでなく,学校スタッフすべての至福(Well-being)を掲げる「より健康に(healthy)」をめざすようになっている。学校予防教育は,今後ますます健全な学校風土に必要不可欠である学習環境を確立し保持していくために,包括的な教育実践に発展していくであろう。
著者
原田 恵理子 渡辺 弥生
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.81-91, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
60
被引用文献数
5

本研究では,高校1年生を対象としたソーシャルスキルトレーニング(SST)を行い,ソーシャルスキルと自尊心に及ぼす効果を検討した。このプログラムは,自尊心や怒りといった感情のコントロールをターゲットスキルに取り入れ,感情の認知的側面に焦点をあてて実践されたものである。実施期間は4か月で,総合的な学習の時間を利用し,10セッションが実施された。ターゲットスキルは,a)自己紹介,b)コミュニケーション,c)聴く,d)自尊心,e)敬意,f)感情のコントロール,g)目標をたて実行する,h)あたたかいことばかけ(感謝する)の8つのスキルであった。アセスメントに,社会的スキルや自尊心の尺度を用い,行動評定とともに実践前と実践後に行った。その結果,向社会的スキルが増加し,引っ込み思案行動と攻撃行動が減少した。自尊心は,失敗不安を抑制する効果を得ることができた。高等学校における感情の認知に焦点をあてたSSTは,向社会的スキルの向上と引っ込み思案行動および攻撃行動の抑制を支援するプログラムとして効果をもつことが示唆された。
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.422-431, 2014 (Released:2016-12-20)
参考文献数
77
被引用文献数
4

発達心理学研究において,道徳性および向社会的行動研究がどのように展開してきたかを概観し,今日学校予防教育が学校に導入しうるに至った経緯を考察した。子どもたちが社会的関係を築く能力や感情的なコンピテンスをどのように獲得するか,またいかに道徳的な価値を学びとるようになるのかは多くの研究の関心事であった。その後,研究と実践の橋がけに関心が抱かれ,道徳教育,ソーシャル・スキル・トレーニング,さらには社会性と感情の学習等のアプローチが,いじめを含むあらゆる学校危機を予防するために学校に導入されつつある。近年,こうした異なるアプローチがしだいに統合されつつあるが,これは,社会的文脈の一つとして学校全体が視野に入れられ,子どもたちが望ましい役割を適切に果たしていくために,認知,感情,行動のスキルが必要だというコンセンサスが得られてきたからであろう。今後,道徳性や向社会的行動の育成を意図した学校予防教育のさらなる発展に発達心理学研究の一層の活用が期待される。
著者
渡辺 弥生
出版者
法政大学文学部
雑誌
法政大学文学部紀要 (ISSN:04412486)
巻号頁・発行日
no.50, pp.87-104, 2004

本研究は、公立小学校3年生の2クラスを対象に、社会的スキルを育むサイコ・エデュケーションとしてのVLF(Voice of Love and Freedom)実践を用いた場合と従来型の副読本を利用した道徳実践を行った場合とで、児童の社会的スキルの向上に違いがあるかどうかを比較検討した。VLFプログラムは、①自他の視点の違いへの気づき、②自分の気持ちを相手に伝える力、③他人の気持ちを推測する力、④自分と他人の葛藤を解決する力、を育てることが意図されており、絵本を教材とした4つのステップから構成される体験型の思いやり育成プログラムであった。パートナー・インタビュー、ロールプレイなど多様な活動が盛り込まれている。アセスメントは社会的スキル、共感性の質問紙と情報分析力を明らかにする絵カードが用いられた。実践の授業前と授業後で社会的スキルの変化を検討したところ、実践クラスにおいて社会的スキルの効果が認められたほか、絵の分析における視点の変化も明らかになった。
著者
渡辺 弥生
出版者
法政大学文学部
雑誌
法政大学文学部紀要 (ISSN:04412486)
巻号頁・発行日
no.54, pp.77-94, 2006

本研究は、公立小学校1年生から6年生の全学年を対象に、ソーシャルスキルを育むサイコ・エデュケーションとしてのVLF(Voices of Love and Freedom)思いやり育成プログラムを実践し、児童のソーシャルスキルの向上に学年差及び性差、教師の視点と生徒の視点に違いがあるかどうかを比較検討した。VLFプログラムは、①自分の気持ちを相手に伝える力、②他人の気持ちを推測する力、③自分と他人の葛藤を解決する力、を育てることが意図されており、絵本を教材とした4つのステップから構成される体験型の思いやり育成プログラムである。パートナー・インタビュー、ロールプレイなど多様な活動が盛り込まれている。アセスメントはソーシャルスキルの自己評価尺度と教師評定、さらに、役割取得能力テストが用いられた。その結果、授業前と授業後でソーシャルスキルの変化を検討したところ、学年差および性差、教師と生徒間の評定の違いが明らかになったほか、ほぼ全学年で効果が認められた。
著者
渡辺 弥生 Watanabe Yayoi
巻号頁・発行日
1989

思えば、筆記用具片手に、幼稚園へ観察に通ったのが、本研究のはじまりだった。運動場で戯れる子どもたちを終日追いかけて、何か興味の湧く研究テーマに出会わないかと漠然と期待しながら、観察していた。砂場、ブランコ、すべり台、体育館、いたるところで、たくさんの子が夢中で遊んでいる姿は、半ば戦場のように騒然としていた。まったく、無秩序で、混沌たる世界のようであり、時にはケンカする場面も見かけられたが、ふっと不思議に思えたことがあった。それは、もうすでに子供達なりの世界ができあがっているんだなあ!といった印象であった。 ・・・
著者
渡辺 弥生 大川 真知子
出版者
法政大学文学部
雑誌
法政大学文学部紀要 (ISSN:04412486)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.81-93, 2017-03-30

本研究の目的は,育児ストレスを緩和する要因として,子どもの発達に関する知識を挙げ,まず,子育てをしている親がどのくらいの知識を持っているのかを調べた。同時に,知識を知っていることが育児ストレスにどのような影響を及ぼしているのかを検討した。保健所の乳幼児健康診査に来所した母親294名に調査用紙を配布し,返送のあった104名を分析対象とした(有効回答数78.7%)。分析の結果,子どもの発達に関する正確な知識を持って子育てをしている親がかなり少ないことが平均得点の範囲から明らかになったことや,特に,お友達との関係性を含む社会性の面の知識に関して,子どもが実際に獲得できる年代よりも大幅に早く獲得できると思っている母親が多いことが明らかになった。また,知識の多少が育児ストレスに影響を与えているかどうかを調べたところ,知識を中程度に持っている群の母親が最も育児ストレスが高いことが示された。以上の結果から,子どもの発達に関する知識が多ければ育児ストレスを緩和する要因になるとは単純にはいえず,今後はどのような知識をどれくらいといったさらに具体的な検討が望まれる。 The purpose of this research was to investigate how much knowledge parents raising children had about child development as a factor to relieve stress in child rearing. At the same time, we examined if having such knowledge had an effect on child rearing stress. We distributed surveys to 294 mothers who visited health centers for infant health screenings and analyzed the results from 104 respondents (valid response rate of 78.7%). As a result of this analysis, it was evident from the range of average scores that there are few child rearing parents with a correctknowledge of child development. It was also true that mothers believed that children could develop at a greatly quicker pace than was true especially regarding socialization includingrelationships with peers. After seeing if the amount of knowledge affected child rearing stress,we found that mothers with a moderate amount of knowledge had the most stress in child rearing. From these results, we cannot simply say that an increased knowledge of child development will lead to relief in child rearing stress, and further concrete studies are necessary to determine the content and amount of knowledge that has an effect.
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.198-204, 1990-06-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
18
被引用文献数
1

The purpose of this study was to examine how the salience of mastery and performance goals in actual classroom settings influence specific motivational processes and grading. One hundred fifty-one students were given questionnaires on their perceptions of the classroom goal orientation, concerning the use of effective learning strategies, the attitudes for a task, the causal attributions and opinions on grading. Students who perceived an emphasis on mastery goals in the classroom used more effective strategies, preferred challenging tasks, had more positive attitudes toward the class, and thought their grade useful for them. On the contrary, students who perceived performance goals as salient had more negative attitudes toward the class and grade. The two kinds of orientations also differed in causal attributions.
著者
渡辺 弥生
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.422-431, 2014

発達心理学研究において,道徳性および向社会的行動研究がどのように展開してきたかを概観し,今日学校予防教育が学校に導入しうるに至った経緯を考察した。子どもたちが社会的関係を築く能力や感情的なコンピテンスをどのように獲得するか,またいかに道徳的な価値を学びとるようになるのかは多くの研究の関心事であった。その後,研究と実践の橋がけに関心が抱かれ,道徳教育,ソーシャル・スキル・トレーニング,さらには社会性と感情の学習等のアプローチが,いじめを含むあらゆる学校危機を予防するために学校に導入されつつある。近年,こうした異なるアプローチがしだいに統合されつつあるが,これは,社会的文脈の一つとして学校全体が視野に入れられ,子どもたちが望ましい役割を適切に果たしていくために,認知,感情,行動のスキルが必要だというコンセンサスが得られてきたからであろう。今後,道徳性や向社会的行動の育成を意図した学校予防教育のさらなる発展に発達心理学研究の一層の活用が期待される。
著者
杉原 一昭 渡辺 弥生 新井 邦二郎
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

本研究の目的は,子どもの認識形成に直接経験・実体験がどの様な効果を及ぼしているかを探り、子どもの健全な発達をもたらす方略を見つけ出すことにあった。具体的には、(1)現在の子どもたちは、動植物についてどれくらい見聞、接触、飼育、栽培などの実体験をしているか、その実態を調査し、実体験の種類と量を規定している要因を探る(2)小動物に関するビデオによる認識形成と実体験による認識形成の差異を明らかにする(3)実際の動物(鶏)飼育経験が認識形成に及ぼす効果について検討することが目的であった。その結果、以下のことが明らかにされた。(1)園児は動植物にかなりの興味・関心を持っているが、実際に家庭で飼育しているのは金魚が多く、単に「見ている」か、せいぜい、「時々餌をやる」程度の接触である。動物との接触は、大都市の子どもほど、年少児ほど希薄である。(2)園児が積極的に飼育にかかわることが、認識形成に影響を及ぼす。(3)ビデオ視聴前(プレテスト)と視聴後(ポストテスト)の変化を見てみると、ビデオ視聴は、動物に関しての認識形成・知識の向上において、有効な手段である。(4)ただ漠然と動物を飼育しているだけでは教育的効果は薄い。動物飼育から幼児が何等かの学習をするためには、観察や接触を促すような働き掛けが必要である。(5)動物(鶏)の動作についての知識に関しては、その正確さにおいて、実体験前後で顕著な差が認められた。実際に体験することによって、動物の動作について、しっかり理解することができる。(6)絵や言葉だけではなく、実体験に裏打ちされた知識によって、しっかりとした認識の土台が形成される。