- 著者
-
遠藤 博久
小林 寛伊
大久保 憲
- 出版者
- 東京医療保健大学
- 雑誌
- 医療関連感染
- 巻号頁・発行日
- vol.1, no.1, pp.30-34, 2008-07
アルコール擦式消毒薬は、優れた殺菌力により確実に短時間で微生物を減少させることができること、手洗いシンク等の特別な設備は必要なく、ベットサイドへの設置や携帯用で持ち歩くことができることから予指衛生の遵守率向上が期待でき、院内の交差感染を防ぐ極めて有効な手段として臨床の現場で使用されている。しかし、Masciniらはvancomvcin-resistant Enterococcus faecium(VRE)のアウトブレークの介入において、アルコール擦式消毒薬の使用量増加がアウトブレイクコントロールの唯一の効果ではなく、流行株にターゲットを絞った感染制御、流行株保菌者の隔離、手指衛生の遵守率の増加と先制隔離によって流行株の広まりをコントロールできたとしている。また、Huangらはアルコール擦式消毒薬の導入または遵守率向上だけでは、MRSA菌血症数は減少せず、ICUの患者の鼻腔のMRSA保菌調査を行い、陽性者に接触予防策を導入することによって、MRSA菌血症数を減少させることができたとしている。これらは複数の対策によりえられた効果であり、care bundleの考え方の有意性を示している。そして、アルコール擦式消毒薬使用の遵守率と病原微生物の院内伝播率の間に相関関係はなかったとしているEckmannsらは、この原因としてアルコール擦式消毒薬使用の遵守率の平均が40%と低く、院内伝播率の相違が明確に出なかったためとしている。これらのことから、アルコール擦式消毒薬は、耐性菌などの院内伝播防止に有効であるが、臨床現場における効果として手指消毒の低い遵守率や感染対策の基本である標準予防策や接触予防策を疎かにした場合では、十分な病原体伝播の防止効果が得られないといえる。病院におけるアルコール擦式消毒薬の使用増加とC.Jifficile感染症に関してGordinらは、アルコール擦式消石鹸と流水の手洗いで落としたあと、付加的にエタノールで消毒を行うことは有用であると考えられる。今回行ったアルコール擦式消毒薬の臨床的効果に関する文献考察から、アルコール擦式消毒薬の特徴を理解し正しいタイミングや使用方法でアルコール擦式消毒を使用するとともに、感染対策の基本である標準予防策や接触感染予防策を遵守することが、より確実な交差感染予防につながると考えられる。