- 著者
-
菅沼 起一
- 出版者
- 東京藝術大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2016-04-22
今年度は、以下の3点を中心に研究を行った。①声楽ポリフォニーの器楽演奏という、インタヴォラトゥーラの上位に位置するメタ概念の考案とその妥当性の検証②ジローラモ・ダッラ・カーザ『ディミニューションの真の方法』(ヴェネツィア、1584年)の邦訳と、特に記譜法史的観点からの内容研究③16世紀リュート教則本におけるインタビュレーションの方法の調査と資料収集。特に②の研究からは、多くの教則本資料との比較研究から、ダッラ・カーザが著作において、西洋音楽史上初めて32分音符単位の細かな音価の音符を使用したという仮説が浮上し、そして著作の出版以後、ヨーロッパ全土で32分音符のしようが急速に普及した流れが明らかになった。そこから、細かな音価を用いたディミニューションのヴィルトゥオジティ、そしてそれらが記譜法の歴史に与えた影響のインパクトについて論じることができた。このような、既存の演奏習慣研究の枠を超えた観点を用いた、当時の演奏教則本の研究手法は、今後の研究においても非常に有効であると考える。また、今年度は3度の学会発表と1つの査読論文の投稿を行った。学会発表は、それぞれ①『ファエンツァ写本』の装飾音型の分析と、15世紀におけるディミニューションの様式性と、16世紀資料との関連性についての考察②ダッラ・カーザ(1584)と、同時代の音楽家のルイージ・ゼノビの書簡を扱った、16世紀後半のディミニューションの演奏美学的位置付けに関する論考③中世より続く装飾の「二分法」とバロック期における特殊性の指摘、それをベースにした18世紀フルートの装飾資料の分析発表、を行った。また、東京藝術大学に提出された論文は、上記研究②の研究成果をまとめたものである。