著者
浦田 健作 中井 達郎 木村 颯 藤田 喜久
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.55-71, 2021 (Released:2021-08-02)

沖縄県名護市辺野古崎沖の長島で鍾乳洞を確認し,調査を実施した.その結果以下のことが明らかとなった.①本洞には多様な石灰質洞窟生成物(鍾乳石)が発達しており,これまで報告されていない地形である「固結礫塔」や洞内では稀であるビーチロック類似層が確認された.②本洞は,カルスト作用,波浪作用,生物作用によって形成された洞窟であり,「海岸カルスト」というべき地形である.③洞口付近の微光帯には傾光性をもつ光カルスト地形(光鍾乳石と光カレン)がよく発達しており,亜熱帯海岸カルストの特徴と考えられる.④洞内では人為的影響を受けた痕跡はほとんど認められず,極めて良好な保存状態にある.⑤本洞の空洞形成の状況から,島の面積をはるかに越える集水域に涵養された地下川洞窟の一部であることが考えられ,長島周辺の(サンゴ礁)海域に“失われた石灰岩台地”の存在が示唆される.以上のことから,長島の鍾乳洞(“長島鍾乳洞”と命名する)は,学術的にもまた地域社会の資源としても価値が高いため今後速やかに保全策を講じる必要がある.
著者
伊藤 拓馬
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.35-43, 2023-07-31 (Released:2023-08-04)

2021年11月上旬~中旬にかけて沖縄島から採取された福徳岡ノ場起源の漂着軽石の粒度組成と海岸地形の閉鎖度との関係を検討した.試料採取地点は,沖縄島の外洋に面した海岸から11地点,閉鎖的な海岸から6地点が選定された.前者の漂着軽石は,主に大礫サイズ以上からなり,淘汰良好であった.粒度分布は,直径8 mm(-3.0 φ)に最頻値をもつ単峰性であった.一方,後者の漂着軽石は,中礫・細礫サイズ以下の割合が増加し,前者よりも淘汰不良であった.粒度分布は,直径2 mm(-1.0 φ)と8 mm(-3.0 φ)に最頻値をもつ双峰性であった.外洋に面した海岸の漂着軽石は,強い波浪営力により沖合への再運搬と再堆積を繰り返す過程で,細粒分が選択的に沈降除去されたと考えられた.本研究により漂着軽石の粒度組成は,波浪営力の強弱に影響を与える海岸地形と関係があることが示された.
著者
渡邊 康志
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-16, 2022-07-31 (Released:2022-08-01)

GISソフトを使いデジタル等高線データから埋谷法による接峰面図及び接谷面図の作成方法を開発した.この方法により,広範囲の解析や谷埋め距離などの作成条件変更による複数の解析図を作成できるようになった.また,接峰面図等もデジタルデータとして生成されるため,これを基に様々な数値地形解析結果を得ることができた.これらの適用例として,沖縄島北部の塩屋―平良以北の埋谷法接峰面図,接谷面図,起伏量図など地形解析図を作成し,同地域の地形特徴や発達過程を考察した.山地,丘陵,水系などについて,先行研究に比べ地形計量値を使った詳細な考察が行えた.本研究からは,福地川流域や周辺丘陵で活断層による丘陵・台地の変位,それに伴う河川流路の変化の可能性が高いことがわかった.
著者
渡邊 康志
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.1-16, 2021-07-31 (Released:2021-08-02)

「中城湾海底地形地質調査報告」(海上保安庁水路部 1985)等のGISデータ化と解析より,沖縄島中南部の地形,中城湾の形成プロセスを明らかにした.中城湾海底下,沖積層により埋め立てられた古中城川は,氷期低海水準期に島尻層群が露出する丘陵に発達した河川であった.過去1万年間の沖積層堆積速度から,島尻層群露出丘陵の侵食による中城湾の生成は可能である.古那覇川では,氷期の海水準低下期に下流域に分布していた琉球層群が上流側の島尻層群分布域の下方への侵食を防いだ.古中城川は氷期の低海水準期には,全流域に島尻層群が露出するため,島尻丘陵と古中城丘陵の高度差が発生し,分水界付近に崖・急斜面が生じた.この急斜面が崩壊することで,古那覇川流域が侵食されウィンドギャップが形成された.後氷期の急激な海面上昇による古中城川の水没により,中城湾の誕生と,中城湾周辺の独特の地形が現れることとなった.
著者
堀本 雅章 Horimoto Masaaki 法政大学沖縄文化研究所 Institute of Okinawa Studies Hosei University
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
no.9, pp.13-26, 2009-06

沖縄県竹富町にある鳩間島では,過去2度にわたり小学校廃校の危機に直面した.学校存続のために,親戚の子を呼び寄せ,施設の子どもを受入れ,近年は「海浜留学生」を受入れることにより学校を維持している.学校の役割は第一に「教育の場」と考えられるが,調査の結果,「島の存続」,「島の活性化・過疎化させないためのもの」をあげる者が多かった.島外から子どもを受入れることにより廃校にならず,島は明るく活気が出て,子どもたちが島へ与える影響は大きい.同時に,島民や島の自然が子どもたちに与える影響も大きい.近年,少ないながら,鳩間島出身者が戻りつつある.今後鳩間島出身者を含め,人々が定住できるように,鳩間島に合った観光を取り入れると同時に,観光だけに頼らない新たな島の産業の確立が必要である.
著者
花木 宏直
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-32, 2021

本稿は近代沖縄において海外移民の斡旋に従事した主体に注目し,外地への移民や国内出稼ぎの斡旋との関わりを踏まえながら,移民・出稼ぎ送出の仕組みの全体像を明らかにすることを目的した.方法として,沖縄県で最初の業務代理人が就任した1903年から,海外渡航手続きが海外移住組合へ一元化された1940年までを対象とし,外交史料館所蔵「移民会社業務関係雑件」や新聞広告,人名録,案内書などをもとに,送出地域で移住希望者に直接移民斡旋を行った業務代理人や斡旋業者,募集人の動向を検討した.その結果,業務代理人と斡旋業者の属性や,海外と外地への移民,国内出稼ぎの斡旋内容の相違に関わらず,沖縄県外出身の寄留商人や,沖縄県出身の海外・外地・本土への在住や移民関連業務の経験者が従事し,沖縄県も政策的な支援を行い,ハワイ移民から呼寄移民,南米移民,南洋移民,国内出稼ぎへと斡旋内容を変化させながら,近代を通じて存立し続けたことが明らかになった.
著者
廣瀬 孝 大河内 萌
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.45-54, 2021

本研究では,沖縄島本部山里に分布するコックピットカルストで地形測量や貫入試験を行った.その結果,本調査地のコックピットの底面は平坦で5 mを超える土層が存在した.土層厚は,コックピットの中央付近で厚く,周縁では薄かった.そのため,基盤形状は地表面形状と異なり中心にかけて低くなるような船底状で,また,谷線の影響がみられる形状も確認された.また,弱線の影響や水の集中による溶食の進行と土砂移動が示唆された.
著者
花木 宏直
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-32, 2021-07-31 (Released:2021-08-02)

本稿は近代沖縄において海外移民の斡旋に従事した主体に注目し,外地への移民や国内出稼ぎの斡旋との関わりを踏まえながら,移民・出稼ぎ送出の仕組みの全体像を明らかにすることを目的した.方法として,沖縄県で最初の業務代理人が就任した1903年から,海外渡航手続きが海外移住組合へ一元化された1940年までを対象とし,外交史料館所蔵「移民会社業務関係雑件」や新聞広告,人名録,案内書などをもとに,送出地域で移住希望者に直接移民斡旋を行った業務代理人や斡旋業者,募集人の動向を検討した.その結果,業務代理人と斡旋業者の属性や,海外と外地への移民,国内出稼ぎの斡旋内容の相違に関わらず,沖縄県外出身の寄留商人や,沖縄県出身の海外・外地・本土への在住や移民関連業務の経験者が従事し,沖縄県も政策的な支援を行い,ハワイ移民から呼寄移民,南米移民,南洋移民,国内出稼ぎへと斡旋内容を変化させながら,近代を通じて存立し続けたことが明らかになった.
著者
大城 和也 廣瀬 孝 Oshiro Kazuya Hirose Takashi 琉球銀行 琉球大学法文学部
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
no.15, pp.27-46, 2015-06

本研究では,沖縄島に分布する年代や岩相の異なる2 種類の石灰岩地域の湧水地点において約半年間にわたり水文観測を行なった.その結果,多孔質な第四紀琉球石灰岩地域にある志喜屋の湧泉と緻密な古期石灰岩地域にある具志堅大川との間には,降雨流出特性や水質に違いがみられた.基底時における単位面積あたりの流量は,古期石灰岩地域のほうが多く,カルシウムイオン濃度は琉球石灰岩のほうが高かった.また,降雨イベント時の流量変化をみると,具志堅大川では,台風接近時の300 mm を超えるような,暴風雨時にのみ流量に大きな変化が現われ,一方,志喜屋の湧泉では,数10 mm から数100 mm にいたるほとんどの降雨イベントにおいて降雨に速やかに対応した流量の増加がみられた.また,降雨イベント時における流量の減衰は,具志堅大川では,1 日程度と速やかであるのに対し,喜屋の湧泉では,定常時の流量に戻る期間は数日から数週間を要し,ピーク流量の値が大きいほどその時間は長かった.このような違いは,具志堅大川では,岩体の割れ目だけが主な水の通り道となっているのに対し,志喜屋の湧水では,琉球石灰岩自体の透水性が高いために,割れ目だけではなく岩体自体が風化層のような役割をしたためであるとともに,地質構造の違いによる地下水システムの違いによると考えられた.