著者
花木 宏直
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.133-154, 2022 (Released:2022-07-19)
参考文献数
40

本研究は近代沖縄における,土地整理事業以降の海外移民の送出の実態を再検討した。研究対象地域として,近代沖縄でも多数のブラジル移民を送出した羽地村仲尾次地区を選定し,聞き取りや「在伯日本移民歴史調査表」など移民個々人の動向が判明する資料を組み合わせ分析した。その結果,仲尾次地区では1903年の土地整理事業以降に出移民が増加し,近代を通じて多数の後継者や本家が海外を含む各地に移住していたことが確認された。そして,後継者は移住後に蓄財して帰郷し,出身地区の家産を相続する様子がみられた一方で,後継者の中には移住先にとどまり,子どもを教育目的で帰郷や残留させ,将来の移住先での世代交代に備える事例がみいだされた。さらに,本家が移住した場合についても,出身地区の血縁関係者が家産を継承するだけでなく,移住先に位牌を移動し,出身地区より遠隔的に行事を行う事例がみとめられた。本研究を通じて,近代沖縄では移民送出に伴い,出身地区の血縁関係を越境的に拡大させた様子が明らかになった。
著者
花木 宏直
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.96-112, 2010 (Released:2018-04-11)
被引用文献数
1

柑橘に関する従来の地理学研究では,生産や流通に関する研究の蓄積がみられるが,需要の実態についての研究が少ない。本研究では,全国有数の柑橘生産額であった和歌山県と,全国有数の人口規模であった和歌山市街を事例に,近世後期から明治前期の柑橘需要を検討した。近世中期の主力の柑橘品種は小蜜柑であり,歳暮や正月飾りとして利用された。近世後期には品種数が大幅に増加し,贈答品や装飾品,子どもの菓子代わりとして需要が拡大した。また,近世後期には今日の温州に相当する品種も登場したが,無核のため縁起の観点から好まれなかった。明治前期,柑橘の商品流通の機会が増加する中で,温州が日常的な嗜好品として注目され始めた。つまり,供物や贈答品から日常的な嗜好品への柑橘需要の変化が,今日の温州の生食による大量消費の端緒と位置づけられる。和歌山の事例を通じて,近世後期から明治前期にかけての嗜好品需要の変化の一端を明らかにした。
著者
金城 宏幸 花木 宏直 Kinjo Hiroyuki Hanaki Hironao
出版者
沖縄移民研究センター
雑誌
移民研究 = Immigration studies (ISSN:18810829)
巻号頁・発行日
no.15, pp.71-92, 2019-03

As a part of the comparative immigration research group at the University of the Ryukyus, this study compared Okinawan and Basque immigrants' opinions on their collective area in the Argentina. The study used questionnaires with Okinawans in 12 regions of the world in2011, Basque Argentines in 2015, Okinawan Argentines in 2016, and Basque Argentines in2017. The research revealed that both Okinawans and Basques had strong consciousness of their culture and traditions. However, although Okinawans made much of their origins, Basques made much of their practice of their language and culture. In addition, Basques had even higher levels of language ability and stronger identity than Okinawans, who had high Japanese language ability and strong Japanese identity. The following three points were considered for this reason. First, Okinawans are the majority in the Japanese Argentine population. Second, Okinawans immigrated to Argentina later than Basques and more first generation. Third, the Basque government tackled their language and diaspora policies earlier and more actively than the Okinawa prefecture. Thus, Basques, including Basques from the Navarra and the French Basque area, had greater political consciousness of their homeland, that is, the Basque autonomous region than Okinawans. Although Okinawans organized locality-based associations by hometown, Basques organized them by domicile. From now on, we need to study Okinawan and Basque networks' qualitative differences, reasons or their differences, influences on their future diaspora communities, and interchanges between their diasporas and homelands. Therefore, we plan an opinion survey for another collective area in the United States, domestic immigrants in Spain and Japan and their homelands of Okinawa and Basque areas.
著者
花木 宏直
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-32, 2021

本稿は近代沖縄において海外移民の斡旋に従事した主体に注目し,外地への移民や国内出稼ぎの斡旋との関わりを踏まえながら,移民・出稼ぎ送出の仕組みの全体像を明らかにすることを目的した.方法として,沖縄県で最初の業務代理人が就任した1903年から,海外渡航手続きが海外移住組合へ一元化された1940年までを対象とし,外交史料館所蔵「移民会社業務関係雑件」や新聞広告,人名録,案内書などをもとに,送出地域で移住希望者に直接移民斡旋を行った業務代理人や斡旋業者,募集人の動向を検討した.その結果,業務代理人と斡旋業者の属性や,海外と外地への移民,国内出稼ぎの斡旋内容の相違に関わらず,沖縄県外出身の寄留商人や,沖縄県出身の海外・外地・本土への在住や移民関連業務の経験者が従事し,沖縄県も政策的な支援を行い,ハワイ移民から呼寄移民,南米移民,南洋移民,国内出稼ぎへと斡旋内容を変化させながら,近代を通じて存立し続けたことが明らかになった.
著者
花木 宏直
出版者
沖縄地理学会
雑誌
沖縄地理 (ISSN:09166084)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.17-32, 2021-07-31 (Released:2021-08-02)

本稿は近代沖縄において海外移民の斡旋に従事した主体に注目し,外地への移民や国内出稼ぎの斡旋との関わりを踏まえながら,移民・出稼ぎ送出の仕組みの全体像を明らかにすることを目的した.方法として,沖縄県で最初の業務代理人が就任した1903年から,海外渡航手続きが海外移住組合へ一元化された1940年までを対象とし,外交史料館所蔵「移民会社業務関係雑件」や新聞広告,人名録,案内書などをもとに,送出地域で移住希望者に直接移民斡旋を行った業務代理人や斡旋業者,募集人の動向を検討した.その結果,業務代理人と斡旋業者の属性や,海外と外地への移民,国内出稼ぎの斡旋内容の相違に関わらず,沖縄県外出身の寄留商人や,沖縄県出身の海外・外地・本土への在住や移民関連業務の経験者が従事し,沖縄県も政策的な支援を行い,ハワイ移民から呼寄移民,南米移民,南洋移民,国内出稼ぎへと斡旋内容を変化させながら,近代を通じて存立し続けたことが明らかになった.