著者
柏木 孝介 貴志 真也 奥田 智史 木村 侑史 川上 基好 小林 啓晋 高崎 恭輔 山口 剛司 鈴木 俊明
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.98, 2008

【目的】今回、試合中のバッティング動作において、腰痛を発症した高校野球選手のバッティングフォームを三次元動作解析したので、フォームと腰痛発症要因の関係について若干の考察を加え報告する。<BR>【対象】本研究に同意を得た年齢18歳の高校野球選手で右投げ右打ちの外野手である。試合のバッティング時に内角低めを空振りして腰痛発症し、腰部椎間板障害の診断を受け、3ヶ月の理学療法により症状消失した症例である。<BR>【方法】野球のティーバッティング動作を6台の赤外線カメラ(180Hz)を有する三次元動作解析装置UM-CAT_II_(ユニメック社製)を使用して分析した。そして、内角・外角の2コースを設定し、各コースのティーバッティング動作における腰部の回旋と脊柱の側屈の動きについて測定した。腰部の回旋や側屈は、15ヶ所に貼付したマーカーのうち両肋骨下縁のマーカーを結んだ線(胸郭線)に対する両上前腸骨棘を結んだマーカーの線(骨盤線)のX軸に対する水平面上の回旋や前額面上の傾きで計測した。回旋は上から見て反時計回りを左回旋とした。また、腰椎の回旋は骨盤線に対する胸郭線の回旋とした。側屈は後方から見て骨盤線が胸郭線に対し反時計回りに傾いた状態を左凸の右側屈とした。<BR>【結果】バッティングにおける体幹の動きは、内角や外角のボールを打つのに関係なく軸脚加重期(ステップ足が離床から膝最高点)では右凸の左側屈・右回旋、踏み出し期(ステップ側の膝最高点からステップ足の床接地)では左凸の右側屈・腰椎右回旋(骨盤左回旋>胸郭左回旋)、スウィング期からフォロースルー期にかけては左凸の右側屈と腰椎左回旋(骨盤左回旋<胸郭左回旋)を行う。内角と外角のボールを打つときのバッティングフォームの違いは、スタンス期の左側屈角度、スイング期、フォロースルー期における体幹右側屈角度と腰椎回旋角度が内角を打つ動作より外角を打つ動作のほうが大きかったことである。<BR>【考察】今回行ったティーバッティング動作の体幹の動きについての分析では、内角のボールを打つときにくらべ、外角のボールを打つときには体幹の側屈角度や回旋角度は大きくなった。このことから、関節角度が大きくなる外角のボールを打つ動作は、腰椎へのストレスが大きく障害発生の危険性が高いと思われる。しかし、今回の症例では、内角のボールを打つ際に空振りをして腰痛発症している。これは、脊柱の動きが少ない内角打ちを空振りしたため脊柱の動きが急に大きくなり、関節中心軸から逸脱した腰椎回旋を生じ腰痛を発症したと考えられる。今後は、実際にボールを打ったときの脊柱の動きと空振りをしたときの脊柱の動きについて検討する必要があると思われる。
著者
岡 徹 奥平 修三 中川 拓也 古川 泰三 柿木 良介
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.29, 2011

【はじめに】キーンベック病は比較的珍しく、特に若年者スポーツ選手では稀である。今回、我々は硬式高校男子テニス選手に生じたキーンベック病に対し、血管柄骨移植を施行した1例を経験したので報告する。【説明と同意】本研究の目的、結果の取り扱いなど十分な説明を行い、データの使用および発表の同意を確認後に署名を得た。【症例紹介】16歳男性、高校硬式テニス部所属(県内ベスト4レベル)。試合中に片手フォアハンドでボールを強打したところ急に痛みが出現する。その後、腫脹と疼痛のためにテニス困難となり、Lichtman分類Stage_III_b(X線像で月状骨に圧潰像、舟状骨が掌側に回旋)のキーンベック病と診断される。発症から2ヵ月後に手術となる。【理学・画像所見】手背側に腫脹、リスター結節部周囲の圧痛と運動時痛を認めた。X線上では月状骨の硬化像と圧潰を認め、MRI(T1)上では月状骨の低信号を確認した。【手術所見】橈骨遠位背面から血管柄付きの骨を骨膜、軟骨組織とともに採取した。次に、病巣部位である月状骨の壊死部を背側よりドリリングと掻爬を加え、その間隙に移植骨を挿入した。移植後は有頭骨と舟状骨を鋼線で固定した。【評価項目】疼痛(NRS)、握力、手関節可動域および手関節機能評価表(Mayo Modified Wrist Score以下:MMWS)の各評価を術前、術後4ヵ月、5、6および8ヵ月で評価した。【理学療法】術後4ヵ月間の手関節ギプス固定後に抜釘した。その直後より、手関節ROM練習、筋力強化練習を開始した。筋力強化練習(股・体幹・肩甲帯強化)、ストレッチ指導、およびスポーツ動作指導を実施した。【結果】疼痛は、術前NRSが7/10で術後4ヵ月より軽減し術後6ヵ月で0/10と消失した。握力は術前18_kg_が術後5ヵ月で30_kg_(健側比75%)まで改善した。手関節ROMは術前で掌屈10°、背屈30°、橈屈15°、尺屈40°が、術後8ヵ月では掌屈35°、背屈70°、橈屈20°、尺屈45°と拡大した。MMWSは術前10点が、術後6ヵ月で90点まで回復した。術後5ヵ月からテニス競技復帰をした。掌屈のROM制限は残存するが、右手関節の不安定感、疼痛なくスポーツ活動(テニス)を行っている。【考察】。本疾患の発生要因については、いまだ解明されていない。しかし、テニス競技による手関節への外力で月状骨に局所的な応力が集中していることは推察できる。術後は長期間の固定による手機能(特にROM低下、筋力低下)の回復を積極的に行った。その後は、手関節の局所機能の回復とともに、上肢に限局したストレスがかからないような身体機能の再構築(肩甲骨や体幹・股関節の機能向上)やフォーム指導およびラケットの再検討などをおこなった。本症例は、術後6ヵ月から公式試合に復帰をした。掌屈のROM制限は残存するがテニス動作では橈尺屈が特に重要で現在のROMでテニスが可能であった。右手関節の不安定感、疼痛なくスポーツ活動(テニス)を行っており、今後も再発しないよう身体面のチェックや現場のコーチと密な連絡をとっていくことが重要である。【理学療法の意義】キーンベック病に対する理学療法の報告はほとんどないため、症例報告として症例の治療経過や理学療法プログラムおよび評価項目など検討していく必要があると考える。
著者
村上 加緒理 山口 織江 梅木 正篤
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.22, 2009

【目的】Functional Reach Test(以下FRT)距離は、年齢・性別・身長・COPの前後長等に影響されると言われているが、否定的な報告も多い。今回の研究では直立時・直立前傾時・最大リーチ時の重心動揺測定を行い、最大リーチ距離と重心位置及び身長との関係を検証した。<BR>【対象及び方法】対象は本研究に同意を得た健常女性21名とした。対象年齢は平均26.2±6.8歳であった。<BR>身長は金属身長計(アイズワン株式会社製YS-OA)を用いて測定した。<BR>FRT距離は、被験者を側方に設けたホワイトボード(200cm×240cm)と平行な方向に、裸足で足位は閉脚位に直立させて行った。開始肢位は両肩関節90°屈曲位とし、開始肢位と最大リーチ位での、第三指尖を通る床への垂直線の距離を3回測定し、平均値を求めた。<BR>重心動揺計測には重心動揺解析システム(アニマ社製G-620 )を用いた。計測時の足位は、閉脚位とし、基準点は両外果を結ぶ線の中点と一致させた。測定肢位は直立位、両母趾球の間に重心が落ちるよう指示した直立前傾位、両上肢を最大限前方に伸ばすよう指示した最大リーチ位の3肢位にて動揺検査を行った。各肢位における計測時間は30秒間とし、総軌跡長、外周面積、直立位のY軸中心変位を求めた。統計学的処理として、FRT距離と外周面積は、Spearman'sの順位相関係数を用い、最大リーチ距離と身長・総軌跡長・Y軸中心変位はPearsonの積率相関係数を算出し、いずれも有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】FRT距離の平均は34.4±9.0cmであった。外周面積の平均は、直立時2.32±3.5cm、前傾時2.99±5.67cm、リーチ時6.14±5.99cmであり、FRT距離と直立時の外周面積(rs=0.59;P<0.01 )、最大リーチ時の外周面積(rs=0.47;P<0.05 )には相関を認めた。身長の平均は、160.9±10.1cmであり、FRT距離と身長には相関が見られなかった。総軌跡長の平均は、直立時で32.83±16.52cm、前傾時で44.25±27.46cm、最大リーチ時で66.0±30.78cmであり、FRT距離と総軌跡長の間には相関は見られなかった。Y軸中心変位の平均は、直立時4.49±2.98_cm_、前傾時10.22±2.98cm、最大リーチ時10.64±3.5cmであり、FRT距離と直立時のY軸中心変位のみ負の相関を認めた(r=-0.48;P<0.05 )。<BR>【考察】先行研究では、身長がFRT距離に影響をするという報告は多数あるが、今回の結果での相関は認めなかった。FRT距離は直立時と最大リーチ時の外周面積、直立時のY軸中心変位と相関が見られた。これは動的立位バランスの指標とされているFRTが、直立位の影響を受けていると考えられた。<BR>
著者
山田 実 河内 崇 森岡 周
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.5, 2008

【目的】特定高齢者は、要支援・要介護高齢者の予備群と位置づけされており、これら高齢者の転倒を予防することは介護予防や医療・介護費用の削減に直結する重要な取り組みである。自験例において、特定高齢者の転倒には、探索的行為や注意機能、それに幾多の方向転換などの要素が関与していることを報告した。本研究では、日常生活で不可欠となる極短期的な作業記憶(ワーキングメモリ)の要素を組み入れた複合機能評価によって、特定高齢者における転倒の特性について検討した。<BR>【方法】対象は特定高齢者30名(79.5±6.2歳)とした。対象者が立っている位置より後方2mにホワイトボードを設置し、側方から前方2mにかけて扇状に高さ70cm、幅200cm、奥行き40cmのテーブルを2台設置した。テーブル上には、裏面に磁石のついた15cm×15cmの厚紙に『あ』から『ん』までの平仮名が一文字ずつ書かれた46枚の仮名カードがランダムに配置された。ホワイトボードには3文字(例:らはそ)か4文字(例:こるそや)、もしくは5文字(例:かふろんほ)の意味をなさない文字が書かれてあり、対象者はスタートの合図でホワイトボードの文字を見て、テーブル上にある仮名カードを探索し、拾い集めてホワイトボードに貼り付けることが求められた。検者はスタートの合図より全ての仮名カードを貼り付け終えるまでの時間を計測した。なお、3文字、4文字、5文字は対象者によってくじ引きによってランダムな順序で実施し、1週間の間隔を挟みながら3通りの測定を行った。また、過去1年間の転倒経験の有無によって転倒群12名、非転倒群18名に分けて統計解析を行った。<BR>【結果】3文字の際には、転倒群32.6±10.7秒、非転倒群29.9±8.5秒で有意な差は認められなかった(p=0.607)。同様に4文字の際にも、転倒群43.7±8.1秒、非転倒群39.8±9.3秒で有意な差は認められなかった(p=282)。しかし5文字の際には、転倒群75.5±12.1秒、非転倒群57.3±11.9秒で有意な差が認められた(p=0.012)。<BR>【考察】3文字及び4文字の場合には群間差は認められなかったが、5文字になると転倒群で有意に時間的延長を認めた。本研究で用いたテストは、仮名カードを探す探索的行為や注意機能、仮名カードを探す為に繰り返し行う方向転換、手を伸ばして仮名カードを採るリーチ動作、そして文字を極短期的に記憶しておくワーキングメモリなど日常生活で欠かすことのできない要素が組み込まれている。5文字の場合でのみ転倒群で有意に延長していたということから、探索的行為や方向転換、リーチ動作などの機能に群間差があるとは考えにくく、ワーキングメモリが転倒に関与していたものと考えられた。<BR>【まとめ】特定高齢者の転倒には、ワーキングメモリ機能低下が関係している可能性が示唆された。
著者
東 大輝 中川 法一 上野 隆司 濱田 太朗 加納 一則
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第48回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.71, 2008 (Released:2008-09-16)

【目的】 投球動作は、下肢・体幹・上肢の全身の運動連鎖が重要であるとされている。しかし、投球動作で発生する障害に関して、股関節の可動域が投球後の肩関節可動域にどの程度影響しているかという具体的な報告はない。今回の研究目的は、股関節の可動域改善が、投球後の肩関節可動域に与える影響を検討することである。 【対象と方法】 健常成人で、野球経験者男性9名(右投8名・左投1名、平均年齢20.7±1.4歳)とした。 被験者には、投球前に股関節のストレッチングを行う場合(伸張時)と投球前に何もしない場合(非伸張時)の2つの条件下で、75球の全力投球を課した。投球前・投球直後・投球後1日目から4日目までの投球側肩関節の関節可動域測定を行い、経時的変化をおった。また、運動の持続効果を考慮してストレッチングを行う場合とストレッチングを行わない場合の実施順は無作為に選択した。肩関節90°外転位での内旋(2nd IR)および外旋(2nd ER)、90°屈曲位の内旋(3rd IR)の可動域を測定し、各可動域結果を伸張時と非伸張時で比較検討した。ストレッチングの方法は、膝関節伸展位での股関節屈曲(SLR)と股関節外転とした。統計学的分析には、対応のあるt検定と二元配置分散分析を用い、有意水準を5_%_未満とした。 【結果】 伸張時は、ストレッチング前に比べるとSLR、股関節外転ともに可動域は有意に増加していた(p=0.0004)。 2ndIRの投球後1日目は、伸張時で80.5±11.5°、非伸張時では70.0±14.7°と非伸張時が有意に低下していた(p=0.02)。2ndERの投球後2日目では伸張時で132.2±10.3°、非伸張時が123.8±9.6°となり、投球後3日目では、伸張時が137.7±12.0°、非伸張時が127.7±9.3°と非伸張時が有意に低下していた(p=0.01)。可動域の経時的な変化では、2ndIRにおいて、伸張時では投球前後の可動域に有意な低下は認められなかったが、非伸張時では投球前と投球後1日目、投球直後と投球後1日目および2日目、投球後1日目と3日目および4日目、投球後2日目と4日目の間で有意に低下していた(p<0.0001)。 【考察】 今回の結果から、股関節の可動域を向上させることで、投球後の肩関節の可動域低下を抑える効果があることが示された。これは、上肢に依存した投球動作が減少し、ball release時に強いられる外旋筋の遠心性収縮が下肢・体幹などに分散されたと考えられた。過去の報告より、肩関節の可動域制限が、投球障害を誘発するということから、肩関節の可動域低下の抑制は、野球選手における投球障害肩の予防につながる可能性があると言える。そのためにも股関節の可動性向上が重要となる。
著者
初瀬川 弘樹
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.55, 2011 (Released:2011-10-12)

【目的】 視床痛の病態は複雑で症例により異なるが,1つの仮説として植村は,視床における正中中心核(以下CM核)の後外側腹側核(以下VPL核)からの脱抑制によって生じると述べている.今回,視床痛を呈している発症後7年目の症例に対して,触覚を用いたVPL核によるCM核の再抑制を目的としたアプローチを実施し,疼痛の質と量において改善を認めたので報告する. 【症例】 対象は70代女性.2003年11月に左視床出血により右片麻痺,視床痛を認めた.出血部位はVPL核から視床枕にかけて広がっていた.同年12月にADL自立して退院し,同施設の通所リハビリテーションを利用している. Brunnstrom recovery stage(以下BRST)は上肢5,手指5,下肢5,感覚は触覚,痛覚,冷覚ともに脱失,運動覚は肩関節,肘関節が軽度鈍麻,手関節より末梢が重度鈍麻,筋緊張に関してはModified Ashworth Scale(以下MAS)にて2,疼痛はVisual Analogue Scaleにて4~7cmと,日によって大きく変動する.McGill Pain Questionnaire(以下MPQ)では合計42点で,中でも「ぴりぴりした」「針で刺されるような」という表現が最も近いとの記述あり. 【方法】 2010年6月より,触覚情報を再構築する課題を実施した.課題は端座位にて閉眼で両側手掌下に柔らかい布を置き,非麻痺側を自動運動,麻痺側を自動介助運動とし,両側同時に動かしながら健側の運動イメージを少しずつ転移させた.その際健側運動イメージをメタファーにて記述させると,「綿の花のようなふわふわ」であり,逆に患側運動イメージは「蚕の繭のふわふわ」との記述があった.そのメタファーを用いて課題を進めていくと,「蚕の繭」から「羊の毛」のふわふわ感に変化したとの記述あり.それに伴い上肢筋緊張、疼痛が変化した. 【説明と同意】 本発表にあたり対象者には口頭にて発表内容を説明し,署名にて同意を得た. 【結果】 触覚情報の再構築課題によって同年9月にはMASは1+,VASは0.8,MPQは合計35点,最も近い表現が「重い」に変化し,治療を開始して初めて「痛くない」との発言があった.また感覚検査において手掌尺側の痛覚,冷覚が出現した.しかし触覚に関しては,感覚検査上は初期評価と同様に脱失であった. 【考察】 今回のアプローチは視床痛の病態を植村の,視床におけるCM核のVPL核からの脱抑制という仮説に基づいて構築した.C繊維は脊髄後索を通り,脊髄視床路を上行しCM核を経由する.視床痛は主にC繊維由来の鈍痛であり,C繊維の中継核であるCM核は本来VPL核によって抑制されている.VPL核は,Aβ繊維が脊髄後索を通り,延髄にて交叉して対側を上行し,中継する核である.以上のことから,Aβ繊維からの正しい情報を再び入力することによりVPL核のCM核への抑制機能を取り戻し,C繊維由来の疼痛を軽減できないかと考えた.その際にメタファーを用いることで,感覚情報と今までの経験との共通項を見つけ,身体と経験を重ね合わせることで運動イメージを明確化し,健側イメージの転移を容易にした.感覚検査上は,触覚は初期評価と比較して変化しなかったものの,自動運動で両側同時に同一の布に触れると両側とも同じように感じることができていたことから,触覚情報の入力が疼痛の軽減に影響を及ぼしたと考えられる. 【理学療法研究としての意義】 視床痛に対してメタファーを用いて触覚情報を再構築することにより,VPL核によるCM核の抑制機構が修正されたと考える.視床痛の病態は明らかにはされていないが,対処療法で済ますのではなく,痛みの原因を神経,生理学的な視点からも観察し,アプローチを考案していく必要性があるといえる.また今回,運動イメージを明確化するためにメタファーを用いて有用であったことから,メタファーは理学療法を実施する際に有効な手段となり得るのではないかと考える.