著者
濱名 陽子
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.9, pp.165-173, 2016-03

本稿は、教員の資質能力としての「教育的愛情」に関して、これまでの教員養成に関する日本の審議会の議論のなかでの位置づけの変化を概観したうえで、この資質能力が現場で実際にどの程度必要とされているのかをいくつかの調査研究から整理しさらに教育学のなかでこの問題がどのように取り扱われてきたかを検討することで、教員や保育者の資質能力としての「教育的愛情」をどうとらえるべきかを検討する。結論として、「教育的愛情」は教員や保育者が教育実践のなかで育てていく専門性のひとつとして位置づけるべきではないかとしている。
著者
河内山 真理 有本 純
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.10, pp.131-140, 2017-03-31

本研究は、中学校用の教科書ガイドにおいて、どのような発音表記が用いられているかを明らかにすることを目的としている。1 年次用の教科書ガイドのすべてがカタカナによる表記を用いており、またこの表記法は出版社によって差異があった。同様に中学生を主たる対象にした初級英和辞典でも多くが異なったカナ表記を用いているため、ガイドと辞典の出版社が異なると、学習者が混乱する可能性が非常に高いという問題点が浮かび上がった。辞典も併用するなどの熱心な学習者ほど混乱する可能性があり、主として自宅学習に用いられる教材としては、厄介な問題を抱えていると言える。また、学校での指導者たる教員は、こうした学習参考書の現状を補う発音指導を行うことが必要になるだろう。辞典の出版社が共通認識を持つことも必要と考えられる。カナ表記そのものが教科書では用いられておらず、継続性がないという事実が、学習上の大きな問題であり、その点からも発音記号を指導しておくことが必要と考えられる。
著者
塚原 修一 濱名 篤
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-14, 2021-03

米国の成果志向型教育についてテキサス値頃学位課程を事例として調査した。最初に開発された組織統率コースは,学士号をもつ中間管理職を求める地域の人材需要と,大学中退者や技術系準学士が学士号を取得して昇進・昇給をめざす社会人の教育需要を結合した新機軸である。学修成果目標(コンピテンス)の抽出,1学期を7週間とした教育課程,遠隔教育科目の設計,学習指導員(コーチ)による学修支援と学習管理システム,学修成果のオンライン評価,安価な学費の設定などに特色がある。こうした教育の内容と方法は,日本における社会人向け高等教育とともに,ウイズコロナないしポストコロナの大学教育にも多くの示唆を与える。
著者
塚原 修一
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Research Institute for Education, Kansai University of International Studies (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.16, pp.155-168, 2023-03-31

日本の2010年代になされた官邸主導の政策形成のうち,高等教育分野にかかわる事例として教育のいわゆる無償化政策と研究開発政策をとりあげた。無償化は高校,幼児教育,高等教育(修学支援新制度)の順に,それぞれ民主党,公明党,自民党が主導して実現した。非正規雇用が雇用者の4割弱となるなかで,教育費を社会的に負担するこれまでの方式が機能しがたくなり,公費による人材の再生産に着手されたとみえる。研究開発政策はイノベーション政策への展開を民主党が構想し,自民党が実現して内閣府が強化された。現在は10兆円の基金による大学支援が準備されている。革新的なイノベーションをめざすハイリスクな研究開発事業には失敗の可能性があり,それを避けようとして革新性を低めれば事業の意味が乏しくなる。そのことを直視した政策展開が望まれる。
著者
平井 正朗
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Research Institute for Education, Kansai University of International Studies (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.16, pp.201-211, 2023-03-31

学習指導要領の改訂に伴い,学校組織運営のあり方が見直され,「チーム学校」の名のもとに,カリキュラム・マネジメントの重要性がクローズ・アップされている。背景にあるのは少子化による学校の経営基盤の維持である。筆者は私立中学校高等学校における学校経営,教育委員会における教育行政に従事し,カリキュラム・マネジメントを実践,一定の成果を得ることができた。私学という独自の風土の中で最善の方法となる特殊解を求めるのと同時に,どの学校でも通用する最適解をカリキュラム・マネジメントという視点で継続的に研究している。本稿では,その体系化に関する研究の一環として,現任校である神戸山手女子中学校・高等学校における事例を紹介しつつ,さらなる理論構築を試みる。
著者
河内山 真理 有本 純
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Research Institute for Education, Kansai University of International Studies (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.15, pp.123-133, 2022-03-31

本研究では,発音を表記する方法について,英和辞典や発音辞典,英英辞典や音声学の専門書,中学校検定教科書等を,母音を中心に,比較・分析し,どのような表記方法を用いているか明らかにした。日本・イギリス・アメリカの表記方法の差とそれによる影響について,英語音声学・英語教育・学習者の立場から考察を行った。また,表記の不統一は指導者にも学習者にも混乱を生み出す。高校までは統一表記を導入し,代表的な英音と米音等の発音については,電子辞書の音声に格納するのが望ましい。学習者に対しては教育の現場での適切な指導や,特に小学校教育における正しい音声と文字・綴りを結びつける指導が望まれる。
著者
中西 一彦
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.13, pp.71-79, 2020-03-31

オノマトペは日常的に数多く使用されていて,特に感覚的なものを共有したいときにその力を発揮する。オノマトペは幼児語や母親語と共通点があると思われるので,オノマトペは幼児にも親しみやすく,多用されやすいと推察できる。そこで,幼児期の言語獲得において,オノマトペはどのような役割があるのかを文献を通して検証する。結果として,オノマトペは音の印象と抽象的なことばを結びつける役割を果たしていることが明らかになった。
著者
伊藤 創
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.9, pp.39-48, 2016-03

本稿では、Indiana University-Purdue University Indianapolis(IUPUI)にて行った聞き取り調査の中で、特に同校が2008 年から導入したサービスラーニング、スタディ・アブロード、インターンシップ等を包括する枠組みであるRISE program に焦点をあて、その概要を報告する。同大学は、学生数3 万人を超える大規模大学であり、そこでは各学部・学科、それらから独立した部局によって多くのHigh Impact Practice(HIP)が個別に実施されていた。しかし2008 年以降、それらを束ね、共通の構造を持たせ、評価の尺度を学部横断的に通用するものに変える試みがなされており、その枠組みがRISE programである。この共通の枠組みに、既存あるいは新規のHIPを組み込んでいくために、部局間のコミュニケーションを促し、新しいHIP の立ち上げに一定の縛りを設け、その条件を満たしたもののみをRISEとして認めることとしている。また認められたプログラムにはGrant を与えることで、担当教員の動機付けも行っている。プログラムの立ち上げを教員主導にすることにより、教員が自らの担当するコースにおいて最も効果の高いHIP を自らで考案することができ、その実施にも高い動機付けを行うことが可能となっている。RISEにはこうした独自のアイデアが盛り込まれているが、その核となるのは、プログラムの立案や実施のあり方、方針が教員主導で形成され、ボトムアップでHIP の統括者に上げられる一方、各プログラムの形態に縛りを設け、各プログラムに共通の枠組みを持たせるトップダウンの側面も同時に合わせ持つという点であると思われる。
著者
石井 豊彦
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.13, pp.161-175, 2020-03-31

品川女子学院(東京都,私立女子校,6年制一貫)は,グローバル化への対応として入試改革を成功させた。結果,多様な学力を持つ入学者を受け入れるとともに,少子化の中で出願数をふやすことができた。また,入試改革により,受験生と保護者へ教育方針(「28project」と名付けている)の理解が促進された。これらのことから,学校経営の安定化に貢献した事例として入試改革を報告する。品川女子学院は,2015年度入試まで知識と理解能力を測る4教科型入試を3回行っていた。2016年度入試からそのうち1回の入試の出題内容を,習ったことをいかに表現するかを測る出題とし,異なった学力の合格者を出す入試に変更した。この新しい試験導入で,4教科型入試の不合格者が,表現する力を測る試験で合格するケースが倍増したことは,この変更による成功と言える。2つ目の改革は2018年度入試から行われた算数のみを測る入学試験である。これは受験機会を1回多くし,算数に優れている入学者を受け入れることを目的とした。
著者
井上 加寿子
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.8, pp.47-57, 2015-03-31

The purpose of this paper is to describe the common errors of the Japanese learners of English in their essay writings and to consider the background of those errors from a cognitive linguistic perspective. In this paper, we take typical errors of a possessive verb ‘have’ in English for example, and argue that those errors may be caused by the lack of the learners’ knowledge that the cognitive process of English is quite different from that of Japanese. In conclusion, we suggest that the cognitive linguistic approach can give the positive contribution to the teaching and learning English as a foreign language.
著者
佐藤 広志
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.6, pp.71-85, 2013-03

キャリア教育が国策として強調され、正規のカリキュラムに組み込まれると同時に、キャリア認識に関する隠れたカリキュラムが生み出される。小学校から高等教育のレベルまでキャリアの定義は結構広い。初め、小学校レベルでは個人の人生全体として定義されるが、しだいに職業選択へと絞り込まれていく。キャリア教育プロセスの末端としての大学生への就職支援においては、ジョブ・マッチングの問題の社会的側面は無視されがちで、社会的現実への個人としての適応の努力が強調されがちである。学生に伝えられる隠れたカリキュラムとしてのメッセージとは、就職市場も含めて社会の仕組みは変えられないのであり、キャリア決定の責任はもっぱら学生側にあり、就職市場の問題は若者が現行の社会システムに適応できるかどうかにかかっているというものになる。Career education was emphasized as a national policy and included into formal curriculum, and at the same time, it generates hidden curriculum of career perception. From primary to higher education level, definition of career has wider range. At first, career is defined as a total personal life in the elementary-school level, and gradually focused on narrower targets as job-selection. Career guidance and support for college students, as a terminal of career education process, tend to neglect the social aspects of job-matching problem, to emphasize their personal efforts to adapt to social reality. Some messages as hidden curriculum reached students are that a side of social system included job-market is unchangeable, responsibilities of career determination only belong to students' side, and the problem of job market is focused on young people's adaptation to the present social system.
著者
坂口 隆康
出版者
関西国際大学教育総合研究所
雑誌
教育総合研究叢書 = Studies on education (ISSN:18829937)
巻号頁・発行日
no.9, pp.131-144, 2016-03

反転授業はアクティブ・ラーニングとしての能動性を高めるだけでなく,より深い学びを導く可能性を秘めている。本稿では,2014 年度に始めた反転授業方式による「初等情報機器活用論」の授業を通じて,反転授業の可能性について検討することとした。本研究により,完全習得型と高次能力学習型の両方の授業を取り入れることができ,アクティブ・ラーニングによる学びの質が深まることが明らかになった。