著者
望月 昭
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.8-17, 2001 (Released:2014-07-03)
参考文献数
30
被引用文献数
3 9

重度の知的障害を持つ個人にみられる多くの行動的症状、例えば強度行動障害、の原因をたどると、それはしばしば当該の個人の障害性 (impairment) によるものではなく、個人と環境との相互作用によるものである場合がある。そのようなケースでは、問題行動のみに注目して対症療法的なリアクティブなトリートメントを行うのではなく、正の強化で維持される個人の行動の選択肢を拡大するプロアクティブなトリートメント (Foxx, 1996) が採用される必要がある。当論文では、筆者は「行動的QOL」という概念を提出する。それは、個人の生活の質を正の強化で維持される行動の選択に関する方法と量で測定するものである。行動的QOLは、個人の生活の質に関する2つの側面を同時に持つ。すなわち、環境的側面と個人的満足の側面である。他のQOLの測定においては、前者は環境の設定や配置の改善によって測定され、後者は一般的に個人に対する質問によって測定されてきたが、それらはそれぞれ別個に行われてきた。行動的QOLは、個人の行動によって測定され、そこでは個人は環境を自ら選び取り、またその満足度の度合いをその選ばれた環境との相互作用 (=行動) として示すものである。行動的QOLは、3つのレベルに分類することができる : 第一のものは、ある状況で、選択はできないが正の強化で維持される行動が個人に準備されているもの、第二のものは、個人にいくつかの選択肢が準備され、それを選択することができるというもの、そして第三のものは、個人が既存の選択肢を拒否して新しい選択肢を要求できるものである。この論文の後半では、重度の知的障害を持つ個人における「選択決定」の簡単なレビューと、筆者らのグループによる2つのケーススタディを紹介する。それはいずれも、何らかの問題行動を持つ個人に対する、選択決定を含んだプロアクティブなトリートメントを、行動QOLの拡大のミッションのもとで展開したものである。最初のケーススタディは、重度の知的障害を持つ個人において上記した行動的QOLの第三のレベルの確立が可能かを検証したものである (Nozaki& Mochizuki, 1995)。実験では、どのように、既存の選択肢に対する「NO」を表明する選択肢を設定することができ、またそうしたトリートメントが、対象者の行動問題、すなわち聴覚障害の兆候や極端な活動性の低さ、に対して効果を持つかが検討された。第二のケーススタディでは、殆ど行動の選択肢が与えらていなかった施設環境において、強度の行動障害を示す成人に対して行われたものである (望月ら、1999)。この第二の研究は、筆者らと施設職員との「共同相談モデル」(Ervin, et al., 1998) であり、(a) 職員間での行動的QOLの概念の共有化、(b) 施設の日常場面における、正の強化の機会の設定や選択場面の設定、という作業からなっている。これらの研究の結果、重度の障害を持つ個人でも行動の選択肢を選ぶことができること、そしてそうしたトリートメントを通じて問題行動が減じることが示された。行動的QOLは、個人の選択決定 (=自己決定) を中心としたヒューマンサービスの新たな哲学と方法論を必要とする。この考え方は、他者の決定を過不足なく援助するための学際的方法を含むものである。この作業に適したひとつのパラダイムは行動分析であろう。

言及状況

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行動的QOLという考え方は、もっと広く知られてもいいなと思う。 行動的な観点からQOLを高めることは、正の強化を受ける行動機会の選択肢を増やすことらしい。 行動活性化にもつながる考え方なんかな? https://t.co/ylGSyFSTYs
@hideman2009 ヒデマンさんみてると、「制御」という言葉が必要以上に悪いイメージをもっていそうです。 例えば制御結果の例として、「行動レパートリーの拡大」や「本人に選択機会を委ねることができる」とかであればどうでしょう。 ちなみにこちらの文献おすすめです https://t.co/hxZ8T7iTCR
オープンアクセス好き〜(´ω`) > 行動的QOLは、個人の生活の質に関する2つの側面を同時に持つ。すなわち、環境的側面と個人的満足の側面である。 行動的QOL : 「行動的健康」へのプロアクティブな援助 https://t.co/UloFLxfEcS
@Ayoster_classic 一応下記論文に基づいて話すので、こちらをお読みいただければ参考になるかと思います https://t.co/eq5VcA2WJX
これも紹介されてた論文! https://t.co/VpPxeRhZoU
「○○できないならあげないよ」と「○○やったらもらえるよ」は同じ手続きでも前者は負の(除去型)強化、後者は正の(提示型)強化となる。基本的には正の(提示型)強化の機会が多いことが望ましい。 https://t.co/IZSiJLzpd0 https://t.co/rxOrVvUzmB
放送を聞き、私の師匠の論文に再度意義を感じました 本当の自己決定の保障は、当事者が支援者の用意した選択肢を否定することを認めること 外れること自体を否定せず、その理由やしたいこと、妥協点を支援者と共に考えるスタンスが大切だと思いました https://t.co/QVLfZUavXZ #自己決定と自己責任 https://t.co/EDNyHbMZGe
「一方的に何か好ましいものを『与えられる(given)』のではなく、本人の行為によって『獲得する』(get)ことがQOLを考える上で重要」という話はよく理解できるんやけど(スキナーも同じ事言ってる)「やりがい搾取」を正当化するロジックとして使われたら嫌やなと思う。 https://t.co/dnArAELt8b
望月先生のこの論文↓はしっくり来たんだけど、ACTはまだしっくり来てない。 https://t.co/hxZ8T7iTCR
これは支援者の立場から見てもとても大切な指摘だと思う。 師匠、もとい望月昭先生の重度知的障害者支援(行動的QOL)についての論文。かなりこの指摘と被る部分が多い。 https://t.co/QVLfZUavXZ https://t.co/cNdYR2y3aG
これも大切。でも、実際の場面で検証して行くのは難しい…。故に、これらの視点にたった実践報告を積み上げて行くしかあるまい。 J-STAGE Articles - 行動的QOL : 「行動的健康」へのプロアクティブな援助 https://t.co/CX2AqdMxmO
【行動的QOL:行動的健康へのプロアクティブな援助】望月昭先生の論文。行動分析学が対象児者の生活の質(QOL)をどのように考えるかについて、行動的QOLという概念を用いて説明されている重要な論文。https://t.co/f8WHTSvXw1

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