著者
櫻井 佳宏 鈴木 裕子 関場 大樹 廣瀬 悠基 南澤 忠儀 神先 秀人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0697, 2012

【はじめに、目的】 動作中のかけ声の効果として,単関節運動において,最大努力時の筋出力の増大や最大収縮速度の上昇に有効であることなどが知られている.しかし,最大努力下における閉鎖運動連鎖での多関節運動中のかけ声の効果について検証した報告はない.本研究の目的は,最大努力下の立ち上がり動作における,かけ声の効果を運動学的および筋電図学的側面から検討することである.なお,本研究では,かけ声を「力を入れる時に発する声」と定義した.【方法】 対象は整形及び神経疾患の既往歴がない健常男性10名(年齢21.9±1.4歳,身長171.4±6.2cm,体重64.4±6.6kg)である. かけ声の効果をみるため,動作の遂行が限界に近い高さの台からの立ち上がり動作を,かけ声有り(有声群)とかけ声なし(無声群)の2条件で行わせた.最初に,各対象者が,体幹の回旋を伴わない,座位からの直線的な立ち上がり動作が可能な最低限の高さを,1cm単位で調節して決定した.その際,足部を椅子から10cm離して肩幅まで開き,足関節を中間位にして胸の前で腕を組むように指示した.次に,有声群には最も立ち上がりやすい時期に,できるだけ大きな声で「よいしょ」というかけ声を発しながら立ち上がるように指示し,無声群には息を吐きながら立つように指示した.各条件での立ち上がり動作を各3回ずつ行わせ,動作中の運動学的データと筋活動を三次元動作解析装置および表面筋電図を用いて測定した.動作開始は,矢状面上で頭部のマーカーが前方へ移動し始めた点とし,動作終了は頭部マーカーが最高位に達した点とした.また,動作開始から殿部離床までを第1相とし,殿部離床から動作終了までを第2相として相分けした. 三次元測定では赤外線反射マーカーを頭頂と左右の肩峰,股関節,膝関節,外果,第5中足骨頭の計13箇所に貼付し,サンプリング周波数60Hzで記録した.矢状面における頭頂マーカーの位置座標から,動作全体における頭部の平均運動速度と前後移動幅を算出した. 筋活動は右側の腰部脊柱起立筋(Es),外側広筋(VL),前脛骨筋(TA)の3筋を被検筋とし,サンプリング周波数は1200Hzで取り込んだ.筋活動開始時期は,整流波形において安静時筋電位の最大値を持続して超えた最初の時点とした.筋活動量は,動作全体および各相の積分筋電値(IEMG)を算出した.また,50msec毎のRMSを最大随意性収縮時に対する比率(%MVC)として算出し,経時的な活動パターンを追うとともにその最大値を解析に用いた. 統計処理は,各動作3試行の平均値を用いて2条件で比較をし,対応のあるt検定及びWilcoxon符号付順位和検定を行った.有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 被検者には本研究の目的を口頭および文章にて十分に説明し,書面による同意を得たのちに測定を行った.【結果】 運動開始から筋活動開始までの時間は両群に差は認められなかった.計測した1つの筋が活動を始めてから,他の2筋すべてが活動を始めるまでの時間において無声群では216±108msec,有声群では148±95msecと,有声群で有意に短縮した. %MVCの最大値は両群とも殿部離床直後に記録され,Esの無声群が123±80%,有声群が157±118%となり,有声群で有意な増加を示した.他の2筋に関しては両群間で有意な差は認められなかった. IEMGは動作全体をみると,VLでは有意な差は見られなかったが,EsおよびTAにおいて有声群に有意な減少を認めた.相毎のIEMGでは,第1相においてはいずれも有意な差はみられなかったが,第2相においては,3筋とも有声群が有意な減少を示した. 頭頂マーカーの移動速度は,無声群が0.63±0.14m/s,有声群が0.79±0.15m/sと,有声群で有意に増加し,前後移動幅は有声群で有意な減少を示した.【考察】 最大努力下の立ち上がり動作時にかけ声を発することで,3筋による同時期の活動を促すとともに,離殿時期にEsの筋活動を高め,立ち上がり動作時の体幹前屈角度の減少を起こした.こうした体幹前屈の少ない動作パターンに変化させたことで,離殿以降の3筋の筋活動量や頭部の前後移動幅の減少をもたらしたと推測された. 本研究結果から,かけ声は,筋の協調的な活動や一時的な筋力の発揮を助けるとともに,動作全体における筋活動量や重心移動を抑える効果を持つ可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 本研究により,動作中のかけ声の効果を,運動学的,筋電図学的に示すことができたと考える.また,本研究結果は,臨床において立ち上がり動作などを指導する際にも利用できると考える.
著者
井上 千絵美 神先 秀人 南澤 忠儀 伊藤 寛和
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0693, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 しゃがみ動作は日本の生活において和式トイレ、物を拾う場面、入浴時の洗体などで日常的によく使用される動作である。立ち上がりに関する運動学的分析は数多く報告されているが、しゃがみ動作に関する報告はわずかしかない。本研究の目的は、開脚時ならびに軽度開脚時のしゃがみ動作を椅子への着座動作と運動学・筋電図学的に比較し、その特徴を明らかにすることである。なお、本研究においてはしゃがみ動作を「立位から足底全面を床に着けた状態で、膝関節を最大限屈曲した姿勢になるまでの動作」と定義した。【方法】 対象は、関節障害などの既往のない健常成人男性10名で、平均年齢は21歳(20‐22歳)、身長は172±5.4cm、体重は62.3±5.4kgであった。しゃがみ動作は和式トイレを想定した踵部内側間距離30cmの開脚位でのしゃがみ動作(30cm開脚)、物を拾う場面や入浴時を想定した踵部内側間距離10cmの軽度開脚位でのしゃがみ動作(10cm開脚)の2種類とし、立位から40cm高の椅子への着座動作と比較した。開始肢位は静止立位とし、各々3回ずつ測定した。動作速度は任意とし、上肢は体側に下垂した。動作解析には三次元動作解析装置(VICONMX)を使用した。赤外線反射マーカーセットはPlug-in-gait全身モデルを使用し、サンプリング周波数60Hzで経時的にマーカー座標を記録した。筋活動は表面筋電計を使用し、サンプリング周波数は1KHzとした。被験筋は右側の腰部(L4)脊柱起立筋、外側広筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋の計5筋である。動作は頭部のマーカーが前方に移動し始めた時を開始、最も下方に位置した時を終了とした。解析項目は運動中における下肢、体幹、骨盤の最大角度および重心の前後と側方の移動幅である。筋活動に関しては、動作全体を通しての積分値を着座動作の値で正規化した%IEMG、および動作中の平均筋電位を最大収縮時に対する比率(%MVC)として算出した。統計処理は各動作3試行の平均値を用いて反復測定分散分析ならびに多重比較検定を行った。有意水準は5%とした。正規性のない場合はWilcoxon検定にBonferroni法を用いて補正した。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の目的と方法を口頭と文書により説明し、本研究への参加の同意を得た方に署名を頂いた後、測定を行った。個人情報は本研究でのみ使用し、データから個人を特定できないようにした。【結果】 しゃがみ動作における下肢、体幹、骨盤の最大屈曲角は最終肢位で生じ、30cm開脚位では、股関節91.0°、膝関節151.1°、足関節34.0°、体幹前屈75.9°、骨盤後傾32.5°で、10cm開脚位ではそれぞれ88.7°、153.4°、35.2°、79.1°、32.4°であった。これらはいずれも着座動作よりも有意に大きな値を示した。動作開始時からの重心の平均前方移動幅については、30cm開脚時6.8cm、10cm開脚時6.6cmと着座動作時の2.4cmに比べて約3倍大きくなった。一方、後方移動幅は着座動作時の20.8cmに対し、30cm開脚時0.0cm、10cm開脚時0.2cmとほとんどみられなかった。左右移動幅は30cm開脚で10cm開脚よりも有意に高い値を示した。動作中の平均筋電位は着座動作時と比較してしゃがみ動作時に脊柱起立筋が有意に減少し、前脛骨筋は逆に著明な増加を示した。%IEMGは前脛骨筋がしゃがみ動作時に着座動作と比較して約2.5倍と有意な増加を示した。【考察】 しゃがみ動作の最終肢位(しゃがみ姿勢)は一見大きな股関節屈曲を伴うように見えるが、本研究の結果から健常成人においては90°程度であるとわかった。これは、しゃがみ動作が骨盤の大きな後傾と体幹の前屈を伴うことにより、実際より大きく修飾されて映るためと考えられた。しゃがみ動作で前方への重心移動が増加し、後方移動がほとんどみられなかったのは、着座動作と比較してより多くの体幹の前屈を伴うこと、また動作開始時にすでに重心が後方に位置しており、狭い基底面内で大きな重心移動を行う際に後方への不安定さに対処する必要性が生じたためと考えられた。筋活動では特に動作後半において前脛骨筋の活動量が顕著に増加した。このことから前脛骨筋がしゃがみ動作において下腿を固定し、重心の過度の後方移動を防ぐ重要な働きをしていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究におけるしゃがみ動作の定量的な分析結果は、臨床において動作観察で得られた情報を解釈する上で有用な知見を提示すると共に、安全なしゃがみ動作の指導に役立てることができると考えられる。
著者
鈴木 克彦 伊橋 光二 南澤 忠儀 百瀬 公人 三和 真人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.30 Suppl. No.2 (第38回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.552, 2003 (Released:2004-03-19)

【はじめに】 膝関節(脛骨大腿関節)の回旋運動は,下肢全体の回旋運動には必要不可欠である。しかしながら,膝回旋可動域はゴニオメーターを用いて計測するのは極めて困難である。現在明らかにされている計測方法は,超音波,レントゲン,CTを用いたものであり,簡便な方法は明らかにされていない。本研究の目的は,解剖学的標点を基に,臨床で有用かつ簡便な方法としてdeviceを用いた膝回旋ROM計測の方法を試み,定義されている股関節の回旋ROを参考にして,左右差から検討したので報告する。【対象と方法】 対象は下肢に何らかの障害や既往のない健常成人34名(男性16名,女性18名),平均年齢20.5歳である。膝回旋ROMの計測は,VICON clinical managerで使用するKnee Alignment Deviceを大腿骨内外側上顆および脛骨・腓骨の内外側果に貼付した。被験者は膝関節90°屈曲した腹臥位となり,1名の理学療法士が他動的に内外旋させ,下腿長軸延長線上からデジタルカメラを用いて記録した。記録した画像はPCに取り込み,内旋および外旋時の大腿骨内外側上顆を結ぶ線と脛骨・腓骨の内外側果を結ぶ線のなす角度を1°単位で計測した。股関節の回旋ROMは,股・膝関節を90°屈曲した背臥位でゴニオメーターを用いて1°単位で計測した。統計学的検定は相関係数の検定を用い,危険率5%を有意水準とした。【結果】 被験者34名,68関節における股関節の内外旋の合計ROMの平均(SD)は,右86.8°(10.8°),左88.5°(9.1°)であり,左右のROMの間に強い相関関係が認められた(p
著者
永瀬 外希子 伊橋 光二 井上 京子 神先 秀人 三和 真人 真壁 寿 高橋 俊章 鈴木 克彦 南澤 忠儀 赤塚 清矢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.G0428, 2008

【目的】理学療法教育において客観的臨床能力試験(OSCE)の中に取り入れた報告は散見されるが、多くは模擬患者として学生を用いている。今回、地域住民による模擬患者(Simulated Patient以下SPと略)の養成に取り組んでいる本学看護学科(山形SP研究会)の協力を得、コミュミケーションスキルの習得を目的とした医療面接授業を実施した。本研究は、効果的な教育方法を検討するために、授業場面を再構成し考察することを目的とする。 <BR>【対象と方法】面接授業は、本学理学療法学科3学年21名を対象とし、臨床実習開始2週間前に行った。山形SP研究会に面接授業の進行と2名のSPを依頼し、膝の前十字靭帯損傷患者(症例A)、脊髄損傷患者(症例B)のシナリオを作成した。事前打合せや試行面接を行い、シナリオを修正しながらより実際の症例に近い想定を試みた。学生に対しては、授業の1週間前に面接の目的、対象症例の疾患名、授業の進行方法についてオリエンテーションを行った。面接授業実施30分前に詳しい患者情報を学生に提示し、4つに分けたグループ内で面接方法戦略を討論する機会を設けた。症例A・BのSPに対し、各グループから選出された学生が代表で10分間の面接を行い、それ以外の学生は観察した。それぞれの面接終了後に、面接した学生の感想を聞き、その面接方法に関して各グループで20分間の討論を行った。この面接からグループ討論までの過程を各症例につき交互に2回ずつ合計4回行い、全体討論としてグループごとに討論内容を発表し合った。最後に、SPおよび指導教員によるフィードバックを行った。<BR>【結果と考察】今回の医療面接の特徴は、第一点が情報収集を目的とするのではなく、受容的、共感的な基本的態度の習得を目的としたこと、第二点はトレーニングを受けている初対面のSPを対象としたこと、第三点は代表者による面接後グループごとに討論する時間を設定したことである。理学療法場面における医療面接では、医学的情報収集が中心となる傾向にある。今回の学習目的は、初対面の患者の話を拝聴し信頼関係を築くこととした。これにより、SPの訴えや思いなどを丁寧に聞いている学生の姿勢が認められた。また、初対面のSPとの面接を導入したことで、より臨場感あふれた状況の中で、学生が適度な緊張感を持って対応している場面が認められた。一巡目の面接では、SPに対して一方的に質問する場面が多くみられたが、二巡目ではSPが答えた内容に対して会話を展開させていく場面が際立った。これは、初回の面接終了後の討論により、面接者自身の反省や第三者の視点から得られた新たな方策を、次の面接に生かすことができたためと推測される。理学療法教育にSP参加型医療面接を導入することは、コミュニケーションスキルの向上を図るうえで有効な教育方法であると考えられる。 <BR>
著者
永瀬 外希子 伊橋 光二 井上 京子 神先 秀人 三和 真人 真壁 寿 高橋 俊章 鈴木 克彦 南澤 忠儀 赤塚 清矢
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P1572, 2009

【はじめに】我々は第43回日本理学療法学術大会において、地域住民による模擬患者(Simulated Patient以下SPと略)を導入した医療面接の演習授業の紹介を行った.今回、授業後に行った記述式アンケートを通して、SP参加型授業による教育効果を検討したので報告する.<BR>【対象】対象は本学理学療法学科3学年21名で、本研究の趣旨と目的を説明し、研究への参加に対する同意を得た.<BR>【方法】医療面接の演習目的はコミュニケーションスキルの習得とした.演習方法は2症例のシナリオを作成し、2名のSPに依頼した.学生には1週間前に面接の目的と進め方、症例の疾患名を提示した.さらに面接30分前に症例の詳しい情報を提示した.グループを4つに分け、面接方略の討論後、各グループの代表者1名がSPと面接を行い、それ以外の学生は観察した.1回の面接時間は10分以内とし、面接後、学生間のグループ討議、SPならびに教員によるフィードバックを行った.演習終了後、授業に参加した学生を対象に、授業を通して学んだことや感じたことについて自由記載による記述式アンケート調査を行った.得られた記述内容を単文化してデータとし、内容分析を行った.得られた127枚のカードから3名の教官が学生の学びに関するカードを抽出し、同じ内容を示すカードを整理しサブカテゴリー化した.その後さらに関連のあるカードを整理してカテゴリー化し、それぞれの関係性について検討した.<BR>【結果と考察】「学び」に関与すると判断されたカードは40枚であった.それらを分析した結果、「SPと自分との乖離」、「自分自身の振り返り」、「基本的態度の獲得」、「対応技術の習得」の4カテゴリーが抽出された.「SPと自分との乖離」は、「表出されない相手の思い」、「思いを知ることの難しさ」のサブカテゴリーで構成されていた.また「自分自身の振り返り」は「基本的なコミュニケーションスキルの知識不足」、「疾患についての知識不足」、「話を発展させる技術不足」、「質問攻めの一方的なコミュニケーション」、「基本的態度の獲得」は「傾聴的な態度」、「共感的態度」、「相手を分かりたいという思い」、「対応技術の習得」は「患者をみる視点・観点」、「目をみて話すことの大切さ」、「相手に合わせた関わり方」のサブカテゴリーから構成された.これらの結果より、SPからのフィードバックを通して、SPと自分の感じ方や捉え方の違いや、言葉では表出されない思いがあることに気付き、それらを理解することの難しさを実感するとともに、学生自身の不足している点を認識したことがわかった.そして、相手と信頼関係を築くためには、相手を思い、傾聴し、共感するなどの基本的態度の大切さに加え、目をみて話すことや相手に合わせた関わり方などの対応技法の習得も必要であることを学んでいた.
著者
榊原 志保 三和 真人 南澤 忠儀 八木 忍
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20
被引用文献数
1

【目的】臨床場面における患者様の履物は裸足やバレーシューズ、スリッパと様々見受けられる。しかし、これら履物の違いが臨床場面に及ぼす影響について着目した研究は散見されない。加えてスリッパは高齢者の転倒要因の一つとして挙げられているが、実際に力学的変化を研究したものは少ない。本研究はステップ昇降における裸足、バレーシューズ、スリッパの力学的変化を解析することによって、スリッパによる力学的特性と転倒要因との関係を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】対象は本研究の目的に同意の得られた健常女性12名(平均21歳)である。動作課題は、裸足、バレーシューズ、スリッパの3条件における高さ20cmのステップ昇降とし、それぞれ3回ずつ測定した。また動作を一定にするため、メトロノームに合わせて課題を行った。動作解析は三次元動作解析装置と床反力計を用い、関節角度、関節モーメント、第5中足骨床間距離を測定した。赤外線反射マーカーは臨床歩行分析研究会が推奨する10点に貼付した。尚、第5中足骨マーカーはバレーシューズの場合はシューズの上から、スリッパの場合は第5中足骨周囲を切り取り皮膚に貼付した。課題は二足継ぎ足昇降とし、右脚、左脚の順に行った。統計処理はそれぞれ3回のデータの平均値を求め、一元配置反復測定による分散分析を行った。差の検定は多重比較を用い、有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】スリッパの昇段では、右脚は踵離床時の足関節底屈角度(7.4°)が裸足に比べ有意に減少し、最大toe clearance(30.6cm)が裸足に比べ有意に減少した。スリッパの降段では、右脚は床接地時の股関節伸展モーメント(0.2Nm/kg)が裸足、バレーシューズに比べ有意に増加した。同様に足関節背屈角度(10.5°)が2つに比べて有意に減少した。上段左脚支持相の足関節背屈角度(13.6°)と足関節底屈モーメント(1.1Nm/kg)が有意に減少した。<BR>【考察及びまとめ】スリッパによる昇段において右脚の最大toe clearanceが減少したことから、スリッパはつまずき易いことが考えられた。また最大toe clearance時の重心は前方移動するため不安定となり、より転倒しやすいと考えられた。更に踵離床時の足関節底屈角度が減少したことから、スリッパは脱げ易く足先で持ち上げて離床しなければならないと考えられた。しかし各関節モーメントに有意な差は見られず、筋力の差を言及することはできなかった。一方ステップ降段における右脚の接地時に足関節を背屈、膝関節を屈曲することにより衝撃を吸収しているが、スリッパによる降段において足関節背屈角度が減少し、衝撃吸収の役割を果たしていないと考えられた。その代償として股関節伸展モーメントが増加し、衝撃を吸収していると考えられた。上段左脚支持相で足関節背屈角度、足関節底屈モーメントが減少していることから、スリッパは降段制動力を減少させると考えられた。