著者
神庭 重信 鬼塚 俊明 加藤 隆弘 本村 啓介 三浦 智史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

うつ病の神経炎症仮説に基づき、動物実験としては、グラム陰性菌内毒素をマウスに投与して、行動および脳内の組織化学的変化について研究した。広範囲に及ぶミクログリアの一過性の活性化は見られたが、それを通じたアストログリア、オリゴデンドログリアへの影響は検出できなかった。ミクログリア活性化阻害物質であるミノサイクリンの投与は、内毒素投与の有無にかかわらず、抑うつ様行動を惹起した。培養細胞系では、ヒト末梢血中の単球から、ミクログリア様細胞を誘導することに成功し、気分障害罹患者を対象とする画像研究でも、拡散テンソル画像を集積した。これらの研究を通じ、うつ病と神経炎症の関連についてさらに知見を深めた。
著者
鬼塚 俊明 中村 一太 平野 昭吾 平野 羊嗣
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.73-78, 2019 (Released:2019-12-28)
参考文献数
5

幻聴が起こるメカニズムは単純なものではないが,症状と関連のある脳構造・脳機能研究を行うことは重要と思われる。本稿では我々が行った研究で,幻聴の重症度と関連のあった脳部位・脳機能研究での結果を紹介する。脳構造研究では,外側側頭葉の亜区域を手書き法にて測定し,体積を測定した。幻聴のある患者群で左の上側頭回は著明に小さく,左中側頭回,左下側頭回でも有意に小さいという結果が得られた。すなわち,幻聴のある患者群は幻覚のない患者群に比べ,左半球優位(特に上側頭回)に体積減少があることが示唆された。 声に対するP50mの研究では,左半球の抑制度と幻聴のスコアに有意な正の相関を認めた(ρ=0.44,p=0.04)。つまり,人の声に対するフィルタリング機構の障害が強い統合失調症者ほど,幻聴の程度が重度であるということが示唆された。さらに,聴覚定常状態反応の研究では,80 Hzのクリックに対する左半球のASSRパワー値と幻聴の重症度に有意な負の相関を認めた(ρ=‐0.50,p=0.04)。つまり,左半球の80 Hz‐ASSRの障害が強い統合失調症者ほど幻聴の程度が重度であるということが示唆された。 今後,脳構造・脳生理学的研究は統合失調症の病態解明のアプローチとして一層重要になっていくと思われる。
著者
平河 則明 平野 羊嗣 鬼塚 俊明
出版者
九州精神神経学会
雑誌
九州神経精神医学 (ISSN:00236144)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.55-62, 2018-08-15 (Released:2020-03-26)
参考文献数
23
被引用文献数
1

近年の神経生理学的検査の技術進歩に伴い,精神疾患においても新たな知見が次々と報告されている。本稿では主に,脳波や脳磁図を用いた統合失調症の神経生理学的な知見について概観した。例えば,統合失調症者では,感覚フィルタリング機能を反映しているとされる聴覚P50の抑制機構の障害や,前注意過程の指標とされる聴覚ミスマッチ陰性電位の振幅低下が報告されている。さらに,最新の研究では,統合失調症における高周波ガンマ帯域の神経同期活動の障害が多く報告されており,これは統合失調症の脳内における興奮性ニューロンと抑制性介在ニューロンの相互バランスの破綻を反映していると考えられている。精神現象を神経生理学的にとらえようとするこの試みは“神経現象学”という新たな分野にも通じる。最後に,これらの知見をもとに,今後の統合失調症研究の展望について考えてみたいと思う。
著者
鬼塚 俊明
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

脳磁図研究では、自己の名前、他人の名前、無意味な文字列を視覚呈示し、反応を記録した。健常対照者は、自己の名前>他人の名前>無意味な文字列というパターンだったが、統合失調症者では自己の名前という自己関連刺激に対する特異的な反応が失われていた。さらに、統合失調症、双極性障害、正常対照者の脳磁図反応を記録し、成果の一部を論文発表した(Schizophr Res, Bipolar Disord, PLoS ONE誌など)。脳構造研究では、平成25年度までに合計で、正常対照者131名、双極性障害者23名、統合失調症90名のMRIを撮像した。上側頭回の構造異常は、統合失調症に比較的特異的であった。