著者
河村 功一 片山 雅人 三宅 琢也 大前 吉広 原田 泰志 加納 義彦 井口 恵一朗
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.131-143, 2009
参考文献数
81
被引用文献数
7

近縁外来種と在来種の交雑は外来種問題の一つであるだけでなく、希少種問題の一つでもある。この問題は決して異種間に限られたものではなく、在来個体群の絶滅という観点から見れば、近縁種から同種の地域個体群にまで渡る幅広い分類学的カテゴリーに該当するものである。近縁外来種と在来種の交雑は遺伝子浸透の程度と在来種の絶滅の有無により、I)遺伝子浸透を伴わない在来種の絶滅、II)遺伝子浸透はあるものの在来種は存続、III)遺伝子浸透により在来種は絶滅の3つに分類される。この中で在来種の絶滅を生じるのはIとIIIの交雑であるが、いずれも交雑の方向性の存在が重要視されている。本稿ではタイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴの交雑を材料に、IIIの交雑における在来亜種の絶滅と遺伝子浸透のメカニズムについて調べた研究を紹介する。野外調査と飼育実験により、交雑による個体群の遺伝的特徴の変化、配偶行動における交雑の方向性の有無、遺伝子型の違いによる適応度の違いの3点について調べたところ、1)交雑個体の適応度は在来亜種より高いが雑種強勢は存在しない、2)繁殖行動において亜種間である程度の交配前隔離が存在、3)在来亜種の絶滅は交雑だけでなく、適応度において交雑個体と外来亜種に劣る事により生じる、4)遺伝子浸透は在来亜種の絶滅後も継続する、の4点が明らかとなった。これらの事から外来亜種の侵入による在来亜種の絶滅は、外来亜種の繁殖率の高さに加え、交雑個体における妊性の存在と適応度の高さが主な要因である事がわかった。ここで特記すべき点として、交雑の方向性の決定様式と遺伝子浸透の持続性が挙げられる。すなわち、バラタナゴ2亜種における交雑は個体数の偏りによる外来亜種における同系交配の障害により生じるが、交雑の方向性は従来言われてきた様な亜種間での雌雄の交配頻度の違いではなく、雑種と外来亜種の間の戻し交雑により生じ、この戻し交雑が遺伝子浸透を持続させる可能性が高い事である。今後の課題としては、野外個体群におけるミトコンドリアDNAの完全な置換といった遺伝子間での浸透様式の違いの解明が挙げられる。この問題の解明に当たっては進化モデルをベースとしたシミュレーションと飼育実験により、ゲノムレベルで適応度が遺伝子浸透に与える影響を考察する必要がある。
著者
河村 功一 片山 雅人 三宅 琢也 大前 吉広 原田 泰志 加納 義彦 井口 恵一朗
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.131-143, 2009-07-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
81
被引用文献数
9

近縁外来種と在来種の交雑は外来種問題の一つであるだけでなく、希少種問題の一つでもある。この問題は決して異種間に限られたものではなく、在来個体群の絶滅という観点から見れば、近縁種から同種の地域個体群にまで渡る幅広い分類学的カテゴリーに該当するものである。近縁外来種と在来種の交雑は遺伝子浸透の程度と在来種の絶滅の有無により、I)遺伝子浸透を伴わない在来種の絶滅、II)遺伝子浸透はあるものの在来種は存続、III)遺伝子浸透により在来種は絶滅の3つに分類される。この中で在来種の絶滅を生じるのはIとIIIの交雑であるが、いずれも交雑の方向性の存在が重要視されている。本稿ではタイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴの交雑を材料に、IIIの交雑における在来亜種の絶滅と遺伝子浸透のメカニズムについて調べた研究を紹介する。野外調査と飼育実験により、交雑による個体群の遺伝的特徴の変化、配偶行動における交雑の方向性の有無、遺伝子型の違いによる適応度の違いの3点について調べたところ、1)交雑個体の適応度は在来亜種より高いが雑種強勢は存在しない、2)繁殖行動において亜種間である程度の交配前隔離が存在、3)在来亜種の絶滅は交雑だけでなく、適応度において交雑個体と外来亜種に劣る事により生じる、4)遺伝子浸透は在来亜種の絶滅後も継続する、の4点が明らかとなった。これらの事から外来亜種の侵入による在来亜種の絶滅は、外来亜種の繁殖率の高さに加え、交雑個体における妊性の存在と適応度の高さが主な要因である事がわかった。ここで特記すべき点として、交雑の方向性の決定様式と遺伝子浸透の持続性が挙げられる。すなわち、バラタナゴ2亜種における交雑は個体数の偏りによる外来亜種における同系交配の障害により生じるが、交雑の方向性は従来言われてきた様な亜種間での雌雄の交配頻度の違いではなく、雑種と外来亜種の間の戻し交雑により生じ、この戻し交雑が遺伝子浸透を持続させる可能性が高い事である。今後の課題としては、野外個体群におけるミトコンドリアDNAの完全な置換といった遺伝子間での浸透様式の違いの解明が挙げられる。この問題の解明に当たっては進化モデルをベースとしたシミュレーションと飼育実験により、ゲノムレベルで適応度が遺伝子浸透に与える影響を考察する必要がある。
著者
三宅 琢也 中島 淳 鬼倉 徳雄 古丸 明 河村 功一
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.1060-1067, 2008-11-15
被引用文献数
3 7

九州産ニッポンバラタナゴ(RoK)の保護に向けた知見を収集するため,遺伝子と形態分析によりRoKの分布の把握を試みた。RoKのmtDNAは46集団中41集団で見られたが,13集団においてはタイリクバラタナゴ(RoO)のmtDNAも確認された。RoKは九州中北部に広く分布していたもののRoOによる遺伝子浸透は多所的に生じていた。平均側線有孔鱗数とRoOのmtDNAの頻度の間には正の相関が認められた。RoKの識別において側線有孔鱗数は,腹鰭前縁部の白色帯よりも優れた形質であると言える。
著者
三宅 琢也 ミヤケ タクヤ
巻号頁・発行日
2010-03-01

学位論文の要旨/生物圏生命科学
著者
鬼倉 徳雄 中島 淳 江口 勝久 乾 隆帝 比嘉 枝利子 三宅 琢也 河村 功一 松井 誠一 及川 信
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.29, no.12, pp.837-842, 2006 (Released:2010-01-09)
参考文献数
22
被引用文献数
14 16

The populations of Japanese bitterlings and unionid mussels and the land use of the watershed were investigated in 36 sampling sites in the Tatara river system in northern Kyushu, Japan. Five bitterling species were found in 11 sites in the system. Although Rhodeus ocellatus kurumeus was found to be distributed in 23 sites in 1983, this species was found in three sites in this study. The population of the bitterlings decreased in the sites with a high urbanization rate, although the populations of several other fish species showed no dependence on the urbanization rate. The population of the mussels showed a negative correlation with urbanization rate. In addition, the mussels populations showed positive relationship with the bitterling populations. These three relationships indicate that the decrease in the bitterling population due to the urbanization of the watershed was responsible for the decrease in the mussel population.
著者
三宅 琢也 中島 淳 鬼倉 徳雄 古丸 明 河村 功一
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.1060-1067, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
34
被引用文献数
4 7

九州産ニッポンバラタナゴ(RoK)の保護に向けた知見を収集するため,遺伝子と形態分析により RoK の分布の把握を試みた。RoK の mtDNA は 46 集団中 41 集団で見られたが,13 集団においてはタイリクバラタナゴ(RoO)の mtDNA も確認された。RoK は九州中北部に広く分布していたものの RoO による遺伝子浸透は多所的に生じていた。平均側線有孔鱗数と RoO の mtDNA の頻度の間には正の相関が認められた。RoK の識別において側線有孔鱗数は,腹鰭前縁部の白色帯よりも優れた形質であると言える。
著者
三宅 琢 林 知茂 野田 知子 柏瀬 光寿
出版者
視覚障害リハビリテーション協会
雑誌
視覚障害リハビリテーション研究発表大会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.128-128, 2012

<B>【背景】</B><BR> Apple社製の多機能電子端末であるiPadは、9.7インチの大きな画面を持ち、極めて直観的かつシンプルな操作で拡大・縮小表示の切り替えや基本機能が使用可能なデバイスである。近年のバージョンアップにより音声入力や音声読み上げ機能(VoiceOver)、画面表示の白黒反転等の様々なアクセシビリティ機能が最適化され、より視覚や聴覚の障害者を意識したデバイスとなっており、ロービジョンのエイドとしての利用が試みられている。われわれはiPad本体の背面カメラを利用した簡易拡大読書器としての有用性を報告した(2011年、臨眼)。その後背面カメラの解像度や音声入力機能の向上があり、より実用的なエイドとして利用可能なユーザー層が拡大してきている。<BR><BR><B>【目的】</B><BR> より多くの視覚障害者にiPadを体験してもらうことで、電子端末に対する抵抗感を軽減させ、現状の視機能を補助するさまざまな活用方法を啓発すること。<BR><BR><B>【方法】</B><BR> iPad関連の情報および視覚障害者むけの情報発信を目的として情報発信サイトGift Handsを設立した。このサイトではiPadを活用するための様々なアプリケーションの紹介や視覚障害者むけの各施設の案内等の情報を発信している。またこれまでiPad2を簡易拡大読書器として利用する際に問題であった背面カメラの解像度を向上させるレンズを開発、販売を行っている。<BR> その他にiPadの直営店であるアップルストア(銀座)内を始め多施設で、視覚障害者に向けたiPadの活用方法の体験セミナーを行う事で、より多くの視覚障害者がiPad使用に関する抵抗感を軽減させ、各人においてiPadが現実的なロービジョンエイドとして機能するかを体験できるセミナーを行っている。これら自身の活動の現状を報告する。
著者
三宅 琢
出版者
医学書院
雑誌
総合リハビリテーション (ISSN:03869822)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.1043-1047, 2015-11-10

はじめに 産業医は企業のなかで,労働者の職業病や健康障害の発生を防止する目的で労働衛生の3管理を中心として業務を行う.労働衛生の3管理とは,① 就労環境に関する作業環境管理,② 労働者の働き方に関する作業管理,③ 労働者の身体や精神の健康状態の保持増進に関する健康管理である.近年障害者雇用に関する合理的配慮の提供や,労働者の心の健康に関するストレスチェックの義務化など,企業が抱える課題も多様化している.また障害者の雇用に関して,法定雇用率の達成に加えて就労環境に対する具体的な配慮を負担のない範囲で実施することが求められるようになっている.こうしたことにより,産業医はこれまでの3管理に加え,障害者雇用の労働者への就労上の配慮に関する助言を求められる機会も増えると考えられる. 筆者はこれまで眼科医として,視覚障害者や学習障害者をはじめ,さまざまな障害者に対する情報技術(information technology;IT)機器を利用した情報支援を医療やリハビリテーション,就労や学習の現場で実践し指導を行ってきた1-3).また産業医として,労働者がより不調を起こしにくい快適な職場作りとIT機器を活用した新しい形の配慮を実践してきた4).本稿ではこれらの経験を踏まえ,障害者の就労や復職に関して産業医の立場としての配慮の方法と,職場における障害の捉え方を,労働衛生の3管理を中心に簡単に解説する.