著者
三浦 収
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.287-297, 2013-11-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
70

寄生虫とは、宿主の体内または体表に住みつき栄養を吸い上げるという、風変わりな生活をする動物や原生生物の総称である。寄生生活を送る後生動物の中で最大の多様性を誇るのが二生吸虫である。その多様性・遍在性とは裏腹に、二生吸虫は多くの場合1mm以下と非常に小さく、解剖なしに確認することが困難であるため、その存在は多くの生態学研究ではしばしば見落とされてきた。しかし、最近の研究で二生吸虫の生態を理解することの重要性が認識され始めた。二生吸虫が宿主の生態に重大な影響を与えることが分かり、さらにその影響は宿主集団及び生態系全体へも波及する可能性が示されたのである。本総説では、二生吸虫の生態に関わる最近の研究を紹介し、この寄生虫が持つ大きな可能性について解説する。
著者
粂川 義雅 三浦 収 藤本 悠 伊藤 桂 荒川 良 横山 潤 福田 達哉
出版者
The Japanese Society of Soil Zoology
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.19-24, 2019 (Released:2020-03-29)

ニホンアカザトウムシPseudobiantes japonicus の2 つの異なる系統群(クレードA とクレードB) の分布域が接触する四国中央部において両系統群間の交雑や遺伝子移入の有無を明らかにするために, ミトコンドリアDNAと核DNAのPCR-RFLP解析を行った.両クレードの混棲が確認されたのは1地点のみであったが,その地点を含め,この地域内で,核DNAの遺伝子におけるヘテロ接合と判定される個体やミトコンドリアDNAと核DNA間における不一致は発見されなかった.これは,クレードA とクレードB が接触地域において交雑や遺伝子移入を経験していないことを示唆し,これらのニホンアカザトウムシは隠蔽種であると考えられた.
著者
金谷 弦 多留 聖典 柚原 剛 海上 智央 三浦 収 中井 静子 伊藤 萌 鈴木 孝男
出版者
日本ベントス学会
雑誌
日本ベントス学会誌 (ISSN:1345112X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.84-101, 2019-03-31 (Released:2019-05-22)
参考文献数
45
被引用文献数
3 2

To assess macrozoobenthic diversity and habitat conditions following the 2011 tsunamis, we conducted a series of field surveys in the Samegawa and Momiya River estuaries (Fukushima and Ibaraki Prefectures, respectively). We compared measured parameters with existing published datasets for 10 sites along the northeastern Honshu coast. Faunal diversity was higher at the Samegawa site (140 taxa in total, of which 31 were endangered and 51 were endemic; the faunal list included stenohaline marine taxa), likely because of the high habitat diversity at this location and seawater discharge from the thermal power plant. Cluster analysis differentiated distinct faunal community groupings associated with two habitat types: (i) marine-dominated sites, including the Samegawa Lagoon, Mangoku-ura, and Matsushima Bay and (ii) sites with riverine influence, including the mouths of the Samegawa and Momiya Rivers and brackish lagoons along Sendai Bay. The population size of the dominant mud snail Batillaria attramentaria in the Samegawa Lagoon declined steeply after the tsunamis but gradually recovered within five years. Microsatellite DNA analysis showed that the genetic diversity of this population did not significantly change following the tsunamis. After 2016, ongoing restoration work caused drastic habitat degradation at the Samegawa site, resulting in mass mortalities of polyhaline and stenohaline marine taxa and overall reductions in faunal diversity.
著者
三浦 収
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

社会性を持つ二生吸虫は、繁殖を担うカーストと繁殖個体を敵から守る兵隊カーストに分業することで効果的にコロニーを維持している。本研究では、これらの2つのカーストの比率がどのような要因により決定されているのかを検討した。その結果、二生吸虫のカースト比率は外敵との競争圧の影響をあまり受けていないことが明らかになった。おそらく、コロニー内の個体密度や栄養状態または遺伝的要因等の他の要因がカースト比率に影響を与えているものと考えられる。
著者
三浦 収
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究の目的は、宿主と寄生生物の相互作用に着目して、進化生態学の重要課題である生物多様化機構を解明することである。本年度は、前年度に得たアメリカ熱帯地方のデータの補強と日本で得た宿主(Cerithidea)と寄生虫(二生吸虫)のデータ解析を行い、太平洋を挟んだアメリカ-アジア間で生じた宿主の種分化が寄生虫の多様化に及ぼす影響を明らかにすることを目標とした。まず初めに、日本のCerithideaに感染している寄生虫相を明らかにするために、日本に生息する5種のCerithideaの解剖実験を行った。その結果、合計32種の寄生虫を得ることができた。これらの寄生虫とアメリカの寄生虫との関連性を分子系統学的な手法を用いて比較したところ、アメリカとアジアの寄生虫は比較的古い時代に分化していたことが明らかになった。特に注目すべき点として、アジアに生息するCerithidea largilliertiはアメリカに生息するCerithideaと近縁な関係にあるにも関わらず、その寄生虫はアジアで見つかった他の巻貝に感染する寄生虫に遺伝的により近縁であることが明らかとなった。このことは、太平洋はこれらの寄生虫にとって越えることの難しい障害であることを示すと共に、C.largilliertiに感染している寄生虫はアジアの他の巻貝から寄主転換をしたことを示している。これらの結果は、地理的に大きく隔てられている集団間では共種分化よりも寄主転換が二生吸虫の多様化に大きな影響を及ぼす可能性を示唆している。