著者
濁川 暁 石崎 泰男 亀谷 伸子 吉本 充宏 寺田 暁彦 上木 賢太 中村 賢太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Ⅰ.はじめに草津白根火山は,群馬・長野の県境に位置する国内有数の活動的火山であり,山頂部には2つの若い火砕丘群(北側の白根火砕丘群と南側の本白根火砕丘群)が形成されている.本火山は1882年以降19回の水蒸気噴火が発生しているが,いずれも北側の白根火砕丘群で発生している(気象庁;2005).これまでの研究(吉本ら;2013)から,草津白根火山では完新世の噴火様式が隣接する火砕丘で異なると考えられているが,特に本白根火砕丘群の噴火履歴の詳細は明らかになっていない.本研究は,本白根火砕丘群についての噴火履歴の解明を目的とする.今回は,火砕丘群の噴出物層序,全岩及びモード組成解析,山頂域噴出物と山麓テフラ層の対比,放射年代測定から明らかになった噴火履歴について報告する.Ⅱ.本白根火砕丘群構成物の産状本白根火砕丘群は,南北に並ぶ少なくとも4つの火砕丘から構成される.それらは,南から古本白根火砕丘(新称),新本白根火砕丘(新称),鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘である(高橋ら,2010).古本白根,鏡池,鏡池北の各火砕丘の基底には溶岩流(それぞれ石津溶岩,殺生溶岩,振子沢溶岩)が見られ,その上位に火砕丘本体が載る.各火砕丘本体を構成する火砕岩(古本白根火砕岩,鏡池火砕岩,鏡池北火砕岩)は,成層構造が顕著な凝灰角礫岩として産する.また,古本白根火砕丘と鏡池火砕丘の本体には,それぞれ本白根溶岩ドームと鏡池溶岩ドームが陥入し噴出している.また,各火砕丘の表層部は,隣接する火砕丘の火口拡大期爆発により放出された火山弾により覆われている.東山麓では,国道292号線沿いの標高1780 m地点及び1570 m地点に本火山のテフラが良好に保存された露頭が見られる.この2露頭では,12L火山砂層(4.9 cal ka;吉本ら,2013)をはじめ,複数の示標テフラ層を同定し,他にも火山砂層や炭化材濃集層を複数層確認した(火山砂層と軽石層の名称は早川・由井(1989)に従う).鏡池火砕丘南東麓のガリー壁では,鏡池火砕丘本体の上位に白~灰色火山灰層と土壌層の互層が見られる.灰色火山灰層や土壌層には,計5層準(下位からKG1,…KG5層と呼ぶ)に火山弾が着弾している.Ⅲ.岩石学的特徴本白根火砕丘群の構成物の斑晶組合せは,大部分の岩石が斜長石+単斜輝石+斜方輝石±石英±カンラン石であるが(±;存在しないこともある),古本白根火砕岩及び本白根溶岩ドームでは角閃石が加わり,鏡池北火砕丘構成物では石英が欠けるなどの多様性も見られる.本白根火砕丘群の構成物の全岩SiO2量(wt.%)は,57.7~63.7 %の安山岩~デイサイトであり,SiO2-TiO2図では火砕丘毎及び噴火期毎に組成範囲と組成変化傾向が明瞭に区別される.また,各火砕丘本体の表層を覆う火山弾は,北側に隣接する火砕丘構成物の全岩組成とほぼ一致する.Ⅳ.本白根火砕丘群の形成過程と噴火履歴全岩組成による山頂域噴出物と山麓テフラの対比を行った結果,鏡池火砕丘構成物の全岩及びモード組成が山麓部の12L火山砂層の本質物の全岩・モード組成とほぼ一致した.したがって,鏡池火砕丘の活動は12L層の形成年代と同時期の約5000年前に起こったと結論される.また,鏡池火砕丘本体の上位の火山弾着弾層のうち,KG2層とKG5層の火山弾は,各々鏡池と鏡池北火砕丘構成物と同じ岩石学的特徴をもち,これらの火砕丘頂部の火口の拡大時に放出された可能性がある.KG5層直下の黒ボクの年代(1.5~1.4 cal. ka)から,約1500年前まで鏡池北火砕丘で活動が起きていたようである.また,各火砕丘の表層部に北側に隣接する火砕丘に由来する火山弾が見られることから,本白根火砕丘群の活動は,古本白根火砕丘,新本白根火砕丘,鏡池火砕丘,鏡池北火砕丘の順に,南から北へと変遷したと推測される.本白根火砕丘群のうち,鏡池北火砕丘またはその火口が形成された年代は約1500年前であり,本白根火砕丘群では,これまで推定されていた活動年代よりも最近までマグマ噴火が起きていたことが明らかになった.本研究の年代測定には2014年度(株)パレオ・ラボ研究助成,調査費用には2014年度地震火山災害軽減公募研究助成を使用した.記して感謝申し上げます.
著者
上木 賢太 原口 悟 吉田 健太 桑谷 立 浜田 盛久 Iona McINTOSH 宮崎 隆 羽生 毅
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.3-21, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
60

Kikai caldera, a submarine caldera to the south of Kyushu, is the source of the youngest caldera-forming supereruption during the Holocene (i.e., the Kikai-Akahoya eruption at 7.3 ka). During its volcanic history, the Kikai caldera has experienced at least three caldera-forming supereruptions (i.e., the Kikai-Akahoya, Kikai-Tozurahara and Koabi eruptions). To better understand the processes of submarine caldera-forming supereruptions and the evolution of the large felsic magma bodies from which they derive, we have constructed a geochemical database for the eruption products of the Kikai Caldera, including proximal deposits and distal tephras (https://doi.org/10.6084/m9.figshare.20066630). We compiled geochemical data reported in various papers and proceedings from both domestic Japanese and international journals. The new database, comprising 413 individual samples from 59 publications, contains all available major- and trace-element concentrations, isotopic ratios, analytical methods, geographical coordinates (latitude, longitude, and altitude) of sampling points, age data, refractive index, and geological and petrological information. The database is freely available to the public online. Based on the constructed database, we review the current geochemical understanding of Kikai caldera magmatism and discuss geochemical characteristics of magmas from the Kikai caldera. The difference in magma composition between the two recent caldera-forming supereruptions (the Kikai-Akahoya eruption at 7.3 ka and the Kikai-Tozurahara eruption at 95 ka) is clearly seen in the compiled data. Moreover, we find that the distal tephra represents a more SiO2-rich magma composition than that of the proximal deposits, especially in the case of the Kikai-Akahoya eruption.
著者
田中 宏幸 三井 唯夫 上木 賢太 山野 誠 飯塚 毅 渡辺 寛子 榎本 三四郎
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-06-29

第一に、地球ニュートリノ流量モデリング法を地球科学的アプローチから見直すことにより、地震波トモグラフィのデータが得られればほぼ自動的にニュートリノフラックスを計算する方法が開発され、今後、世界的に爆発的な蓄積量増加が期待される地球ニュートリノ観測データに対応できる方法論を確立した。第二に、地球ニュートリノデータの安定取得方法論を確立した。第三に、到来方向検知型検出器の原理検証を模擬粒子を用いて行い、将来の地球ニュートリノイメージングに向けた技術基盤とした。
著者
吉田 健太 桑谷 立 安本 篤史 原口 悟 上木 賢太 岩森 光
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Geochemical data from geological samples show compositional trends that reflect the material differentiation and assimilation occurred during certain geological processes. These trends often comprise groups in a multidimensional compositional space and are distributed in real space as geological units ranging from millimeters to kilometers in scale (e.g., Ueki and Iwamori, 2017). Therefore, spatial contextual information combined with chemical affinities could provide fundamental information about the sources and generation processes associated with the samples.However, conventional clustering algorithms such as k-means and fuzzy c-means (FCM) cluster analysis do not fully utilize the spatial distribution information of geologic samples. In this study, we propose a new clustering method for geochemical datasets with location coordinates. A spatial FCM algorithm originally constructed for image segmentation was modified to deal with a sparse and unequal-spaced dataset. The proposed algorithm evaluates the membership function modified using a weighting function calculated from neighboring samples within a certain radius.We applied new algorithm to a geochemical dataset of granitoids in the Ina-Mikawa district of the Ryoke belt that was compiled by Haraguchi et al. (2017), showing that samples collected from the same geological unit are likely to be classified as the same cluster. Moreover, overlapping geochemical trends are classified consistently with spatial distribution, and the result is robust against noise addition compared with standard FCM analysis.The proposed method can be calculated in the “GEOFCM” Excel® sheet provided as supplementary material and on our website (http://dsap.jamstec.go.jp). Geological datasets with precise location coordinates are becoming increasingly available, and the proposed method can help find overviews of complicated multidimensional data structure.
著者
原口 悟 上木 賢太 桑谷 立 吉田 健太 モハメド 美香 堀内 俊介 岩森 光
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2017年のJpGU-AGU(原口ほか,2017)で、日本国内出版文献に掲載されている地球化学データのコンパイルを行うデータベース「DODAI」を報告した。前回報告以降もデータ収集を継続し、2017年末までに224論文5818サンプルの化学データをコンパイルした。今回、これらのデータ収集を通して明らかになった、「フォーマットの統一」に関連する問題点を以下に3点報告する。1つ目は、化学組成の分析に当たって、多くの「分析装置」による様々な「分析手法」が用いられていることである。主要元素は、1970年代までは「湿式分析」が主流であったが、1980年代に入って「XRF」が急速に広まった。この過程で、従来鉄はFe2+ (FeO)とFe3+ (Fe2O3)を分けて分析されていたのが、全FeOまたはFe2O3に一本化する分析に移行した。現在でも全岩化学組成のFe2+とFe3+を分けて分析する手法は湿式分析だけであり、主要元素をXRFで分析していても、Fe2+だけを湿式分析で分析することが行われている。このような鉄の分析のバリエーションが地球化学データベースに含まれていることには注意を要する。2つ目は、分析される微量元素の組み合わせが分析機関により様々なことである。微量元素の分析は、現在ではXRFの他、ICP-MS等の質量分析装置を用いた方法、INAA等の放射化分析等が使われている。XRFは分析が簡便であるため、多くの機関で主要元素とともに分析が行われているが、分析元素の選択が機関・目的により様々である。ICP-MS, INAAは高精度の分析が可能で、多くの微量元素を網羅的に分析することが可能であるが、全ての元素をカバーする分析を恒常的に実施する例が少なく、データ数が少ない。このため、データベースを利用した多変量解析に用いる元素の組み合わせによっては、解析に使用できるサンプル数が激減することがありうる。3つ目は、研究が行われた時期、および研究者が専門とする分野によって地質の解釈が変化することである。例えば、四万十帯に代表される「付加体」の地質構造は、「付加体地質学」の導入により、形成過程の理解が急速に進んだが、個々の岩体の記載は、付加体地質学導入以前の研究に基づくものと、付加体地質学に基づいた新たな解釈によるものがあり、現在でも両者が混用されている。また、付加体中の海洋プレート起源の火山岩は、弱変成作用を受けているため、「緑色岩」とも呼ばれるが、研究者によって「火山岩」「変成岩」と見方が異なっている。シームレス地質図統一凡例(産総研,2015)のように,これらの見方を統一する試みもあるが,依然としてこのような様々な「解釈の違い」が地球化学データに含まれることはコンパイルを行う上での注意点である。本報告では、これらの「フォーマットの不統一」に関係する地球化学データベースが含む問題を取り上げるとともに、不統一の解消を図る方法について考えたい。
著者
寺田 暁彦 石崎 泰男 吉本 充宏 上木 賢太
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

土壌気体水銀(GEM)放出率測定方法を構築して,箱根火山大涌谷噴気地において観測試験を行い,有効性を確認した.この結果に基づき,草津白根火山においてGEM観測を2017年に行った.その結果,将来噴火口になり得る破砕帯に相当すると思われる,高GEM放出域を白根火砕丘の南および南西斜面に見出した.また,地質調査に基づき,白根火砕丘南側から本白根山にかけて,過去に爆発的噴火が繰り返し発生してきたことが判明した.既存の物理観測網は湯釜火口湖を取り囲むように配置されている.現状よりも南側領域における観測点の整備が,今後の草津白根火山の監視上の課題である.