著者
上野 祥史
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.185, pp.349-367, 2014-02-28

中国鏡は,弥生時代中期後半から古墳時代前期前半を通じて,継続して日本列島に流入した舶載文物である。北部九州を中心とした弥生時代の鏡分配システムから,近畿地方を中心とした古墳時代の鏡分配システムへの転換は,汎日本列島規模の政体が出現した古墳時代社会の成立過程を考える上で重要な視点を提供する。日本列島内における中国鏡の分配システムの変革という視点で評価を試みた。北部九州を中心とする分配システムは,集積と形態という二つの指標から検討した。集積副葬は漢鏡3期鏡が流入する段階から漢鏡5期鏡が流入する段階,すなわち弥生時代中期後半から後期後半まで継続しており,配布主体と想定できる集積副葬墓が実在するこの期間を通じて分配システムは機能したと論じた。なお,漢鏡3期鏡の序列の継続性を検討すべく,各段階の鏡の形態を検討した結果,早くも後期初頭の漢鏡4期鏡が流入する段階に,流入鏡に大きな変化が生じたことを指摘した。ここを起点に,弥生時代中期後半から後期後半までの期間に日本列島に流入した鏡を中国世界の視点で評価した。この期間における漢鏡の流入は安定性を以て形容されることが多いが,紀元前1世紀後葉に停滞期が介在するなど,決して一様ではないことを指摘したのである。近畿地方を中心とする分配システムについては,その成立時期をめぐる議論を整理し,各地域社会における漢鏡6・7期鏡の保有状況を比較検討することが一つの視座を提供するがあることを主張し,瀬戸内海沿岸・日本海沿岸・近畿地方・近畿地方以東に分けて各地域社会の様相を整理した。その結果,漢鏡6・7期鏡が流入する段階には,瀬戸内海沿岸地域の優位性を保ちつつ,北部九州から関東地方に至るネットワークが存在していたことを指摘した。そこに,卓越した配布主体は見出しにくく,後に卑弥呼を「共立」させる状況にも通ずる,「分有」された状況を想定したのである。漢鏡6・7期鏡が流入する段階は,北部九州で分配システムが終焉を迎え,瀬戸内海ネットワークを中心に汎日本列島規模の紐帯が形成された。2世紀の庄内式期に生じた分配システムの変革を,列島内交易ルートの変質とも関連した一つの画期であることを改めて指摘した。
著者
上野 祥史
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.217, pp.291-317, 2019-09

器物を媒介とした政治関係は,分与者の視点で語られる傾向が強い。器物の価値を自明とする意識を相対化し,分与者および受領者が価値を認識する場やプロセスに注目した検討が求められる。朝鮮半島南部の出土鏡は,その問題をもっとも先鋭化させ鮮明にする資料である。本論では,古墳時代と並行する三国時代において,朝鮮半島南部が保有した鏡をもとに,その入手経緯を整理し,倭王権が鏡分与を通じて企図した秩序とその構造を検討することで,倭韓の交渉の実態を描出しようと試みた。まず,朝鮮半島南部出土鏡の概要を整理し,中国での鏡の保有状況と日本列島での鏡の保有状況を対照して,中国鏡と倭鏡の流入プロセスを検討した。中国鏡の流入は,倭韓が対中国交渉を共有し,相互に関係をもちつつも独立した交渉を進め個別に入手したものとして理解することを提案した。倭鏡では,王権からの直接分与か二次流通を介した間接分与かを,価値の認識という視点で検討した。間接分与でも王権が意図した秩序は機能すること,日本列島内部でも間接分与がみえることから,倭王権が意図した秩序は,直接分与に限定しない柔軟な,拡大の可能性を内包する秩序であることを示した。朝鮮半島南部の倭鏡は,北部九州を介した間接分与(二次流通)が想定できることを指摘した。倭韓の交渉の実態を詳述するとともに,鏡を媒介とした秩序が,絶対基準を強く意識しすぎること,分与者と受領者の相互承認を強調しすぎることを改めて指摘し,第三者の認識を可能にする装置としての意義も考える必要があること,朝鮮半島南部の帯金式甲冑や鏡にはそうした機能が期待されたことを示した。
著者
友田 正彦 大田 省一 清水 真一 上野 祥史 小野田 恵 ファム レ・フイ ブイ ミン・チー グェン ヴァン・アイン
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

実物遺構が現存しない14世紀以前のベトナム木造建築の上部構造の解明に寄与することを主目的に、建築型土製品等の考古遺物と現存建築遺構等の現地調査をベトナム北部各省と中国国内で計6次にわたり実施した。これにより、ベトナムにおける中国建築様式の段階的かつ選択的な受容のあり方について新知見を加えるとともに、ベトナム木造建築様式の独自性が李・陳朝期に溯ることを明らかにした。ハノイでの研究会開催や、日越両語による研究論集の刊行を通じ、ベトナム北部出土建築型土製品の調査データも含めた研究成果を公開するとともに、従来あまり知られていなかった研究資料を提供することができた。
著者
松本 直子 桑原 牧子 工藤 雄一郎 佐藤 悦夫 石村 智 中園 聡 上野 祥史 松本 雄一
出版者
岡山大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

ヒトが生み出す物質文化には、身体機能の拡張を果たす技術と、感性や価値観にうったえてヒトの心を動かす芸術という二つの側面がある。本計画研究では、「アート」として包括されるその両面が身体を介して統合される様相に焦点を当て、日本列島、メソアメリカ、アンデス、オセアニアにおけるアートの生成と変容の特性を比較検討する。アート(技術・芸術)によるヒトの人工化/環境のヒト化という現象を、考古学的・人類学的・心理学的に分析することにより、社会固有のリアリティ(行動の基準となる主観的事実)が形成される歴史的プロセスを解明し、新たな人間観・文化観を提示することを目的とする。