- 著者
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宮崎 信之
中山 清美
- 出版者
- 国立科学博物館
- 雑誌
- 国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, pp.235-249, 1989
- 被引用文献数
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2
奄美大島の笠利町立歴史民俗博物館に保存されている頭骨を含む鯨類の骨格調査, 地元の漁師および公民館の職員などに対して行なった鯨類に関する聞込み調査, および財団法人日本鯨類研究所に保管されている大型鯨類の漁獲記録の調査を行ない, 奄美大島における鯨類の漂着記録, 発見記録および捕獲記録を解析した。 この調査により, 10種類(セミクジラ, シロナガスクジラ, ナガスクジラ, ザトウクジラ, ニタリクジラ, マッコウクジラ, バンドウイルカ, オキゴンドウ, シワハイルカ, およびアカボウクジラ科の一種)の鯨類が確認された。漂着鯨類の調査では, 7種9例が記録された。1942年10月19日に竜郷町円の海岸に集団漂着したマッコウクジラの記録は, 竜郷町公民館に保管されている当時の写真から確認された。1989年にはバンドウイルカの集団漂着が2例あった。このうち, 4月20日の例は, 地元の人々の協力で漂着した33頭のイルカを無事に海に戻したという点で特筆される。奄美大島の久根津では, 1911年(明治44年)から1923年(大正12年)まで大型鯨類の捕獲・解体が行なわれていた。その後も, 散発的に捕鯨が行なわれ, 1962年(昭和37年)以降操業を停止した。その間に捕獲された大型鯨類のうち, 日本鯨類研究所の鯨漁月報に記録・保管されている5年間 (1914,1919,1921,1922および1934) の漁獲記録を調査した。大型鯨類6種類155頭が記録されており, 捕獲頭数の最も多い種類はザトウクジラで, 全体の84.5%を占めており, 次はマッコウクジラ(6.5%), ナガスクジラ(4.5%), シロナガスクジラ(3.2%), セミクジラ(0.6%)およびニタリクジラ(0.6%)の順である。これらの鯨類の捕獲位置や雌雄別体長組成についても解析した。奄美大島近海に生息しているバンドウイルカでは, 成体になると白色の腹部体表面に黒色斑点が見られる。この特徴は, 伊豆半島近海のバンドウイルカには認められない。そこで, 両者の類縁関係を明らかにするために, 両海域のバンドウイルカの間で頭骨と雌雄の成体の平均体長を比較した。その結果, 奄美大島産のバンドウイルカは伊豆近海産のそれとは異なった系統群か, あるいは亜種に属していることが示唆された。