- 著者
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相馬 正之
村田 伸
甲斐 義浩
中江 秀幸
佐藤 洋介
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.48100289, 2013 (Released:2013-06-20)
【はじめに、目的】足指・足底機能は,立位・歩行時に足底が唯一の接地面となることから,その重要性が指摘され,足趾把持力に関する多くの報告が行われている.足趾把持力は,短母指屈筋,長母指屈筋,虫様筋,短指屈筋,長指屈筋の作用により起こる複合運動であり,手の握力に相当するものと考えられている.現在の測定方法は,端座位で,体幹垂直位,股,膝関節を90 度屈曲し,足関節底背屈0°の肢位で行われている.その肢位により測定された足趾把持力は,転倒経験者では低下していること,トレーニングによって強化が可能であり,強化することで転倒者が減少することから,足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されている.しかし,この足趾把持力の測定肢位については,十分な検討がされていない.手関節においては,手関節背屈により手指の屈曲が生じ,掌屈により伸展が生じるTenodesis action(固定筋腱作用)が存在する.手指の把持動作時には,この作用を効果的に用いるために手関節を背屈位に保ち,手関節を安定させることが報告されている.このように手指の把持動作においては,手関節の角度変化によって握力への影響が報告されているものの,足趾把持力に関する足関節角度の影響については指摘されていない.そこで本研究では,足関節の角度変化が足趾把持力に与える影響について検討した.【方法】対象は,健常成人女性20 名(平均年齢21.5 ± 1.0 歳,平均身長158.4 ± 4.2cm,平均体重52.2 ± 5.0kg)とした.いずれも下肢に整形外科的疾患や疼痛などの既往はなかった.測定項目は利き足の足趾把持力とした.足趾把持力の測定は,足趾把持力計(TKK3362,竹井機器工業社製)を用いた.足趾把持力の測定肢位は端座位とし,体幹垂直位,股,膝関節を90 度屈曲位で,足関節をそれぞれ,背屈位10°,底背屈位0°,底屈位10°の各条件で測定した.この足関節角度の設定には,足関節矯正板(K2590M,酒井医療社製)を用いた.足趾把持力の測定は,2 回ずつ測定し,その最大値を採用した.統計処理は,足関節背屈位,底背屈中間位,底屈位間の足趾把持力の比較に,反復測定分散分析およびBonferronniの多重比較検定を採用し,危険率5%未満を有意差ありと判定した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容について説明し,理解を得たうえで協力を求めた.また,研究への参加は自由意志であり,被験者にならなくても不利益にならないことを口答と書面で説明し,同意を得て研究を開始した.本研究は,東北福祉大学研究倫理委員会の承認(RS1208283)を受け実施した.【結果】足趾把持力は,足関節背屈位が平均19.0 ± 4.1kg,底背屈中間位が平均18.9 ± 3.4kg,底屈位が平均16.8 ± 4.9kgであった.反復測定分散分析の結果,3 群間に有意な群間差(F値=8.5,p<0.05)が認められた.さらに,多重比較検定の結果,足関節底屈位での足趾把持力は,背屈位および中間位より有意に低値を示した(p <0.05).【考察】本結果から,足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された.この要因の1 つには,足指屈曲筋の活動張力の減少と相反する足指伸展筋の解剖学的な影響が考えられる.足趾把持力に関与する長母指屈筋,長指屈筋などは多関節筋であり,足関節底屈により筋長が短縮する.そのため,発揮できる筋力は,張力−長さ曲線の関係から低下したものと考えられる.また,足関節底屈位の足指の屈曲動作では,相反する足指伸筋群の筋長が伸張されることにより,最終域までの足指屈曲が困難になることから,筋力が発揮できていないことが推測された. さらに,足関節底屈時には,距腿関節において関節の遊びが生じる.このことから,足関節底屈位の足趾把持力発揮では,足関節の安定性が不十分となり,筋力の発揮に影響を及ぼしたものと考えられる.本結果からは,足関節角度と足趾把持力発揮の関係から,歩行場面において平地および上り勾配では,足趾把持力が発揮されやすいが,下り勾配では発揮しにくいことが推測される.そのため,高齢者では,下り勾配において足趾把持力による姿勢の制御能が低下し,転倒の危険性が増大する可能性が示された.【理学療法学研究としての意義】足趾把持力への介入が転倒予防に有用であることが示されているものの,測定肢位については,十分な検討がなれていなかった.本結果から足趾把持力は,足関節底屈位より底背屈中間位から軽度背屈位の方が最大発揮しやすいことが示唆された. このことから足趾把持力の計測は足関節を底背屈中間位もしくは軽度背屈位で計測する必要があることが示された.