著者
中西 準子 尾張 真則 OIKAWA Teiic DA Costa Man DA Conceicao 原田 正純 MANOEL Quaresma da Costa SILVA PINHEIRO Maria da SILVA Pinhei 高橋 敬雄 横山 道子 鶴田 俊 PINHEIRO Mar CARDOSO Bern GERALDO de A
出版者
横浜国立大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

ブラジル共和国パラ連邦大学熱帯医学研究センターとの共同で、アマゾン川流域での水銀汚染が人の健康に及ぼす影響を、1992年から1998年まで調査した。人の頭髪中水銀値を測定することにより、人の健康へのリスクを推定すると同時に、臨床診断によりメチル水銀中毒症状の有無を調べた。主たる調査対象地区は、アマゾン川支流タパジョス川中流部の3漁村であるが、他にいくつかの漁村、金採掘現場、都市などについても、比較のために調査を行った。中流部3漁村でのサンプル数454の頭髪中水銀値の濃度分析と統計的解析から、これらの漁村住民の知覚障害発生確率は約4%と推定された。また、20〜39歳までの女性57人を対象にした調査から、新生児の歩行障害(歩き出す時期の遅れ)もありうることが推定された。これをふまえて、頭髪中総水銀濃度20ppm以上の居住者と妊婦を中心に、医師の診断を交えた追跡調査を行った。その結果、低濃度汚染による慢性有機水銀中毒症と断定できる人を3名、その可能性があると思われる人を5名、確認した。3漁村に似た状況の孤立漁村の数は多く、他の漁村も同程度のリスクがあると考えられる。漁村住民の頭髪中水銀濃度は、90%がメチル水銀であることから、魚食による経口曝露と考えられる。そこで、タパジョス川流域の魚12種20サンプルの水銀濃度を分析した結果、日本における海水魚の健康基準値0.4ppmを超えるものが、大型肉食魚から3種、淡水魚の基準値1ppmを超えるものが1種確認された。小型草食魚は低濃度である。魚種による水銀濃度の違いがわかったことにより、妊婦や頭髪中総水銀濃度の高い人達に対して、どの魚を食べるべきかについて指導すれば、ある程度リスク削減が可能である。漁村近傍の3地点における、川の底質の水銀濃度を分析した。昨年度までの6地点を加えた9地点で、0.1ppmを超えるものが1つしかなく、日本やカナダなどの水銀汚染事例に比較すると、底質中水銀値は極めて低い。このことは、アマゾン川の自然条件の特殊性を示唆するものである。
著者
蒲生 昌志 岡 敏弘 中西 準子
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-8, 1996-02-29 (Released:2010-06-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

発がん性物質を含む化学物質への曝露によるリスクの尺度として,損失余命を提案した。損失余命を用いることの利点は,曝露や影響の年齢を考慮できる点,および,がん以外の影響についても推定が可能な点である。ここでは,10-5という生涯発がんリスク(生涯曝露すると10万人に1人がその曝露により過剰に発がんするリスク)を,生命表を用いて損失余命に換算する手法を説明し,推定値を求めた。発がん性物質への曝露と過剰ながん死亡との関係について,放射線発がんのデータを基にしたモデルを基準モデルとし,モデルの検証の意味で,仮定を一部変更したモデルも検討じた。10-5の発がんリスクに相当する曝露レベルに生涯曝露することの損失寿命は66分と推定された。また,同様なレベルの曝露が存在する労働に20歳から49歳の間従事することによる損失寿命は12分と推定された。さらに,平均的な日本人が1年間曝露した場合の曝露年齢での損失余命は0.83分と推定された。
著者
江馬 眞 小林 憲弘 納屋 聖人 花井 荘輔 中西 準子
出版者
日本環境毒性学会
雑誌
環境毒性学会誌 (ISSN:13440667)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.15-26, 2010-06-30 (Released:2014-04-17)
参考文献数
43
被引用文献数
1

The present paper reviews the carcinogenicity study of titanium dioxide(TiO2),widely used in the production of paints paper and plastics, as food additives and colorants, and increasingly, as nanpoparticles in pharmaceutical and cosmetics products, based on data published in openly available scientific literature. Increased incidence of tumors was reported in rats after exposure to respirable, fine or ultrafine TiO2 by inhalation or intratracheal instillation. No increased incidence of tumors was noted in mice or hamster after exposure to TiO2 by inhalation or intratracheal instillation, or in rats or mice given TiO2 by intraperitoneal or subcutaneous injection or by feeding. This review indicates that the incidence of tumors was increased in rats after inhalation or intratracheal instillation of TiO2 at levels associated with particle overload and persistent inflammation.
著者
中西 準子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会誌 (ISSN:03862666)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.61-74, 1991-12-20

中西先生は, 東京大学環境安全センタ-・工学系大学院, 都市工学専攻課程, 助教授でいらっしゃいます.これまてのご研究は, 下水道についての研究から出発して, 下水道と水道との関係, 河川のト-タルプランニングなどを経て, 現在, 環境水質管理の方法について研究していらっしゃるそうです.水の博士といえば, 中西先生のことで, 行政の方でも, 市民運動の方でも, 非常に先生のご研究が確信を強めているのです.これまでのご著書には, 「都市の体制と下水道」 「下水道計画論」 「下水道一水再成の欠落」 「日本の水道はよくなりますか」 「飲み水が危ない」 「いのちの水」その他, たくさんの著書があります.そして, 1988年から89年までは, ミシガン州立大学の客員教授もお勤めになられて, 世界的に水の博士でいらっしゃいます.地球のためにみんなでどのように賢く暮すべきかということにたいへん情熱を持っていらっしゃいまして, 先生のこれまでのご研究の結果の下水道計画では, これまでの下水道についての伝統的な考え方とは全く違った旨をお示しいただいているそうです.先生は本当にお忙しくて, 一般に講演会など, 全然お受けいただけない方とうかがっておりますが, 特に, 家庭科教育学会の本日のために, 例外的に講演を引き受けていただけました.家庭というものが, 地球の人間にどんなに大切か, そのために, そういう教育が大事なのだということをご理解いただいているわけです.なお, -つご紹介申し上げますが, 先生は, 月刊誌で 「水情報」 というのを発行していらっしゃいます.発行人兼編集長でいらっしゃるのですが, 毎月この雑誌をお出しになるのはたいへんなご努力のようです.一般の書店にはございませんが, 東大の都市工学科の方の 「下水道問題連絡会議」, 先生が代表をしていらっしゃるのですが, そちらの方にお申し込みになると, 私どもでも理解して読ませていただけるような本で, いろいろ, 私どもの日常生活はもちろん, 家庭科教育にもよい参考にさせていただけるのではないかと思って, ご紹介させていただきました.先生, どうぞよろしくお願いいたします.
著者
勝川 木綿 宮本 健一 松田 裕之 中西 準子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.83-92, 2004-06-30
被引用文献数
2

化学物質の生態リスク評価では,内的自然増加率γを指標の一つとして使うことができる.しかし,数多くの卵を水中に放出する多くの魚種では,自然環境下の卵から仔稚魚までの生存率を得ることは困難である.データから推定されたγの絶村値は,推定誤差が大きい.本論文では,化学物質の毒性が魚類個体群に与える影響を評価するため,不明または推定誤差の大きいパラメータを使わずに生態リスクを評価できる簡易方法を提案した.はじめに,化学物質による内的自然増加率γの減少分(Δγ)をリスク評価の指標と定義し,齢構成モデルから計算可能であることを示した.Δγは推定誤差の大きい初期生残率のデータを用いずに計算できる値であり,化学物質が魚類個体群に与える影響を相対的に比較することができる.次に,生活史パラメータが不明な場合,種間外挿によって未知のパラメータを求め,齢構成モデルを構築する方法を示した.Δγは,個体の繁殖率や生存率の減少など化学物質の毒性が生活史パラメータに与える影響により決まる値である.内的自然増加率の減少率Δγを指標として使う場合,(1)成熟齢や極限寿命など生活史の異なる生物の生態リスクを相村的に比較することが可能である,(2)卵の受精率,孵化率の減少や仔稚魚期の生存率の減少,あるいは成魚の生存率や繁殖率の減少など暴露が様々な生活史段階に与える影響を評価できる,(3)推定誤差が大きい初期生存率のデータを用いずに,化学物質が個体群に与える影響を相対的に比較できる,(4)乱獲など質の異なる生態リスクとの比較が可能である.実際に,ブルーギルについて個体への影響を調べた毒性試験結果から,Δγを用いて個体群への影響を評価した.