著者
関野 有紀 濵上 陽平 田中 陽理 坂本 淳哉 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ae0045, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 不動によって痛みが発生することはヒトおよび実験動物モデルを用いた報告等により周知の事実となりつつある.また,慢性痛の病態のひとつである複合性局所疼痛症候群(CRPS)に関する国際疼痛学会(IASP)の診断基準には患肢の不動の有無が掲げられている.所属研究室の先行研究により,ラット足関節不動化モデルにおいて不動期間が8週間におよんだ場合,中枢神経系の感作を含む慢性痛を呈するが,不動期間が4週間の場合は痛覚過敏のみで,中枢神経系の感作は認められないことが明らかとなっている.このことから,不動に伴う初期の痛みの原因は皮膚,末梢神経を含む末梢組織にあると推測され,実際に,ラット足関節不動化モデルの足底において表皮の菲薄化や末梢神経密度の増加が認められたことをこれまでに報告した.しかし,これらの皮膚組織の変化と不動に伴う痛み発生との関連性は未だ明らかにできていない.よって,本研究の目的は皮膚組織に着目し,その変調をさらに詳細に解析することにより,不動に伴う痛み発生メカニズムを探索することである.【方法】 実験動物には8週齢のWistar系雄性ラット20匹を用い,4週間通常飼育する対照群(n=10),右側足関節を最大底屈位にて4週間ギプス固定する不動群(n=10)に振り分けた.実験期間中、機械的刺激に対する痛みの指標としてvon Frey filament testを実施し,足底部にfilamentで刺激(4,15g ;各10回)を加えた際の逃避反応をカウントした.また,熱刺激に対する痛みの指標として足背部の熱痛覚閾値温度を測定した.すべての測定とも週1回の頻度で経時的に行い,測定は覚醒下でギプスを除去して行った.実験期間終了後,ラットを4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し,足底部中央の皮膚組織を採取した.組織試料は急速凍結させた後に凍結切片とし,以下の検索に供した.まず,HE染色を施した切片を用いて表皮厚を計測した.次に,免疫組織化学的染色により末梢神経(A線維,C線維)を可視化し,表皮層下におけるそれぞれの末梢神経密度を半定量化した.さらに,Nerve growth factor(NGF)に対する蛍光免疫染色を行い,表皮層の染色輝度を測定することにより表皮におけるNGF産生を半定量化した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】 不動を開始して1~2週目から,不動群において4g,15gのvon Frey filament刺激に対する逃避反応回数は増加し,また,足背部の熱痛覚閾値温度は低下した.そして,これらの変化は不動期間に準拠して顕著になり,不動2週目以降のすべての測定において対照群との有意差を認めた.次に,不動4週目の足底皮膚を組織学的に観察した結果,不動群において表皮の菲薄化,角質層の乱れが観察され,表皮厚は対照群のそれより有意に低値を示した.また,不動群の末梢神経密度はA線維,C線維ともに対照群のそれより有意に高値を示し,神経線維が表皮層へ進入する所見が観察された.さらに,不動群の表皮におけるNGF産生は対照群のそれより有意に高値を示した.【考察】 本研究では,4週間の不動に伴い機械的刺激に対する痛覚過敏および熱痛覚閾値の低下が観察され,この結果は先行研究とほぼ一致する.また,足底皮膚においては表皮の菲薄化や角質層の乱れ,表皮に分布する末梢神経の増加が観察された.先行研究によれば,末梢神経の増加は痛覚閾値に関与するとされており,不動に伴う痛覚閾値の低下の一因となっている可能性が高い.一方,皮膚組織の末梢神経の分布や密度に対しては,表皮の主要構成細胞であるケラチノサイトから産生されるNGFが関与するとされている.よって,不動群に認められた末梢神経密度の増加は,ケラチノサイト由来のNGF産生の増加に起因する変化であると推察される.加えて,NGFは痛みの内因性メディエーターとしての機能も知られており,NGF産生の増加自体が痛みの直接的な原因になっていることも十分に考えられる.以上のことから,不動に伴う痛みの発生には皮膚の組織学的変化が深く関与していると推測でき,今後さらに検討を進める必要がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,不動に伴う痛み発生メカニズムに皮膚組織がその責任組織の一端を担っている可能性を提示している.われわれ理学療法士は皮膚組織を含む末梢組織に対して直接的に介入可能であることから,本研究の進展は,不動に伴う痛みに対する理学療法学的な介入方法の開発につながると期待できる.したがって,本研究は理学療法学研究として十分な意義があると考える.
著者
吉村 俊朗 中野 治郎 本村 政勝
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)および抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体)共に陰性で筋無力症が疑われる患者の中に筋萎縮性側索硬化症もある。誘発筋電図でもWaningが認められ、テンシロンテストも陽性と判断されることがあり、抗体陰性の重症筋無力症の鑑別に重要と結論した。運動終板に補体C3の沈着が認められ、postsynaptic foldの減少も認められた。αバンガロトキシンの減少も認められる例もある。意義付けが困難であるが、眼筋型MGでは、AChR抗体が陰性のことが多く補体の沈着があることがある。測定感度以下のAChR抗体が関与する可能性や、AChR抗体以外の抗体の関与が考えられる。補体の沈着もなく、postsynaptic foldの減少があり、臨床像は、四肢近位筋の筋力低下があり、他の抗体もしくは、先天性の可能性など、今後の検討が必要である。ヒト抗MuSK抗体は、ラットの再生筋の運動終板においてもいても、ヒト運動終板と類似の変化をもたらす。 抗MuSK抗体は Postsynaptic areaの形成に影響を及ぼす。抗ラミニン抗体は抗体陰性の筋無力症の原因でありうる可能性を否定できないが、電気生理学的な検討も含めて、今後の検討が必要である。ラミニンも運動終板の形成に関与している可能性がある。
著者
坂本 淳哉 片岡 英樹 吉田 奈央 山口 紗智 西川 正悟 村上 正寛 中川 勇樹 鵜殿 紀子 渋谷 美帆子 岩佐 恭平 濱崎 忍 三村 国秀 山下 潤一郎 中野 治郎 沖田 実
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P1138, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】大腿骨近位部骨折(以下、近位部骨折)術後の多くの症例では、痛みは骨折部や術創部がある股関節周囲に発生し、骨癒合と術創部の治癒が進むに従い消失する。しかし、これらの治癒が進んでも痛みが残存する症例や、股関節周囲の遠隔部に痛みが発生する症例も存在し、このような症例では痛みが理学療法プログラムの進行の阻害・遅延因子となることがある。このような近位部骨折術後の痛みの実態に関しては経験的には把握しているものの、痛みの発生率や発生部位、程度などの基礎資料を提示した報告は非常に少ない。そこで、本研究では近位部骨折術後の痛みの実態把握を目的に理学療法開始時からの痛みの発生状況を調査した。【方法】対象は、2008年7月から2009年8月までに当院整形外科にて観血的治療を受け、理学療法を行った大腿骨頚部骨折23例、大腿骨転子間骨折3例、大腿骨転子部骨折22例、大腿骨転子下骨折5例、大腿骨転子部偽関節1例の計54例(男性9例、女性45例、平均年齢83.1歳)で、術式の内訳は人工骨頭置換術11例、ガンマネイル12例、compression hip screw (以下、CHS)15例、鍔つきCHS 6例、ハンソンピン7例、その他 3例である。なお、理学療法は平均して術後8.3日から開始した。調査項目は1)安静時痛(背臥位)、動作痛(起き上がり、立ち上がり、歩行)を有する対象者の割合(以下、有痛者率)、2)安静時痛、動作時痛の発生部位、3)安静時痛、動作時痛の発生部位の中で最も痛みが顕著であった部位(以下、最大疼痛部位)の痛みの程度とした。なお、痛みの発生部位については対象者がその部位を身体図に提示した結果を用い、川田らの報告(2006)に準じて腰部、鼠径部、臀部、大転子部、大腿前面、大腿外側、大腿内側、大腿後面、膝部以下の9箇所に分類した。また、痛みの程度はvisual analog scale(以下、VAS)で評価した。調査期間は理学療法開始時から12週後までとし、上記の調査項目の経時的変化を捉えるため2週毎に行った。そして、対象者を理学療法開始時の改訂長谷川式簡易知能評価スケールの得点により21点以上の非認知症群と20点以下の認知症群に分け、分析を行った。【説明と同意】本研究は、当院臨床研究倫理委員会において承認を受け、当院が定める個人情報の取り扱い指針に基づき実施した。【結果】安静時痛の有痛者率は理学療法開始時、非認知症群が約20%、認知症群が約47%であったが、4週後には非認知症群が約5%、認知症群が約11%に減少した。また、安静時痛の発生部位のうち鼡頚部、大転子部といった股関節周囲が占める割合は理学療法開始時、非認知症群が約20%、認知症群が約7%であったが、これは4週後にほぼ消失した。一方、動作時、特に歩行時痛の有痛者率は理学療法開始2週後で、非認知症群が約70%、認知症群が約83%で、6週後でも両群とも約40%までしか減少せず、それ以降も増減を繰り返した。また、理学療法開始時の動作時痛の発生部位は両群とも、大腿後面・内側・外側・前面および膝部以下で全体の約60%以上を占め、この傾向は12週後でも変化なかった。痛みの程度として、非認知症群の安静時痛のVASは理学療法開始時から12週時まで1以下であったが、認知症群は理学療法開始時から2週後まで2~3と非認知症群より高値を示した。また、動作時痛のVASは理学療法開始時、非認知症群が4.6、認知症群が6.5と認知症群が高値を示し、両群とも経時的に減少したが、12週後でも非認知症群が3.0、認知症群が4.6と認知症群が高値であった。【考察】今回の結果から、安静時痛の有痛者率は経時的に減少し、特に股関節周囲に存在する痛みが消失した。つまり、安静時痛は近位部骨折の受傷、あるいは手術侵襲といった組織損傷に伴う炎症に起因した痛みであると推測できる。一方、動作時痛、特に歩行時の有痛者率は経時的に減少するものの、残存する傾向があり、その発生部位も骨折部位から離れた大腿部や膝部以下に認められることから、炎症に起因したものとは考えにくい。次に、非認知症群と認知症群を比較すると安静時痛、ならびに動作時痛の有痛者率やその発生部位について違いは認められず、このことから痛みの発生状況に関しては認知症の影響は少ないといえる。ただ、痛みの程度に関しては認知症群が非認知症群より高いことから、情動面が影響しているのではないかと推察される。【理学療法学研究としての意義】近位部骨折術後の痛みについて、有痛者率、発生部位、ならびにその程度といった実態の一部を明らかにしたことは今後の理学療法を考える上でも貴重な基礎資料になると考えられる。
著者
中野 治郎 石井 瞬 福島 卓矢 夏迫 歩美 田中 浩二 橋爪 可織 上野 和美 松浦 江美 楠葉 洋子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.277-284, 2017 (Released:2017-09-08)
参考文献数
21
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,化学療法実施中に低強度の運動療法を適用した造血器悪性腫瘍患者における運動機能,倦怠感,精神症状の状況を把握することである.【方法】対象は化学療法実施中に低強度の運動療法を適用した入院中の造血器悪性腫瘍患者 62名とし,運動療法の介入時と退院時の握力,膝伸展筋力,歩行速度,日常生活動作能力,全身状態,倦怠感,痛み,不安,抑うつを評価した.そして,各項目の介入時から退院時への推移を検討した.【結果】介入時と退院時を比較すると,膝伸展筋力は一部の患者では低下していたが,歩行速度,ADL能力,全身状態は9割以上の患者で維持・改善されていた.また,女性では倦怠感,不安,抑うつの改善傾向が認められたが,男性では認められなかった.【結論】化学療法実施中に低強度の運動療法を適用した造血器悪性腫瘍患者の運動機能は維持・改善しており,倦怠感,不安,抑うつの変化には性差が認められた.
著者
沖田 実 中居 和代 片岡 英樹 豊田 紀香 中野 治郎 折口 智樹 吉村 俊朗
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.63-69, 2004-02-20
被引用文献数
9

本研究の目的は,温熱負荷ならびに温熱負荷と持続的筋伸張運動を併用した場合の廃用性筋萎縮の進行抑制効果を明らかにすることである。実験動物は,7週齢のWistar系雄ラットで,1週間の後肢懸垂によってヒラメ筋に廃用性筋萎縮を惹起させるとともに,その過程で約42この温熱ならびに持続的筋伸張運動,両者を併用した方法を負荷し,筋湿重量とタイプI・II線維の筋線維直径の変化,Heat shock protein 70(Hsp70)の発現状況を検索した。温熱負荷によってHsp70の発現が増加し,タイプI・II線維とも廃用性筋萎縮の進行抑制効果を認めた。そして,これはHsp70の作用によってタンパク質の合成低下と分解完遂が抑制されたことが影響していると考えられた。一方,持続的筋伸張運動でも廃肝吐筋萎縮の進行抑制効果を認めたが,温熱負荷と併用した方法がより効果的であり,これはHsp70の作用と機械的伸張刺激の作用の相乗効果によるものと推察された。
著者
中田 彩 沖田 実 中居 和代 中野 治郎 田崎 洋光 大久 保篤史 友利 幸之介 吉村 俊朗
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-5, 2002-02-20
被引用文献数
10

本研究では, 臥床によって起こる拘縮を動物実験でシミュレーションし, その進行過程で持続的伸張運動を行い, 拘縮の予防に効果的な実施時間を検討した。8週齢のIcR系雄マウス34匹を対照群7匹と実験群27匹に振り分け, 実験群は後肢懸垂法に加え, 両側足関節を最大底屈位で固定し, 2週間飼育した。そして, 実験群の内6匹は固定のみとし, 21匹は週5回の頻度で足関節屈筋群に持続的伸張運動を実施した。なお, 実施時間は10分(n=8), 20分(n=7), 30分(n=6)とした。結果, 持続的伸張運動による拘縮の進行抑制効果は実施時間10分では認められないものの, 20分, 30分では認められ, 実施時間が長いほど効果的であった。しかし, 30分間の持続的伸張運動でも拘縮の発生を完全に予防することはできず, 今後は実施時間を延長することや他の手段の影響を検討する必要がある。