著者
今村 彰生 岡山 祥太 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2026, (Released:2021-05-24)
参考文献数
20

琵琶湖に生息する淡水魚には産卵期に流入河川へ遡上する種が多数含まれるが、遡上量の大きい河川ではこれらの魚種を水産資源として利用すべく、定置罠「簗」が設置される。簗がもたらす魚類群集への影響を検証するため、本研究では琵琶湖淀川水系の固有亜種であり、絶滅危惧種でもある魚食魚ハスを対象に、産卵遡上期の個体数密度、性比、体長、産卵行動の頻度について、簗の有無(知内川と塩津大川の比較)および簗の開閉(知内川での比較)の影響を調べた。照度、水温、濁度、流速の測定も行うことで、ハスの保全において重要な因子の抽出を目指した。河川間比較の結果、産卵行動の頻度は知内川で高く、濁度と産卵行動の頻度の間に見られた負の関係性から、濁度の影響が示唆された。簗が設置されている知内川では個体数が多く、相対的にハスの産卵場所として好まれていると考えられた。個体サイズも知内川において大きかった。知内川の簗開時期には個体数密度と産卵頻度に正の相関が見られたが、知内川の簗閉時期には個体数密度と産卵頻度の関係が負に逆転していた。メスの比率は常に 0.5を下回り、知内川の簗閉時期で最も小さく知内川の簗開時期が続き、塩津大川で最大だった。以上の結果から、簗閉時期は産卵可能な流程が制限され、個体数密度が過剰である可能性が示唆された。したがって、ハスの遡上および産卵の成功度を上昇させるには、塩津大川のような遡上の少ない河川の濁度を下げて個体数を増やすことや、知内川のような遡上の多い河川での簗の無効化などが考えられる。近年の簗はアユ漁が主目的であるが、アユ個体群のみならずハス個体群への影響を考慮した、禁漁期間の設定や設置位置の微変更などの運用のさらなる工夫が有効であろう。
著者
今村 彰生 速水 花奈 坂田 雅之 源 利文
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.71-81, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
30

サケ科イワナ属のオショロコマ(Salvelinus malma malma)は、国内では降海しない陸封型が北海道にのみ生息し、環境省レッドデータブックの絶滅危惧Ⅱ類(VU)に選定されている。一般に河川最上流域に生息し、オショロコマより下流には同属のエゾイワナ(S. leucomaenis leucomaenis)が分布するとされている。これらは、人工的河川横断構造物と外来種のニジマス(Oncorhynchus mykiss)の定着によって個体数が減少している可能性がある。そこで、環境DNA分析手法を用いて年間を通したサンプリングを行い、オショロコマ、エゾイワナ、およびニジマスそれぞれの生息の有無とその季節変化を調べた。大雪山系周辺の石狩川水系支流の支流系1、ピウケナイ川、オサラッペ川を調査地とし、構造物の上下での採水を含め、計16地点で採水を行った。その結果、支流系1流域ではオショロコマが最上流域、エゾイワナが中上流域で検出され、ニジマスは下流域でのみ検出された。ピウケナイ川流域ではオショロコマとニジマスが全地点で検出され、エゾイワナは検出されなかった。一方、オサラッペ川では3種いずれも検出率が低かった。調査地点ごとの検出の有無について一般化線形混合モデルによる解析を実施したところ、移動の時期や方向性および構造物の障壁としての機能などは明確にできなかったが、オショロコマが上流に多いのに対して、エゾイワナとニジマスは下流に多い傾向を示し、しかもオショロコマとニジマスについては排他的ではない可能性が示された。しかし、これはニジマスによる競争排除が無いことを保証せず、有効性が示された環境DNA分析を駆使し、継続的なモニタリングを行い定量的な把握を目指す必要があるだろう。
著者
今村 彰生 速水 花奈 坂田 雅之 源 利文
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.162-172, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
13

本研究は,環境DNAによりニジマスOncorhynchus mykissの分散ポテンシャルをマップ化し,さらに環境DNAメタバーコーディングにより在来魚群集の生息状況をマップ化することを目的とした.その上で,在来魚群集にとって好適な水系や生息地を抽出し,ニジマスの分散から受けるリスクの大小を視覚化した「ハザードマップ」を作成し,在来魚群集の保全への具体的な指針の提示を目指した.調査地はPNF27期助成での調査地の3地点と29期に合わせて追加した地点の計16地点とした.2018年10月—2019年8月にかけて1ヶ月に1回の環境水の採集を計11回実施しMiFish法によるメタバーコーディングを実施した.その結果,サケ科やコイ科を含め12科36群の魚類を検出した.地点ごとの種数の範囲は12–23種で,フクドジョウBarbatula barbatula,ドジョウMisgurnus anguillicaudatus,ハナカジカCottus nozawaeが全地点で検出され,外来サケ科のニジマスは16地点で検出された.国内外来種であるナマズも2地点で検出された.全体として,ニジマスを除くと在来種の比率は高かった.重点を置いているサケ科については,ヤマメ(またはサクラマス)Oncorhynchus masou sspp.の検出地点が15,アメマス(広義イワナ)Salvelinus leucomaenis sspp.が12,オショロコマSalvelinus malma sspp.が11,サケ(シロザケ)Oncorhynchus ketaが11と,在来サケ科は全地点で検出された.立地条件を加味して調査地点ごとに整理すると,石狩川中流域(旭川市内)でも検出種数は多く,なかでも旭川市の中心の調査地点旭橋では最大の23種が検出された.また,鱒取川やピウケナイ川という石狩川への流入河川と忠別川の調査地点で検出種数が多い傾向が見られたが,石狩川の支流でもオサラッペやノカナンでは検出種数が少なかった.また,忠別ダムの周囲は上流側下流側を問わず,全体として検出種数が少なかった.以上から,忠別ダムの周辺での淡水魚相が劣化傾向にある一方で,忠別川下流および忠別川と石狩川との合流点より下流において淡水魚相が豊かである傾向が示された.ニジマスとの排他的な関係については計画当初の予測に反して検出できず,今後の検討課題である.
著者
加納 光樹 斉藤 秀生 渕上 聡子 今村 彰伸 今井 仁 多紀 保彦
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.109-114, 2007-03-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
25
被引用文献数
12

2005年1月から2006年1月にかけて, 渡良瀬川水系の水田周辺にある排水路において, カラドジョウとドジョウの出現様式と食性を調査した。調査期間中に採集されたカラドジョウは171個体 (体長27~115mm) , ドジョウは3023個体 (体長25~149mm) であった。カラドジョウは7月にだけ出現したのに対し, ドジョウは調査期間を通じて出現した。カラドジョウとドジョウの共存時期において, 両種の主要な餌はともにカイミジンコ類, 水生昆虫の幼虫, ホウネンエビであった。どちらの種でも体長30mm未満ではカイミジンコ類を食べていたが, 体長30mm以上になると水生昆虫の幼虫やホウネンエビなども食べるようになった。同じ体長階級ごとに胃内容物組成についてSchoenerの重複度指数を算出したところ, 0.69~0.90の高い値が示され, 両種が同所的に出現したときの餌資源分割が明瞭ではないことがわかった。
著者
今村 彰 井上 升二 山口 修
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
やどりが (ISSN:0513417X)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.198, pp.21-27, 2003-10-06 (Released:2017-08-19)
参考文献数
24
被引用文献数
1

西南日本に分布する、自生および栽培後放棄状態のタケ・ササ類のタケノコを被食する鱗翅目幼虫を調査した。合計13種のタケ・ササより、合計4026本のタケノコを解剖し、300個体以上の幼虫を採取した。 20℃および15℃で飼育を試みた後に、羽化した成体の形態より種の同定を試みた。モウソウチクからは、1個体の雌が羽化した。ハチクからは、1個体の雌と2個体の雄が羽化した。マダケからは2個体ずつの雌と雄が羽化した。これら全8個体は全て形態的には同一で、ヤガ科のハジマヨトウであった。モウソウチク、ハチクおよびマダケのタケノコからは、ハジマヨトウとは明らかに異なる幼虫はみられなかった。リュウキュウチクからは2個体の雌が羽化した。成体の特徴的な形態からは、未記載種ないしは、ヤガ科のミヤケジマヨトウに近縁の未記載亜種だと思われる。チシマザサからは1個体の雌が羽化し、それはヤガ科のサッポロチャイロヨトウであった。サッポロチャイロヨトウの食樹がチシマザサであることが判明した。この3種のヤガ科の穿孔性幼虫においては、羽化にまで至らなかったどの幼虫段階および蛹にもハチやハエの寄生を示すものはみられなかった。
著者
今村 彰生
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-8, 2013 (Released:2017-11-10)
参考文献数
9

琵琶湖淀川水系上流域の大堰川の上位捕食者であるナマズが,どのような条件下で捕食対象を追尾し捕食するのか,擬似餌を用いた釣りにより,釣果を応答変数として検討した.一般化線形モデル(GLM)と赤池情報量規準(AIC)を用い,説明変数に開始時刻,当日の天気,当日の平均気温,当日の最大風速,前日の降水量,気圧,月齢を用い,釣行時間を補正項として解析した.その結果,当日の天気が選択されたことに加えて,風速が高いことが捕食行動に正の影響を与えているという新たな発見が得られた.一方で,開始時刻,当日の平均気温,当日の最大風速,前日の降水量,気圧,月齢が選択されなかった.
著者
今村 彰生
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.115-125, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
17
被引用文献数
2

琵琶湖淀川水系および三方五湖の固有種であり絶滅危惧種であるハスについて、2011年3月~ 2016年11月にかけて生息調査を行った。2014 年に発表した175 地点に、190 地点を新たに調査した。本研究では北西岸の調査地を重点的に増やし、これによって、ハスの生息が確認できた地点を前報の58 から135 地点に増やすことができた。また、北西部(北湖)にはハスの生息地点が多数存在することが判明した。前報と同様に、説明変数を底質、水路形状、水路の護岸の有無、水路の樹木の有無、ヨシ帯の有無、季節(春、夏、秋)とした一般化線形混合モデル解析を実施した。その結果、ハスの在/ 不在に正の影響を与える要因として、砂質の湖底の重要性が示され、礫質についても重要であることが新たに示された。これら365 地点のうち、332 地点についてハスの成魚と未成魚を区別して記録した。成魚と未成魚がいずれも在の地点が17、成魚のみの地点が41、未成魚のみの地点が65、いずれも不在の地点が209であった。成魚と未成魚の在/ 不在を応答変数行列として、上記の水路形状、水路の護岸の有無、水路の樹木の有無、ヨシ帯の有無を説明変数にPERMANOVA 解析を実施したところ、底質と護岸が有意な影響を与えていることが示された。琵琶湖西岸でのハスの在/ 不在を示した地図に、一般化線形混合モデル解析から得られたハスの生息確率予測値を、色分けして図示したところ、北湖と南湖における生息地の現状の差が明瞭に示され、本研究で新たに調査した北西部にハスの生息地が多数あり、未検出の調査地点にも生息確率が高い地点が複数あった。一方南湖では生息確率の高い地点が極めて少なく、本研究での検出地点以外でのハスの生息の見込みは少ないことが示された。本研究で得られた砂底、礫底の重要性を踏まえ、北湖に砂浜が相対的に多く残存していることも合わせて考えると、今後の砂浜の維持や河川からの砂の供給の重要性についても注目する必要がある。