著者
今村 彰生 岡山 祥太 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2026, (Released:2021-05-24)
参考文献数
20

琵琶湖に生息する淡水魚には産卵期に流入河川へ遡上する種が多数含まれるが、遡上量の大きい河川ではこれらの魚種を水産資源として利用すべく、定置罠「簗」が設置される。簗がもたらす魚類群集への影響を検証するため、本研究では琵琶湖淀川水系の固有亜種であり、絶滅危惧種でもある魚食魚ハスを対象に、産卵遡上期の個体数密度、性比、体長、産卵行動の頻度について、簗の有無(知内川と塩津大川の比較)および簗の開閉(知内川での比較)の影響を調べた。照度、水温、濁度、流速の測定も行うことで、ハスの保全において重要な因子の抽出を目指した。河川間比較の結果、産卵行動の頻度は知内川で高く、濁度と産卵行動の頻度の間に見られた負の関係性から、濁度の影響が示唆された。簗が設置されている知内川では個体数が多く、相対的にハスの産卵場所として好まれていると考えられた。個体サイズも知内川において大きかった。知内川の簗開時期には個体数密度と産卵頻度に正の相関が見られたが、知内川の簗閉時期には個体数密度と産卵頻度の関係が負に逆転していた。メスの比率は常に 0.5を下回り、知内川の簗閉時期で最も小さく知内川の簗開時期が続き、塩津大川で最大だった。以上の結果から、簗閉時期は産卵可能な流程が制限され、個体数密度が過剰である可能性が示唆された。したがって、ハスの遡上および産卵の成功度を上昇させるには、塩津大川のような遡上の少ない河川の濁度を下げて個体数を増やすことや、知内川のような遡上の多い河川での簗の無効化などが考えられる。近年の簗はアユ漁が主目的であるが、アユ個体群のみならずハス個体群への影響を考慮した、禁漁期間の設定や設置位置の微変更などの運用のさらなる工夫が有効であろう。
著者
西大 嵩樹 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.113-119, 2017-11-25 (Released:2018-06-19)
参考文献数
26
被引用文献数
2

Increased turbidity is known to affect feeding of predatory fishes through its effect on prey color, but interactions between turbidity and prey color are not well documented. To determine the effects of turbidity, water temperature, and illuminance on lure color selected by rainbow trout (Oncorhynchus mykiss), investigations were conducted in a fishing pond in Shiga Prefecture (Central Japan) for 11 days during July–October, 2016. Five fishing series with different lures were conducted on each day, eight differently colored lures being used in random order in each series (10-min trials × 8 colors). Generalized linear models, used to explain catch number variations per 10 min (0–6 individuals; Poisson distribution assumed), indicated that turbidity (1.0–13.6 NTU) significantly influenced lure color selection by rainbow trout. Results indicated that brown lures (followed by dark green, black, and gold lures) were most preferred in low turbidity, but least preferred when turbidity was high. In contrast, lures with a greater reflection intensity [pink, orange, and karashi (mustard yellow)] were moderately preferred, regardless of turbidity. Illuminance (1.2 × 102–2.9 × 105 lux) and water temperature (15.2– 25.5˚C) did not affect lure color selected by rainbow trout, but both parameters negatively impacted the number of individuals captured per 10 min. The findings highlighted the importance of environmental conditions (particularly turbidity) on prey preference by predatory fishes.
著者
中澤 翔 瀧澤 一騎 厚東 芳樹 山代 幸哉 佐藤 大輔 丸山 敦夫
出版者
The Japan Journal of Coaching Studies
雑誌
コーチング学研究 (ISSN:21851646)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.209-217, 2018-03-20 (Released:2019-09-02)
参考文献数
34

The purpose of this study was to clarify the relationship between running distance over an 8-month period and both 5000 m running performance and aerobic capacity (VO2max, VO2VT, running economy). The 8-month study period was divided into two segments of 4 months each. It was found that long-distance athletes could run 5000 m in about 15 min 30 s. The analysis also confirmed the following: (1) athletes that ran longer distances in the 8-month period had better 5000m times; (2) they had higher VO2VT; and (3) athletes whose distances were longer in the first half of the study period had better VO2VT and 5000m records in the second half of the period. The anaerobic threshold reached a higher level in runners with greater training distance, resulting in an improvement in race results. Furthermore, based on the fact that the distance run in the first four months effects on VO2VT and 5000 m running times in the latter four months, this study demonstrates the possibility of training effects occurring after a certain latency period. The results implicated that it was important to track running distances as an indicator of race performance.
著者
平石 優美子 小澤 宏之 若井 嘉人 山中 裕樹 丸山 敦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1914, (Released:2020-02-13)
参考文献数
20

沖縄周辺での地域絶滅が危惧される中型海棲哺乳類ジュゴン(Dugong dugon)の環境 DNA分析による分布調査を可能にすべく、ジュゴン由来の DNAを特異的に検出する PCRプライマーセットの開発を試みた。データベース上の DNA配列情報をもとにジュゴンに特異的な配列にプライマーセットを設計し(チトクロム b領域、増幅産物長: 138 bp)、プライマーセットの有効性と特異性を鳥羽水族館の展示水槽で飼育されているジュゴンの組織片(毛根)、糞、飼育水、および近縁種アフリカマナティーの飼育水を用いて確認した。SYBR-Green法を用いた定量 PCRの結果、ジュゴン飼育個体の毛根、糞、飼育水から抽出した DNAは、設計したプライマーセットによって増幅が確認された。ジュゴンの人工合成 DNAは、ウェルあたり 1コピーの条件でも検出可能であった。一方、アフリカマナティーの飼育水から抽出した DNAおよびアフリカマナティーの人工合成 DNAは、増幅が見られなかった。すなわち、このプライマーセットを用いたジュゴンの DNA検出系が、ジュゴンの糞や生息場所の水に対して有効である一方、近縁種が共存していることで生じうる偽陽性は否定できた。これらの結果より、試料保存や多地点同時調査が容易な環境 DNA分析を従来の目視調査と効果的に組み合わせて、ジュゴンの生活範囲をより詳細に確認することが望まれる。
著者
丸山 敦史 柴田 直樹 村田 佳洋 安本 慶一 伊藤 実
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.2678-2687, 2004-12-15
被引用文献数
17

本論文では,観光のためのパーソナルナビゲーションシステム"P-Tour" を提案する.P-Tour は,ユーザが出発地と出発時刻,帰着地と帰着時刻,複数の観光候補地と各地への立ち寄り希望度と時間制約(到着時間帯や滞在時間など)を設定すると,制限時間内で巡回可能かつ最も満足度が高くなるような巡回経路(いくつかの観光地を含む)と各観光地への到着・出発予定時刻を含むスケジュールを算出しユーザに提示する機能を提供する.P-Tour は決定したスケジュールに従い,GPS 機能を備えた携帯端末を介し,ユーザにナビゲーション機能を提供する.提案するナビゲーション機能では,現在地を中心とする地図と次の目的地への経路の表示などの空間的な誘導に加え,各目的地での,滞在可能時間の表示や出発時刻の通知などの,時間的な誘導機能を提供する.遺伝的アルゴリズムを用いて準最適なスケジュールを高速に算出するアルゴリズムを設計・開発し,Java サーブレットとして実装した.PC や携帯端末からウェブインタフェースを介してスケジュールの作成,ナビゲーション機能が利用できる.市販のカーナビゲーションシステム用のデジタル地図を用いた評価実験により,準最適なスケジュールを実用的時間で案内できることなどを確認した.In this paper, we propose a personal navigation system for tourism called P-Tour. In PTour, when a tourist specifies the starting location, the departure time, the returning location, the arrival time and the multiple candidate destinations with relative importance and time restrictions on their arrival and staying time, the nearly best schedule is automatically computed. P-Tour can efficiently navigate the tourist according to the decided schedule through a portable computing device with GPS. In addition to the standard navigation function to guide users to destinations by displaying a graphical map, P-Tour provides temporal guidance for the tourist to follow the schedule. We have developed a route search engine to obtain a semi-optimal solution quickly using techniques of genetic algorithms. The engine has been developed as a Java Servlet and can be used from PCs and portable devices via http protocol. Our experimental results show that our route search engine can compute the nearly best schedule in reasonable time.
著者
中村 哲也 丸山 敦史
出版者
共栄大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、産業観光における果樹産地の地域振興と都市市場開拓を目標としている。具体的には、フルーツパーク、体験型学習型観光農園、農業体験併設型道の駅、農村カフェ、郷土・地場料理体験型宿泊施設等を事例として研究を進めた。そして産地と大都市圏フィールド・リサーチと統計データを使用した実証的分析によって、地方果樹産地の自立と活性化を図った。その結果、名護パイナップルパークや弘前市りんご公園では、食農体験ができる人気施設として、都市住民と地域住民に親しまれていた。また、黒石市のりんご試験場・資料館は、地域生産者の情報交換の場として活用され、観光客も生産者の学習に貢献する施設であった。
著者
中村 哲也 丸山 敦史 矢野 佑樹 Tetsuya Nakamura Maruyama Atsushi Yano Yuki 共栄大学 千葉大学 スウェーデン農業科学大学
出版者
共栄大学国際経営学部
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:1880859X)
巻号頁・発行日
no.7, pp.89-106, 2009
被引用文献数
1

本稿では、栃木産にっこりととちおとめが、香港やバンコクの如何なる購買層に評価されるのか、プロビットモデルを推計し、考察した。分析の結果、下記の諸点が明らかにされた。まず、香港・バンコクにおける国産ナシ品種と国産イチゴ品種の認知度は非常に低かった。今後、栃木産にっこりととちおとめを輸出する際は、輸出専用パッケージ等による品種のイメージアップを図る必要があるだろう。そして、とちおとめは香港では大きさが、バンコクでは香りが評価された。そして、にっこりは中高年層に、とちおとめは女性に評価が高かった。最後に、香港でのにっこりの価格は中国産ナシの4倍、バンコクでのとちおとめの価格はタイ産イチゴの7倍の価格差があった。そして、香港ではにっこりは8割弱が、とちおとめも7割弱が、調査当日の小売価格または若干高くても購入するという回答が得られた。ただし、バンコクでは8割弱が、調査当日の店頭小売価格ならば購入しないという結果となった。そして、プロビットモデルの推計結果から判断するならば、今後の香港でのとちおとめ輸出は、中高年層をターゲットとし、食味評価の高い女性を如何に購買層に取り入れるかが輸出拡大のカギとなるだろう。
著者
中村 哲也 丸山 敦史 矢野 佑樹
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.63-79, 2012-03-15

本稿では、葉取らず、無袋、有袋といった3 つの栽培リンゴについて、色、糖度、価格を消費者に評価してもらい、総合的に比較検討した。その結果、葉取らずの糖度、有袋の色づきの評価は非常に高かった。色づき・甘さとも評価された無袋秋星・北斗・シナノスイート等の中生種は甘さと価格の相関が、有袋ふじ・むつ等は色づきと甘さの相関が確認された。そして一般的に色づきや糖度を評価するのは高齢者や高所得者であった。さらに、品種の価格差が30 円程度ならば若干高くとも高く評価したリンゴを購入するが、100 円以上の価格差がついた場合は購入せず、有袋ふじや無袋秋星を購入する者は著しく減る結果となった。ただし、有袋ふじ・むつ、無袋秋星は、高齢者や高所得者に販売が期待でき、葉取らず・有袋といった栽培方法を上手く使い分けることで、よりよい販売環境の構築が可能になると思われる。
著者
澤田 学 山本 康貴 浅野 耕太 松田 友義 丸山 敦史
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は,各種の表明選好法を社会的関心の高い食品安全性問題に適用し,分析対象とした安全性・環境対応に係る属性に対する支払意志額(WTP : Willingness to Pay)の計測を通して,わが国消費者の食品安全性に対する選好の構造を実証的に明らかにした.分析対象とした具体的な属性は,(1)原産地や遺伝子組換え原料情報(地場産牛肉,生鮮野菜の原産地表示,遺伝子組換え作物の含有率),(2)牛乳製造に関するHACCP認証,(3)サルモネラ食中毒(サルモネラ・フリー卵),(4)トレーサビリティ(生鮮野菜,牛肉),(5)農業生産における環境負荷情報(家畜ふん尿処理対策,野菜の有機など特別栽培方式)である.分析の結果,HACCPラベル付加牛乳は,通常製品の価格よりも5〜10%高い評価を得ること,地場産牛肉の価値を高める第1の要因は,新鮮さで,次いで,安心,おいしさ,廉価性,安全性の順であること,ミニトマトのトレーサビリティに対するWTPは有機栽培野菜に対する評価額の4割程度であること,牛肉のトレーサビリティに対するWTPは牛肉購入価格の5%前後であること,非遺伝子組換え枝豆に対するWTPは遺伝子組換え作物含有率表示に影響を受けるが,含有率のある程度の減少幅については同一のものとみなされていること,せり実験による食品安全性に対する消費者のWTPは,新たに開発したネットワーク型のせり実験システムにおいて安定的で精度の高い結果が得られること,などが明らかにされた.表明選好分析では,被調査者からアンケート調査や実験によって食品安全性やグリーン購入に対する支払意志額を表明させるため,アンケート質問票の内容や実験環境が分析結果に大きく影響する.本研究では,分析課題にそって体系的に回答者の選好表明を引き出すように綿密・周到に設計されたアンケート質問票およびせり実験方法も公開した.
著者
中村 哲也 丸山 敦史 矢野 佑樹 Tetsuya Nakamura Maruyama Atsushi Yano Yuki
巻号頁・発行日
vol.10, pp.63-79, 2012-03-15

本稿では、葉取らず、無袋、有袋といった3 つの栽培リンゴについて、色、糖度、価格を消費者に評価してもらい、総合的に比較検討した。その結果、葉取らずの糖度、有袋の色づきの評価は非常に高かった。色づき・甘さとも評価された無袋秋星・北斗・シナノスイート等の中生種は甘さと価格の相関が、有袋ふじ・むつ等は色づきと甘さの相関が確認された。そして一般的に色づきや糖度を評価するのは高齢者や高所得者であった。さらに、品種の価格差が30 円程度ならば若干高くとも高く評価したリンゴを購入するが、100 円以上の価格差がついた場合は購入せず、有袋ふじや無袋秋星を購入する者は著しく減る結果となった。ただし、有袋ふじ・むつ、無袋秋星は、高齢者や高所得者に販売が期待でき、葉取らず・有袋といった栽培方法を上手く使い分けることで、よりよい販売環境の構築が可能になると思われる。
著者
渡邉 崚 中尾 航平 平石 優美子 釣 健司 山中 裕樹 遊磨 正秀 丸山 敦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.279-293, 2021-02-28 (Released:2021-04-06)
参考文献数
31

ゲンジボタル(Luciola cruciata)は,観光資源や環境指標種として注目されるが,近年,都市化などの人為的影響や大規模な出水による攪乱で個体数は減少しているとされる.保全に不可欠なゲンジボタルの個体数調査は,成虫を目視計数することが多く,幼虫の捕獲調査は破壊的であるため避けられている.本研究では,環境 DNA 分析用の種特異的なプライマーセットを設計し,野外でのゲンジボタル幼虫の定量の可否を検証することで,幼虫の非破壊的な定量調査を提案する.さらに,ゲンジボタルの個体群サイズを制限するイベントを探索することが可能か否かを検証する第一歩として,前世代と同世代の成虫個体数を同地点で計数し,環境 DNA 濃度との関係も調べた.データベースの DNA 配列情報を基に,ゲンジボタルの DNA のみを種特異的に増幅させる非定量プライマーセットⅠ,定量プライマー・プローブセットⅡを設計した.種特異性は,当該種ゲンジボタルおよび最近縁種ヘイケボタルの肉片から抽出した DNA で確認された.定量性は,両種を模した人工合成 DNA の希釈系列に対する定量 PCR によって確認された.プライマー・プローブセットⅡが野外にも適用可能かを確認すべく,2018 年 11 月に野外で採取された環境水に由来する環境 DNA 試料に対して定量 PCR を行った.その結果,環境 DNA 濃度と同時期に捕獲された幼虫個体数との間には正の関係が示された.最後に,幼虫捕獲数および環境 DNA 濃度,その前後の繁殖期の成虫個体数との関係を調べたところ,幼虫捕獲数と前後の成虫個体数には関係は得られなかった.一方,同時期の環境 DNA 濃度との間には負の関係すら得られた.これらの不一致は,長い幼虫期に個体数変動をもたらすイベントが存在することを示唆している.本研究は,野外において,ゲンジボタル幼虫の個体数と環境 DNA 濃度が正相関することを示した初の報告である.今後,幼虫期の定期モニタリングが可能となり,個体数変動を起こすイベントの探索が期待される
著者
平木場 浩二 丸山 敦夫 美坂 幸治
出版者
The Japanese Society of Physical Fitness and Sports Medicine
雑誌
体力科学 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.69-77, 1990-02-01 (Released:2010-12-10)
参考文献数
31
被引用文献数
4 4

本研究の目的は, CO2過剰排出量 (CO2excess) と持久性能力の関連性を明らかにするために, 長距離走者と一般人の乳酸蓄積の結果生じるCO2excessを比較するとともに, CO2excessと持久性パフォーマンスとの関係について検討することであった.18才から22才の男子長距離走者6名 (LDR群) および21才から24才の健康な一般成人男子4名 (CON群) を対象とし, 自転車エルゴメーターでの負荷漸増法による最大下および最大運動テストと12分間全力走を実施して, それらの運動テストで得られたVO2max, VO2AT, CO2excessおよび12分間全力走パフォーマンスとの関係を検討した.本研究で得られた結果の要約は以下の通りである.1) CO2excess (ml) は, LDR群3, 442±677ml, CON群2, 677±437mlの値であったが, 両群間に有意な差はなかった.体重当りに換算したCO2excess/w (ml・kg-1) は, CON群 (40.3±3.54) と比較して, LDR群 (59.1±9.07) が有意に高い値を示した (p<0.01) .2) ΔLA (安静から運動直後1分目までの血中LAの増加分) に対するCO2excess/wの比率 (CO2excess/w/ΔLA) は, LDR群 (5.59±1.16ml・kg-1・mmol-1) がCON群 (4.46±0.69ml・kg-1・mmol-1) より高値を示す傾向にはあったが, 両群間に有意な差は認められなかった.3) CO2excess (ml) は, VO2maxとは有意に相関しなかったが, VO2ATとは有意に相関していた (r=0.763, p<0.05) .体重当りに換算したCO2excess/w (ml・kg-1) とVO2maxおよびVO2ATとの間にはそれぞれr=0.822 (p<0.01) , r=0.892 (p<0.001) の高い有意の相関係数が認められ, 体重当りのCO2excess (ml・kg-1) と持久性能力との間に関連性のあることが確認された.さらに, ΔHCO3- (安静から運動直後1分目までの血中HCO3-の減少分) とも有意の相関関係が認められた (r=0.649, p<0.05) .4) 持久性パフォーマンスの指標として採用した12分間全力走の走行距離とCO2excess (ml) およびCO2excess/w (ml・kg-1) との間にはそれぞれr=0.715 (p<0.05) , r=0.933 (p<0.001) の有意な相関関係が得られ, CO2excessの相対値 (ml・kg-1) の方が持久性パフォーマンスと密接に関連することが認められた.また, CO2excess/w/ΔLAの比率との間にも有意な相関のあることが示された (r=0.671, p<0.05) .5) 以上の結果から, 体重当りのCO2excess (ml・kg-1) およびCO2excess/w/ΔLAの比率には持久性能力と関連性があり, 乳酸蓄積を伴う比較的高強度の身体活動の維持が要求される持久性競技 (例えば, 3, 000~5, 000M走) のパフオーマンスを評価する上で重要な因子となることが示唆された.
著者
中村 哲也 矢野 佑樹 丸山 敦史
出版者
日本国際地域開発学会
雑誌
開発学研究 = Journal of agricultural development studies (ISSN:09189432)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.27-43, 2018-12

本稿では,ウクライナを事例として,食品内の放射性物質の知識と安全対策を考察し,如何なる階層の市民がその知識や対策を評価しているのか,統計的に分析した。ウクライナは独立後,国内は親露派と親欧派に分離し,現在に至るまで政治経済が混乱している。ウクライナではチェルノブイリ原発事故当時,西欧に比べてテレビや新聞等の報道メディアから得られる情報が乏しかった。チェルノブイリ原発事故を記憶している者は高齢者であるが,チェルノブイリ周辺地域の住民の記憶は,現在でも鮮明であった。ウクライナ人は放射性物質に関するロシア政府の情報公開を信頼し,親露派が多い東部の居住者も信頼している。しかしながら親欧派が多い西部の居住者はロシア政府の情報公開を信頼していない。ウクライナ人は,日本人よりも食品内の放射性物質の知識が高く,ウクライナではチェルノブイリの事故から30年が経過した今でも放射性物質の安全性を確認する者は9割を超えている。ただし,実際に経口的内部被曝に対して対策していない者は6割を超え,放射性物質の安全対策は家庭的な対策が限られていた。しかしながら,放射性物質の規制値を下回る食品が販売されていた場合の支払意志額はスウェーデンよりも高かった。そして,放射性物質の規制値を下回る食品を買う者は,女性や世帯員数が少ない者であったが,所得が低く汚染が広がる西部の居住者は,規制値を下回る割高な食料を購入しなかった。
著者
中村 哲也 丸山 敦史 陳 志鑫
出版者
共栄大学
雑誌
共栄大学研究論集 = The Journal of Kyoei University (ISSN:13480596)
巻号頁・発行日
no.18, pp.65-81, 2020-03-31

本稿では,香港の食とエネルギーの選択行動を事例として,統計的に分析した。香港では中国の原発建設反対運動が起こり,食の安全性が問題視されていた。香港は深圳市にある大亜湾原発から電力を依存しているが,8 割の市民が原発から電力を依存することに不安を感じていた。他方,香港に輸入される農産物は中国産が圧倒的に多いが,9 割に市民が不安を感じていた。大亜湾原発反対の署名運動については,若い市民が関心を持っていた。そして,女性は原発依存率の高さや,大亜湾原発と香港との距離,そして大亜湾原発の放射性物質漏れ事故を不安視していた。大亜湾原発の放射性物質漏れについては香港の全地域住民が不安視していた。また,女性や世帯員数が少ない者,子供がいない者,最終学歴が高い者は食の安全性に興味があり,日本産や自然農法米,植物工場レタスを購入した。電力構成別に価格を提示した場合,経済負担が大きい者は,CO2 の排出量が少ない第2 案より原発による依存が増える第3 案を選択した。他方,コメの価格を提示した場合,日本産と新界産のコメの購買選択行動は似ていた。また,日本産の結球レタスと香港産の植物工場レタスの購買選択行動も似ていた。香港産植物工場レタスを購入する者は高学歴者であり,香港の高学歴者は,植物工場レタスの栽培方法やその用途を正しく理解し,植物工場レタスを購入することが明らかにされた。
著者
角南 尚哉 安藤 英紀 丸山 敦也 三輪 泰司 濱本 英利 清水 太郎 異島 優 石田 竜弘
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】イオン液体(ILs)は有機アニオンと有機カチオンからなる常温で液体の塩で、様々な分野での応用が期待されている。我々は以前に、イオン液体を用いてタンパク質などの高分子、中分子核酸、ペプチドなどを経皮吸収させる技術を開発した。ところで、2型糖尿病治療薬でペプチド製剤であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬はほとんどが皮下注射製剤であり、低い服薬コンプライアンスが課題である。それに比べ、経口投与製剤は投与の簡便さ、非侵襲的なことが利点で、高い服薬コンプライアンスを実現できる。そこで、ILsを基剤として用いることで腸管での吸収性向上を期待し、GLP-1受容体作動薬の一つであるLixisenatide(Lix.)をILsと混合した時の腸管での吸収性を評価した。【方法】Lix.をILsに溶解させ(Lix.-ILs)、Lix.の胃での分解を避けるため経腸投与、あるいはLix.をSalineに溶解させ(Lix.-Saline)皮下投与し、Lix.血中濃度をEIAキットを用いて評価した。また、それぞれ投与した後に糖負荷試験をすることで、血糖値の上昇抑制効果を評価した。【結果・考察】Lix.をILsと混合して顕微鏡で確認したところ、加温することでLix.の結晶が消失したことから溶解したと判断した。Lix.-ILsの経腸投与により、Lix.血中濃度が顕著に上昇したことから、ILsはLix.の腸管吸収を促進することを新たに見出した。この時、Lix.-ILsは投与後1時間でピークとなり、投与後6時間まで高いLix.血中濃度が維持された。糖負荷試験において、Lix.-ILsの経腸投与で血糖値の上昇抑制が認められ、同程度のLix.血中濃度を示すLix.-Salineの皮下投与と同等の薬理効果が確認された。以上の結果より、Lix.をILsに溶解させることでGLP-1受容体作動薬の腸管吸収性が上昇することを示した。
著者
中澤 翔 秋元 大和 山代 幸哉 佐藤 大輔 丸山 敦夫
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
日本体育学会大会予稿集
巻号頁・発行日
vol.67, pp.274_1, 2016

<p> 中長距離選手の走の経済性(RE)に及ぼすSSC(stretch-shorten cycle)の影響に関する研究では、プライオメトリックトレーニングと競技成績の関係に関する報告がいくつかある。しかし、SSC能力が走の経済性に及ぼす影響についてはあまり報告されていない。本研究は大学男子中長距離選手12名を対象に、VO<sub>2</sub>16km、% VO<sub>2</sub>max(VO<sub>2</sub>16km/ VO<sub>2</sub>max)、16km/h走行時の重心上下動(GH)、平均ストライド長(SL)およびリバウンドジャンプ(RJ)とドロップジャンプ(DJ)接地時間および跳躍高を測定し、それぞれの関係について検討した。その結果、(1)% VO<sub>2</sub>maxとRJ接地時間にr=0.641(P<0.05)の有意な相関関係が認められた。(2)重心上下動とストライド長および重心上下動とRJ跳躍高との間にそれぞれr=0.868(P<0.01)およびr=0.660(P<0.05)の有意な関係が認められた。(3)重心上下動とVO<sub>2</sub>16kmおよび% VO<sub>2</sub>maxとの間に有意な関係性は認められなかった。このことから、RJ接地時間の短い選手ほど走の経済性(% VO<sub>2</sub>max)が良いことが示唆された。</p>