- 著者
-
佐野 正博
- 出版者
- 科学基礎論学会
- 雑誌
- 科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
- 巻号頁・発行日
- vol.16, no.4, pp.25-32, 1984-03-30 (Released:2009-07-23)
- 参考文献数
- 45
近年, 科学史と科学哲学の交流, 融合が進行し, 科学哲学 (科学方法論) の正当性を評価する基準としての科学史の役割が強調されるようになってきている。例えば, Lakatosは「科学史なき科学哲学は空虚であり, 科学哲学なき科学史は盲目である。……競合する二つの科学方法論は, 科学の歴史によって評価することができる。」と述べている。こうして科学哲学の一つの新しい方向として, 科学の実際の歴史的形成過程とうまく適合した科学哲学が求められるようになり, 理論変化や理論比較の問題が科学哲学の一つの焦点となりつつある。科学哲学のこうした新しい方向を代表する一つの潮流として, Hanson, Kuhn, Feyerabendらの「革命主義」の立場がある。革命主義においては, 科学の実際の歴史という「事実」に基づいて, 科学の累積的進歩が否定され, 科学理論の歴史的変化の過程が不連続であるとされる。科学の実際の歴史的場面では, 科学理論の選択が論理や実験的テストといった客観的規準によって規定されてはいないと主張されている。革命主義のこうした主張の根底には, 科学理論間の共約不可能性という考え方がある。本稿ではこの共約不可能性の問題を取り上げ, その内容や意義を明確にすると共に批判的検討を試みる。