著者
佐野 正博
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.25-32, 1984-03-30 (Released:2009-07-23)
参考文献数
45

近年, 科学史と科学哲学の交流, 融合が進行し, 科学哲学 (科学方法論) の正当性を評価する基準としての科学史の役割が強調されるようになってきている。例えば, Lakatosは「科学史なき科学哲学は空虚であり, 科学哲学なき科学史は盲目である。……競合する二つの科学方法論は, 科学の歴史によって評価することができる。」と述べている。こうして科学哲学の一つの新しい方向として, 科学の実際の歴史的形成過程とうまく適合した科学哲学が求められるようになり, 理論変化や理論比較の問題が科学哲学の一つの焦点となりつつある。科学哲学のこうした新しい方向を代表する一つの潮流として, Hanson, Kuhn, Feyerabendらの「革命主義」の立場がある。革命主義においては, 科学の実際の歴史という「事実」に基づいて, 科学の累積的進歩が否定され, 科学理論の歴史的変化の過程が不連続であるとされる。科学の実際の歴史的場面では, 科学理論の選択が論理や実験的テストといった客観的規準によって規定されてはいないと主張されている。革命主義のこうした主張の根底には, 科学理論間の共約不可能性という考え方がある。本稿ではこの共約不可能性の問題を取り上げ, その内容や意義を明確にすると共に批判的検討を試みる。
著者
金森 絵里 兵藤 友博 小久保 みどり 中瀬 哲史 佐野 正博 山崎 文徳 慈道 裕治 横田 陽子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では福島第一原発事故がなぜ起こってしまったのかを領域横断的に分析し,以下の点を明らかにした。1.被爆国日本が原子力を社会的に受容したのは夢のエネルギーだという考え方が浸透していたからである。2.原子力政策は日本学術会議などの議論を十分に反映しなかった。3.大型化・連続化による経済性追求が安全性軽視につながった。4.歴史的に形成された「国家との戦い」「企業を護る」という意識と経営行動が事故につながった。5.緊急時における組織的対応が不十分だった。6.原発は総括原価方式のもとで電力会社経営を安定化したが,事故やバックエンドのコスト議論は自主的自律的におこなわれなかった。
著者
佐野 正博
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、マイクロプロセッサーの開発とパーソナル・コンピュータ技術の歴史的発展が相互に関連しあいながら歴史的に発展してきたプロセスを技術史的視点および技術論的視点から実証的に分析することを通じて、イノベーションの歴史的構造、および、技術の歴史的発展構造の解明をおこなった。まず総合技術史に基づく長期的視点から計算機技術の歴史的発展の流れにおけるマイクロプロセッサー技術の歴史的位置づけをおこなうとともに、マイクロプロセッサーという製品が持つ特殊性の解明をおこなった。すなわち計算機技術の歴史的発展におけるcalculatorとcomputerへの分化、それぞれの時代における上位市場と下位市場の編成のあり方という視点から、計算機技術の歴史的発展をマクロ的視点から取り扱うことで、世界最初のマイクロプロセッサー4004が「電卓生まれのマイクロプロセッサー」として歴史的に登場した理由を解明するとともに、パーソナル・コンピュータ用CPUとしてマイクロプロセッサーが利用されることになることの歴史的意味の分析をおこなった。マイクロプロセッサーのこうした用途は、一部の専門家を別として最初から広く社会的に認識されていたわけではない。そのためマイクロプロセッサーを利用した製品は、どちらかといえばMarket-oriented型ではなく、Technology-oriented型の製品イノベーションとなっていることを論じた。パーソナル・コンピュータの製品イノベーションに関しても、市場の需要というよりは、ムーアの法則にしたがってパラノイア的にマイクロプロセッサーの集積度向上を追求するインテルなどの研究開発によるマイクロプロセッサーの技術的発展が、パーソナル・コンピュータの製品イノベーションを根底的に規定してきたことを明らかにした。