著者
小林 好紀 川井 安生 山内 秀文 土井 修一 則元 京 佐々木 光 OHTA Shosuke ITO Ryosuke 三浦 泉
出版者
秋田県立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

木材乾燥の前処理として古くから行われている水中貯木処理が、乾燥性や水分透過性の改善に寄与する理由を科学的に解明し、難乾燥材とされるスギ材の実用的な乾燥前処理技術として利用するために、6年間に及ぶ長期間の研究を行った。得られた結果は以下の通りである。(1)水中微生物の木材への活性水中貯木過程において、3ヶ月ごとに貯木池より回収したスギ素材丸太内における水中微生物の消長を追跡観察した。その結果、水中および散水貯木の開始とともに、まず辺材含水率が増加し、続いて移行材のそれが増加し、18ヶ月後には心材含水率が約150%近くまで増加し、水中微生物を含んだ貯木池の水分が丸太内部まで浸透したことを意味している。(2)貯木処理開始とともに辺材への水中微生物の侵入が観察された。移行材への浸入は貯木処理開始後2週間で観察され、辺材および移行材へ水中微生物が容易に浸入することが明らかになった。しかし、心材への浸入にはばらつきが見られた。水中貯木期間の長期化に伴って、すなわち、水中微生物の素材丸太中への浸入に伴って、参謀内のデンプン粒の減少、有縁壁孔の崩壊など木材組織に変化が生じた。(3)水中あるいは散水貯木処理期間に比例して、遠心分離機による脱水性の向上が見られた。とくに辺材と心材におけるそれの増加が大きく、含水率増加、組織構造の変化と関連があることが推測された。しかし、繊維方向あるいは放射方向のいずれにおいても吸液量の大きな増加は見られなかった。(4)長期間にわたって水中貯木されたスギ丸太内から7種類の水中微生物が観察され、それらが細胞内容物の消滅あるいは有縁壁孔壁の崩壊に関与している様子が確認された。水中微生物をスギ材にアタックさせると乾燥性が改善されることが明らかになった。とくに3年以上の貯木処理によって乾燥速度が著しく増加した。水中貯木期間の増加に比例して乾燥速度が増加した。とくに、48ヶ月以上の処理によって乾燥日数は約1/2に短縮された。(5)乾燥期間が長くなることによって、材色の変化が観察された。明度が向上するが赤みが減少し、また、黄味が増加した。したがって、長期間の貯木処理はスギ特有の心材色を失うことになる。しかし、長期間の水中貯木処理による強度の低下はほとんど観察されなかった・
著者
首藤 勇一郎 岡村 圭造 田中 文男 則元 京
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.58, pp.280-288, 1986-12

セルローストリプロピオネート (CTP) の1本の分子鎖について, 1残基内および連続する残基間の非結合原子間反発エネルギーを考慮したパーチュアルボンド法により, コンフォーメーション解析を行なった。X線繊維図から, CTPの繊維周期は1. 508nmと計算され, 消滅則より分子鎖方向に3回らせん軸が存在する。このように分子軸方向に3回らせん軸をもつセルローストリプロピオネートの構造は, 他のセルローストリエステル同族体 (セルローストリアセテート, セルローストリブチレート, セルローストリバレレート) が2回らせん構造を有するのに対して, 特異的である。エネルギ一計算および非結合原子間の容認されることのできない接触の有無を調べた結果, 右巻き3_1らせんに比べ, 左巻き3_2らせんの方が低いコンフォーメーションエネルギーを持つ事がわかった。考慮した16のモデルのうち, 最も可能性の高い左巻き3_2らせんのコンフォーメーションにおいては, 側鎖はらせん軸に対しほぼ垂直に伸びた構造を持つ。
著者
師岡 淳郎 則元 京
出版者
社団法人 繊維学会
雑誌
繊維学会誌 (ISSN:00379875)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.328-333, 1991
被引用文献数
4

In accordance with the newly developed homogeneous periodate oxidation procedure, we prepared high cleavage level 2, 3-dialcohol cellulose (DAC) which gives off a clear and transparent film. Viscoelastic properties of DAC were investigated in relation to those of cellulose. Dynamic mechanical measurements for DAC at 110Hz over the temperature range from -150&deg;C to 150&deg;C revealed two kinds of relaxation processes, which were respectively centered around -70&deg;C and 112&deg;C. The first process at -70&deg;C was related to dielectric relaxion, and was regarded to be, similar to the process in cellulose, due to the motion of methylol groups. On the other hand, the cleavage of C<sub>2</sub>-C<sub>3</sub> bonds of the glucopyranose ring resulted in the process at around 112&deg;C, while no comparable process has been reported for cellulose in the similar region. This process was ascribed to the micro- Brownian motion along the main chain. From the temperature variation of the stress-elongation diagrams, the glass transition temperature Tg for DAC was estimated to be about 80&deg;C. The DAC film above Tg showed a marked elongation reaching 200% at 112&deg;C.
著者
則元 京
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.170-174, 1991
被引用文献数
1

木材は, 軽くて強いけれども, 比較的脆い材料であるとの印象をもつ者は, カットに示すような曲げ木を見ると, 驚くかもしれない。また同時に, どのようにすればこのように木材を曲げられるのか, 木材の微細構造はどのようになっていて, 曲げるとどのような構造の変化が起こるのか, この変形は永久的なものなのか, など多くの疑問がわいてくるかもしれない。本稿では, 細胞壁の微細構造と関連づけて, 木材の軟化, 曲げ変形とその固定, 変形の回復の仕組みを説明し, 曲げやすい木材と曲げにくい木材の構造上の違いに触れ, 最後に, 家庭用電子レンジを使って木材を曲げる方法について紹介する。
著者
小幡谷 英ー 則元 京 長松 正明
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.24-29, 1995-12-25 (Released:2017-06-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1

7種類の材質のクラリネット用リードを作製し, 奏者による官能検査を行った。そして, 奏者によるばらつきの小さかった音色の良さの心理量を, リードに用いた材料の幾つかの物性値と比較した。音色の心理量Tmと, リードの長さ方向の音速V_Lとの間には, 正の相関が, 幅方向の動的ヤング率E_Wとの間には, 負の相関がそれぞれ存在した。その結果, T_mとlog(V_L^7/E_W)との間には, 良好な直線関係が認められた。プラスチック材料のリードのT_mが低かったのは, その物性値が等方的であるためと推察された。一方, アカエゾマツやキリで作られたリードのT_mが, 葦(Arundo donax L)で作られたリードのそれよりも高く評価された。この結果から, ある種の木材を葦の代替材として用いる可能性が示唆された。
著者
棚橋 光彦 大田 親義 則元 京
出版者
岐阜大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

新しい木材の加工法として高圧水蒸気による木材の圧縮成形加工技術の発展に向けて,装置やプレス治具の開発および処理条件の検討を行った。この装置を用いることにより丸太から切削せずに直接角材に圧縮成形することを可能とした。特に軟化条件や変形を固定するための処理条件、減圧及び冷却条件などについて検討した。また処理条件を検討する際,高温高圧水蒸気下で木材を圧縮成形している時点での木材内部の温度及び応力の測定を経時的に行い、プレスによって木材中に発生した応力が水蒸気処理の過程で減少していく状況を追跡し、変形を完全に固定する条件を明らかにした。また種々の形状への圧縮成形加工についても検討し,断面が6角やロッグハウス用に組み合わせられるように凹凸のほぞ加工を施した形状への圧縮加工、立体トラス用の金属との接合部材用に1方向にのみ圧縮し、表面のみを圧密化した角材などの製作を試みた。さらに木材を種々の形状の治具でプレスすることによる木材表面の加飾性などについて検討し実用規模での応用の可能性について検討した。また木材に大変形を与えられる事を応用して、小径木や枝材などの未利用材を丸太のまま数本接着剤を用いて集成する事により大きな板材や大断面集成材の製造を試みた。樹皮を除いた場合はJIS規格を充分満たす接着強度が得られ、スギのような軟質材から硬質広葉樹のように表面硬度の硬い板材の製造が可能となった。しかし、小径木から樹皮を除去するのは手間がかかるため、樹皮付きのままで集成材に成形することを試みた。接着剤としては樹皮への浸透性の高いものが要求されるため、含浸用の接着剤を使用し、処理条件の検討を行った。樹皮付きでも集成材の製造が可能であり、おもしろい断面形状のものが得られたが、樹皮と木材との境界部分の強度が弱く、この点については今後接着剤の種類を変えて適正なものの選抜や、新しい接着剤の開発が必要である。また接着剤を使用しないで、圧縮変形を用いて物理的な接着剤による集成材の製造についても検討した。接着したい木材にドリルで孔をあけておき、細い角材を通して圧縮する事により、物理的に数本の太鼓挽きした小径木を一枚の板に成形した。これによって接着剤を使用しない簡単な集成材の製造が可能となった。このように圧縮成形技術によりこれまで利用法の無かったスギ間伐材を効率よく利用できる方法を開発でき、新しい木材工業が発展できるものと期待している。
著者
井上 雅文 則元 京
出版者
京都大学
雑誌
木材研究・資料 (ISSN:02857049)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.31-40, 1991-11-30
被引用文献数
6

スギ(Cyptomeria japonica D. Don)材を用いて,熱処理による圧縮変形の永久固定について調べた。また,熱処理した木材の寸法安定性,機械的性質,材色変化についても調べた。得られた結果は,次の通りである。熱処理温度,時間の増加に伴い圧縮変形の回復は減少し,180℃では20時間,200℃では5時間,220℃では3時間の処理によって,変形はほぼ完全に固定された。圧縮していない木材の抗膨潤能(ASE)は,熱処理温度の上昇,あるいは時間の増加に伴い増加するが,その最大値ぱ約50%であった。jぶどか40%程度に達する熱処理により,変形ぱ完全に固定された。ASEと回復度との間にぱ極めて高い負の相関関係があり,圧縮変形の永久固定ぱ,細胞壁実質に付与される寸法安定性によるものと考えられた。圧縮変形がほぼ完全に固定される熱処理によって,強度の低下や紺色変化が顕著であった。例えば,180℃,20時間および200℃,5時間の熱処理による曲げヤング率の変化ぱ,それぞれ-8.96%および-0.72%,曲げ強度の変化は,それぞれ-38.45%および-34.12%であった。また,紺色の変化について,L値の変化は,それぞれ-27.8%および-29.3%であり,ΔEは,それぞれ28.9および29.9であった。