著者
塚原 伸治 中島 大介 藤巻 秀和
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-8, 2010 (Released:2012-06-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

近年,胎児や小児に対する環境リスクの増大が懸念され,環境中の化学物質に対する子供の健康影響について関心が払われている。発達途上にある胎児や小児の脳は性的に分化する。発達期の精巣から分泌されたテストステロンの働きは脳の性分化にとって重要である。成人男性や成熟雄ラットの血中テストステロン濃度はトルエン曝露により低下する。我々は,発達期のラットの血中テストステロン濃度がトルエン曝露によって低下することを明らかにした。また,テストステロンレベルの低下は,精巣のテストステロン産生に関与する酵素である3β-HSDの発現量の減少が一原因であることを示した。性分化した脳には,構造の性差がみとめられる部位(性的二型核)が存在する。ラットの性的二型核の一つであるSDN-POAの体積とニューロン数は雄において雌よりも優位である。最近の我々の研究から,発達期にトルエンを曝露した成熟雄ラットのSDN-POAの体積が正常雄ラットよりも縮小していることが示唆された。本稿では,我々の研究知見をふまえて,脳の性分化におよぼす発達期トルエン曝露の影響とその作用機序について論じる。
著者
塚原 伸治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では、現在の商店街について、従来の研究が前提とする「地域活性化モデル」の限界を乗り越えて、民俗学的視点から「もうひとつの活性化論」を提示する。そのために2つの商店街(千葉県香取市、福岡県柳川市)の現地調査を実施し、以下を検討する。第一に、一度シャッター通りとなった商店街の現状を、それぞれの地域における取り組みの産物として理解しなおす可能性を検討する。第二に、商店街の衰退および再生について、過去100年の歴史的経緯との関連から再検討する。それぞれの生活と歴史に根ざした固有の文脈を重視する民俗学の視点を導入することで、21世紀における商店街の衰退と再生を理解するための新たなモデルを構想する。
著者
塚原 伸治
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

形態学的に性差がみられる神経核は性的二型核とよばれ脳機能の性差の構造基盤であると考えられている。マウスにおける性的二型核の性差構築には周生期の精巣から分泌されるアンドロゲンの作用が必要であることが知られているが、近年では、思春期以降の性腺から分泌される性ホルモンの働きも重要であることが指摘されている。本研究では、思春期以降に分泌される性ホルモンの性的二型核の性差構築における役割と作用機序を明らかにするため、雄優位な性的二型核であるSDN-POAとBNSTpおよび雌優位な性的二型核であるSDN-DHを対象とした組織学的解析を実施した。これまでの研究より、雄マウスのSDN-POAとBNSTpのニューロン数は思春期前の精巣除去により減少し、雌マウスのSDN-DHのニューロン数は思春期前の卵巣除去により減少することが分かった。また、これら性的二型核に対する思春期前の性腺除去の影響は性ホルモンの代償投与により回復することも分かった。本年度の研究では、性ホルモンが作用する時期を特定するため、思春期後に施した性腺除去の影響を検討した。その結果、雄マウスのSDN-POAとBNSTpにおけるニューロン数は思春期後の精巣除去により変化せず、雌マウスのSDN-DHにおけるニューロン数は思春期後の卵巣除去により変化しなかった。以上のことから、思春期の精巣から分泌されるアンドロゲンはSDN-POAとBNSTpの雄性化を促し、卵巣から分泌されるエストロゲンはSDN-DHの雌性化を促すことが明らかになった。
著者
塚原 伸治
出版者
茨城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

(商店街の展開期に関する研究) おもに、昭和戦前期までの時期について、千葉県香取市と福岡県柳川市の中心市街地における商業がどのような事情にあったのかについて分析をおこなった。『柳川新報』(明治36(1903)年発刊)、『さはらタイムス』(明治41(1908)年発刊)という2つの地元紙を中心に、適宜各商家の所有する史料を参照しながら、商店街の「展開」期における具体的な経緯や、背景などを理解した。国が戦争へと向かう時期における商店街の対応や反応について理解が進んだが、反面、戦時中という事情から、公刊された資料のみで状況を理解することの困難さが浮き彫りとなった。また、戦中戦後期においては、旧藩主家が大きな変化を被り、市内の実業家として定着していった時期でもあるため、立花家の動向についてもより注視して理解していく必要があることが明らかになった。(商店街の現在に関する研究) 予定通りに長期調査を実施することができなかったが、インフォーマントが関東に来訪するタイミング等を利用して調査を進めた。フィールドの外部でおこなわれる商人たちの活動に予定外に立ち会うことになったことで、「シャッター商店街」言説の裏で必ずしもローカルな文脈にとらわれない商売が展開されていることが明らかになった。(成果公開) 前年度の研究成果である論文が、「商店街前夜―買い物空間の創出と商店主たちの連帯―」として、『江戸-明治連続する歴史(別冊環23)』(藤原書店、2018)に掲載された。
著者
塚原 伸治
巻号頁・発行日
2013

筑波大学博士 (文学) 学位論文・平成25年2月28日授与 (乙第2630号)
著者
塚原 伸治
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、老舗の生成・持続について分析することで、商家の存続の仕組みを、家の内部だけではなく世間という外部との関係性のなかで明らかにすることにある。具体的な作業としては、千葉県香取市、福岡県柳川市、および滋賀県近江八幡市という伝統的都市において、自営業者に対する聞き取り調査および資料調査を中心としたフィールドワークを実施した。フィールドワークにおいて得られたデータをもとにした商慣行および経営戦略の分析から「信用」を生みだす商いの形態を明らかにし、町内や近隣、マチの人びととの関係のありかたから家格維持の方法および、家の連続性を示す方法を明らかにした。その結果、商家が家/店の評価を操作することで安定的な評価を得るための戦略を選んできたこと、また、その評価は社会的な価値体系に基づいた土着的なものであることを明らかにした。一方で、その価値体系は商家の経営戦略にとって桎梏となり、自由な選択の幅を狭めてしまう傾向にあるような事例についても明らかにした。このことで、家業経営という面から事象を扱ってこなかった民俗学の経済研究における新たな領域を開拓し、そのための基礎的なモデルを提示した。地域社会の論理を重視して対象を扱うという民俗学の特徴を生かして家業経営者を理解することで、民俗学が当該分野の研究に参画する意義が明らかになった。その成果の一部は、学術論文(2011「豪商の衰退と年齢組織の成立」『史境』第62号)や学会発表などにおいて発表された。