著者
岡垣 篤彦 定光 大海
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.179-188, 2020-04-20 (Released:2021-04-26)
参考文献数
15

南海トラフ地震は今後30年以内に80%の確率で発生するといわれている巨大地震である.この地震では医療機関も大きな被害を受けることがわかっており,われわれはこれまで医療機関の被災予測とそれに基づいたDMAT派遣計画の立案を行ってきた1,2).医療および介護療養施設の入床者は患者搬送や避難に特別な配慮が必要となるが,これまで療養病床についての分析や避難,搬送対策は行われてこなかった.今回われわれは療養施設における被災予測を作成した.被災が予想される医療,介護施設の病床数の約20%を療養病床が占めることが明らかとなった.被災率の少ない自治体では近隣への移送が可能と考えられるが,被災すると予測される病床が40%を越えると予測される県が8つに及んでおり,これら甚大な被害を受ける地域では遠距離への移送を行う必要があることが分かった.療養病床は制度の変更に伴い再編成が進んでいるが,引き続き療養施設の動向を把握し,避難対策を立案しておく必要があると考える.
著者
米満 弘一郎 白 鴻成 前野 良人 大西 光雄 西野 正人 木下 順弘 定光 大海
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.440-444, 2008-07-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
11

発症第 3 病日に劇症肝不全を合併したが,保存的加療にて軽快した熱中症III度症候群を経験した。症例は39歳の男性。マラソン中に意識消失した。Japan coma scale(JCS)200,腋窩温40.9°C,ショック状態だった。前医入院後,意識・全身状態は改善したが,第 3 病日に肝酵素,CPKの著明な上昇及びDICを認め当院転院となった。第 4 病日に肝性昏睡II度,PT活性20%,HPT 20%,AKBR 0.69,AST 3,330 IU/l,ALT 5,880 IU/l,NH3 155μg/dlとなり劇症肝不全と診断し,血漿交換及び持続血液濾過透析を行った。肝障害は速やかに改善し第33病日,独歩転院となった。熱中症III度症候群に合併する重症肝障害は,ショック,DICを契機に第 3 病日前後に顕在化すると考えられる。適時的な血液浄化などで保存的に軽快する例が多いが,早期より肝障害を想定した慎重な輸液管理,集中管理が重要である。
著者
加藤 隆寛 田中 聡 渡邉 暁洋 織田 順 浅香 えみ子 有賀 徹 畝井 浩子 鏑木 盛雄 菊池 憲和 桑原 健 篠原 高雄 峯村 純子 眞野 成康 西澤 健司 定光 大海
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.19, no.6, pp.725-734, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
18

目的:救急医療における薬剤師のおかれた状況や不足するスキルは不明であり,これらを把握することを目的にアンケートを実施した。方法:日本臨床救急医学会の薬剤師会員を対象に,救急医療・集中治療への従事,現在および今後実施したい業務,実施希望のトレーニングコースについて調査した。結果:195名より回答を得た。救急医療への従事は23.1%,集中治療が68.2%であった。救急医療での業務は主に薬品管理で(77.8%),患者対応はおもに依頼された時のみ(64.4%)行われていた。トレーニングコースは中毒,循環器系が求められていた。集中治療では抗菌薬,循環器系薬の介入が多かったが,フィジカルアセスメントの実施率は低かった。結論:救急医療に従事する薬剤師は少ない。全患者へ対応できる体制の整備,中毒,循環器系に関するトレーニングが有効と考えられた。集中治療ではフィジカルアセスメントの活用が次の課題になると考えられた。
著者
岡垣 篤彦 上尾 光弘 定光 大海
出版者
一般社団法人 日本医療情報学会
雑誌
医療情報学 (ISSN:02898055)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.219-227, 2015 (Released:2016-12-16)
参考文献数
7

ER外来の診療速度に電子カルテの入力が追いつかず,これまでER外来の電子化は難しいとされてきた.大阪医療センターでは電子カルテの入力を容易にし,閲覧性を向上させる目的でファイルメーカープロで作成した入力画面を富士通製病院情報システムであるEGMainEXに接続した電子カルテを運用してきたが,この仕組みを用いて高速入力用のテンプレートを作成しER経過記録として実装し,1年間運用したデータを分析した.ER経過記録の1レコードに記載された診療行為数は平均で32件,入力する間隔は平均2分29秒であった.直前の入力から1分以内に入力されているケースが全体の47%であり,10~20秒以内に次の診療行為を入力しているケースが最も多かった.これまでER外来の診療速度についていける電子カルテがなかったため定量的な評価は難しかったが,電子化によりどのような診療が行われているかを把握することが可能となった.
著者
定光 大海 中木村 和彦
出版者
山口大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

電気的心室細動と高カリウムによる心停止モデルを用いて、体外循環による蘇生法の有効性を検討した。【方法】実験動物にはネコを用い、電気的心室細動群と高カリウム群の2群に分けて、次のように心停止とした。[電気的心室細動群]大腿静脈より右房まで挿入したワイヤ-と前胸部に刺入した鋼線との間に交流を通じて心室細動とした。[高カリウム群]中心静脈より塩化カリウム1ー3Emqを投与して心停止とした。両群とも心停止中に大腿動静脈に体外循環用の送脱血管を挿入した。[心肺蘇生法]両群とも12分間の心停止後、心マッサ-ジと薬剤投与(ノルアドレナリン、リドカイン、重炭酸ナトリウム)を行い、心マッサ-ジ開始1.5分後より1分間隔で自己心拍が再開するまで電気的除細動を繰り返した。心マッサ-ジ開始後4分以内に自己心拍が再開しない場合には、申請したチュ-ブポンプ及び体外循環回路を用いて、大腿静脈から脱血し、大腿動脈より送血して体外循環を行った。両群とも蘇生後4日間経時的に神経学的スコア-を評価した。【結果】電気的心室細動群では、全例体外循環を必要とせず、心マッサ-ジ開始4分以内に自己心拍が再開した。一方、高カリウム群では約半数が4分以内に蘇生できず、体外循環を行った。体外循環を行ったネコは体外循環開始5ー20分以内に自己心拍が再開した。電気的心室細動群の90%は蘇生後4日間生存し、4日目の神経学的スコア-(0=正常、100=脳死)は大半が20ー40であった。高カリウム群では、体外循環使用と非使用との間で生存率と神経学的所見に有意差はなかった。また、電気的心室細動群の方が高カリウム群よりも生存率、神経学的所見ともに良好であった。【結語】体外循環を用いた蘇生法は、高カリウムによる心停止の心蘇生に対しては有効と思われるが、脳蘇生の効果は明らかでなかった。