著者
澤谷 知佳子 大西 基喜
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.70, no.7, pp.442-450, 2023-07-15 (Released:2023-07-25)
参考文献数
18

目的 職場における睡眠教育と睡眠を可視化できるウェアラブル端末を組み合わせ,睡眠の状態,日中の眠気,睡眠習慣行動に与える影響,効果について検討することを目的とした。方法 本研究は,建設会社3社の従業員を対象に,教育群(睡眠教育と睡眠メモによるモニタリング)および端末群(睡眠教育とウェアラブル端末による総睡眠時間等のモニタリング)に割り付けた比較研究である。2週間後に,ピッツバーグ睡眠質問票日本語版(PSQI-J)などの質問票により睡眠の質,生活習慣,プロセス評価について両群間の比較検討を行い,睡眠データについては各群内の経時的変化の検討を行った。一社ごとに男女別々に層別し,サイコロを用いて割り付けを行った。ベースライン(BL)と2週間後の変化量(改善の程度)について,群間比較では t 検定,マン・ホイットニーの U 検定,群内比較では反復測定分散分析を行った。結果 参加同意者48人のうち,分析対象は42人(端末群 n=22,教育群 n=20)であった。年齢の中央値は端末群39(20–62)歳,教育群42(21–63)歳,男女比は端末群17:5,教育群15:5であった。PSQI-J総合得点は,端末群より教育群が有意に改善された(P=.017)。このことは,PSQI-JのBL値が改善の程度に,有意な影響を与えていたためであった(P<.001)。日本語版エプワース眠気尺度では,2群間に有意な変化はみられなかった。就床時刻は端末群が約12分前倒し,教育群が約11分後ろ倒しの有意な変化がみられた(P=.023)。総睡眠時間は両群ともに,BLに比べ1週目・2週目が有意に増加した(端末群 P=.015,教育群 P=.017)。睡眠習慣行動のうち「就寝2時間前の間,コンビニなどの明るいところへ外出しない」という項目のみ,端末群の達成度が有意に上昇した(P=.006)。結論 睡眠教育単独の支援では主観的な睡眠の質の改善,ウェアラブル端末を加えた支援では主に睡眠の量的な変化(就床時刻の前倒し,睡眠時間の延長)が認められたが,それらの効果は部分的であった。しかしながら,本研究は,職場における睡眠支援計画立案の一つの参考資料として有用であるといえよう。
著者
笠原 美香 吉池 信男 大西 基喜
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.145-153, 2021-05-31 (Released:2021-06-16)
参考文献数
29

目的:青森県内と長野県内の高校生を対象とし,ヘルスリテラシー(Health Literacy: HL)に関して両県の地域差を含む実態を明らかにすること,およびHLの高低を規定する要因を明らかにすること.方法:2018年7月3日~24日に,青森県B市6校806人(公立,私立),長野県C, D市4校978人(公立のみ)の高校2年生を対象に自記式質問紙調査による横断研究を行った.調査項目は,性別,相互作用的・批判的ヘルスリテラシー(Communicative and Critical Health Literacy: CCHL),インターネット利用状況,学習面に影響すると考えられる「将来の夢」や目標を持っている,自分は「やればできる」と思う,学習意欲(勉強は好きである,保健の学習は好きである),「将来の生活習慣予測」である.各項目について地域間で比較を行った後に,重回帰分析によってCCHLが高いことと関連する因子を検討した.結果:青森県の高校生は,長野県の高校生に比べて,インターネットの使用頻度やCCHLが高かった.また,CCHLが高いことは,インターネット利用状況,「将来の夢」や目標を持っている,自分は「やればできる」と思う,保健学習が好きであること,将来,定期的な運動をする,定期的に体重管理をすると予測していることと,正の関連が見られた.結論:高校生のHL教育を推進していく上では,インターネットを利用した健康情報の活用,「将来の夢」や目標を持つこと,自分は「やればできる」と思える状況を促す教育が重要である.
著者
笠原 美香 千葉 敦子 大西 基喜
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.225-235, 2022-03-15 (Released:2022-03-23)
参考文献数
14

目的 COVID-19が保健師自身やコミュニケーションに関わる保健師活動へ及ぼす影響を集約,分析し,コロナ禍におけるコミュニケーションの在り方ついて示唆を得ることである。方法 青森県内の全市町村(40か所)で働く保健師474人を対象に,基本属性,陽性・濃厚接触者への支援や関わりの有無,保健師の身体面・精神面への影響,保健師活動領域別影響,マスク着用での住民への影響,感染対策による「良い影響」や「悪い影響」,利用している連絡・情報共有・支援方法,新たな課題や取り組み・工夫について,自記式質問紙調査を行った。実施期間は,2020年9月23日~10月7日である。分析はSPSSとKH Coderを用いて行った。結果 228人より回答を得た(回収率48.1%)。陽性,濃厚接触者への支援や関わり有は11.4%であった。6割以上の保健師が精神面に影響を受けていた。COVID-19下のマスク等着用による,住民との意思疎通においてコミュニケーションへの支障が認められた。一方,住民との信頼関係構築にはあまり影響はなかった。COVID-19対策の進展で,保健師活動への影響で良い影響としては,「感染症予防の意識向上と対策の進展」,「オンラインを含めて会議の効率化」,「事業の見直しの機会となったこと」が挙げられ,悪い影響としては「住民とのコミュニケーションの希薄化」,「感染者等への誹謗や中傷」,「住民のストレスの増加」,「外出自粛の影響」,「必要な保健事業実施困難」が挙げられた。利用している連絡,情報共有,支援方法は電話が多かった。新たな課題や取り組み,工夫の主なものとして,「感染対策への配慮の進展」,「消毒・体温測定,換気など予防の取り組み」,「新しい生活様式の定着に向けた取り組み」,「集団検診の方法の見直し」,「事業見直し,保健指導上の工夫」,「オンライン会議など,会議や研修の見直し」の6カテゴリーが示された。結論 COVID-19下で6割以上の市町村保健師が精神面に何らかの影響を受けており,保健師活動に大きな課題が突き付けられる厳しい状況が浮き彫りになった。とくに住民とのコミュニケーションへの支障は大きいものがある。しかし,制約を受けながらも感染対策を取り入れた活動の中で,新たなコミュニケーションの在り方が模索されている。今後の方向性を見据え,時代に合う保健師活動を探究する必要がある。
著者
千葉 敦子 石田 賢哉 大西 基喜 メリッサ 小笠原 木村 美穂子 宮川 隆美 水木 希 澤谷 悦子 梅庭 牧子 奥村 智子
出版者
日本ヒューマンケア科学学会
雑誌
日本ヒューマンケア科学会誌 (ISSN:18826962)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.11-17, 2018 (Released:2022-02-02)
参考文献数
11

保健協力員は市町村長の委嘱を受けて地域住民の健康づくり活動を行う住民組織集団であり、青森県では短命県返上に向けてその活動が期待されている。しかし、保健協力員は担い手不足による固定化や高齢化が課題とされており、活動の活性化に向けた方策が求められている。活動を活性化するためには保健協力員の集団特性を把握し、組織特性に応じた支援の方向性を検討する必要がある。そこで、本研究ではA保健所管内の保健協力員と一般地域住民のヘルスリテラシーおよび主観的健康感を比較し、保健協力員の集団特性に応じた組織支援の示唆を得ることを目的に横断調査を実施した。その結果、ヘルスリテラシーでは「情報を理解し人に伝えることができる」の項目が、保健協力員の方が一般地域住民より有意に高いという結果であった。また、健康状態を示す主観的健康感が、保健協力員の方が一般地域住民より有意に高いという結果であった。
著者
千葉 敦子 石田 賢哉 大西基喜 小笠原 メリッサ 宮川 隆美 木村 美穂子 水木 希 澤谷 悦子 梅庭 牧子 奥村 智子
出版者
青森県立保健大学雑誌編集委員会
雑誌
青森県立保健大学雑誌 = Journal of Aomori University of Health and Welfare (ISSN:13493272)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.23-28, 2017-03

保健協力員は県民の健康増進の担い手としてその活動が期待されている。しかし,青森県では保健協力員の活動は行政が中心となり,主体的な活動が十分には行えていないという課題や,担い手不足による固定化と高齢化が指摘されている。そこで,保健協力員活動の活性化策を検討するために,A保健所管内の保健協力員を対象に無記名自記式質問紙調査を行い,活動の主体化およびヘルスリテラシーの現状を明らかにした。 その結果,主体化評価指標の総合得点は市町村間で有意な差はないことがわかった。このことから,保健協力員の質は合同研修等により一定の水準が保たれていることが考えられ,県民全体の健康増進の向上という面からは望ましい結果であると考えられた。ヘルスリテラシー尺度得点と個人属性との関連では,年齢が高い者,健康状態が良好な者,他の役割がある者でヘルスリテラシー得点が統計的に有意に高いという結果が得られた。固定化や高齢化を強みとして保健協力員の活動の強化に活かすことが可能であることが示唆された。
著者
手代森 隆一 坂本 勇一 柴田 絵里子 高野 康之 三上 英子 赤平 恵美 立花 直樹 大西 基喜
出版者
Japanese Association of Medical Technologists
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.550-556, 2014

AmpC β-ラクタマーゼ産生菌の遺伝情報はプラスミドによって菌株,菌種を超えて伝達されるため,院内感染対策で問題となる.今回我々は,長期に抗菌薬投与をされていた肺炎患者において,<i>Klebsiella pneumoniae </i>Carbapenemase(KPC)型との鑑別を要したAmpC β-ラクタマーゼ産生<i>Klebsiella pneumoniae</i>を検出した一例を経験したので報告する.患者は62歳,男性.平成23年8月近医にて肺化膿症と診断され,治療中に肺出血を併発し当院へ転院した.患者は,入院2週間前からカルバぺネム系薬が投与されていた.気管内採痰から検出された<i>K. pneumoniae</i>は,カルバぺネム系薬を含む全βラクタム系薬に耐性であったことから,KPCなどのカルバぺネマーゼ産生菌が疑われた.しかし,Hodge's test,シカベータテスト,メルカプト酢酸の酵素阻害試験はいずれも陰性であった.本菌は,ボロン酸を用いた酵素阻害試験で阻止円の拡大が認められたことから,AmpC β-ラクタマーゼ産生株と推定された.さらに,遺伝子学的検査の結果,本菌はDHA型のAmpC β-ラクタマーゼ産生<i>K. pneumoniae</i>であることが確認された.今回の分離株におけるimipenem(IPM)のMIC値は4 μg/mLであり,2010年以降のCLSIのブレイクポイントで耐性と判定される株であった.AmpC β-ラクタマーゼでありながらIPMのMICが高かった理由は不明であるが,染色体性カルバぺネマーゼ保有の可能性も否定できないと考える.このような耐性菌に遭遇した場合に備え,検査室では酵素阻害試験などを追試できる体制を整えておくことが必要である.