- 著者
-
太田 心平
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:00215023)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, no.1, pp.44-64, 2003-06-30
本橋は、ことばのレトリックが政治文化の構築に与える影響を論じるものである。そのために本橋では、現代韓国の政治に関する言説と語りを、その動態に注目して意味分析する。また、ことばの内容を独特な形で把握する一般人たちの語りを紹介し、そのことばの使用法が与野の政治勢力のそれらと影響し合うことを述べつつ、その過程で生じたある種の誤解が人々の政治意識の基盤となるという現代韓国の政治文化の一側面を論じる。人類学におけるこれまでの言説分析は、特定のことばが価値あるものとして社会的に捉えられるということを明らかとし、ことばのレトリック効果が政治に影響することを論じるために使われてきた。現代の韓国社会においても、<民衆>や<統一>などのことばによって、この点は示される。これらは、美徳を表わすとしか言えない特殊な意味を原義とは別に持っている。しかし政治的な言説や語りには、同時に憎悪の対象として意味づけられたことばも溢れている。現代韓国における<アカ>や<IMF>などのことばがそれにあたる。これらは悪徳としか還元しようのない特殊な指示内容を持つことがある。このようにして生じた同じことばの複数の指示内容は、人々が政治についての評価や感情を語る際に、一まとめに扱われる傾向がある。この傾向は、特に政治運動と関わりが薄い人々に顕著だ。この場合に人々は、各自の政治に関するイデオロギーや戦略とは関わりな<、<アカ>と呼ばれる人々や<IMF>と呼ばれる国際通貨基金を批判する発話をすることとなる。