著者
山内 敏正 神谷 英紀 宇都宮 一典 綿田 裕孝 川浪 大治 佐藤 淳子 北田 宗弘 古家 大祐 原田 範雄 幣 憲一郎 城尾 恵里奈 鈴木 亮 坊内 良太郎 太田 康晴 近藤 龍也 日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.91-109, 2020-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
158
被引用文献数
1

「糖尿病診療ガイドライン」は,エビデンスに基づく糖尿病診療の推進と糖尿病診療の均てん化を目的とし,3年ごとに改訂され刊行されている.「糖尿病診療ガイドライン」の策定は然るべきプロセスを踏まえる必要があり,糖尿病診療に必要なアップデート事項を毎年ガイドラインとして刊行することは困難である.そこで,日本糖尿病学会として,今後はアップデート事項を適宜コンセンサスステートメントとして刊行していくことを決定した.そのため,日本糖尿病学会理事会の下に,事務局長,事務局長代行並びに幹事からなる「コンセンサスステートメント策定に関する委員会」を設置し,本委員会が中心となって,アップデートの必要なテーマの選択とその執筆者を選び,理事会の承認を得た後に執筆を行った.本コンセンサスステートメントについては,全理事が査読者を務めた.また,他学会ガイドラインとの整合性の観点から,関連学会に外部評価もお願いした.本コンセンサスステートメントは,我が国における糖尿病診療に関する考え方について,テーマごとにできうる限り新しいエビデンスを含め,我が国の専門家間でのコンセンサスが得られた見解を取り纏めたものとご理解いただき,最善の糖尿病診療を行う上で活用していただきたい.糖尿病患者数は世界のどこよりも急速にアジア地域で増加しており,世界の糖尿病人口の3分の1はこの地域に集中していることから,我が国からコンセンサスステートメントをタイムリーに示していくことは,極めて重要な意義を有することと考えられる.今後,英語版の刊行も予定している.今回は,その第1報として,「糖尿病患者の栄養食事指導」をテーマにコンセンサスステートメントを作成した.我が国における糖尿病患者に対する栄養食事指導の考え方やその指導について,アップデートが必要なフォーカスすべき4つの内容(目標体重および総エネルギー摂取量の設定,炭水化物の摂取量,タンパク質の摂取量,管理栄養士による栄養食事指導)で構成している.主に糖尿病の管理を目的としたものであるが,タンパク質の摂取量においては,糖尿病性腎症やサルコペニア,高齢者の場合に関しても言及している.コンセンサスステートメントは,今後も糖尿病診療について適宜アップデートが必要なテーマを選び,できうる限り最新のエビデンスを盛り込みながら定期的に刊行していく.コンセンサスステートメントが,我が国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに,新しいエビデンスを加えながら,より良いものに進化し続けていくことを願っている.
著者
金澤 康 藤原 久美 井手 華子 山﨑 博之 宇都宮 一典
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.288-294, 2017-04-30 (Released:2017-04-30)
参考文献数
17

症例は48歳男性.8年前指摘の糖尿病に対しインスリン加療されていたが,自己中断歴もあり,血糖コントロールは不良の状態であった.意識障害で家族に発見され救急搬送となった.血液検査結果から糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と診断した.意識レベルはGlasgow Coma Scale E1V1M1,頭部CTでは著明な脳浮腫,頭部MRIではびまん性に脳低灌流の所見を得た.併発していた肺炎の治療とともに,グリセオール投与で浮腫の改善を図りながら,補液,インスリン投与による全身管理を行った.脳浮腫は改善をみとめたものの,最終的に高度遷延性意識障害の状態に至った.DKAを含めた高血糖緊急症において,治療前に脳浮腫を来した報告は極めて少なく,貴重な症例であると考え,考察とともに報告する.
著者
糖尿病性腎症合同委員会・糖尿病性腎症病期分類改訂ワーキンググループ 馬場園 哲也 金崎 啓造 宇都宮 一典 古家 大祐 綿田 裕孝 繪本 正憲 川浪 大治 深水 圭 久米 真司 鈴木 芳樹 和田 淳 和田 隆志 岡田 浩一 成田 一衛 小岩 文彦 阿部 雅紀 土谷 健 加藤 明彦 市川 和子 北谷 直美
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.797-805, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
20

わが国では2014年に改訂された糖尿病性腎症病期分類が広く用いられてきた.最近では,高齢化や肥満者の増加,糖尿病や高血圧症に対する新規治療薬の開発などを背景に,糖尿病患者に合併した腎臓病が多様化していることが指摘されている.そこで糖尿病性腎症合同委員会では,腎症病期分類を再度改訂する必要性を検討した.現時点では,アルブミン尿や推算糸球体濾過量に基づく2014年分類を変更する必要性を示唆する新たなエビデンスが発出されていないことから,今回の改訂では2014年分類の基本的な枠組みは変更しないこととした.ただし,日本腎臓学会のCKD重症度分類や国際的な表記との整合性を重視し,病期名を「正常アルブミン尿期(第1期)」,「微量アルブミン尿期(第2期)」,「顕性アルブミン尿期(第3期)」,「GFR高度低下・末期腎不全期(第4期)」,「腎代替療法期(第5期)」へ変更した.
著者
根本 昌実 杉沢 勇人 西村 理明 田嶼 尚子 宇都宮 一典
出版者
THE JAPAN DIABETES SOCIETY
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.98-102, 2011-02-28
被引用文献数
1

日本人成人1型糖尿病患者におけるハネムーン期発現に関与する臨床的因子を明らかにする目的で検討を行った.新規発症後のインスリン量が0.5単位/kg体重/日未満をハネムーン期と定義し,30症例(18~76歳,男:女=13:17)を,ハネムーン期を示す1型糖尿病(H群)と示さない1型糖尿病(NH群)に分類し,身体的及び検査所見を検討した.H群は19症例(63.3%)を占め,NH群と比較して尿中CPR高値(p=0.0022),LDL-コレステロール高値(p=0.01),自己免疫性甲状腺疾患の合併が多い(p=0.0002),退院時のインスリン必要量が少ない(p=0.004)特徴を認めた.発現までの期間は1.9±2.0ヶ月,持続期間は16.0±4.9ヶ月であった.ハネムーン期発現には残存膵インスリン分泌能,脂質代謝,自己免疫疾患合併の関与が示唆された.<br>
著者
宇都宮 一典
出版者
Japan Society of Nutrition and Food Science
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.193-197, 2020 (Released:2020-10-19)
参考文献数
13

日本人の食事摂取基準2020年版の主たる改訂点の一つに, 「生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連」の項目立てを新設したことがあげられる。糖尿病は生活習慣病中でも重要な疾患として取り上げられており, 糖尿病診療ガイドライン2019との整合性を図る形で, その内容を反映するものとなっている。糖尿病の予防と管理の上で基本になるのが, 総エネルギー摂取量の設定である。従来, BMI=22を標準体重として, これに見合うエネルギー設定をしてきたが, 総死亡率が最も低いBMIには幅があり, その関係はフレイル予防を目指す高齢者では異なっている。また, BMI=30を超える肥満者が22を目指すことは難しい。そこで, 標準体重という言葉を廃して, 目標体重と改め, 患者の属性や現体重などから柔軟に設定することとした。今後, 二重標識水法による実際の消費エネルギー量を踏まえ, 実効性の高い設定法を検討する必要がある。