著者
宮脇 勝 深谷 正則
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.3, pp.673-678, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
5

千葉県は2008年3月に「千葉県良好な景観の形成の推進に関する条例」を初めて公布した。今後、具体的な広域景観資源を発掘することが重要である。本研究では、県北部の利根川水系の景観に着目し、市町村を越えて広く分布している4市1町1村の「水塚及び屋敷林」について、現状と所有者意識等の実態を明らかにする。調査対象は現存する水塚(101軒)及び屋敷林(88軒)で、以下のことが明らかとなった。1)水塚の保存状態別に見ると、「水塚と蔵が共に現存するもの」は全体で42軒 (41%)、「水塚の全体が現存するもの」は21軒(21%)、「水塚の一部が現存するもの」は38軒(38%)で、保存状態は必ずしも良い状態ではない。2)中でも栄町は最も多くの水塚(59軒)と屋敷林(61軒)を残している。3)「水塚を大切にしたい」という所有者意識は白井市で64%と比較的高いが、その他の市町村で50%以下である。4)栄町では、水塚59軒の52軒(88%)で屋敷林を確認することができ、水塚と屋敷林を大切にしたいという意識の持ち主は半数程度である。しかし、水塚や屋敷林の存在を負担に感じている住民も少なくなく、負担軽減や景観条例に基づく支援が必要である。
著者
宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.493-500, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
21

本論は「風景の保護」に関わるイタリア共和国憲法の基本原則である第2条、第5条、第9条の制定時の議論を条文の間を結びつけて考察し、次の点を明らかにしている。1) 憲法第9条は、憲法議員マルケージとモーロによって起草された。風景とともに文化や芸術遺産を憲法で扱う必要性、国際的な価値と国家による保護の必要性を憲法議員たちが認識していたことが、議事録から理解できた。2) 憲法第2条は、個人の自由権と社会集団のコミュニティ権の二つの権利を統合するねらいがあった。3) 風景保護は、個人の自由権とコミュニティ権を両立させ、個人の財産が地域コミュニティで生かされ、社会的機能の形成に寄与するように、私有財産権を風景保護のために制限することを憲法裁判所の判決で認めている。4) 風景の保護について、地方分権も検討されたが、第9条に国家の役割を入れた経緯が明らかになった。5) 憲法第9条のビジョンは、2004年のウルバーニ法典により、文化的発展に風景保護を用いる考え方が法律化し、国家と州政府が協力するかたちで、コミュニティ権を守るべく、私権の制限を行う仕組みを整えたことが明らかになった。
著者
圓道寺 ゆみ 宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.33-40, 2014-04-25 (Released:2014-04-25)
参考文献数
10
被引用文献数
3 1

日本の河川敷地は、河川法で制限されているが、2011年の通知(国土交通事務次官通知第135号)で、占用主体として民間事業者も認められるようになった。そこで本論文は、この河川敷地占用許可準則の改正を用いた全国の取り組み(7市13事例)を把握した後、東京都、大阪市、広島市の運営組織の比較を行った。中でも、大阪市の官民一体事業に焦点を当て、関係者へのヒヤリングを通じ、河川敷地の占用と利用状況を具体的に明らかにしている。結論で、1)水都大阪の事例から、河川敷地のハード整備のアイデアを公募する仕組みと、北浜テラスで河床の整備と管理面に関して、民間で運営していることがわかった。2)現地調査から、河川敷地の連続性が活用状況に影響を与えていること、遊歩道の有無、出入り口、イベントの実施により利用状況が大きく異なること、利用を促進するためのイベントの実施、建築や護岸の形式の連続性も重要であることがわかった。
著者
高取 千佳 村瀬 由伎 宮脇 勝 北村 淳一 清水 裕之
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.645-650, 2020-03-31 (Released:2020-06-09)
参考文献数
15

During the 20th Century, most part of Japanese paddy fields were transformed to productive efficient allotments by the “Agricultural Land Improvement Projects”. However, the rich biodiversity, which was maintained in traditional paddy field forms with nature-near water supply systems, has led to a loss. In this research, the methodology of sustainable paddy field management which is aimed at balancing “efficient paddy field management” and “ecosystem conservation” was proposed by conducting the following three points. The focused site was Asami district in Matsuzaka city. First, the paddy fields were classified into 3 types according to the introduction of the agricultural land improvement project. Secondly, the differences of biodiversity and labor productivity by farmers among the three types were clarified. Thirdly, the future paddy field management scenarios were proposed and examined by considering a compromise point in this trade-off relationship between biodiversity and labor productivity.
著者
宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.607-612, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1

本論では鎌倉市中心部を取り上げ、広がりのある景観の歴史性をエリアで特定し、景観保全に役立てる歴史的景観特性アセスメント手法として、「歴史的景観キャラクタライゼーション」と呼ばれる方法、つまり、土地利用の年代特定により、エリア単位で年代特定を地図上で行い、景観の「時間的奥行き(Time-depth)」から歴史的価値を評価する方法を採用する。さらに、本論の特徴は土地利用の歴史的評価に加え、道路、街区、水路も歴史的景観キャラクタライゼーションに取り込む点にある。本研究により鎌倉市中心部で抽出された1875年以前の歴史的な土地利用エリアに歴史的価値があり、宅地を含む歴史的景観キャラクタライゼーションにより、土地利用について、調査エリアの56%以上に及ぶエリアを地図上に特定し、歴史的価値(持続性の価値及び希少性の価値)を示した。また、歴史的な街区は全街区面積の約45%(約91ha)、歴史的な道路は全道路面積の63%(約70ha)、水路は1875年時と比較して62%(約4ha)が残されており、その位置も特定した。多くは寺社の分布とも重なることを明らかにし、より広範囲の歴史的景観保全を提言している。
著者
宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.546-553, 2022-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
24

本論は、海岸線から洋上風車までの「離岸距離」が短い日本の課題を背景に、景観の基礎要因である「離岸距離」に着目し、「海洋計画」や風車の景観評価である「視覚的影響評価」を国際的に比較調査し、国内適用を目指すことを目的とする。洋上風力発電量の上位18か国を対象に調査した結果は、以下の通りある。 1)一般海域の最小離岸距離の計測から、離岸距離に配慮しているとみられる国には、中国、英国、ドイツ、オランダ、デンマーク、ベルギー、スウェーデン、韓国、アメリカ、ポルトガル、アイルランド、フランスが挙げられる。 2)実証実験用の風車、港湾、工業地域、人工干拓地に近接する場合において、離岸距離が短い事例が多い。 3)英国、ドイツ、オランダ、デンマーク、ベルギーでは、政府が海洋計画を策定し、比較的長い離岸距離を確保している。4)ベルギーで離岸距離が最大16.5kmで地元反対が、英国で離岸距離が3kmで景観訴訟が生じている。 デンマークの例では、工業地域に隣接しているが、離岸距離4.7kmの比較的近い場合でも、風車の配列や数を変更することで、市民の受容性が増している。5)日本でも洋上風車のための海洋計画と離岸距離の検討が必要である。
著者
宮脇 勝 唐 圻亮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.25-32, 2014

本研究は、上海のイギリス人居留地を取り上げ、道路、街区、建造物の形成年代を、歴史的景観キャラクタライゼーションを用いて特定している。結論で、1)道路について、1855年以前に形成された歴史的道路が約44%を占め、1917年までに形成された道路が全体の約98%残されていることがわかった。2)街区について、最も古い1855年以前に形成された街区は15街区あり、戦前の1932年以前に形成された歴史的街区は、151街区中134街区と、極めて高い割合で歴史的街区が残っていることがわかった。3)1932年以前に形成された道路と街区の総計は、約90%を占め、イギリス人居留地は、歴史的価値が高いエリアと言える。4)建造物について、現地調査した130棟のうち、1900年以前に形成された最も古い建造物は10棟あった。また、最も多く残っている年代は1921年~1930年の40棟であることがわかった。
著者
北岡 勝江 宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.2, pp.1-10, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
12

本論文は、東京で最も寺院が多い地域である台東区を取り上げ、歴史的な寺町の景観を創り出した土地利用特性を分析している。寺史文献資料と88枚の歴史的な地図、3枚の火災保険地図、道路登記名簿に基づき、道路、街区および寺院を地図上にデーターベース化して、その歴史性を詳細に比較分析した。その結果、1)震災や戦災の影響が少ない谷中地区には、江戸時代からのものが集中して残っている。台東区全体で、わずかであるが2%の街区と道路と寺院が、江戸時代のものとして谷中地区に現存している。2)関東大震災の後、区画整理事業により台東区全体の71%の街区が新設され、細分化された。3)寺院は、台東区内に起立した全550寺院のうち、73%が台東区内に現存し、全体の半数近い253寺院(46%)が江戸時代から残っている。4) 地区別の特性を取り上げ、谷中地区と浅草地区の違いを図とデータで示す等、歴史的特性を明らかにしている。
著者
高取 千佳 長谷川 泰洋 藤原 望 清水 裕之 宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1232-1239, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
16
被引用文献数
1

都市に残存する里山起源の二次林は、都市環境の向上に寄与する様々な緑地機能の発揮が期待されている。特に近年は、国民の余暇の増大や量から質への価値観の変化を背景に、雨水涵養や大気浄化等の従来の物理的機能に加え、景観やレクリエーション等の心理的機能が注目を集めている。しかしながら、近年では里山的利用の衰退による質の低下が進んでおり、緑地機能の適切な保全が求められている一方、財政難を抱える行政だけで積極的に緑地管理を行うことは難しく、行政・市民の協働による新たな緑地管理の在り方が模索されている。そこで、本研究では、名古屋市名東区藤巻町を対象に、(1)里山起源の二次林を類型化した上で、(2)景観選好性と管理労力の両方を定量的に評価し、(3)地域における提供しうる管理量を制約条件とし、景観選好性を最大化する管理労力の配分による空間計画の手法構築を行う。これにより、行政・市民の協働による緑地管理の在り方について計画的知見を得ることを目的とする。
著者
宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.691-696, 1997-10-25 (Released:2018-05-01)
参考文献数
16

The history of Italian Master Plans can be analized from the the activities of the planner and their generation. The first generation, L. Piccinato (1899-1974) and P. Marconi (1893-1974), created the foundation for the modern city planning. The second generation, G. Sasmona' (1898-1983), the urbanization and applied the city planning theory to many cities. the third generation, G. C. Venuti (1926-) modificated the plans and proposed sustainability as the Landscape Plan by Galasso Act.
著者
宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.421-426, 2009-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
2

本論は、イタリアで2004年に公布され、2006年と2008年に改正された文化財と景観の新しい法律、ウルバーニ法典について、その景観の定義、権限、景観計画、景観許認可(景観アセスメント)の観点から論じている。ウルバーニ法典は、2000年のヨーロッパ・ランドスケープ国際条約における景観政策と2001年のイタリアの憲法改正に基づいて、新たに誕生した。このため、従来からのガラッソ法の景観計画からウルバーニ法典の景観計画へと移行が始まっている。本論の結論において、ウルバーニ法典がもたらす景観への取り組みの発展は、1)景観の定義による価値付け、2)景観財の特定、3)国と州政府の協力の下、自然景観、歴史的景観、そして現代景観の総合化した新しい景観計画の策定、4)景観マネジメントを実施するための、景観許認可制度(景観アセスメント)の仕組みが準備されたこと、特に、2008年の改正ウルバーニ法典による中央政府に景観の許認可の権限を強化した点を明らかにしている。
著者
宮脇 勝 梶原 千尋
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.115-120, 2007-10-25
参考文献数
8
被引用文献数
5

本論は、景観整備の価値を経済的な側面から明らかにする目的で、地価公示及び固定資産税路線価を用いたヘドニック・アプローチによって地価関数を推計している。対象地域として、景観条例や重要伝統的建造物群保存地区に着目し、長い間景観行政が行われてきた金沢市、倉敷市、萩市を取り上げて分析する。分析の結果は次のような概要となっている。1)金沢市全域について、景観規制に係わる要素として、近代的都市景観創出区域のみが説明変数として採用された。2)地区単位で推計した結果、金沢市内の異なる景観規制がかけられた複数地区の比較で、高度地区12m は、伝建地区とともに指定された場合にのみ地価を上昇させており、伝建地区の経済的効果を明らかにした。3)一方、 用途地域などの条件の異なる他都市の伝建地区との比較の結果、倉敷市と萩市の住居系及び商業系地域でプラスの効果が明らかにされている。
著者
北原 理雄 宮脇 勝 郭 東潤
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

魅力的な都市には人々の生き生きとした活動がある。物的空間だけで魅力ある都市景観を形成することは困難であり、活気あるアクティビティが存在して初めて都市は輝きを増し、都市活性化にも資する成果を生むことができる。街路、広場などの公共空間は、都市におけるアクティビティの主要舞台である。従って、都市景観形成に当たっては、公共空間の物的改善に加えて、その利活用を適切にコントロールする手法の確立が必要不可欠である。上記のような課題意識に立ち、本研究は次の2点を目的として進められた。・この領域で一日の長を有する欧米諸都市において公共空間の利活用に関してどのような制度が用意されているか、またどのような体制のもとで公共空間の利活用がどのように規制・誘導されているか調査し、コントロールの制度とその運用実態を明らかにする。・わが国における実験的取り組みに基づき、現行制度のもとにおける成果と課題を明らかにし、今後の方向性を見いだす。その結果、次のような成果が得られた。(1)既調査6都市(パリ、コペンハーゲン、ミラノ、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル)の資料を再整理するとともに、新たにロンドン、ヘルシンキ、ストックホルム、ニューヨーク、クリチバの調査を行い、公共空間の利活用を図る制度とその運用実態を明らかにした。(2)広島、横浜、名古屋など、国内の先駆的都市について追加調査を行うとともに、韓国(ソウル、清州)の調査を行い、アジアにおける公共空間利活用の視点で、現状と課題を検討した。(3)千葉市におけるオープンカフェとパラソルギャラリーの実験を継続し、公共空間の利活用が生み出す賑わいの実態と都市活性化に対する効果を分析した。
著者
宮脇 勝 鈴木 将光 増田 公一
出版者
一般社団法人日本建築学会
雑誌
総合論文誌 (ISSN:13476548)
巻号頁・発行日
no.3, pp.28-29, 2005-02-20

「みなとみらい21事業」は、横浜のウォーターフロントにおける新しい都心づくりである。1965年に当時の飛田市長が発表した六大事業のうち、都心部強化事業の中核的プロジェクトとして位置づけられ、その後1983年から事業展開がされてきた。みなとみらい21は、中央地区、新港地区、横浜駅東口地区の3地区から成っている。上地利用推進と機能的な都市交通アクセスの整備のために、2004年に地下鉄みなとみらい線が開通された。