著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.289-296, 1986-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

The adaptation process of transferred children (New-TC) in grades three to six in new schools was investigated four times in the three-month period following their transference by means of questionnaires which covered physical, interpersonal and socio-cultural environments of the school. Subjects were 40 New-TC, 65 children transferred the previous year (Ex-TC) and 120 children who had been in the schools before Ex-TC (Host-C). The main findings were as follows: (1) New-TC had lower score than Ex-TC and Host-TC in interpersonal transaction with classmates and teachers during their first two periods,(2) New-TC with lower social difficulty, such as feeling of anxiety or difficulty in social situations, showed a tendency for higher score in interpersonal transaction with classmates and teachers,(3) New-TC had lower score than Ex-TC and Host-C in cognition of school facilities and equipments (physical environment) during their first three periods,(4) No difference was found in three groups concerning reception of class (interpersonal environment) and interest of learning (socio-cultural environment). These results were discussed from a microgenetic developmental view-point.
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.203-217, 2016-03-30 (Released:2016-08-12)
参考文献数
56
被引用文献数
7

わが国でも,すべての子どもを対象とした予防教育として,社会性と情動の学習(SEL)に関する研究が進展しつつある。本研究では,そのための学習プログラム(SELプログラム)の学校での実施と持続に焦点を絞り,検討を行った。まず,(1) 社会性と情動の学習および関連する概念を説明した後,(2) SELの実施と持続に関する欧米の研究にみられる諸概念を概説した。そこでは,大きくエビデンス(科学的根拠)の立証と学校等での実施と持続に分けて説明した。その後,これらの動向をふまえて,(3) わが国における今後の取り組みとして,まず学習プログラムのエビデンスの立証について,わが国の教育事情をふまえた妥当性の検討とプロセス評価の必要性を述べた。最後に (4) アンカーポイント(構造化の基点)概念を適用して,わが国での実施と持続への取り組みのための手続きや着眼点の整理を行った。具体的には,教師―子どもシステム,単一の学校システム,中学校ブロックシステム,そして教育委員会レベルのシステムごとに,SELプログラムの実施と持続が促進されるようなアンカーポイントを示し,積極的に利用する方策(アンカーポイント植え込み法)を提案した。
著者
大対香奈子 田中善大 庭山和貴 月本彈# 小泉令三
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第60回総会
巻号頁・発行日
2018-08-31

企画趣旨大対香奈子 この20年間で教育に関わる行政や法制度はめまぐるしく変化し,特に最近の動向としてはインクルーシブ教育,合理的配慮,予防的支援,チーム学校というキーワードが特徴的である(石隈, 2017)。これまでの,発達障がいや不登校といった支援を必要とする児童生徒に個別に支援を行うという考え方から,全ての児童生徒を対象とした予防的観点からのアプローチ,そして教員と専門家がチームとして取り組むという支援体制が強く求められるようになってきている。 このような社会的要請に応じるための一つの学校支援のあり方として,スクールワイドのポジティブな行動支援(School-wide Positive Behavior Support; SW-PBSまたはSchool-wide Positive Behavioral Interventions and Supports; SW-PBIS)がある。SW-PBSはアメリカではすでに25,000校以上で導入されており,問題行動の減少,学力や授業参加行動の向上,学校風土の改善等の効果があることが実証されている。近年,日本においてもSW-PBSが注目され,少しずつではあるがその導入が進められている。本シンポジウムでは,日本におけるSW-PBSの実践例を話題提供者から紹介していただき,日本において導入する上での課題について議論をしたい。また,その普及における導入の忠実性をどのように保ち,効果のエビデンスをどう示していくかということについても検討していきたい。指定討論者には社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning; SEL)の導入実践の日本における第一人者である小泉令三先生にお越しいただき,SELの導入を進めてこられた経験から指定討論をしていただく。小学校のSW-PBSにおける第1層支援の効果検討月本 彈 近年SW-PBSは,日本において導入が進められつつあるが,依然効果検討がほとんどなされていない。また,日本に導入する際に必要となる人材やコストや課題なども明らかでない。 話題提供では,徳島県の公立小学校へ導入したSW-PBSの全学級・全児童を対象とした第1層支援の実践について紹介する。本実践では,応用行動分析学の専門家が,研修や助言を行った。対象校の教職員は,コーディネーターを中心とし,学校目標マトリックス図を作成し,その中の優先度が高い行動目標について,行動指導計画を作成し,それに従って児童に対して行動目標の指導が行われた。具体的には,きまりを守るための行動(授業に必要なものを準備するなど), 自分と友達を大事にするための行動(あったか言葉を使うなど),すてきな言葉をつかう(あいさつをするなど)の3つに関わる行動が指導された。 行動の指導の方法は,主に教職員による教示,モデリングとロールプレイ,賞賛やグラフフィードバックによる強化であった。本実践の効果について,行動指標(指導された行動に関する行動変容の記録)と評価尺度のデータ(日本語版School Liking and Avoidance Questionnaire(SLAQ)と日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)を修正したもの)から検討した。さらに,教職員への今回の取り組みについての重要性や負担感,成果などを尋ねるアンケートから,社会的妥当性を検討するとともに,管理職へ今回の取り組みに関する付加的な予算の使い道などをアンケートで尋ねることでSW-PBSを導入する際に必要な人材やコストと課題についても検討する。中学校の学年ワイドのPBISが生徒指導件数に及ぼす効果―日本の学校教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性―庭山和貴 SW-PBISの要素として,子どもの行動に対するポジティブな行動支援の“実践”,それを実施する教職員の行動を支援するための“システム”,そしてこれらが上手く機能しているかどうかを確認・改善するための“データ”に基づく意思決定,が挙げられる (Horner & Sugai, 2015)。これらの要素のうち,日本の学校教育現場への普及を考えた際に最も導入困難なのは“データ”である。米国では,Office Discipline Referral (ODR) と呼ばれる問題行動の記録が,SW-PBISの効果指標として広く使われており,どの子どもにより集中的な支援が必要なのか,どの場面・時間帯の問題行動を重点的に予防すべきか,などの意思決定のために活用されている。 日本の教育現場においても,特に中学校・高校では生徒指導の記録(生徒指導担当教諭に報告するレベルの問題行動の記録)を記述的に残している場合がある。米国のODRを参考にして,このような生徒指導の記録を,教育現場におけるより良い意思決定や,支援の効果検証に活用可能な形にすることは可能である。 本話題提供では,関西圏の公立中学校において,学年規模のPBISを実施し,その効果検証に生徒指導の記録を用いた実践研究について紹介する。介入の効果指標として,記述的に残されていた生徒指導の記録を,ODRの記録フォーマットを参考に,件数として把握できる形に整えた。そして,この生徒指導件数を各月の授業日数で割り,一日当たりの生徒指導件数の月毎の推移をグラフ化した。介入として,庭山・松見(2016)をもとに,生徒の望ましい行動を担任教師らが積極的に言語賞賛する取り組みを実施した。さらに生徒指導担当教諭が,担任教師らの取り組みが持続しやすいように教師支援を行った。その結果,担任教師らの授業中の言語賞賛回数が増え,子ども達の望ましい行動が増加した。そして,問題行動は相対的に減少したことが,生徒指導件数の減少により確かめられた。本話題提供では,この実践研究の過程において,生徒指導件数の記録がどのように支援の継続や改善の意思決定のために活用されたのかについて述べ,日本の教育現場におけるデータに基づく意思決定システムの可能性について検討する。小学校における学級を基礎としたSW-PBSの展開田中善大 学級は,日本の学校における基礎的な単位であり,児童生徒への支援を考える上で重要なものである。SW-PBSでは,学校全体(第1層)から小集団(第2層),個人(第3層)へと階層的で連続的な支援を実施する。学級という単位はどの層の支援にも関連するため,SW-PBSの実践において重要なものとなる。 SW-PBSにおいておける学校規模での1層支援は,日本においても学級単位(Class-wide: CW)であれば多くの実践が効果的に実施されている。学級において効果が確認されたポジティブな行動支援の方法を学校全体で共有し,実施すればSW-PBSにおける1層支援となる。また,必要な児童に対しては,学級集団に対する介入と合わせて,より個別的な支援を実施している場合も多い。これは学級単位での多層支援であり,1層支援と同様に効果的なものを学校全体で共有することで効果的にSW-PBSを進めることができる。 話題提供では,SW-PBSの導入校(話題提供1と同様の学校)の4年生2学級において実施した学級単位の介入及びその後実施された学校規模の取り組みについて紹介する。学級単位での介入では,多層支援として,学級全体に対する介入とより個別的な介入を実施し,その効果を確認した。学級全体の介入で対象とした行動は,学校全体で作成した学校目標マトリックス図をもとに決定した(「おへそを向けて話を聞く」「うなずきながら話を聞く」など)。介入では,学級単位のSSTの実施,適切行動を引き出す声掛け及び適切行動に対する言語称賛,集団随伴性に基づく介入などを実施した。また,学級全体に対する介入に加えて一部の児童に対してはより個別的な支援を実施した。教員による行動観察の結果から,学級介入の効果(適切行動の増加)が確認された。効果が確認された学級(CW)に対する介入は,より簡易な形に変更して学校全体(SW)でも実施された。話題提供では,これらの実践の報告から,学級を基礎としたSW-PBSの展開について検討する。小学校のSW-PBSの導入による教師の行動変化大対香奈子 実践の忠実性とは,その実践が理論的モデルやマニュアルに沿って意図されたように実践された程度と定義され(Schulte, Easton, & Parker, 2009),忠実性の高いSW-PBSほど効果的であることは様々な成果のデータから示されている(Horner et al., 2009; Kelm & McIntosh, 2012)。つまり,しかるべき手続きがどの程度忠実に実践されているかということが,高い効果を生むかどうかを左右するのである。SW-PBSは学校規模での実践であるため,その実践者は全教師である。 SW-PBSでは,問題行動に注目するのではなく,より適応的な行動を児童生徒に明確に呈示し,教え,その行動が見られた時には承認するという手続きが重要な要素として含まれる。したがって,教師が児童生徒の望ましい行動を効果的に賞賛したり承認したりすることが大きなポイントとなる。教師の賞賛は,適切な行動や学業従事行動を増加させるという実証研究は数多くあるが(Chalk & Bizo, 2004; 庭山・松見, 2016),SW-PBSの導入により実際に教師の賞賛行動が増えるのかについて検討したものはほとんど見当たらない。 そこで,本話題提供では,大阪府の公立小学校へのSW-PBSの導入により,教師の児童に対する賞賛および叱責の回数がどのように変化したのかという実践例のデータを示しながら,SW-PBSの導入が教師のどのような行動変化を生むのかについて,検討したい。また,SW-PBSの効果につながるような教師の行動変化を生むためには,どのような導入の手続きが必要と考えられるかについても議論し,今後の日本におけるSW-PBSの普及と効果的な導入のために,教師や校内のリーダー的役割を果たす教師への研修に含めるべき内容や必要な導入の手続きについて検討する。また,SW-PBSのゴールとしては関係するすべての人のQOLを高めることであるため,SW-PBSの導入により起こった教師の行動変化が,児童生徒や教師自身のQOLの向上にどのようにつながり得るのかについても今後の展望として検討したい。
著者
木村 敏久 小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.185-201, 2020-06-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
31
被引用文献数
6

本研究では,いじめ抑止に関する中村・越川(2014)の改善をめざして,社会性と情動の学習における問題解決スキルの習得を目標に2時間の心理教育プログラム(①いじめ対応策の検討,②対応策実行のためのロールプレイング)の授業を実施した。心理臨床の専門家ではなく通常の授業と同様に教師が実施した。中学2年生151名が本研究に参加し,実施時期をずらすウェイティング・リスト法を用いて,前期実施群と後期実施群を設定し,統制条件との比較による効果測定を行った。その結果,観衆や傍観者の立場での学習については,未学習の生徒との比較の結果,先行研究と同様にいじめの停止行動に対する自己効力感が学習後に上昇しており,かつ今回,一定期間(9日間),効果の維持が確認できた。一方,加害を容認するような傾向としては,学習後に一旦いじめ加害傾向が減少し,いじめ否定規範は上昇するものの,効果が継続しない傾向が新たに示された。また,社会的能力が高いと全般的にいじめ抑止傾向は高いことが明らかになった。以上の成果から,教師による指導の効果を確認するとともに,いじめ抑止の方策を教育実践上の観点から考察した。
著者
小泉 令三 松尾 馨
出版者
The Japanese Psychological Association
雑誌
Japanese Psychological Research (ISSN:00215368)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-11, 1993-07-25 (Released:2009-02-24)
参考文献数
17
被引用文献数
3 15

This research examined longitudinally over one year attitudinal and motivational changes of 296 Japanese 7th-grade students learning English. Levels of student's interest and emotion, study habits, perceived utility of English and familiarity with English-speaking people, as well as degree of parental encouragement, and self-rated attainment all decreased from the beginning of the school year until the third or seventh month, being followed by a stabilizing trend after those periods. Student's goals became realistic after the learning for one year. Students with initially high English ability performed better and showed more positive attitudes and motivation than those with initially low ability, whereas the former were suggested to be more vulnerable to the junior high school environment than the latter. Girls had higher scores than boys in most attitudinal and motivational variables, although girls had a lower expectancy of their own performance than boys in the goal-setting area. Instrumental and integrative types of motivation in learning English were not differentiated in the students' perceptions at the beginning of their English education in the seventh grade.
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.58-67, 1995-03-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

This research examined children's perceptions of junior high school (JHS) and their adaptation to JHS. In the first study, the structure of children's (N=420) expectations and worries about JHS was demonstrated to be five-dimensional by a factor-analytic procedure: (1) worries about interpersonal relationships,(2) expectations about interpersonal relationships and school work,(3) expectations and worries about club activities,(4) worries about school work, and (5) desires for freedom. The levels of expectations were higher than those expected from a previous research. The results also showed that club activities play an important role in children's perceptions of JHS. In the second study, part of the subjects (N=115) in the first study was tested again at the ninth month after transferring to JHS. Cluster analysis applied to them identified four subgroups showing different patterns of expectations and worries, as well as adaptation to JHS environment. One of the four subgroups, which showed high level of expectations in general and low level of worries about interpersonal relationships, was suggested to be most adaptable to JHS.
著者
小泉 令三
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.197-203, 1987-09-30

The present study aimed at examining the effects of class rearrangement of host classes on peer relationship of transferred children, and the validity of the use of the psychological distance map (PDM) for assessing the interpersonal psychological distances among elementary school children. Subjects were 40 third- to sixth-grade children and their classmates. Assessments were made four times over a three-month period after transference in April by the PDM. Psychological distances on the PDM in the two sampled classes significantly correlated each with choice in the sociometric test, frequencies in interaction observed during free play time, and the order on the rating scales for intimacy. Transferred children in fifth-and sixth-grade non-rearranged classes had lower status indexes assessed by PDM than host members in April.No such differences were found in rearranged fifth- and sixth-grade classes and in all third-and fourth-grade classes. Effects of class rearrangement on peer relationship of transferred children were discussed from a developmental point of view.
著者
小泉 令三 若杉 大輔
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.546-557, 2006-12-30
被引用文献数
1

多動傾向のある小学2年生男児Aの立ち歩く,突然衝動的な行動を起こす,トイレに引きこもる,遊びの邪魔をするなどの問題行動を改善させるために,個別指導とクラス対象の社会的スキルトレーニング(CSST)を組み合わせた5回の授業を,1週間に1回ずつ5週間にわたって実施した。その結果,CSST終了後,授業中の児童Aの問題行動はほぼ見られなくなり,休み時間にも友だちと一緒に遊ぶことができるようになった。児童Aの観察者評定,ソシオメトリック指名法による社会測定地位指数,教師評定,そして自宅での保護者評定の得点が上昇した。多動傾向のある児童の教育的支援に関して,個別対応のみならず,クラス集団内での相互作用を考慮した介入を行うことの有効性を示すことができた。なお,実施に当たっては担任教師だけでなく,補助者の必要性を確認することとなった。