著者
矢久保 修嗣 小牧 宏一 八木 洋 上松瀬 勝男
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.795-802, 1997-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
2 3

葛根湯を肩こりに対して投与し, サーモトレーサーを用いて検討を行った。健常成人9例と肩こり患者19例に対しカネボウ葛根湯エキス細粒 (葛根湯) を投与し, 投与前, 投与30分後, 60分後, 90分後, 120分後にサーモトレーサーを用いて側頸部領域の体表温度の平均値を求めて検討した。投与120分後に肩こり患者群を対象にして, 葛根湯の肩こりの改善度と有用性を評価し, 副作用については全28例を検討した。葛根湯の投与により, 下痢が3.7%に認められた以外に副作用はなく, 肩こりに対しては, 著明改善21.1%, 改善42.1%, やや改善15.8%となり, 有用以上が63.2%, やや有用以上が78.9%であった。葛根湯投与前の健常成人群と肩こり群には側頸部の体表温に差はなく, また, 葛根湯により肩こりの改善した群と, 肩こりの改善が不充分な群の投与前にも差がなかったが, 葛根湯投与後の側頸部体表温の推移は異なっており,肩こりの改善群では葛根湯投与による側頸部体表温の上昇が大きかった。側頸部体表温の上昇が大きいものには葛根湯により肩こりの改善するものが多く, 葛根湯による頸部の血液循環改善がその効果の機序として考えられた。
著者
丸岡 弘 高柳 清美 伊藤 俊一 森山 英樹 木戸 聡史 井上 和久 藤縄 理 小牧 宏一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3124, 2009

【目的】一般的にストレスマネジメントは、サプリメント摂取や運動などが知られている.しかし、運動などによる酸化ストレス防御系への影響を検討した報告が少ない.そこで今回、実験的疲労動物モデルを用いて運動やサプリメント摂取が酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した.<BR>【方法】実験動物はWistar系雄性ラット19匹(8週齢)を対象とした.ラットを1週間馴化飼育後に実験1、さらに1週間後に実験2を実施した.酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレス度の大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)を安静時(RE)と終了直後(PO)に測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した.実験1(重量負荷強制遊泳試験). 試験は水温23&deg;Cの水を張った黒色円筒容器に、体重の6%のおもりを尾部に装着して2回遊泳(初回遊泳試験後30分間の休息)させた.遊泳は頭部が完全に5秒間水没するまでとして、遊泳時間を計測した.実験2. 対象を10時間以上の絶飲食とした3群(A群7例;行動制限なし、B群6例;行動制限あり、C群6例;絶飲食直前にRoyal Jellyを300mg/Kg強制経口摂取・行動制限なし)に区分し検討した.なお、実験に当たっては埼玉県立大学動物実験委員会の承認を得て実施した.統計学的処理は分散分析と多重比較、相関分析、T検定を用い有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】実験1. d-ROMはREとPOを比較して有意差を認めなかったが、BAPとRB比では平均16~19%の有意な増加を認めた(いずれもp<.01).またRB比と遊泳時間との間には、相関を認めなかった.実験2. d-ROM平均変化率はREとPOを比較してA群;3%>B群;-1%,C群;-12%、BAP平均変化率はB群;18%>A群;8%,C群;8%、RB比平均変化率はB群;35%>C群;-6%,A群;-10%(いずれもp<.01~.001)となった.<BR>【考察】遊泳試験(実験1)では抗酸化力を増加させたことにより、酸化ストレス度に変化を生じなかったことが示された.つまり、遊泳時間に関連せずに潜在的抗酸化能を賦活させたことが考えられた.実験2より行動制限なしは酸化ストレス度の増加と共に潜在的抗酸化能の減少、行動制限ありでは抗酸化力と潜在的抗酸化能の増加が示された.このことから、行動制限の有無は酸素摂取との関連などから酸化ストレス防御系に影響をおよぼすことが考えられた.さらに、Royal Jellyの事前投与は酸化ストレス度の減少に繋がるが、潜在的抗酸化能に影響をおよぼさないことが示された.<BR>【まとめ】今回設定した遊泳試験では潜在的抗酸化能を賦活させた.また行動制限やサプリメント摂取は、酸化ストレス防御系と関連を示した.
著者
矢久保 修嗣 小牧 宏一
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.433-438, 1995-11-20
参考文献数
17
被引用文献数
1

抗コリン作用のある抗不整脈薬のジソピラミドによる口渇に対して我々は白虎加人参湯を投与した。 ジソピラミド徐放錠300mgを投与され口渇の生じた11例に対して, 白虎加人参湯エキス細粒1包2.0gを一日3回食後に迫加投与した。 ロ渇に対する効果判定は投与後12週の自覚症状の改善度を6段階評価し, 副作用などの考慮を加え6段階の有用度についての評価も行った。 また, 同方剤の併用によるジソピラミドの抗不整脈作用についても自覚症状とともに一部の症例では24時間 Holter 心電図により評価を行い, 電解質の変化も一部の症例について検討した。 白虎加人参湯の投与により不整脈の悪化はみられなかった。 同方剤の投与前後の血清Na, K, Clには有意な変化はなかった。 ジソピラミドによる口渇に対する同方剤の臨床効果判定を行った。 著明改善:18.2%, 改善:27.3%, やや改善:18.2%, 不変:18.2%, 悪化はなく, 判定不能:18.2%, 副作用は18.2%にみられた。白虎加人参湯の有用度は, 極めて有用:18.2%, 有用:27.3%, やや有用:18.2%, どちらともいえない:18.2%, 有用でない:0%, 判定不能:18.2%となった。 やや有効以上は63.6%となり, ジソピラミドの口渇に対する同方剤の投与ほ有用と考えられた。
著者
丸岡 弘 藤井 健志 小牧 宏一 木戸 聡史 井上 和久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab0472, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 一般的にアンチエイジング対策には、食品摂取や有酸素運動などが知られている。特に、抗酸化作用を持つことが知られている還元型コエンザイムQ10(QH)摂取の効果には、老化の遅延や抗疲労作用などが報告されている。そこで今回は、長期間のQH摂取と運動が老化や酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した。【方法】 対象は老化促進モデルマウス(SAMP1、週齢4週)50匹とし、無作為に4群(QH摂取群:A群、QH摂取と運動併用群:B群、運動群:C群、コントロール群:D群)に区分した(A群~C群各n=12、D群n=14)。マウスは動物飼育室にて馴化飼育した後、週齢8週目(若年期)より週齢56週(高齢期)まで研究に用いた。酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM)と抗酸化力(BAP)を安静時に測定し、d-ROM/BAP比(RB比)を算出した。測定は研究開始時(週齢8週):2M、12ヶ月の時点(週齢56週):12Mの計2回実施した。d-ROMなどの測定には尾静脈を一部切開の上、採血を行い遠心分離後の血漿を用いた。老化の指標には老化促進モデルマウス連絡協議会の老化度評点により判定を行った。運動能力は動物用トレッドミル(TM)を使用し(速度20m/min・傾斜20%)、走行時間を測定した。なお、運動の終了基準はTM走行面後方の電気刺激の時間間隔が5秒以内となった時点とした。老化指標と走行時間の測定は、2M、6ヶ月の時点(週齢32週):6M、12Mの計3回実施した。QH(30%安定化粉末)は給水ビンにて300mg/Kgの割合で配合、毎日摂取させた。運動の暴露はTMにて走運動(速度20m/min・傾斜10%・30分)を2回/週の割合で実施した。コントロール群は通常の飼料と水道水を摂取した。本研究において得られた数値は平均値±標準偏差で表し、統計ソフトはSPSS(Ver19.0)を用い、有意差の検定はwilcoxon符号付順位検定と一元配置分散分析を用いて行った。【倫理的配慮】 研究に当たっては、所属する大学動物実験委員会の承認を得て実施した(承認番号32)。【結果】 2Mの酸化ストレス防御系と老化指標、走行時間は、4群間において有意差を認めなかった。走行時間は12Mまでの経時的な変化において、4群共にそれぞれ有意な減少を認めた(p<0.001)。しかし、6Mにおいて4群間を比較すると、D群がA群とB群と比較し有意な減少、12Mにおいて4群間を比較すると、B群がC群とD群と比較し有意な変化を認めた(p<0.01~0.001)。老化指標は12Mまでの経時的な変化において、4群共に有意な増加を認めた(p<0.001)。しかし、6Mにおいて4群間を比較すると、C群とD群において有意な増加、12Mにおいて4群間を比較すると、特にB群が他の群と比較し有意な増加抑制を認めた(p<0.05~0.001)。酸化ストレス防御系は2Mと12Mを比較すると、d-ROMにおいてB群のみ有意な増加、BAPとRB比において4群間共に有意な減少を認めたが(p<0.05~0.01)、個体間のバラツキが大きかった。【考察】 今回、QH摂取による走行時間への影響が認められた。このような走行時間への影響は、ミトコンドリア賦活によるATP産生作用の増大などの生理学的効果が考えられた。さらに、QHは心筋の代謝を賦活させると共に、末梢血管抵抗を減少させ心肺機能や末梢循環を改善させることが報告されており、本研究においても老年期に至るまで、同様な効果を生じた可能性が考えられた。今回、老化指標はQH摂取によって遅延する傾向を認めた。このようなQH摂取による老化指標への影響は、運動を併用することによって生理学的効果が高まることが推察された。一般的に老化による生体への影響では、継続的な酸化ストレスの暴露に対する消去機能の衰えを示すことから、QHによる老化指標の抑制はQH自身の抗酸化作用による酸化ストレスの減少とATP生産による抗酸化系の活性維持が考えられた。また、B群では老化指標の増加抑制を認めたにも係わらず酸化ストレスの減少を認めなかったことから、老化指標に関しては酸化ストレスよりもATP生産が影響をしていたことも考えられた。一方では、血漿中の鉄イオンの還元力を分析している BAP値では、QHが脂質環境に存在するため、摂取による影響をよく反映しない可能性も考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究からはQH摂取と運動による走行時間や老化指標への影響を認めたことから、アンチエイジング対策などの基礎的データとなりうる。