著者
井原 秀俊 三輪 恵 高柳 清美 出谷 啓三
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.1059-1062, 1993-09-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
13
被引用文献数
1

One case and one study of an atrophy of the vastus medialis (VM), which might be caused not by disuse but by neurophysiological factors, are presented in this paper. (1) A 17-year-old boy showed an acute atrophy of the VM on day 3 after injury of ligaments and menisci of his left knee. This atrophy was demonstrated on MR imaging. (2) The right knee of 11 healthy students was braced for 8 weeks to investigate effects of knee bracing on muscle. Cross-section area of the VM was significantly (p<0, 05) in 8-week braced side. Reflex inhibition of the VM via modulation of afferent activity of the capsule or ligament and meniscus, in response to capsular compression with bracing or acute swelling or injury to the mechanoreceptors in involved tissues, might lead to this muscle atrophy.
著者
国分 貴徳 金村 尚彦 西川 裕一 井原 秀俊 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0476, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 我々はこれまで,ラットにおいて膝前十字靭帯(以下ACL)完全損傷後に,関節の異常運動を制動することでACL完全損傷でも治癒しうることを報告した.これによりACL損傷後の靱帯治癒能には,損傷後における膝関節キネマティクスが関与していることを明らかにした.一方で,臨床における靱帯損傷からの回復には,靱帯自体の治癒という視点以上に,関節機能が正常化するかどうかという視点が重要でとなる.すなわち,組織学上は断裂した靱帯において連続性が確認されれば「治癒」ということができるが,臨床上ではその治癒した靱帯が,損傷以前に担っていた関節運動上の機能的役割を果たして初めて「治癒した」ということができる.本研究の目的は,我々がこれまで報告してきたACL完全損傷の保存治癒モデルを対象として,治癒したACLの機能的側面を力学的破断試験と免疫組織化学染色法を用いて明らかにすることである.【方法】 Wistar系の雄性ラット(16週齢)39匹をControl(12),Sham(12),実験(15)の3群に分類した.実験群に対して,麻酔下にて右膝関節のACLを外科的に切断し,徒手的に脛骨の前方引き出しを行いACLが完全断裂していることを確認した.続いて膝関節の異常運動を制動するため,脛骨粗面下部に骨トンネルを作製し,同部と大腿骨遠位部顆部後面にナイロン製の糸を通して固定することで大腿骨に対する脛骨の前方引き出しを制動した.術後はゲージ内にて自由飼育とし,水と餌に関しても自由摂取とした.術後8週経過時点で屠殺して膝関節を摘出した. 力学試験群は,採取組織をラットの膝関節構造に合わせて特別に作製したJigを使用して試験機(INSTRON社製)にセットした.Jigが膝関節裂隙の大腿骨・脛骨それぞれに引っかかるように試料を設定後,予備荷重として1.5Nを加えた状態を変位原点として荷重速度5mm/minで上下方向に引っ張り測定した.最大荷重(N),最大荷重時変位量(mm)を測定し,これらの結果から,stiffness(N/mm)を算出した.統計解析はSPSS16.0J for Windowsを用い,測定結果の比較にKruskal Wallis検定を適用し,有意な主効果を認めた場合にShafferの方法を適用して多重比較を行い,2群間の比較を行った.全ての分析において,0.05未満を有意水準とした. 免疫組織化学染色群(各群6匹)はcollagen typeI,II,IIIの一次抗体を用いてovernightで反応させ,その後はABC kit(Vector社,United States)を使用し行い,Dako Envision + kit /HRP(DAB)にて1分間発色し検鏡・撮像を行った.【倫理的配慮、説明と同意】 本実験は,埼玉県立大学動物実験実施倫理委員会の承認を得て行った.【結果】 実験群では15匹全てでACLの連続性が確認された.力学試験の結果は,破断時最大荷重とstiffnessで,実験群が他の2群に比べて有意に低い値となった(p>0.05).最大荷重時変位には群間内に有意差を認めなかった.免疫組織化学染色の結果は,collagen typeIIIは,実験群において他の2群と比較してACL実質部において明確な陽性所見が確認された.【考察】 力学試験結果で実験群の強度が有意に低かったことから,本実験モデルの治癒ACLは関節運動における機能的側面を満たしているとは言えず,現時点では不十分な回復であると言わざるを得ない.また,免疫組織化学染色の結果では,collagen typeIIIは,実験群において他の2群と比較して,ACL実質部で明確な陽性所見が確認された.内側側副靱帯を対象とした先行研究ではcollagen typeIIIは,正常靱帯における含有量は少ないが,治癒靱帯では一時的に増加することが報告され,その後徐々にtypeI線維へ置き換わっていくことで靱帯の力学的強度が回復するとされている.このことから,本研究モデルは,治癒経過の一期間である可能性があり,今後collagen typeI・III含有量の比率が推移していくことで力学的強度も更なる回復が得られる可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 近年の健康志向の高まりにつれ,ACL損傷患者の年齢層も広がってきている.中年以降のACL損傷患者においては,様々な理由から保存療法は重要な治療の選択肢となりうる.しかし現状で行われている保存療法の治療満足度は非常に低く(Strehl.2007),変形性膝関節症のリスクを高める(Spindler .2007)とも言われる.より機能的で効果的な保存療法の確立は,理学療法領域における 重要な課題であり,本研究はこれに寄与するものである.
著者
森山 英樹 増子 潤 金村 尚彦 木藤 伸宏 小澤 淳也 今北 英高 高柳 清美 伊藤 俊一 磯崎 弘司 出家 正隆
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.1-9, 2011-02-20
被引用文献数
1

【目的】本研究の目的は,理学療法分野での運動器疾患ならびに症状を対象としたストレッチング単独の有用性や効果を検証することである。【方法】関連する論文を文献データベースにて検索した。収集した論文の質的評価を行い,メタアナリシスあるいは効果量か95%信頼区間により検討した。【結果】研究選択の適格基準に合致した臨床試験25編が抽出された。足関節背屈制限,肩関節周囲炎,腰痛,変形性膝関節症,ハムストリングス損傷,足底筋膜炎,頸部痛,線維筋痛症に対するストレッチングの有効性が示され,膝関節屈曲拘縮と脳卒中後の上肢障害の改善効果は見出せなかった。【結論】現時点での運動器障害に対するストレッチングの適応のエビデンスを提供した。一方,本結果では理学療法分野でストレッチングの対象となる機能障害が十分に網羅されていない。ストレッチングは普遍的治療であるからこそ,その有用性や効果を今後実証する必要がある。
著者
丸岡 弘 高柳 清美 伊藤 俊一 森山 英樹 木戸 聡史 井上 和久 藤縄 理 小牧 宏一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3124, 2009

【目的】一般的にストレスマネジメントは、サプリメント摂取や運動などが知られている.しかし、運動などによる酸化ストレス防御系への影響を検討した報告が少ない.そこで今回、実験的疲労動物モデルを用いて運動やサプリメント摂取が酸化ストレス防御系へおよぼす影響について検討した.<BR>【方法】実験動物はWistar系雄性ラット19匹(8週齢)を対象とした.ラットを1週間馴化飼育後に実験1、さらに1週間後に実験2を実施した.酸化ストレス防御系は活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し、酸化ストレス度(d-ROM:酸化ストレス度の大きさ)と抗酸化能(BAP:抗酸化力)を安静時(RE)と終了直後(PO)に測定し、d-ROM/BAP比(RB比:潜在的抗酸化能)を算出した.実験1(重量負荷強制遊泳試験). 試験は水温23&deg;Cの水を張った黒色円筒容器に、体重の6%のおもりを尾部に装着して2回遊泳(初回遊泳試験後30分間の休息)させた.遊泳は頭部が完全に5秒間水没するまでとして、遊泳時間を計測した.実験2. 対象を10時間以上の絶飲食とした3群(A群7例;行動制限なし、B群6例;行動制限あり、C群6例;絶飲食直前にRoyal Jellyを300mg/Kg強制経口摂取・行動制限なし)に区分し検討した.なお、実験に当たっては埼玉県立大学動物実験委員会の承認を得て実施した.統計学的処理は分散分析と多重比較、相関分析、T検定を用い有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】実験1. d-ROMはREとPOを比較して有意差を認めなかったが、BAPとRB比では平均16~19%の有意な増加を認めた(いずれもp<.01).またRB比と遊泳時間との間には、相関を認めなかった.実験2. d-ROM平均変化率はREとPOを比較してA群;3%>B群;-1%,C群;-12%、BAP平均変化率はB群;18%>A群;8%,C群;8%、RB比平均変化率はB群;35%>C群;-6%,A群;-10%(いずれもp<.01~.001)となった.<BR>【考察】遊泳試験(実験1)では抗酸化力を増加させたことにより、酸化ストレス度に変化を生じなかったことが示された.つまり、遊泳時間に関連せずに潜在的抗酸化能を賦活させたことが考えられた.実験2より行動制限なしは酸化ストレス度の増加と共に潜在的抗酸化能の減少、行動制限ありでは抗酸化力と潜在的抗酸化能の増加が示された.このことから、行動制限の有無は酸素摂取との関連などから酸化ストレス防御系に影響をおよぼすことが考えられた.さらに、Royal Jellyの事前投与は酸化ストレス度の減少に繋がるが、潜在的抗酸化能に影響をおよぼさないことが示された.<BR>【まとめ】今回設定した遊泳試験では潜在的抗酸化能を賦活させた.また行動制限やサプリメント摂取は、酸化ストレス防御系と関連を示した.
著者
西原 賢 久保田 章仁 丸岡 弘 原 和彦 藤縄 理 高柳 清美 磯崎 弘司 河合 恒 須永 康代 荒木 智子 鈴木 陽介 森山 英樹 細田 昌孝 井上 和久 田口 孝行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0675, 2007

【目的】運動時の活動電位を観測する研究は多いが活動電位の伝導方向や神経筋の部位まで調べる試みは少ない。現在、画像診断で筋構造を大まかに観測することは可能であるが、神経または筋の神経支配領域までを調べるには不十分である。これらが調べられることによって、運動に関る神経・筋の機能的評価が可能となり、臨床上大変有用となる。さらに、神経の走行部位を予測して、筋肉注射時に神経損傷を予防する場合にも役立つ。そこで、これまでわれわれが開発した筋電図処理技術を応用して、神経や筋の組織解剖学的研究と照し合せながら本研究の検証を行う。<BR>【方法】19-22歳の健常人男性12人を対象にした。被験者は右手首に1kgの重垂バンドを装着し、肩屈曲30°肘屈曲90°で上腕二頭筋収縮、肩外転45°で三角筋収縮を1分間持続させた。上腕二頭筋では、被験者の内側上腕二頭筋の中心に双極アレイ電極を筋の方向に沿って取り付けた。三角筋では、肩峰から腋窩横線までの距離から下3/8の地点を中心に筋の方向に沿って取り付けた。各筋から4チャネルの生体アンプで検出した筋電図を計算機に保存した。筋電図原波形のうちの5秒区間を、本研究のために開発した計算機プログラムを用いて、設定閾値以上のパルスのピークを検出して加算平均した波形を算出した。チャネルによる加算平均パルスの向きの逆転(+側か-側か)や遅延時間の方向から(パルスが順行性か逆行性か)、電極装着部位を基準にした神経支配領域の位置を推定した。<BR>【結果】上腕二頭筋において、12被験者のうち8人で、加算平均パルスの向きの逆転があった。4人はパルスの向きの逆転は観測されなかったが、遅延時間が順行性に変化した。三角筋において、12被験者のうち、加算平均パルスの向きの逆転があったのは2人だけであった。残りのうち2人は遅延時間が順行性に、3人は逆行性に変化し、4人は解析困難であった。<BR>【考察】(1)上腕二頭筋の神経支配領域の推定:加算平均パルスの向きが逆転されたチャネル付近に神経支配領域が存在する。結果により、12被験者のうち8人の神経支配領域の位置が特定された。残り4人は電極装着部の近位に神経支配領域あることが考えられる。(2)三角筋の神経支配領域の推定:12被験者のうち2人だけが神経支配領域の位置の推定ができた。残りのうち2人は電極装着部の近位に、3人は遠位に神経支配領域があると考えられる。(3)上腕二頭筋と三角筋の比較:三角筋は上腕二頭筋と比較して神経支配領域の位置の特定が困難であった。上腕二頭筋は紡錘状筋で、筋線維は筋の方向に沿って均一に走行している。それに比べて三角筋は羽状筋に近く、筋線維は筋の方向に対して斜めで不規則に走行している。三角筋の場合はさらなる調査が必要であるが、かなり詳細な筋構造が皮膚表面で調べられることが明かになった。
著者
井原 秀俊 三輪 恵 石橋 敏郎 高柳 清美 川蔦 眞人
出版者
West-Japanese Society of Orthopedics & Traumatology
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.393-397, 1997-03-25 (Released:2010-02-25)
参考文献数
8
被引用文献数
5 4

足指訓練8週間にて獲得された機能のかなりの部分が, 訓練中止3ヶ月後も維持されていることが判明した.
著者
高柳 清美 金村 尚彦 国分 貴徳 西川 裕一 井原 秀俊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ca0252, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 ヒトを対象とした臨床研究および動物実験の結果より,膝前十字靭帯(以下ACL)は自己治癒能が低いとされてきた.ACLの治癒能力が低い根拠として,炎症細胞とその関連物質量(Akesonら1990),血行(Brayら19901991),一酸化窒素量(Caoら2000),コラーゲン線維の含有率(Amielら1990Brayら1991),αプロコラーゲンのRNA量(Wiigら1991),生体力学的負荷の相違(Viidikら1990Wooら1990),治療過程でのファイブロネクチン量(Almarzaら2006),マトリクスプロテアーゼの発現量(Zhangら2010),α平滑筋アクチン・トランスフォーミング成長因子の発現量(Menetreyら2010),幹細胞の治癒能力(Zhangら2011)などの報告がある.ラット,ウサギ,イヌのACLを切断し自由飼育すると,ACLの自然治癒は起こらず,切断後数日(5~7日)で靭帯の退縮と変形性膝関節症が発生する. しかし,完全断裂であっても関節運動を制動する特殊装具と早期からの運動療法によって,破断したACLは治癒する(井原ら1991,2006).我々はこれまでに,ACL損傷後に生じる膝関節の異常運動を制動する動物モデルを作製し,関節の制動と自然飼育により,完全切断したACLが自然治癒することを明らかにした. 本研究の目的は関節包外関節制動モデルを用いて,治癒したACLを組織学的に観察し,経時的に治癒靱帯の強度を検討することである.【方法】 Wistar系雄性ラット24匹の両後肢の膝関節を使用した.ラットの右膝関節に対してACL切断術を行い,8週間飼育後に12匹(8週群),40週間飼育後に12匹(40週群)屠殺した.手術側(右膝関節)を実験肢とし,非手術側(左膝関節)を対照肢とした.外科的手順は,ACLを切断後,人工靱帯を膝関節外側より大腿骨遠位部後方の,大腿骨頚部後面の弯曲に沿った中枢側の軟部組織に貫通させ,脛骨近位前方に作製した骨トンネルに通し,大腿骨遠位部後方に通して結んで固定した. ACL切断8週,40週経過後のラット3匹ずつを検体に供し,組織標本を作成し,HE染色で染色して組織学的観察を行った.力学的強度はラット9匹ずつの両下肢を採取,ACL以外の筋軟部組織を切除し,INSTRON社製の材料試験システム5567A型(ツインコラム卓上モデル)で,試験速度5mm/min,試験機容量100N,初期張力1.5Nで計測した.力学強度の統計処理には繰り返しのある二元配置分散分析,多重比較としてScheffe法を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は埼玉県立大学動物実験委員会の承認に基づいて行った.【結果】 (1) 肉眼的観察 力学的評価を行った8週群,40週群全例でACLの連続性を確認した.治癒靱帯の走行は正常に近似していたが,付着部にバラツキがあり,正常のACLに比べ太い線維束であった.関節表面の観察では軟骨面の粗雑化や嚢胞瘢痕組織骨棘などの膝OA的所見は確認されなかった.(2) 組織学的観察 8週群,40週群ともにコラーゲンによる連続性が認められた.治癒ACLは正常ACLに比べ,靱帯が太く関節顆間窩に瘢痕組織が増殖していた.(3) 治癒靱帯の強度 8週群と40週群の治癒した靱帯の強度はそれぞれ,10.2±4.2N,11.2±4.2N(平均±標準偏差)で,対照肢はそれぞれ,22.8±2.9N,24.2±4.0Nであった.切断肢と対照肢間に靱帯強度の差異が認められ(p<0.01),切断肢は対照肢に比べ,約40%から50%の強度で治癒していた.8週群と40週群の治癒靱帯強度に違いは認められなかった.【考察】 実験肢において全例にACLの連続性が認められ,正常靱帯と同等かより太い靱帯を認めた.関節の制動と運動を行わせる動物実験モデルによって,明らかに靱帯治癒が促進されることが証明された. 術後8週および40週後に膝OAの所見が確認されなかったことは,断裂後の継続した異常運動(過度なストレス)に対する関節制動がなされ,正常に近似した運動が維持された結果と考えられる. 8週後と40週後の治癒靱帯の強度に差異が認められなかったことより,靱帯強度に関わる修復は8週前後にほぼ終了していることが示唆された.靱帯強度が半減した要因を解明するには,(1)早期の靱帯治癒過程(炎症期増殖期,リモデリング期)における運動制限と積極的運動の力学的影響と,(2)炎症細胞,幹細胞,線維芽細胞などの靱帯修復に関わる細胞および炎症因子,増殖因子などのサイトカインや細胞外マトリクス,コラーゲンなどのタンパク質を分解する酵素の発現の生化学的解明,が今後の課題となった.【理学療法学研究としての意義】 関節制動と運動療法により,損傷ACLが充分な力学的強度と粘弾性を有するまで治癒すると,レクレーションレベルのスポーツ愛好家,骨成長が認められる青少年,高齢者あるいは外科的治療を望まないスポーツ選手に対する主たる治療法となることが期待でき,社会的・経済的・身体保護的に多大に益すると考えられる.
著者
前島 洋 金村 尚彦 国分 貴徳 村田 健児 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48102020, 2013

【はじめに、目的】今日、中高齢者の健康促進、退行性疾患の予防を目的とする様々な取り組みが盛んに行われている。特に高齢期以降の転倒予防を意識し、バランス機能の向上を目的とする様々な運動は広くヘルスプロモーション事業において取り入れられている。一方、運動は、中枢神経系、特に記憶の中枢である海馬におけるbrain derived neurotrophic factor(BDNF)をはじめとする神経栄養因子の発現を増強し、アルツハイマー病を始めとする退行性疾患発症に対する抑制効果が期待されている。BDNFはその受容体のひとつであるTrkBに作用し、神経細胞の生存、保護、再生といった神経系の維持に関わるシグナルを惹起する。一方、別のBDNFの受容体であり、BDNFの前駆体であるproBDNFに対して高いリガンド結合性をもつp75 受容体への作用は、神経細胞死を誘導するシグナル活性を惹起する傾向を併せ持つ。そこで、本研究の目的は、中高齢者の運動介入において広く取り入れられる低負荷なバランス運動の継続が記憶・学習の中枢である海馬におけるBDNFとその受容体(TrkB,p75)の発現に与える影響について、実験動物を用いて検証することであった。【方法】実験動物として早期より海馬を含む辺縁系の退行と記憶・学習障害を特徴とする老化促進モデルマウス(SAMP10)を用いた。10 週齢の成体雄性SAM 14 匹を対照群と運動群の2 群(各群7 匹)に群分けした。運動介入のバランス運動として、マウスの協調性試験としても用いられるローターロッド運動(25rpm、15 分間)を週3 回の頻度で4 週間課した。運動介入終了後、採取した海馬を破砕してmRNAを精製し、reverse transcription-PCRのサンプルとしてcDNAを作成した。作成したcDNAを用いてリアルタイムPCR法を用いたターゲット遺伝子発現量の定量を行った。ターゲット遺伝子として、BDNFとその受容体であるTrkBおよびp75 の発現をβ-actinを内部標準遺伝子とする比較Ct法により定量した。統計解析として対応のあるt検定(p<0.05)を用いて、運動介入の効果を検証した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は埼玉県立大学実験動物委員会の承認のもとで行われ、同委員会の指針に基づき実験動物は取り扱われた。【結果】4 週間のバランス運動介入によるBDNFおよびその受容体TrkBの遺伝子発現に対する有意な介入効果は認められなかった。一方、p75 受容体の発現は運動介入により有意な減少が認められ、運動介入効果が確認された。【考察】BDNFはTrkBへの作用により神経細胞における「生」の方向へのシグナルを強化し、一方、p75 の作用により神経細胞における「死」の方向へのシグナルを増強する。このことから、2 つのBDNF受容体に対する陰陽の作用バランスが神経細胞の可塑性において重要と考えられている。本研究の結果からリガンドであるBDNFの発現およびTrkBへの運動介入効果は認められなかったが、細胞死へのカスケードを増強すると考えられるp75 の発現は運動介入により減少していた。P75 受容体の発現減少により神経細胞の「死」方向へのシグナルカスケードの軽減が期待されることから、本研究で用いた運動介入は海馬における退行に対して抑制効果を示唆する内容であった。以上の所見から、中高齢者の運動介入に広く取り入れられている有酸素的効果を一次的に意図しない低負荷なバランス運動が、海馬における神経系の退行抑制を通して、認知症の予防を始めとする記憶・学習機能の維持に対しても有効に作用する可能性が期待された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、理学療法、とりわけ運動療法において重視されているバランス機能の向上を目的とする運動の継続(習慣)が認知機能の維持・向上に対して有効であることを示唆する基礎研究として意義を有している。
著者
武藤 智則 谷川 英徳 大熊 一成 金村 尚彦 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】変形性膝関節症により人工膝関節全置換術(TKA)を施行した患者の動的バランスの回復は重要でありその経過についての報告は散見されるが,術後早期における動的バランスの指標である姿勢安定度評価指標(IPS)に関連する因子について検討した報告はない。本研究はTKA後3ヶ月におけるIPSに関連する因子を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は当院にて変形性膝関節症により人工膝関節全置換術を施行した患者(男7名,女26名,33膝,年齢72.0±7.3歳,体重63.4±11.0kg)とし,神経疾患及び脊椎疾患,関節リウマチ患者は除外した。すべてのTKAは使用機種をZimmer NexGen LPS-Flex Mobile(PS type)とし,皮切はMidvastus法とした。評価項目は,動的バランスの指標としてIPS,術側への立位重心移動時の前額面上での姿勢戦略(Postural Strategy on frontal plane=PSFP)(画像解析ソフトToMoCo-Liteにて両肩峰・両大転子・両外果の中央点を結ぶ線分のなす角度を算出),膝関節角度の再現誤差としての膝関節固有感覚(KP),膝関節痛(Visual Analog scale=VAS),TUG,10m歩行速度(10mWS),膝関節伸展角度,膝伸展筋力(KES)および膝屈曲筋力(KFS)(Biodex System3を使用しIsokinetics 60deg/secでの体重比トルク(%BW)の最大値)とした。測定時期は術後3ヶ月とした。IPSの評価はAMTI製FORCE PLATFORMを使用し取込周期は60Hzとした。膝関節固有感覚と膝伸展筋力の測定には等速性運動装置(BIODEX system3)を使用した。統計解析はIPSと各項目との関連をSpearmanの順位相関係数による単変量解析で求め,従属変数をIPS,独立変数を単変量解析で有意であった項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析にて分析した。有意水準を5%未満とした。データの集計と解析は,Dr. SPSSIIfor Windowsを使用した。【倫理的配慮】本研究はさいたま市立病院の倫理委員会にて承認を受け,十分な説明のもと同意の得られた患者を対象とした。【結果】IPSと各項目の関係性は,PSFP(r=0.596),TUG(r=-0.643),10mWS(r=-0.497),KFS(r=0.577)の間に有意な相関を認めた(p<0.05)。ステップワイズ法による重回帰分析の結果,TUG(p=0.001),PSFP(p=0.007),重相関係数(R=0.71),自由度調整済み重相関係数の二乗(R<sup>2</sup>=0.47)であった。【考察】TUGは歩行という動作に加え,立ち上がる,方向を変える,腰掛けるといった一連の動作能力や動的バランス能力を評価できる指標であり,加えて下肢・体幹の筋力やその協調的な筋活動,スムーズな方向転換に必要な立ち直り反応や下肢支持力の状態を評価することも可能なテストであるとされている。また膝伸展筋力が高いだけでは相関せず,バランスや調整能力などの要素を含む(山本ら:2010)ことが報告されており,動的バランスの指標であるIPSにTUGが関連しているという本研究の結果を支持しているものと考えた。木藤(2008)は運動器疾患患者の立位前額面上での身体重心を側方に動かす動作戦略について,頭部・体幹・上肢(Head・Arm・Trunk:HAT)を安定させ骨盤(Pelvic)を動かす動作戦略(立位Pelvic戦略)から,腹部からHATを大きく揺さぶることで足圧中心(Center of Pressure:COP)と身体重心(Center of Gravity:COG)を安定させ,同時に,股関節外転位で膝の内反を生じさせ,COGを支持基底面内に収める動作戦略(立位HAT戦略)への動作対応の変化が多く観察されるとしている。本研究ではIPSとPSFPは正の相関を認め,PSFPの数値が高くなる,すなわち立位Pelvic戦略に近づく程IPSとの関連が認められることを示唆している。Horakら(1986)は矢状面上の動作戦略において,よいパフォーマンスは股関節戦略より足関節戦略に関連した予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment)を使用すると報告している。本研究で測定した前額面上での姿勢戦略は,先行研究で報告された矢状面上の姿勢・動作戦略とは相違するもので,本研究の結果である動的立位バランスと前額面上での姿勢戦略(立位Pelvic戦略)の関連について報告したものはなく,本研究結果は新たな知見といえる。【理学療法学研究としての意義】TKA後早期の動的バランスの指標であるIPSに関連する因子を明らかにした報告は見当たらない。本研究ではIPSとTUG,IPSとPSFPに関連を認めた。TKA後早期において,多関節運動連鎖としての前額面上での姿勢戦略に注目した理学療法プログラムの立案などを考慮していく必要性が示唆された。