- 著者
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石山 歩
伊藤 泰
入間田 美咲
片岡 満里奈
佐藤 悠里
篠田 祐子
関根 孝幸
小野部 純
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.Db1212, 2012
【はじめに、目的】 ヒトの肢体容積は,重力やホルモンなど様々な要因が影響して経時的に変化している.ヒトの下肢容積の変化は、歩行などの活動量に依存するといわれているが,それらの明確な関係についての報告は少ない.また、容積の算出方法は水置換法やMRIから算出するものなど様々な方法が用いられているが,臨床的に用いる場合は衛生面や簡便性から考えると周径計測を用いられていることが多い.しかし,周径から計算式を用いて容積を算出した場合,誤差が大きくなると報告されており,注意が必要である.本研究では,健常人における下肢容積の日内変動量と活動量の関係について比較・検討を行った.そこで,今回は下肢容積を表す指標として対象部位の数箇所の周径を計測しその総和を用いた.さらに,病的な浮腫の早期発見のための足がかりとするために,下肢容積の生理的変化と病的変化との境を明確にすることを目的とした.【方法】 対象者は健常人39人(男性18人,女性21人)とし,対象肢は右下肢とした.また,下肢容積の指標として下肢周径,活動量の指標として歩数を計測した.周径計測は朝8時~9時,昼12時20分~13時20分,夜17時~19時の時間帯に計3回,背臥位にて同一検者がメジャーを用いて行った.測定部位は膝関節外側裂隙を基準とし5cm間隔で中枢側へ25cmまで,末梢側は30cmまで,さらに外果下縁と第5中足骨底の計14箇所計測した.これらの結果をもとに,大腿部(膝関節外側裂隙から中枢側へ25cm),下腿上部・下部(膝関節外側裂隙から末梢側へ15cm・さらに末梢側へ15cm),足部(外果下縁と第5中足骨底)に分け,それぞれの周径総和を容積を表す指標として作為的に定義した.歩数の計測は,カロリズムTMAM-120(TANITA社製)を用いた.対象者は第1回計測後から携帯し,周径計測時に歩数を確認した.統計処理にはSPSS 13.0を用い,統計学的有意差は大腿部,下腿上部・下部,足部について反復計測による分散分析を行い,有意水準は0.05未満とした.また,下肢容積の変化率と歩数の相関を検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の趣旨と予測されるリスク,さらにヘルシンキ宣言を遵守する旨と,計測中であっても対象者の意思により中止できる旨も併せて説明し同意を得られた者のみとした.【結果】 下肢容積の日内変動について,大腿部では,朝-昼間で有意な差がみられた(p<0.05).下腿上部・下部では朝-昼間と朝-夜間で有意な差がみられた(p<0.01).足部では有意な差は見られなかったが,第5中足骨底部のみでは朝-昼間と朝-夜間で有意な差がみられた(p<0.05).この変化率は各部位とも約1~2%となり,男女間の下肢容積の日内変動に有意な差は見られなかった.また,各部位において下肢容積の変化率と歩数の間に相関はみられなかった.【考察】 本研究の結果から,朝-昼間,朝-夜間の下肢容積に有意な差がみられ,その変化率は約1~2%であった.また,本結果からは下肢容積の変化率と歩数の間には相関がみられなかった.まず下肢容積の日内変動においては,対象者全員が約1~2%の変化率であったため,この変化範囲が健常人の生理的反応を示しているといえる.次に下肢容積と活動量の関係においては,一般的には筋ポンプ作用の影響が大きく,活動量が多いと筋ポンプ作用が促進されて容積が減少すると考えられている.この容積の増減には健常人の場合,血液や組織間隙などの水分量が大きく関与しており,これらの運搬には血流とリンパ流の影響が関わっている.血流量やリンパ流量は、筋ポンプ作用によって促進されると10~20倍に増加するとされ,これが容積の減少に繋がると考えられている.しかし本結果では,活動量の指標である歩数と容積変化に相関はみられなかった.その要因として活動時間と計測時間の関係性が挙げられる.筋ポンプ作用により血流量やリンパ流量が増大することは明らかだが,下肢容積に影響を与えるまでの時間(潜時)や負荷強度などは明確ではない.そのため,計測時に筋ポンプ作用と容積変化に相関がみられなかったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 近年、がん治療の後遺症として注目されているリンパ浮腫は,摘出手術後に自覚がないうちに重症化を引き起こすケースが多数みられる.これは,現在リンパ浮腫を早期発見するための明確な指標がないことが一因と考えられる.そのため,より詳細な指標をつくることが重要と考え,本研究を行った.本結果より,健常人における下肢容積の日内変動が明らかとなり,今後の病的浮腫の早期発見の足がかりとなると考える.また,活動量と下肢容積においては関係性がみられなかったため,今後は筋ポンプ作用が下肢容積に及ぼす効果のタイミングを明確にすることが重要であると考える.