著者
片山 和俊 尾登 誠一 清水 真一
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

第1年次(平成17年度)に中国福建省西南部、第2年次(平成18年度)に広東省北部の客家民居実測および聞き取り調査、第3年次(平成19年度)に広東省深セン市周辺および香港郊外に残る客家民居の実測調査と、東京芸術大学建築科と香港大学建築学科による国際的なワークショップを行った。今回調査対象とした地方各地域に中国の近代化、急激な経済成長の影響が色濃く見られた。中国の主要都市や各地方の中心都市が発展する表の顔とすれば、客家民居が多く残っているような周辺地域は裏の顔の一つであり、人が住ないままに放置された民居や、無造作な建替えによって荒廃が進む住環境が多く見られた。客家民居と集落にかって見られた風土と生活が一体化した風景は、今急速に失われつつある。その一方で例は少ないが、民居や集落を観光資源として集落博物館や民家園として利用する試みも見かけた。宿泊施設として改築中の民居も見られた。文化財の保存という観点からは問題が残る安易な改修もあったが、生活文化遺産を継承する有効な方法の一つとして捉える必要があると思われた。それほどに変貌と荒廃の範囲が広く急激である。このような実測調査プロセスを経て、当初描いた生活文化遺産の物的な記録を残すという客家民居の実測調査に加えて、実態に基づいてこれからの民居と集落の継承を考える必要を感じ、最後のまとめとして香港大学とのワークショップを行った。ワークショップでは、我々がこれまで行なって来た研究調査の成果を発表するとともに、香港大学建築学科松田直則教授の協力を得て、両校の先生と学生たちによる継承に対する様々な提案を行い、客家民居のこれからのあり方についての意見交換を行った。このことを通じて国を越えた生活文化遺産の問題への関心を高め、将来に向けた日中学術交流の礎を築くことができたと考えている。
著者
荒川 忠一 佐倉 統 松宮 ひかる 尾登 誠一 飯田 誠 山本 誠 松宮 輝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

日本においても風車普及の方向性が明確になってきた。本研究においては、将来の大規模な風車導入に備えて、景観に適合しその地域のメッセージを発信できるヴァナキュラー性に根ざしたデザインを提言してきた。さらに、本研究の方向性を生かして、東京都臨海風力発電所が「東京らしさ」をメッセージにして2003年3月に運開することになった。はじめに、洋上風車などの新しい環境条件を導入し、エネルギー経済シミュレーションを行った。京都議定書の遵守などの条件を加えると、50年後にはエネルギーの8%を風車がまかなうことが要請されること、そのとき、日本においては1MWの風車が10万台導入する必要性があることを示した。高さが80mにもおよぶ大型風車を大量に導入するためには、景観適合のみならず、地域の文化や情報を発信できるデザインの必要性を訴えるとともに、いくつかの地域でデザインの試作を行った。海岸地域、田園地域、そして東京を対象とした。海岸地域では防風林の松のイメージ、あるいは小型風車にマッチングしたデザインなどを創作した。風況調査により、東京湾中央防波堤埋立地に風車に適した風があることを見出し、その成果を受けて大学院生の都知事への提言から、短期間で風車建設の事業が行われた。本研究において、「東京らしさ」をテーマにした様々なデザインや付帯設備を提案し、日本科学未来館のキュレータらとの社会学的な検討を加えた。最終的には、デザイナーの石井幹子氏を指名して緑と白の2色による世界初のライトアップを実現し、またインターネットで回転状況を配信する仕掛けを構築した。本研究の一環によるこのような実践は、新聞各紙の熱心な報道をはじめとして、社会的に評価を得ていること、また風車の今後の導入加速の方法となりえることを示した。本研究のさらなる発展として、日本らしい風車つまり海洋国日本の特徴を最大限に生かした超大型洋上風車の早期実現を提案していく。
著者
尾登 誠一 片山 和俊 佐藤 道信 宮永 美知代 吉富 進 清水 順一郎 中山 淳
出版者
東京芸術大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

研究は、17年度におこなった風土性、生態学的アプローチ、文化的視点、そしてμGにおける柔素材検討、μG環境での人体姿勢という5つの視座を、ISS(国際宇宙ステーション)の諸条件に照らし、3つの日本的な間(MA)の概念に収斂し展開している。第一点は、居住空間MAの概念であり、狭小限定空間や閉鎖系住居等の分析をしている。また第二点の生活時間MAの概念では、宇宙時間の変則性から仮想されるライフサイクルのありようが検討された。そして第三点の動作空問MAの概念においては、天地左右を暖昧にする浮遊の姿勢に関する展開が試みられている。研究指針はこれらの概念を総合的に相関させ、日本古来の茶室の要素を分析、新たなる居住のありようを宇宙茶室としてコンセプト化している。これを受けて18年度におこなった研究課題の微小重力空間における"柔"環境デザインは、ISS(国際宇宙ステーション)日本モジュールの1/10縮小コンセプトモデルを結論として提案している。モデルは現在建設中のモジュール条件から、直径4m×長さ10mのシリンダー空間を前提に、8名のクルーが長期滞在においてシェアする居住空間(物理的茶室のディメンションをもつプライベートスペース)と、共用を前提とした宇宙茶室(精神的茶室の機能が付加されたパブリックスペース)の合体により構成されている。特に微小重力下における浮遊というテーマは、既成概念を超えて、空間における人間の所作にっいて考察する必用があり、これに関連して宇宙環境における外部のない内部空間を構成する接触面のサーフェイスやテクスチュアのありようが考察された。また床-壁-天井という地球と異なる宇宙での居住環境は、必然的に素材のみならず、媒質(光/空気/音等)との関連性で考察する好機として、デザインの新たなる指標を予感させるものとなった。結果、微小重力下における人間行動と空問のありようから、BIRD HOUSE(鳥の巣)として応用デザインした止まり木的装置へと発展試作、微小重力下で使用することを想定しつつ、体感できるフルスケールモデルの制作も合わせておこなっている。研究成果は、コンセプトデザインモデルとしての提案が主となっているが、研究成果は、地球上の茶室の本来の意味や機能を再検証し、汎人間的な視点から、身体観、及び宇宙観の風土的背景を検討しつつ、宇宙文化のありようを問う考察が加えられている。